労務コンプライアンス・アンケート調査結果の概要

2008年7月22日
株主オンブズマン


T 調査目的と調査対象
 ここ数年、企業の社会的責任とともにコンプライアンス(法令遵守)がしきりに語られるようになってきた。それとともに過労死、偽装請負、名ばかり管理職などに対する社会的批判が高まるなかで、企業の労務に関するコンプライアンスが問われている。そこで、本会は、株主の立場から上場企業に対してCSRとコンプライアンスを求めてきた市民団体として、上場企業の雇用と労働の現状を把握するために、2008年4月現在の日経300銘柄の企業を対象に労務コンプライアンスについてのアンケート調査を実施した。

U 調査内容
Q1 従業員の構成や平均賃金などについて
Q2 男女共同参画の現状について
Q3 障害者雇用について
Q4 労働時間および年次有給休暇の管理について
Q5 三六協定および所定外労働時間について
Q6 賃金不払残業(サービス残業)について
Q7 過重な業務に起因する脳・心臓疾患および精神障害等について
Q8 派遣労働契約および請負契約について
Q9 労務コンプライアンスに関してとくに取り組んでいることについて

V 調査期間と回答率
 2008年4月28日に日経300社に調査用紙を送付し、6月10日を締め切りとして回答をお願いした。その後、回答率を高めるために締め切りを6月末に延期し、あらためてアンケートへのご協力をお願いした。その結果、78社からご回答をいただいた。回答率は26%である。この回答率は、本会がこれまでに行ったアンケート調査のなかでは低いが、企業の立場から答えにくい質問を多数含んでいるという事情を考慮すると必ずしも低いとはいえない。
 なお、回答をいただいた企業のなかには持株会社が6社あった。そのうち3社はグループ内の中核会社について回答し、他の3社は持株会社自体について回答してきた。

W 調査結果の概要
Q1 従業員の構成や平均賃金などについて

 Q1ではまず正社員の男女の人数と比率について尋ねた。この質問に回答した73社の正社員の総数は57万6321人で、うち男性は50万3546人(87.4%)、女性は7万2824人(12.6%)であった。また、企業別に男女比を出してその総平均を求めた結果は、男性84.3%、女性15.7%であった(図1)。本会が2001年に行った「上場企業における男女雇用機会均等と男女共同参画の現状」についての調査では、全正社員に占める女性比率は17.2%であったが、今回の調査結果はこれよりさらに低い。ちなみに、総務省の2007年「労働力調査詳細結果」によれば、公務従事者を含む全労働者中の正規雇用者(「正規の職員・従業員」)は、男性69.8%、女性30.2%であった。

図1 正社員における男女の割合
図1

 Q1ではまた非正社員、派遣、構内請負などの人数についても尋ねた。質問では「非正社員」の定義は特に示さなかったが、回答をみるかぎり、非正社員は少なくとも派遣労働者を含んでいないと考えられる。問い合わせたある会社では、定年後の再雇用社員を「非正社員」としているとのことであった。通常、再雇用社員を意味する嘱託を正社員に含めている会社もある。女性非正社員が女性正社員より多いある会社(百貨店)は、パートタイム労働者を非正社員に含めているものと推測される。しかし、ある大手コンビニチェーンの回答にはパートタイム労働者数の記入はない。
こういう事情で定義は曖昧さを残しているが、非正社員について回答のあった66社では、その総数は5万1731人であった。性別人数について回答があった61社に限れば、非正社員の男女比は男性51%、女性49%であった。
 派遣労働者は回答のあった56社の合計で5万1022人であった。派遣の性別人数について回答のあった27社の男女比は、男性35.3%、女性64.7%であった。派遣労働者の人数がとくに多いのは電機・電器メーカーで、最上位3社は合計1万5855人を使用している。
 構内で働いている請負労働者の人数については35社(うち11社はゼロ人)から回答があった。ほかに1社から請負の人数ではなく件数を記入した回答があった。人数を記入した24社(ゼロ人の企業を除く)の請負利用人数の合計は4万2380人であった。とくに請負利用が多いのは派遣と同様に電機・電器メーカーで、最上位3社で合計2万7419人の請負労働者を利用している。
 Q1ではまた正社員の平均年齢、平均勤続年数、平均賃金などを質問した。その結果、平均年齢は41歳(男性、41.5歳、女性37.7歳)、平均勤続年数は17.8年(男性18年、女性15.2年)、平均賃金436万円(男性480万円、女性313万円)であった(表1)。勤続年数や賃金における男女のこうした開きは、依然として性別格差が解消されていないことを示唆している。

