住友金属工業の使途秘匿金をめぐる株主代表訴訟事件で大阪地裁に2次提訴

株主オンブズマン


訴状


大阪地方裁判所 御中
平成19年6月18日


原告ら代理人 弁護士 長野真一郎
同     弁護士 河野豊


1 原告 株主オンブズマン代表森岡孝二外3名
2 被告 住友金属代表取締役社長外3名
3 請求金額 5000万円

請求の趣旨


1 被告らは、訴外住友金属工業株式会社に対し、連帯して、金5,000万円及びこれに対する平成18年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする
との判決並びに仮執行宣言を求める。

請求の原因


はじめに
 原告らは、本件訴訟に先立って、平成18年6月19日、住友金属工業株式会社(以下、「住友金属」という。)における「使途秘匿金問題」等について、同社の現・元取締役9名を被告とする株主代表訴訟を提起した(大阪地方裁判所平成18年(ワ)第6045号、同裁判所第4民事部係属。以下、単に「1次訴訟」ともいう。)。
 1次訴訟においては、被告らからは、住友金属の社員(A)が、住友金属からの外注費を水増しする等の内容虚偽の文書を作成し、上司等の他の会社関係者には一切秘したまま会社の他の部門を欺いて、合計34億5450万円もの巨額の使途秘匿金を作り出してこれを同人の一存で社外に流出させた、と主張されている。
 本件訴訟(2次訴訟)は、上記社員が懲戒解雇されることなく通常解雇により退職金を支給されていることが判明したため、これに関与した取締役の責任を追及するものである。

第1 当事者
1 住友金属は、鉄鋼大手5社の一角であり、年間約1200万トン以上の粗鋼を生産し、鋼管や鉄道車両部品なども製造している大会社である。
2 原告らは、後記の訴え提起請求書が住友金属に到達した平成19年4月12日の6か月前より引き続き住友金属の1単元以上の株式を保有する株主である。
3 被告らは、いずれも住友金属の取締役であり、被告らの住友金属での担当職務(本件に関連する期間を中心とするもの)は、以下のとおりである。

(以下、被告4名についての記述は省略)

第2 使途秘匿金問題(1次訴訟)
1 違法な裏金作り
 住友金属が従来から行なっていた環境プラント工事は、資源ごみを選別回収・再利用するリサイクル施設が主力だったが、平成14年12月にダイオキシンの排出基準が強化される見通しとなったため、同12年ころから、ごみを蒸し焼きにしてガス化するガス化溶融炉も目指していた。
 その目的のため、住友金属は、違法な手段を使って受注工作を行なう必要を感じ、その資金を捻出するために、いわゆる裏金を作ることを考えた。そのやり方は以下のとおりである。 住友金属は、平成10年ころから、環境プラント設備の西日本地域での特約店契約を同年に結んだ大分市の設備工事会社に対し、住友金属の下請会社を通じて、外注費を水増しして工事を発注した。その発注を受けた同設備工事会社は、さらに北九州市の取引先など2社に架空の工事を発注して工事費をバックさせる形で、同11年3月期から同16年3月期までの6年間に合計34億円の裏金を作った。
2 違法な受注工作
 平成11年3月期から同15年3月期までの間、上記設備会社の元役員らが、全国の工事での住友金属の受注工作のために、上述の裏金のうち28億円を費やし、同15年3月期以降、その余の6億円を上記設備会社から住友金属に還流させて、住友金属が直接、受注工作に費やした。 その受注工作のやり方は以下のとおりである。
 例えば、平成14年2月に初めて受注に成功した、佐賀県鳥栖市と4町(当時)による「鳥栖・三養基西部環境施設組合」発注のガス化溶融炉の場合、衆院議員元秘書の福岡県議や佐賀県議をして、発注者である鳥栖市長や建設地の旧中原町(現みやき町)長に住友金属への発注を働きかけた上で、同工事の指名競争入札の際には、非公表であった最低制限価格(54億5688万円)を発注者から聞き出し、その価格よりも僅かに高い54億6300万円で落札した。これらの受注工作の際、住友金属は、発注者や上記県議、あるいはそれらの周辺人物に多額の裏金を渡していたものと推論される。
 住友金属は、このようなやり方で上記の34億円もの裏金を費やすことによって、全国各地での工事を落札・受注していたものである。
3 大阪国税局による追徴課税
住友金属は、大阪国税局から、平成11年3月期より同16年3月期までの6年間に約41億円の所得隠しを指摘され、そのうち上記34億円を「使途秘匿金」として認定され、重加算税を含めて約18億円を追徴課税(更正処分)させられた。これは、住友金属が上記34億円の支出先を明らかにしなかったため、大阪国税局から「使途秘匿金」と認定されたものである。
 そして、住友金属は、上記処分に従って、平成17年8月4日までに、約18億円の全額を納付した。
4 1次訴訟における損害
(1) 違法な受注工作に費やした裏金
支出先を明らかにできない支出は、言うまでもなく住友金属として支出する正当な理由が認められないものであり、この全額について住友金属が負担する義務を負っていなかったものである。本件のように違法な受注工作に使用されたものであるなら、この理はなおさらである。
 にもかかわらず、34億円もの莫大な金銭を支出したのであるから、この金銭の全額が違法な支出による損害である。
(2) 「使途秘匿金」と認定されたことによって支出した税金
「使途秘匿金」として認定されると、その金銭は営業上の必要経費として認定されないので、通常の法人税として49.98%の税金が課せられるほか、40%の追徴法人税が追加課税され、さらに、その追加課税の地方税へのはね返りとして6.92%が課税される。従って、「使途秘匿金」との認定を受けることにより、支出額の96.90%に該当する税金(32億9460万円)を支払わなければならないことになる。
 そして、住友金属は、上記支出先を意図的に明らかにせず、国税局による「使途秘匿金」の認定を受けるべく対応し、その結果「使途不明金」の認定を認めて上記税金を支払ったのであるから、その税金全額が違法な支出による損害となる。
(3) 合計
以上により、合計66億9460万円が住友金属の損害となった。

