一連の大林組談合の取締役責任を問う株主代表訴訟を提訴しましたので、訴状を掲載いたします。

2008年6月25日
株主オンブズマン


大林組談合の取締役の責任のあり方を問う株主代表訴訟事件

訴状

当事者の表示   別紙のとおり
請求の趣旨   別紙のとおり
請求の原因   別紙のとおり


平成20年6月25日


原告訴訟代理人(代表)
弁護士  松丸 正


大阪地方裁判所 御中

請求の趣旨

1 被告大林剛郎、同向笠慎二、同脇村典夫、同大林芳久、同桑原章次、同野間暎史、同西野敏克、同原義孝、同上原忠、同倉田能達、同高木嗣郎、同伊藤住吉、同中谷章は、訴外株式会社大林組に対し各自金8億円及びこの金員に対する本訴状送達日の翌日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告大林剛郎、同向笠慎二、同脇村典夫、同大林芳久、同桑原章次、同野間暎史、同西野敏克、同原義孝、同上原忠、同倉田能達、同高木嗣郎、同伊藤住吉、同中谷章、同長恵祥は、訴外株式会社大林組に対し各自金2億円及びこの金員に対する本訴状送達日の翌日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告大林剛郎、同向笠慎二、同脇村典夫、同大林芳久、同桑原章次、同野間暎史、同西野敏克、同原義孝、同上原忠、同倉田能達、同高木嗣郎、同伊藤住吉、同中谷章、同古荘昭憲は、訴外株式会社大林組に対し各自金2億8190万円及びこの金員に対する本訴状送達日の翌日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行宣言を求める。


請求の原因

第1 当事者と提訴請求
1 原告は訴外株式会社大林組(以下、大林組という)の株式を、つぎに述べる提訴請求をする前より引き続き6ヶ月間以上にわたって1単元以上有する株主である。
原告は、平成19年11月30日付(同年12月3日送達)、並びに同年12月3日付(同年12月4日送達)の内容証明郵便をもって、大林組に対し提訴請求をしたが、60日を経過した現在も提訴はなされていない。
2 被告は、「被告役員らの地位及び責任原因一覧表」記載のとおり、大林組の役員を歴任した。