表1 正社員の平均年齢、勤続年数、賃金
 男女計男性女性
平均年齢41歳41.5歳37.7歳
平均勤続年数17.8年18年15.2年
平均賃金436万円480万円313万円

Q2 男女共同参画の現状について

 Q2では男女共同参画の現状を把握するために取締役、執行役、監査役中の女性役員の人数について尋ねた。取締役は888人中10人(1.1%)、執行役は1420人中3名(0.2%)、監査役は311名中5名(1.6%)がそれぞれ女性であった。本会が2001年に行った前出の調査では、回答企業304社の女性役員は、取締役が4695人中6人(0.13%)、監査役が1177人中4人(0.34%) だった。日本企業の役員における女性比率は依然として著しく低いとはいえ、この7年間にわずかながら上昇している。
 Q2ではまた部長以上、課長クラス、係長クラスの各管理職における女性比率についても尋ねた。その結果、部長以上は1.0%、課長クラスは2.7%、係長クラスは7.5%であった。この比率はいぜんとして極めて低いとはいえ、前出の2001年調査の結果部長0.3%、課長1.1%、係長4.7%と比べるといくぶん上昇している。なお、部長以上の管理職における女性比率の高い企業は、 クレディセゾン(14.1%)、高島屋(7.2%)、資生堂(7.1%)、電通(4.7%)である。

Q3 障害者雇用について

 Q3では、最近の障害者雇用数および雇用率などについて質問した。現行の障害者の法定雇用率は民間企業の場合1.8%である。計算にあたっては、職種によって除外率が設けられており、たとえば、除外率がない場合の雇用義務数が18人であるとき、除外率が50%ならば雇用義務数は9人になる。重度障害者(身体障害者手帳1,2級の者)を雇用している場合は、1人の雇用をもって2人を雇用しているものと見なす。
 そうした計算方法にしたがって回答していただいた76社の実雇用率は、法定雇用率をわずかに上回る1.83%であった。なお、法定雇用率を達成している企業は回答のあった76社のなかで57社(75%)、未達成企業は19社(25%)であった(図2)。実雇用率の最高は資生堂の2.77%であった。最低は1.26%であった。参考までに厚生労働省の調査によれば、2007年6月1日現在の民間企業の実雇用率は1.55%(規模1000人以上では1.74%)、法定雇用率達成企業の割合は43.8%であった。
 Q3では、法定雇用率を達成している場合の雇用調整金および達成していない場合の雇用納付金についても質問した。その結果、雇用調整金を受けたのは77社中36社(46.8%)で、その合計金額は8287万円であった。納付金を支払ったのは77社中73社で、その合計金額は1258万円であった。同一企業でも、複数の連結企業がある場合は一方で調整金を受け取り、他方で納付金を支払っている場合がある。また調整金も納付金も昨年度の数字を尋ねたので、現在は法定雇用率を達成していても、昨年度は未達成で納付金を支払った企業もある。

図2 障害者法定雇用率の達成状況
図2

Q4 労働時間および年次有給休暇の管理について

 Q4ではまず労働時間の管理(労働時間数の把握、残業の削減、賃金不払残業の解消、有給休暇の付与、時短の促進など)について、責任者または担当者を置いているかどうかを質問した。78社のなかで72社(92.3%)が「おいている」、4社(5.1%)が「おいていない」と答えた。2社(2.6%)は「その他」と無回答であった(図3)。

図3 労働時間の管理責任者の有無
図2

 また労働時間の管理責任をどのクラスの管理職に担わせているかを質問したところ、75社のなかで役員クラス8社(10.7%)、部長・工場長クラス28社(37.3%)、その他38社(50.7%)と答えた。
 Q4ではさらに2008年3月1か月間の正社員1人当たりの実労働時間と、2007年1年間の正社員1人当たりの年次有給休暇の付与日数および取得日数を尋ねた。実労働時間は男女の1人当たり平均で169( 男性172、女性159)時間であった。これは事業所の賃金台帳から賃金が支払われた労働時間を集計した厚生労働省『毎月勤労統計調査』の一般労働者の実労働時間(2007年では170時間)にきわめて近い。これは賃金不払残業(サービス残業)の時間を含んでいない点で、実態を正しく把握したものとはいえない。
 年次有給休暇の平均付与日数は19.9日、平均取得日数は11.7日、平均所得率58.8%であった。付与日数の最高は35日であった(ただし取得日数は10日)。取得日数の最低は2.9日であった(ただし付与日数は18.7日)。取得率のトップ3は、HONDA 100.5%、関西電力94.5%、ダイキン工業91%である。ちなみに、30人以上の民間企業のフルタイム労働者を対象にしたに厚生労働省の2007年調査結果は、付与日数17.7日、取得日数8.3日、取得率46.6%であった。

