ソニーに対して取締役報酬の個別開示を求めて行ってきた株主提案を断念します

 私たちは上場企業の社会的責任と情報開示を求めて活動している市民株主団体として、2002年以来7年間にわたって、ソニーの株主総会に取締役報酬の個別開示を求める株主提案を行ってきました。株主提案は、会社法第303条の規定にもとづいて、300個以上の議決権を6カ月前から有する株主が株主総会の日の8週間前までにすることになっています。昨年の場合でいうと、本会は、4月21日、株主82名、合計2316個(23万1600株)の委任状を添えて、6月20日のソニー株主総会に「報酬額上位5名の取締役の個人別報酬額を開示することを求める株主提案」を行いました。
 本会では今年も昨年までと同様にソニーへの株主提案を継続すべきかどうかを慎重に検討した結果、以下のような理由で継続を断念することを決定しました。

1.株主提案で役員報酬の個別開示の声が大きく広がった
 会社法は、取締役などの役員の報酬は、株主総会で定めることを原則としています。これは役員報酬を役員だけで決めるとお手盛りで役員の利益が計られ、株主の利益を損なう恐れがあるからにほかなりません。委員会設置会社であるソニーでは、報酬委員会が取締役および執行役の報酬を個人別に決定することになっていますが、株主総会には取締役および執行役の報酬総額が示されるにすぎません。

 表1 取締役および執行役の報酬等の額    (単位:100万円)
 定額報酬業績連動報酬退職金
 人数支給額人数支給額人数支給額
取締役11165327
(うち社外)(11)(165)(−)(−)(−)(−)
執行役710557974  
合計1812207974327
(出所)第91回定時株主総会招集通知35ページ

 表1に例示したように、2008年度の営業報告書の記載を見ても、取締役および執行役に総額21億9400万円(定額報酬12億2000万円+業績連動報酬9億7400万円)を支払ったことと、社外取締役(11人)は1人当たり1500万円であることは知り得ても、CEOをはじめとする執行役兼務取締役3名の報酬額は、個別でも総額でもまったく不明です。これでは会長兼CEOのストリンガー氏の年俸が10億円か1億円かもわかりません。
 報酬決定のこうした密室主義を打破するために行ってきたのが、私たちの株主提案です。投票結果における賛成株数の比率は、2002年の27.2%から、2007年の44.3%まで毎年着実に高くなってきました。このことは本会が行ってきた株主提案を通して取締役報酬の個別開示が株主多数の声として広がってきたことを示しています。

 表2 取締役報酬の個別開示を求める株主提案の賛成率の推移
2002年 27.2%(同時提案の女性取締役の選任は17.55%の賛成で翌年実現)
2003年 30.2%
2004年 31.2%
2005年 38.8%
2006年 41.9%(総会発表では46.7%であったが、後日、株式事務を
 取扱う三菱UFJ信託銀行の「集計ミス」で41.9%に訂正)
2007年 44.3%
2008年 39.7%
(注)賛成率は議決権行使総株数に対する賛成株数の割合

2.変わらないソニー取締役会の閉鎖性と秘密主義
 アメリカにおいては、株主提案の賛成が10%を超えることは会社を動かすベンチマークだと言われています。その場合、会社はそれを無視できない株主多数の要求として受け止め、企業統治に何らかのかたちで反映させることが多いからです。ソニーでも、本会が2002年に男女共同参画社会基本法の理念に沿って女性取締役を選任するように求める提案を行ったところ17.55%の賛成があり、翌年には会社提案に女性候補が加えられ実現されるという経緯がありました。しかし、こと役員報酬開示に関してはソニー取締役会はいまだに秘密主義に固執しつづけています。
 2005年1月にはソニー取締役会と役員報酬の個別開示に関して交渉の場をもちました。そこで真崎晃郎副社長(当時)が述べたのは「アメリカなど海外の株主が賛成しているからといって、日本の株主が賛成していることにならない」というグローバル企業の対応とは信じられない説明でした。
 2006年の株主総会では、役員報酬の個別開示に関して、ストリンガー会長は「イギリス人の私は、アメリカに続いて日本でソニーの経営に当たるようになって、異なる国の文化を尊重することの重要性を学んだ。アメリカのビジネスモデルは日本にとってのパーフェクトモデルではない」という態度を表明しました。これは個人報酬を開示しない日本の企業文化を踏襲するというものです。
 こうしたご都合主義的な「ダブルスタンダード」は、ソニー取締役会が日本の財界主流の他の大企業と同様に、役員報酬決定の秘密主義にかたくなにしがみついていることを物語っています。