第3 株主代表訴訟(1次訴訟)において明らかとなった点
1 平成18年6月19日、原告らは、上記使途秘匿金問題について、住友金属の現・元取締役9名を被告とする株主代表訴訟を提起した。本件2次訴訟の被告らの内被告Eは、1次訴訟の被告でもある。
2 1次訴訟の中で、原告は、上記の平成11年3月期から平成16年3月期まで住友金属から支出された金34億5450万円の使途不明金の支出、及びこれが国税当局より「使途秘匿金」と認定されて追加課税された問題について、住友金属の取締役らの責任を追及した。
 これに対して、1次訴訟の被告でありかつ本件2次訴訟の被告でもある被告Eらは、住友金属の社員であるA(平成10年当時は、住友金属エンジニアリング事業本部・プラントエンジニアリング事業部・環境プラント部所属の営業総括グループ・グループ長。)が、技術部門の社員1名及び住友金属の1次下請け会社の社員と図って、Aの上司その他の会社関係者には一切秘したまま、住友金属からの外注費を水増し発注する等の手段で、2次下請け等として関与させた会社(光和産業株式会社)に対して計34億5450万円を支払ったと主張した。
3(1) Aの上記行為は、内容虚偽の文書を社内外の人物と共謀して作成し、社内の査定部門を始めとする関係部署を欺いて、金34億円を超える巨額な金員で具体的な使途が一切不明な金員を支払い、社外に流出させたというものである(Aは「地元対策費」と説明するが、下記の通り、その具体的な使途は一切明らかにしないという)。
(2) これは、住友金属の社員として遵守すべき社内規定に著しく反する。そればかりか、業務上横領・背任罪等の犯罪行為にも該当するものである。
(3) そして、金34億円を超える損害額の巨額さ、6年間という長期間に違法行為を繰り返し行い、社内外の人物を巻き込んでこれを遂行したという行為態様、犯行の計画性、上司等に一切秘したまま独断でこのような巨額な金額の裏金を作り出して社外に流出させた点など、いずれの点からしても、その行為は、極めて悪質なものである。
4(1) しかも、被告主張によると、A社員は、事件発覚後の住友金属の社内調査に対しても、上記違法行為を行ったことは認めながら、上記巨額の使途不明金の使途については、「地元対策費」と抽象的に説明するだけで、その具体的支出先については、一切「頑として口を割らない」という。
 しかも、Aは、光和産業株式会社の社長が死亡の平成15年1月以降は、「見よう見まね」で自らが使途不明金の直接の受け渡しを行ったとし、その金額だけでも5.9億円という巨額なものである。Aはこの支出先についても、「頑として口を割らない」のである。
(2) このような態度は、違法行為発覚後の「情状」としても、自らの行為について何らの反省がない、極めて悪質なものといわざるえない。
5 ところが、このような行為を行ったAは、住友金属から懲戒解雇をうけることなく、平成17年11月21日、通常解雇を受けて退職した。その結果、Aは、被告主張によれば31%の減額を受けたが、住友金属より退職金の支給を受けた。
6 上記のような著しい違法行為を行って、巨額の損害(自らが関与した水増し発注等だけでも34億余円、追徴課税を含めると66億余円による損害額)を住友金属に与え、かつ具体的な使途についての社内調査にも一切協力しないという態度をとっているにも拘わらず、同人は懲戒解雇を受けなかったのである。そればかりか、住友金属より刑事上も、民事上も一切の責任追及を受けていないことも判明した。
 そして、このような事態は、この問題が株主訴訟という形で被告Eを含む被告取締役らに対して明確に追及されて以降も、今なお継続している。
7 このような住友金属の会社としての対応は、本件の事実関係の解明と責任者の追及を住友金属取締役自らが妨げ、事実関係を隠蔽しようとしていると評価せざるを得ない。住友金属が強く標榜するコンプライアンス(法令遵守)にも著しく反するものである。
 これは、住友金属が表面上はコンプライアンス(法令遵守)を強調しながらも、それは社会的な体面上かつ形式上だけのものであり、その実態はAらによる違反・違法行為を容認していると評価されても仕方のないものである。
8 平成19年1月、証券大手の日興コーディアルグループが、1990年代後半に発覚した総会屋グループ代表や故新井将敬衆院議員(当時・その後自殺)への不正な利益供与で有罪判決を受けた元常務を、事件直後から約9年間にわたってグループ子会社の嘱託社員として雇い、年間2000万円近い報酬を払っていたことが発覚した。平成18年12月に発覚した不正決算で引責辞任したグループ前会長・社長はこれを容認していたとみられ、利益供与事件の責任をとった元常務を「見返り」に厚遇し、便宜を図った可能性があるとされている(平成19年1月26日朝日新聞、他)。
9(1) 本件で、Aが通常解雇となったとされる平成17年11月21日は、1次訴訟に先立って原告らが使途秘匿問題等について、平成17年10月28日付けで、住友金属に対して「取締役会議事録閲覧謄写許可申立」を行い、被告ら取締役が原告らのこの申立を知った直後の時期にあたる。
(2) また、原告らの1次訴訟の口頭弁論期日において、被告ら代理人は、当初、Aは住友金属関連会社に在籍していると述べたが、原告よりその具体的事実関係を明らかにするように求めると、その後はAは住友金属の関連会社ではない会社に再就職している、その再就職先の具体的内容は明らかにできない、という対応をとっている。
10 本件でも、被告ら取締役の対応は、上記日興コーディアルグループの事件と同じく、「汚れ役」を引き受けた見返りとしてAを懲戒解雇とせずその刑事上、民事上の責任を追及することを怠っていると評価されても仕方のないものといわざるを得ない。