Q5 三六協定および所定外労働時間について

 Q5ではまず三六協定(時間外休日労働協定)の締結・届出について尋ねた。回答企業78社のなかで76社(97.4%)が「している」と答えた。2社(2.6%)は無回答であった。  またQ5では、週所定労働時間と2008年3月現在の三六協定による労働時間の延長の限度について尋ねた。週所定労働時間の平均は37.6時間であった。
 1日について延長することができる時間については59社から回答があった。1社当たりの平均は7.6時間である。59社を個別に見ると、15時間が5社(8.5%)、14時間が2社(3.4%)、13時間が5社(8.5%)あった(表2)。1日の法定の限度である8時間を基準にいえば、1日について15時間延長できることは、8時間+休憩1時間+15時間=24時間、つまりまる1日働かせることができることを意味する。

表2 1日の延長時間別企業数 
(一般条項)
15時間 5社
14時間 2社
13時間 5社
10時間 2社
8時間13社
7時間 2社
6時間 5社
5.75時間 1社
5.5時間 1社
5時間 8社
4.5時間 2社
4.25時間 1社
4時間12社
回答企業計59社
   表3 1か月の延長時間別企業数 
(特例条項)
200時間1社
150時間2社
130時間1社
120時間1社
110時間1社
100時間10社
90時間4社
80時間12社
75時間3社
70時間5社
65時間3社
64時間1社
60時間5社
45時間1社
35時間1社
20時間1社
回答企業計52社


 1カ月について延長できる時間は45時間が多いが、60時間以上が7社(11.3%)あり、そのなかには110時間が1社、120時間が2社含まれている。三六協定には但し書きで特例条項が認められていて、1日あるいは1か月の延長時間を一般条項でたとえば5時間あるいは45時間としていても、修理・保全、トラブルへの対応などの特別の事情を付して13時間あるいは80時間とすることができる。本調査でも、そうした例が少なからず見受けられる。
 1か月について延長することができる特例条項に関しては、52社の回答のなかで、80時間以上が32社(61.5%)、100時間以上が16社(30.8%)ある(表3)。厚生労働省は2〜6か月を平均して月80時間、1か月で月100時間を超える残業(時間外・休日労働)があると、過労死・過労自殺(脳・心臓疾患および精神疾患など)の発症との関連性が強くなるとしている。月80時間あるいは100時間もの過労死ラインの残業を認める三六協定を結ぶということは、労使協定の一方の当事者が労働組合である場合は、そのチェック機能が働いていないと考えられる。また、特例をたとえ1年の半分を超えない臨時的な事情に限るにせよ、過労死・過労自殺を発症させる恐れのある長時間残業を認める三六協定を労働基準監督署が受理していることは、使用者の健康配慮義務に対する行政当局の監督指導責任を疑わせるものである。
 1年について延長できる時間は360時間の企業が多いが、一般条項で500時間以上の延長を認めている企業が6社あり、720時間という会社もある。特例条項では、776時間、800時間、870時間という会社もある。
 Q5であわせて尋ねた正社員の所定外労働時間(残業)は、68社の平均で月21.9(男性22.7、女性14.9)時間であった。所定外労働時間が2008年2〜3月の平均で月80時間を超えた労働者の割合は回答した58社の平均で1.4%(ゼロ時間の企業を含む)である。また所定外労働時間が2008年3月の1か月に100時間を超えた労働者の割合は回答した59社の平均で0.4%である(ゼロ時間の企業を含む)。これは回答企業のなかには従業員の過労死・過労自殺が発生している企業が少なくないことを考えると、一部の従業員のあいだの超長時間労働の実態を適切に把握しているとは見なしがたい。