第2 大林組の反復的、継続的な一連の談合行為
大林組は、公表されたもののみでも、つぎのとおり恒常的、継続的、反復的に独占禁止法違反の談合行為をなしている。
1 本件各談合行為以前
(1)  関西国際空港空港島護岸築造工事に関する談合事件
大林組は、海上埋立土砂建設協会の会員9社とともに、関西国際空港空港島護岸築造工事に関する談合行為を行った。その結果、大林組は、平成元年10月18日、公正取引委員会(以下「公取委」という)より、7392万円の課徴金納付命令を受けた。
(2) 埼玉土曜会談合事件
 大林組は、埼玉県発注の入札工事に関して、他の企業65社と談合を行った。その結果、平成4年6月3日、公取委より排除勧告が行われ、平成4年9月18日、1902万円の課徴金納付命令を受けた。
(3) 関西地区における国、自治体の発注にかかる入札工事に関する談合事件
 平成9年、大手ゼネコンの談合のドンと言われた平島栄元西松建設相談役が、関西における国、自治体の入札において談合したことを自ら公正取引委員会に告発した。結局のところ、この平島栄がその告発を取り下げたが、平成10年6月17日、公取委から、大林組を含む31社は今後談合をしないよう警告を受けた。
2 本件各談合行為
(1) 新潟市発注の下水道推進工事及び建築工事談合事件
 新潟市発注の下水道推進工事については平成11年4月1日以降平成15年4月25日までの間、同市発注の建築工事については平成14年5月2日ころ以降平成15年9月30日までの間に談合行為を行った。
この結果、平成19年9月7日、同意審決がなされた。
(2) 和歌山県発注のトンネル工事談合事件
 大林組は、平成16年11月、上記工事について談合行為を行った。その結果、同社の元顧問が談合罪で有罪判決を受けた。同社は和歌山県より3億5000万円の違約金の請求をされ、それを支払った。
(3) 旧防衛施設庁発注の特定土木建築工事談合事件
 大林組は、旧防衛施設庁発注の上記工事について、平成16年6月以降平成18年1月16日までの間、他の60社と談合行為を行った。その結果、平成19年6月20日、排除措置命令並びに8190万円の課徴金納付命令を受けた。
(4) 枚方市発注の第2清掃工場の建築工事
 大林組は、平成17年11月10日になされた上記工事の談合行為を行った。その結果、同社の顧問2名が談合罪で有罪判決を受けた。同社は枚方市から違約金の請求を受け、平成20年2月、それを支払った。
(5) 名古屋市営地下鉄6号線延伸工事談合事件
 大林組は、平成17年12月上旬ころ、名古屋市発注の地下鉄6号線延伸工事について、他の32社と談合行為を行った。その結果、平成19年8月、公取委より排除措置命令を受けた。平成19年10月15日、名古屋地裁で大林組は罰金2億円の刑に処せられ、確定した。
3 継続的・日常的な談合行為についての取締役の責任
 上記のとおり、大林組の談合が継続的に繰り返されていることからすると、大林組においては、談合行為が公共工事等受注のための営業行為の一環としてなされていたと言っても過言でないほど日常的になされていた。
大林組の支店長や土木部門等の責任者である本部長である取締役としては、営業担当者が談合行為を行っている可能性を疑い、それを前提に公共工事の受注状況を調査把握し、未然にこれを防止すべき善管注意義務を有していた。
また、大林組の経営の中核にいる取締役(少なくも専務取締役以上)としては、談合行為が各支店等の営業担当者においてなされていることを前提に、それを未然に防止すべき内部統制システムを構築すべき善管注意義務を負っていた。
以下、各談合行為の事実と取締役の責任、並びに損害について明らかにする。