3.株主提案(定款変更)可決の高い壁
 本会のソニーに対する株主提案は「報酬委員会が決定した取締役が受ける個人別の報酬の内容については、報酬額上位5名の取締役の個人別の額を毎事業年度の株主総会招集通知の事業報告に記載して開示する」という条文を定款に新設する提案として行われてきました。この議案が可決して強制力をもつには議決権行使総株数の3分の2(66.7%)以上の賛成を得る必要がありますが、それを実現することはきわめて困難であると言わなければなりません。
 一般株主の議決権行使は通常、議決権行使ハガキによって行われますが、株主の多くは白票を投じていると考えられます。ところが、各議案について賛否のご表示がない白票は、会社提案の場合は「賛成」、株主提案の場合は「反対」の意思表示があったものとしてお取り扱われています。株主提案について白票を反対とみなす不公平が改められない限り、株主提案が可決に必要な3分の2の賛成を得ることはほとんど不可能です。 本来なら取締役会は、3分の2を超えなくとも、4割もの賛成がある場合は、株主多数の声として株主提案の趣旨にそった何らかの前進的措置を実施すべきですが、それもこれまで経緯からソニーに期待することはできません。

4.株券の電子化にともなう法令改定で株主提案手続が困難に
 2009年1月5日から、株券電子化にともなう法令改正で、株主提案を行う株主は合意書(委任状)に加え、株主であるという証明書類(受付票)を会社に提出する制度になりました。新しい制度では株主は証券会社に申し出て受付表を入手します。証券会社は、株の電子データを持つ「証券保管振替機構(ほふり)」を通じ、受け付けた株主の名前などを株の発行会社に通知し、株主は議題の提案を、会社が通知を受けて4週間以内に行う必要があります。
 この制度変更はソニーへの株主提案を断念することになった直接の理由ではありません。とはいえ、連名でなければできない株主提案を行う場合、従来は300個以上の議決権を有する株主の委任状を添えて提出するだけでよかった手続が著しく煩雑になったことは確かです。それは株主提案を行う場合にも、提案に加わる株主数を減少させる恐れがあります。それもあって、取締役報酬個別開示の株主提案を断念する今回の決定に、株券の電子化にともなって株主提案手続が困難なったことが影響していることは否めません。

5.ソニーは経営危機の今こそ取締役報酬の個別開示を
 ソニーは、2009年1月に、2008年度通期の営業損益は2600億円の損失(2008第4四半期だけで2500億円以上の営業赤字)が見込まれるという予想を発表しています。それに先だって株価は昨年7月以降大幅に下落し、株主のなかには現経営陣の責任追及と報酬個別開示を求める声が広がっています。そういうなかで本会が取締役報酬の個別開示を求める株主提案を断念するのは株主の期待に背くもので申し訳ないと思っています。しかし、今となっては、私たちはソニー取締役会が自らの決断で、取締役報酬の個別開示に踏み切ることを要望するしかありません。

6.株主のみなさんのこれまでのご協力に感謝します
 最後に、2002年以来、ソニー株主総会に向けた株主提案に委任状をお寄せいただいた株主の方々、および同株主総会における役員報酬個別開示の議案にご賛同いただいた株主のみなさんに心よりお礼を申し上げます。

2009年4月15日   
株主オンブズマン代表
森岡孝二(関西大学教授)
 

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