Q6 賃金不払残業(サービス残業)について

 Q6ではまず2003年1月から2007年12月の間に残業賃金未払いで労働基準監督署から是正指導を受けたことがあるかどうかを尋ねた。78社のなかで、是正指導を受けたことが「ある」と答えた企業が26社(33.3%)、「ない」と答えた企業が41社(52.6%)、無回答が11社(14.1%)あった(図4)。
 上の質問で「ある」と答えた企業の是正指導を受けた時期は、2003年5件、2004年4件、2005年9件、2006年1件、2007年7件であった。支払った金額は69億4800万円、65億2000万円、22億9700万円、18億3700万など10億円を超えるケースもある。未払い残業の支払いの遡及期間は、回答で判明しているなかでは1か月や3か月もあるが、上限の2年間分が23社中12社(52.2%)でもっとも多い。
 Q6ではまた管理職に就いていることをもって残業手当の支給対象とならない正社員の人数と正社員全体に占める比率(除外率)についてたずねた。その結果、人数は回答企業61社の平均で1社当たりで1365人、1社当たりの正社員に占める除外率は24.3%であった(表4)。除外率が50%を超えている企業が5社(8.2%)あった。
 ちなみに、ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制の適用除外)制度があるアメリカでは除外率は約2割(全労働者の5割を占めるホワイトカラーの4割)であると言われているが、今回の調査結果は、正社員に限れば、日本は同制度が導入されていない現時点で、すでにアメリカ並みの除外率になっていることを示している。

図4 賃金不払残業で受けた是正指導の有無
図4

表4 残業手当の支給対象とならない正社員の人数と除外率(1社あたり)
   人数      除外率   
   1365   24.3%   

 さらに、「名ばかり管理職」が問題になっている折から、労働基準法第41条2にいう管理監督者として残業手当を支給していない管理職について、該当する職名を尋ねたところ、回答企業78社のなかでは役員以上2社(2.6%)、工場長・部長クラス以上8社(10.3%)、課長クラス以上55社(70.5%)、係長・班長クラス以上3社(3.8%)、店長・主任クラス以上0社 その他6社(7.7%)、未回答4社(5.1%)であった(図5)。
 このうち、管理監督者の3条件――@人事・労務において経営者と一体的な立場にある、A出退勤の時間を自分で決めることができる、B賃金や手当などで地位にふさわしい待遇を得ている――を満たしているといえるのは、せいぜい役員以上と答えた2社くらいのもので、他は管理監督者に該当しない者を「名ばかり管理職」にしていると見なすことができる。
 Q6では最後に労働基準法第41条2の管理監督者の規定の適用に関して何らかの見直しをおこなっているか尋ねたところ、「最近おこなった」と「現在おこなっている」はなく、「今後おこなう」2社(2.6社)、「おこなう予定はない」63社(80.8%)、「その他」4社(5.1%)、無回答9社(11.5%)であった。

図5 管理監督者に該当する職名
図5
Q7 過重な業務に起因する脳・心臓疾患および精神障害等について

 Q7ではまず過重な業務に起因する脳・心臓疾患および精神障害等で労災認定を受けた従業員がいるかどうかを尋ねた。2003年1月から2007年12月までの間に「いる」と答えた企業は78社のなかで9社(11.5%)、「いない」と答えた企業は59社(75.6%)、無回答が10社(12.8%)であった(図6)。「いる」と答えた9社の過重な業務に起因する労災の認定件数は13件、うち死亡事案は4件であった。

図6 過労死・過労自殺に関して労災認定を受けた従業員の存否
図6

 また2003年1月から2007年12月までの間で、過重な業務に起因する脳・心臓疾患および精神障害等の認定をめぐって従業員または家族などから訴訟が提起された事案(係争中を含む)があるか尋ねたところ、78社のなかで5社(6.4%)が「ある」と答え、61社(78.2%)が「ない」と答えた。12社(15.4%)は無回答だった。

Q8 派遣労働契約および請負契約について

 Q8では2003年1月から2007年12月までの間で、いわゆる偽装請負に関連して労働局や公共職業安定所、労働基準監督署から是正指導を受けたことがあるか尋ねた。結果は「ある」と答えた企業14社(17.9%)、「ない」と答えた企業52社(66.7%)、無回答12社(15.4%)であった(図7)。
 上の質問で「ある」と答えた企業に、是正指導を受けた時期およびその対象となった労働者数を尋ねた。1社で複数回の是正指導を受けた企業もあるが、それらも含め1件ごとに見れば、時期は17件のうち2005年が4件(23.5%)、2006年が6件(35.3)、2007年が7件(41.2%)であった。また対象労働者数は8社で1645人であった。

図7 偽装請負に関する公共職業安定所などからの是正指導
図7

Q9 労務コンプライアンスの特記事項について

 最後のQ9では労務コンプライアンスに関してとくに取り組んでいることや、実行していることを自由に記述していただいた。取り組みで目立つのは、社内におけるワークライフバランスに向けた業務の見直し、労働時間の適正管理と健康管理のための指導の徹底、メンタルヘルスの推進、総合職における女性比率の引き上げ、セクシャルハラスメント相談窓口の設置と周知啓蒙、労務コンプライアンスの徹底などである。