第3 大林組の各談合行為と、取締役の談合を未然に防止するについての監督責任の内容 1 新潟市発注の下水道推進工事及び建築工事の入札についての談合
(1) 談合行為の内容
 大林組は、新潟市発注の下水道推進工事及び建築工事の入札において、建設土木工事を営む他の事業者と共同して、下水道推進工事については遅くとも平成11年4月1日以降平成15年4月25日までの間、建築工事については平成14年5月2日ころ以降平成15年9月30日までの間、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるよう談合行為をなしたものであり、この件については公正取引委員会により平成19年9月7日同意審決がなされている。
(2) 取締役の監督責任
 この談合行為がなされた工事は北陸支店管内の土木建設工事である。
談合がなされていた当時の土木部門の責任者は、土木(事業)本部長は当時専務取締役(平成13年6月まで)、代表取締役副社長(平成13年6月以降)であった被告上原忠である。
また、建築部門の責任者であった建築本部長は代表取締役副社長であった被告脇村典夫である。
 この談合行為がなされた間、被告上原忠は土木(事業)本部長として、被告脇村典夫は建築本部長として、各支店における土木、あるいは建築工事の受注につき談合行為がなされることのないよう、各支店の公共工事の受注状況につき調査、検討したうえ、未然に防止すべき善管注意義務を有していたが、これを懈怠したため談合行為がなされたものである。
(3) 損害額(2億円)
 同談合行為がなされたため国や地方公共団体から指定停止処分を受けており、それによる受注をできなかったことにより生じた受注利益の喪失額、並びに大林組の信用失墜による損害はあわせて2億円を下まわるものではない。
2 和歌山県発注のトンネル工事等の入札についての談合行為
(1) 談合行為の内容
 平成16年11月和歌山県発注の中瀬トンネル、切畑1号トンネル、紀の川中流域下水道シールド工事の入札において、大林組は他の土木工事の事業者と談合したものである。この件につき大阪地方裁判所は、大林組の元顧問につき競争入札妨害罪により有罪の判決を下し確定している。
(2) 取締役の監督責任
 この談合行為により受注した工事は、大林組の本店管内の土木工事であり、入札当時の本店の土木担当の常務取締役は被告桑原章次である。
また、専務取締役本店長は被告倉田能達、及び土木本部長は代表取締役副社長であった被告上原忠であった。
 これら被告らは、本店における土木工事の受注につき談合行為がなされることのないよう、各支店の公共工事の受注状況につき調査、検討したうえ、未然に防止すべき善管注意義務を有していたが、これを懈怠したため談合行為がなされたものである。
(3) 損害額(2億円)
 また、同談合行為がなされたため国や地方公共団体から指名停止処分並びに営業停止処分を受けており、それによる受注をできなかったことにより生じた受注利益の喪失額、並びに大林組の信用失墜による損害はあわせて2億円を下まわるものではない。
なお、和歌山県はこの談合行為がなされたことによる契約上の違約金を大林組に対し請求しているが、これによる損害は追って提訴予定である。
3 防衛施設庁が発注する土木・建設工事の入札についての談合
(1) 談合行為の内容
大林組を含む土木・建築会社60社は、平成16年度以降発注される防衛施設庁発注の特定土木・建築工事のうち、業界側連絡役等から防衛施設庁の職員が行なった割り振りの結果の伝達を受けた工事について、落札予定者として選定された者又はその者が構成員となる特定建設工事共同企業体を受注予定者とし、受注予定者以外の者は、受注予定者の受注に協力する旨の合意の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、防衛施設庁発注の特定土木・建築工事の取引分野における競争を実質的に制限する談合行為をなしていたものである。
 この談合行為につき、平成19年6月20日公正取引委員会により独占禁止法に基づく排除措置命令を大林組を含む56社が受けるとともに、同日、同法に基づく計30億5074万円の課徴金納付命令を大林組を含む51社が受け、大林組に課せられた課徴金の額は8190万円となっている。
(2) 取締役の監督責任
 この談合行為により大林組が受注した工事は広島支店管内の土木工事であるが、談合行為による受注当時の広島支店長は当時常務取締役であった被告古荘昭憲である。
被告古荘昭憲は防衛施設庁発注にかかる特定土木・建築工事については継続的に談合行為がなされていることを知り、あるいは取締役としての善管注意義務を尽くしていれば容易に談合がなされているのを認識し得たのにこの義務を懈怠したため、これを看過したものである。