第4 本件被告らの責任
 1 平成16年5月に、光和産業株式会社に対する国税局の査察が開始されて本件問題行為が発覚し、Aの上記行為が発覚したにも関わらず、Aを懲戒解雇とすることなく通常解雇で済ませて退職金を支払い、上記1次訟提起後も現在に至るまで同人に対して民事上、刑事上の法的責任追及を一切行わないという取締役の対応は、自らが法令及び社内規則を遵守することは勿論、社員に法令及び社内規則を遵守させ、仮にこれに反する場合は厳正に対処し、仮にこれに反する方針については異議を述べこれを防止・阻止し、もって適正な方法により会社の社会的にも適正な利益をはかるべきであるにもかかわらずこれを怠ったものであり、取締役の善管注意義務・忠実義務に違反するものであり、その違反の程度は著しい。
2 被告主張によれば、平成17年11月、Aについて懲戒解雇事由がある(「懲戒解雇に処すべき事態でもある」)にもかかわらず、懲戒解雇とせず通常解雇とした処分(本件処分)については、人事部門が判断のうえ起案し、社長が決済した。
3(1) 被告Bは人事担当取締役として、本件事実関係を把握のうえ、本件処分を起案もしくは決済して、本件処分を積極的に進めた。
(2) 被告Cは人事部門を統括する取締役副社長として、本件事実関係を把握のうえ、本件処分を決済して、本件処分を積極的に進めた。
(3) 被告Dは、平成16年5月の本件使途秘匿金問題の発覚当時、住友金属のコンプライアンス委員会委員長の地位にあり、本件の社内調査についての責任者としてAらの調査に深く関わり、本件事実関係を把握していた。そして本件処分を社長として最終決済して、本件処分を行った。
(4) 被告Eは、Aらによる使途不明金(裏金)作出当時の代表取締役社長として重大な責任を有する立場にあったところ、平成16年5月の使途秘匿金問題発覚後も、本件事実関係を把握のうえ、平成17年11月のの本件処分時は代表取締役会長の地位にありながらこれを阻止することなく、本件処分を積極的に進めた。
(5) よって、被告らは、本件処分時の取締役の中でもとりわけ本件処分に深く関わっているところ、取締役としての善管注意義務・忠実義務(他の取締役に対する監視監督義務を含む)に違反したものである。

第5 本件の損害
 1 Aには、平成17年11月21日、懲戒解雇事由があるにもかかわらず、通常解雇で済まされることによって、住友金属より退職金を受けた(受領日は、平成17年12月末日を越えない)。
 2 Aの退職金の額は、金5000万円をくだらない。

第6 提訴請求
 原告らは、住友金属(監査役)に対して、上記の事実関係を厳正かつ徹底的に調査のうえ、使途秘匿金問題発覚後以降現在までの期間に住友金属取締役の地位にあった者全員に対して、A社員に住友金属が支払った退職金相当額(支払を約した退職年金がある場合はこれを含む)の損害賠償を請求する訴訟を提起することを求めた。しかし、平成19年6月11日付けで、監査役は原告らに対して、提訴しない旨通知した。

第7 結論
 よって、原告らは被告らに対し、請求の趣旨記載の判決を求めて本件訴訟を提起する。
以上   



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