X 労務コンプライアンスの徹底に向けて――株主オンブズマンの提言

 株主オンブズマンは、今回の調査結果を踏まえ、上場企業に対して労務コンプライアンスの徹底を図ることを求めて、以下の提言を行うものである。

1.正社員の15.7%という女性の割合は低すぎる。また、取締役の1.1%、部長以上の1%、課長クラスの2.7%という女性の割合はあまりにも低すぎる。男女雇用機会均等法および男女共同参画社会基本法の趣旨に照らして、企業は賃金格差を含む性別格差の速やかな是正に努めなければならない。

2.障害者雇用には一定の前進がみられるものの、回答企業の4社に1社はなお1.8%の法定雇用率を達成していない。上場企業は、障害者雇用促進法の定めに従って、率先して法定雇用率の達成と雇用率のいっそうの引き上げに努力するとともに、障害者の職場環境の改善と就労支援にあたらなければならない。

3.今回の調査から、企業の多くは労基署などの是正指導を受けて、労働時間のコンプライアンスについての取り組みを強めていることが窺われる。しかし、回答に見る労働時間は、一部の従業員のあいだにみられる超長時間残業の実態を適切に把握したものとは言いがたい。この点では上場企業は、企業が把握した労働時間が実際の労働時間に合致しているかどうかを厳しくチェックするなどして、適正な労働時間管理を実施し、賃金不払残業の根絶に努めなければならない。

4.今回の調査における年次有給休暇の取得率は58.8%で、厚生労働省調査の46.6%(2007年)より高いが、制度の趣旨からいえば、当然100%取得が望ましい。上場企業は年休取得率を高めるために、代替要員の確保、出勤率の見直し、従業員の年休取得状況の把握、年休消化の督励などの抜本的措置を講じなければならない。

5.三六協定についての調査では1日について延長できる時間を一般条項でも6時間以上としている企業が調査対象企業の5割以上あった。15時間を含め10時間以上の延長を認めている企業は4社に1社にのぼる。労働者の健康管理とワークライフバランスのために、残業は1日2時間、年間150時間を超えない、過労死を生む恐れのある超長時間残業はしない/させないことを原則に、労使双方とも節度ある三六協定を締結することが望まれる。

6.今回の調査で、管理職に就いていることをもって残業手当の支給対象とならない者が正社員の24%に達し、回答企業の70%は課長クラス以上に残業手当を支給していないことが判明した。上場企業は、労基法にいう管理監督者に該当しない「名ばかり管理職」をいたずらに増やすことなく、実際に行われた残業時間数に応じて賃金および割増賃金を適正に支払うようにしなければならない。

7.依然として過労死・過労自殺が跡を絶たない労働環境を反映して、本調査では、過重な業務に起因する脳・心臓疾患および精神障害等で労災認定を受けた従業員のいる企業が1割以上にのぼった。上場企業はこの結果を重く受け止め、過労死・過労自殺をなくすために健康配慮義務を果たすことが強く求められている。

8.本調査では、いわゆる偽装請負に関連して職業安定所などから近年是正指導を受けた企業が2割近く存在することが明らかになった。上場企業は、間接雇用(派遣)や外部雇用(請負)に関しても、労務コンプライアンスの徹底に努めなければならない。

9.2002年11月、国の情報公開審査会は、厚生労働省が開示を拒否した企業の障害者雇用に関する情報を公開すべきだとする答申を出し、次のように指摘した。「市場参加者の必要とする情報には商品の質、価格、証券発行会社の財務状況についての情報だけでなく、企業が、法規に合致して行動しているか、さらに、いわゆる社会的責任をどれだけ果たしているかについての情報も含まれる。この企業あるいは経営者の社会的責任は、環境汚染の防止、環境負担の軽減、男女共同の社会参画、障害者の自立への協力、その他メセナ活動などその範囲は広い。企業活動が我々個人の日常生活に及ぼす影響が大きい現在、企業がどのような行動をとっているかの情報は、我々が、例えば、商品の購入、投資決定など日常的な決定をしていく上で欠かせない」。上場企業はこの趣旨にしたがって、本調査で質問したような企業情報に関しても積極的に開示するべきである。

追記: 今回の株主オンブズマンによる労務コンプライアンス・アンケートへのご回答にご協力いただいた企業にたいして、この場を借りてお礼申し上げます。



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