 また、受注当時の土木部門の責任者であった土木本部長は、当時代表取締役副社長(土木担当)であった被告上原忠(平成17年6月まで)、並びに専務取締役の被告伊藤住吉(平成17年6月以降)である。
 被告上原忠、同伊藤住吉は、土木本部長として、各支店における土木工事の受注につき談合行為がなされることのないよう、各支店の公共工事の受注状況につき調査、検討したうえ、未然に防止すべき善管注意義務を有していたが、これを懈怠したため談合行為がなされたものである。
(3) 損害額(2億8190万円)
 この談合行為により大林組は8190万円の課徴金の支払いをしたため、課徴金相当額の損害が発生している。
 また、同談合行為がなされたため国や地方公共団体から指名停止処分を受けており、それによる受注をできなかったことにより生じた受注利益の喪失額、並びに大林組の信用失墜による損害はあわせて2億円を下まわるものではない。
4 枚方市発注の第2清掃工場建築工事の入札についての談合
(1) 談合行為の内容
 大林組の顧問であった訴外森井繁夫、同山本正明は平成17年11月10日になされた枚方市が発注した第2清掃工場の入札において大林組と淺沼組の共同企業体(JV)が落札できるよう談合したものである。この件につき大阪地方裁判所は、訴外森井繁夫につき懲役2年6月執行猶予4年、同山本正明につき懲役1年執行猶予3年の判決を下している。 (2) 取締役の監督責任
 この談合行為により大林組が受注した工事は、大林組の本店管内の建築工事であり、入札当時の本店長は当時専務取締役であった被告高木嗣郎である。
 被告高木嗣郎は枚方市発注にかかる第2清掃工場の入札については、訴外森井繁夫、同山本正明が談合行為をなしていることを知り、あるいは取締役としての善管注意義務を尽くしていれば容易に談合がなされているのを認識しえたのにこの義務を懈怠したためこれを看過したものである。
 また、受注当時の建築部門の責任者は代表取締役副社長(建築担当)であった被告脇村典夫並びに建築本部長専務取締役であった被告長恵祥である。
 被告脇村典夫、同長恵祥は建築部門の責任者として本店における建築工事の受注につき談合行為がなされることのないよう、各支店の公共工事の受注状況につき調査、検討したうえ、未然に防止すべき善管注意義務を有していたが、これを懈怠したため談合行為がなされたものである。
(3) 損害額(2億円)
 同談合行為がなされたため国や地方公共団体から指名停止処分を受けており、それによる受注をできなかったことにより生じた受注利益の喪失額、並びに大林組の信用失墜による損害はあわせて2億円を下まわるものではない。
なお、枚方市はこの談合行為がなされたことによる契約上の違約金を大林組に請求しているが、これによる損害は追って提訴予定である。
5 名古屋市が発注する地下鉄工事の入札についての談合
(1) 談合行為の内容
 大林組を含む33社は平成17年12月上旬ころから同月中旬ころまでの間に、名古屋市発注の地下鉄6号線延伸工事について、大林組の顧問等からの落札予定者等にかかる連絡又は同顧問との話合いを通じて、落札予定者を受注予定者とし、受注予定者以外の者は、受注予定者が受注できるように協力する旨を合意することにより、公共の利益に反して、名古屋市発注の地下鉄6号線延伸工事の取引分野における競争を実質的に制限する談合行為をなしたものである。
 この談合行為につき平成19年11月12日、公正取引委員会により独禁法に基づく排除措置命令を、大林組を含む33社が受けるとともに、大林組は平成19年10月15日名古屋地方裁判所で罰金2億円の刑の判決を受け、この刑は確定している。
(2) 取締役の監督責任
 この談合行為がなされた工事は、名古屋支店管内の土木工事であったが、当時の名古屋支店長は専務取締役であった被告中谷章であった。
 被告中谷章は、名古屋市が発注する地下鉄工事の入札については、談合行為がなされていることを知り、あるいは取締役としての善管注意義務を尽くしていれば容易に談合がなされているのを認識しえたのにこの義務を懈怠したためこれを看過したものである。
 また、談合行為当時の土木部門の責任者は、代表取締役副社長(土木担当)であった被告上原忠並びに専務取締役土木本部長であった被告伊藤住吉であった。
 被告上原忠、同伊藤住吉は土木本部長として、各支店における土木工事の受注につき談合行為がなされることのないよう、各支店の公共工事の受注状況につき調査、検討したうえ、未然に防止すべき善管注意義務を有していたが、これを懈怠したため談合行為がなされたものである。
(3) 損害額(4億円)
 この談合行為により大林組は2億円の罰金に処せられたため、罰金相当額の損害が発生している。
 また、同談合行為がなされたため国や地方公共団体から指名停止処分を受けており、それによる受注をできなかったことにより生じた受注利益の喪失額、並びに大林組の信用失墜による損害はあわせて2億円を下まわるものではない。

第4 談合行為を未然に防止するためのコンプライアンスシステム構築義務違反
1 コンプライアンスシステム構築義務
大林組は、平成元年には関西空港空港島護岸築造工事、平成4年には埼玉土曜会談合等の談合行為に加わっていたものとして、公取委から排除関係等を受けている。しかも、関西地区における国、自治体の発注工事に関し、公取委より平成10年6月17日に警告も受けている。
 したがって、大林組の取締役としては、遅くとも新潟市発注の下水道推進工事及び建築工事の入札についての談合行為が開始した平成11年4月1日までには、談合行為を未然に防止するに足りる内容を有するコンプライアンスシステムを構築すべき善管注意義務を有していた。
2 構築すべきコンプライアンスシステムの内容
(1) 入札談合防止のためのコンプライアンスシステムの作成にあたっての前提事実
[1] 正確な情報、資料の入手
 入札談合防止のコンプライアンスシステムは、入札談合を未然に防止するものである以上、入札談合の実態に合致したものでなければならない。
 そのシステム構築にあたっては、入札について当時入手し得る資料、情報等を集め、出来うる限り当時の入札談合を客観的に分析し、それに対応した処方箋でなくてはならない。  特に、大林組は本件談合以前に埼玉談合等に関与している以上、その原因を解明し、そこから真の再発防止策を作るべきであった。
  [2] その内容も談合の実態を直視したものでなければならない
イ. 談合はその企業にとって利益となり、公共工事の入札においては必然的に「談合」に入る「危険性=リスク」がある。
 談合があると、企業にとっては競争しないで確実に落札することができる。他方、談合しなければ、入札価格の最低制限価格に近い金額での「たたきあい」となり、落札できるかどうかきわめて不確実になる。落札できても予定価格よりきわめて低い金額となるので、その利益幅は著しく減少する。赤字受注となる場合も多い。したがって、談合に参加しない場合の企業の受けるであろう「危険性=リスク」を明確にした内部統制システムでなければならない。
 入札談合をすることは、営業担当者ならびに会社にとっても大きな利益となる。したがって、入札参加者間で談合を行う危険性は必ずある。そのような場合に、入札談合防止のためのコンプライアンスシステムは、まず、談合に参加しない場合の企業の受ける危険性=リスクを明確にして、そのリスクが生じても営業担当者の責には帰さないということを明白にしたものでなければならない。
 ロ. 談合はその業界にとっても利益となるから長期間継続し、かつ、それからの脱退はきわめて困難である。
 特定の業界で多数の発注物件において談合することは、その業界の「受注価格の低落防止」という面で業界の利に適うものである。これが業界またはグループで談合を行う本質である。そのため、その特定の業界において一度談合が行われると、受注調整行為は長期間にわたり継続的、恒常的に行われる性質を有している。したがって、その談合から脱退することは業界の「おきて」を破ることになり、その業界から排除される危険性を有している。業界のアウトサイダーになると、業界の他の企業を敵に回すことになり様々な嫌がらせを受ける。例えば、談合参加企業は赤字受注覚悟で予定価格を大幅に切った価格で入札する等して、そのアウトサイダー企業の落札価格よりも著しく低い価格で応札し、その会社の落札を妨害する。また、談合グループから脱退すれば受注しても赤字になる等として「恫喝」する。発注機関はJVを組むことを要件として発注することがあるが、そのアウトサイダー企業とJVを組まない。そうなるとその物件の入札にそもそも参加できない事態となり、多大な損害を受ける。
 談合を継続している場合に、その組織からの脱退によるその企業の「危険性=リスク」を明らかにしなければならない。
 [2] 談合は長年継続している。このような継続的な談合からの脱退に関する談合防止のためのコンプライアンスシステムは、最低次のような計画が含まれているものでなければならない。
 第1に、脱退すると企業は安易に落札することができなくなり、仮に落札しても「たたきあい」による利益幅が少なくなる。または、赤字受注にもなりうる。このようなリスクがあることを明確にし、それでも、そのリスクが生じたとしても談合から脱退するということを明確にして、従業員に教育するプログラムでなければならない。
 第2に、談合が業界ぐるみで行われているのであるから、談合を中止した場合の業界ぐるみでの攻撃=リスクに対して、会社としてどのように対処するのかを明らかにしたプログラムでなければならない。例えば、その業界を敵に回すことになるので、談合から脱退しない多数の企業と「たたき合い」の入札になる。このような危険性=リスクがあることを明確にし、それでも、そのリスクが生じたとしても談合から脱退するということを明確にして、従業員に教育するプログラムでなければならない。JVを組んでくれなくてもJVの工事の受注に参加できなくても、それを企業としてあえて容認する等を明示すること等も必要とされる。
 第3に、官制談合の場合もあるので、談合から離脱したときに今後その発注機関から不利益取扱いを受けた場合のリスクへの対応を明確にした上で、それでも会社としては受け入れることを明確にしなければならない
(3) 大林組のコンプライアンスシステムの実態
 平成11年4月段階で、大林組において構築されていた「入札談合防止のためのコンプライアンスシステムは、
・独占禁止法遵守マニュアル(どのような場合に談合になるかという独禁法の解説)等のパンフレットを作成する。
・それをもとに、役員、従業員に対する研修会を実施する。
・大林組社長が談合しないようにする旨の通達を出す。
というレベルのものであり、およそ談合の実態に合致したコンプライアンスシステムとは言えない。いわば「欠陥」だらけの内容であり、むしろ入札談合が発覚した場合の役員の免責プログラムであると批判されても過言ではない。
(4) 大林組の入札談合防止のためのコンプライアンスシステムの欠陥
 [1] 大林組の談合防止のためのコンプライアンスシステムの欠陥その1
イ. 大林組において、独禁法遵守マニュアルやコンプライアンスシステムを作るにあたっては、当時、入札談合の実態に関する情報、資料を入手して作成しなければならない。しかし、大林組においては、最も入手し易い自社内の埼玉談合事件等を教訓にして作成した形跡はない。
ロ. もし、埼玉談合事件等について、大林組内において何故長年談合から脱退しなかったかを調査していたなら、それ以降の談合事件を防ぐことができた。
ハ. したがって、大林組としては、その他の公共工事の入札において談合が継続している可能性を疑い、埼玉土曜会の当時の担当者からの情報を入手すれば、そこから、一従業員のレベルでは談合から脱退できないこと、本件のごとき独禁法遵守マニュアルでは何らの効果も発揮しないこと、が容易に予想できたはずである。
ニ. このような入札談合についての実態さえ調査しないで独禁法遵守マニュアルを作ったのであるから、その情報、資料の入手において、取締役の善管注意義務があったことになる。
 [2] 大林組の談合防止のためのコンプライアンスシステムの欠陥その2
 大林組の入札談合防止のためのコンプライアンスシステムは、上記に述べた談合の実態に合致したものでなければならない。しかるに、上記(3)の内容、レベルでは、およそ入札談合を防止するコンプライアンスシステムではなかった。
 [3] 大林組の談合防止のためのコンプライアンスシステムの欠陥その3
 受注行為は、各営業所、あるいは各支店の営業部門で行なわれる。この受注契約にあたって入札談合を行っていないかどうかをチェックし防止することが、談合防止プログラムに含まれるものでなければならない。
 そのチェック内容には次のことが当然に含まれたものでなければならない。
・発注機関ごとの公共工事発注状況の把握
・業界担当者が出席した他の業者との会合について報告書を提出させ、その内容の把握
・応札した場合の応札価格について、応札の経過と応札金額の根拠を担当者から聴取
・積算部門又は積算担当者から応札価格について積算したかどうかのチェック及び積算したときの応札価格の妥当性の聴取
・特に、落札できなかったときの応札価格はデタラメな場合が多いのでそれの調査
・ 定期的な、各営業所・支店に対する別部門からの調査
 このチェックの仕方は通常の業務執行ラインからも可能であるし、または、社長、土木営業担当取締役、各支店の取締役として入札談合防止のための内部監査を実施したり、別部分の談合検査担当者を置く等してチェックすることも可能であるのにそれをしなかった。
3 取締役の善管注意義務懈怠
上記内容を有するコンプライアンスシステムを構築していれば、新潟市発注工事以降の本件各談合行為の発生を未然に防止することができたものである。
 とりわけ専務取締役以上の役職にあった取締役としては、平取締役以上に重い善管注意義務を追っていたものであり、平成11年4月1日以降に在任した取締役は、本件各談合行為の全てにつきコンプライアンス構築義務を懈怠した善管注意義務違反があり、それによって大林組に生じた損害につき損害賠償責任を負う。とりわけ専務取締役より上位の役職にあった取締役は平取締役にも増して重い善管注意義務を負っていたものである。

4 退任後に生じた談合行為についての責任
なお、退任後の談合行為についても、退任前にコンプライアンス構築義務を履行していれば、その行為を未然に防止できたものであることから、その責を負うものである。

第5 各被告の責任内容
1 [1]被告大林剛郎、[2]同向笠慎二、[3]同大林芳久、[4]同桑原章次、[5]同野間暎史、[6]同西野敏克、[7]同原義孝(コンプライアンスシステム構築義務違反の責任)
これら被告らは、取締役として前記コンプライアンスシステム構築義務懈怠の責任を負い、本件各談合によって生じた大林組の損害の全ての額である計12億8190万円(指名停止等並びに信用失墜による損害10億円、課徴金相当額8190万円、罰金相当額2億円)につき賠償責任を負う。
2 [8]被告脇村典夫(コンプライアンスシステム構築義務並びに枚方市談合事件についての監督責任)
 上記1に述べたコンプライアンスシステム構築義務懈怠の責任を負う。
 その責任と重複して、前記新潟市発注の建築工事、並びに枚方市発注の第2清掃工場建築工事についての談合行為については、それがなされた当時、大林組の建築工事を統括する建築本部長(建築事業本部長)の職にあり、各支店の公共建築工事の入札状況を調査、検討し、本件各談合行為を未然に防止、あるいは談合行為がなされていることを把握したときは、それを直ちにやめさせるべき善管注意義務を有していたにも拘らずこれを懈怠した責任も負う。
 上記各善管注意義務違反により大林組に生じた損害額は12億8190万円である。 3 [9]被告上原忠(コンプライアンスシステム構築義務並びに新潟市談合事件についての監督責任)
 上記1に述べたコンプライアンス構築義務懈怠の責任を負う。
その責任と重複して、本件各談合のうち、新潟市発注の建築工事、並びに枚方市発注の第2清掃工場建築工事を除く各工事の談合行為については、それがなされた当時、大林組の土木工事を統括する土木本部長(土木事業本部長)の職にあり、これら土木工事につき各支店の公共土木工事の入札状況を調査、検討し、本件各談合行為を未然に防止、あるいは談合行為がなされていることを把握したときは、それを直ちにやめさせるべき善管注意義務を有していたにも拘らずこれを懈怠した責任も負う。
 上記各善管注意義務違反により大林組に生じた損害額は12億8190万円である。
4 [10]被告倉田能達(コンプライアンスシステム構築義務並びに和歌山県談合事件についての監督責任)
 上記1で述べたコンプライアンスシステム構築義務懈怠の責任を負う。
 その責任と重複して、前記和歌山県発注のトンネル工事等の談合行為については、それがなされた当時、同工事等を所轄する本店長として同工事の入札状況を調査、検討し、談合行為を未然に防止し、あるいは談合行為がなされていることを把握したときは、これを直ちにやめさせるべき善管注意義務を有していたのにこれを懈怠した責任を負う。
上記善管注意義務違反により、大林組に生じた損害額は12億8190万円である。
5 [11]被告高木嗣郎(コンプライアンスシステム構築義務並びに枚方市談合事件についての監督責任)
 上記1で述べたコンプライアンスシステム構築義務懈怠の責任を負う。
その責任と重複して、前記枚方市発注の第2清掃工場の談合行為については、それがなされた当時、同工事等を所轄する本店長として同工事の入札状況を調査、検討し、談合行為を未然に防止し、あるいは談合行為がなされていることを把握したときは、これを直ちにやめさせるべき善管注意義務を有していたのにこれを懈怠した責任を負う。
上記善管注意義務違反により、大林組に生じた損害額は12億8190万円である。
6 [12]被告伊藤住吉(コンプライアンスシステム構築義務並びに名古屋市談合事件についての監督責任)
上記1で述べたコンプライアンスシステム構築義務懈怠の責任を負う。
 その責任と重複して、前記名古屋市発注の地下鉄工事の談合行為については、それがなされた当時、土木工事を統括する土木本部長として同工事の入札状況を調査、検討し、談合行為を未然に防止し、あるいは談合行為がなされていることを把握したときは、これを直ちにやめさせるべき善管注意義務を有していたのにこれを懈怠した責任を負う。
 上記善管注意義務違反により、大林組に生じた損害額は12億8190万円である。
7 [13]被告中谷章(コンプライアンスシステム構築義務並びに名古屋市談合事件についての監督責任)
 上記1で述べたコンプライアンスシステム構築義務を負う。
 その責任と重複して、前記名古屋市発注の地下鉄工事の談合行為については、それがなされた当時、同工事を所轄する大林組の名古屋支店長として同工事の入札状況を調査、検討し、談合行為を未然に防止し、あるいは談合行為がなされていることを把握したときは、これを直ちにやめさせるべき善管注意義務を有していたのにこれを懈怠した責任を負う。 前記名古屋市発注工事の談合行為により、大林組に生じた損害額は指名停止、信用失墜等による損害、並びに罰金相当額をあわせた4億円である。
 上記善管注意義務違反により大林組に生じた損害は12億8190万円である。
8 [14]被告長恵祥(コンプライアンスシステム構築義務並びに枚方市談合事件についての監督責任)
 前記枚方市発注の第2清掃工場の談合行為については、それがなされた当時、大林組の建築工事を統括する建築本部長として、各支店の公共建築工事の入札状況を調査、検討し、本件各談合行為を未然に防止あるいは談合行為がなされていることを把握したときは、それを直ちにやめさせるべき善管注意義務を有していたにも拘らずこれを懈怠した責任も負う。
 前期枚方市発注工事の談合行為により大林組に生じた指名停止、信用失墜による損害は2億円である。
 この損害につき前記[1]〜[13]までの各被告らと連帯して責任を負うものである。 9 [15]被告古荘昭憲(コンプライアンスシステム構築義務並びに防衛施設庁談合事件についての監督責任)
前記防衛施設庁が発注する土木・建築工事の談合行為については、それがなされた当時、同工事等を所轄する広島支店長として同工事の入札状況を調査、検討し、談合行為を未然に防止し、あるいは談合行為がなされていることを把握したときは、これを直ちにやめさせるべき善管注意義務を有していたのにこれを懈怠した責任を負う。
防衛施設庁発注工事の談合行為により大林組に生じた損害は、指名停止、信用失墜による損害2億円と課徴金相当額8190万円の計2億8190万円である。
この損害につき前記[1]〜[13]までの各被告らと連帯して責任を負うものである。

第6 結論
 よって、原告は会社法第847条に基づき請求の趣旨記載の判決を求めて本訴に及んだ。(請求の趣旨第1項は新潟市談合事件、和歌山県談合事件、名古屋市談合事件、第2項は枚方市談合事件、第3項は防衛施設庁談合事件についてのものである。)
以上


添付書類

1 訴訟委任状                   1通
2 現在事項全部証明書               1通
3 提訴請求書並びに送達証明           各1通
4 預り残高明細書(株主証明)           1通



当事者の表示
原 告  森岡 孝二
原告訴訟代理人(代表)
弁護士  松丸 正
外別紙代理人目録記載のとおり

被 告  大   林   剛   郎
被 告  向   笠   慎   二
被 告  脇   村   典   夫
被 告  大   林   芳   久
被 告  桑   原   章   次
被 告  野   間   暎   史
被 告  西   野   敏   克
被 告  原       義   孝
被 告  上   原       忠
被 告  倉   田   能   達
被 告  高   木   嗣   郎
被 告  伊   藤   住   吉
被 告  中   谷       章
被 告  長       恵   祥
被 告  古   荘   昭   憲




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