労働局への情報公開請求の結果明らかになった日本経団連の会長・副会長企業16社 の36協定の内容について、株主オンブズマンの見解を以下のとおり発表します。


日本経団連の会長・副会長企業の36協定について

2009年4月21日

株主オンブズマン代表
森岡孝二(関西大学教授)


 株主オンブズマンは、株主の立場から企業の社会的責任(CSR)を求めて活動しているNPO法人として、日本経団連の会長・副会長出身企業16社の労務コンプライアンスの現状を把握するために、昨年10月に所轄の労働局に対して16社の時間外・休日労働協定(36協定)と障害者雇用に関する届け出文書の情報公開請求を行った。その結果、付表に概要を示したよう事実が明らかになった。

付表 日本経団連 会長・副会長企業の36協定の概要
企業名協定成立日延長することができる最大時間過半数代表者
1日1か月3か月1年
キヤノン08/8/2915時間90時間1080時間労働組合
トヨタ自動車08/8/248時間80時間720時間労働組合
新日本製鐵08/3/68時間100時間700時間労働組合
新日本石油08/3/31100時間480時間労働組合
三菱商事08/3/265時間43時間360時間労働組合
パナソニック08/3/3113時間45分100時間841時間労働組合
第一生命08/3/2645時間360時間判読不能
三井物産08/3/2612時間45分120時間920時間労働組合
東レ08/9/29160時間1600時間労働組合
みずほFG08/8/3111時間90時間900時間従業員代表
日立製作所08/3/2613時間400時間960時間労働組合
三菱重工業08/3/3113時間30分240時間720時間労働組合
野村H08/3/218時間104時間360時間従業員代表
全日本空輸08/3/317時間30時間320時間労働組合
三井不動産08/3/314時間30分90時間360時間労働組合
東京電力08/9/2612時間10分100時間390時間労働組合
(出所)株主オンブズマンによる情報公開請求により所轄労働局から公開された36協定。
(注1)同一企業でも事業や業務の種類が異なる場合は、それぞれの延長時間の長いほうを示した。
(注2)一般協定における延長時間より長い特別延長時間が明らかにされている場合は後者を示した。
(注3)第一生命の07年3月28日の協定の特別延長時間は月120時間、年600時間であった。
(注4)野村Hの1か月104時間は、週24時間を年間26回までを1か月4.35週で換算した。


 労働基準法によれば、使用者は1週40時間、1日8時間を超えて労働者を働かせてはならない。これに違反した場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる。36協定とは、労働基準法の第36条にもとづく、時間外・休日労働協定のことで、使用者は労働者の過半数を代表する労働組合ないし従業員組織と協定を結び、労働基準監督署に届け出れば、労基法の定めを超えて時間外および休日に何時間労働をさせても罰せられない。 過労死などの過重労働による健康障害が深刻化するなかで、厚生労働省は、36協定における労働時間の延長の限度を、1週15時間、2週27時間、4週43時間、1か月45時間、2か月81時間、3か月120時間、1年360時間としている(1998年告示第154号)。
 とはいえ、この指導基準は法的拘束力をもたず、実際に労基署に提出された36協定は、一般協定では上記限度内の時間を記載しながら、付帯的な特別協定で上記限度をはるかに超える時間外・休日労働を可能にする「特別延長時間」を設けている例が大多数である。 他方で厚労省は、月100時間または2〜6か月平均で月80時間を超える時間外・休日労働を、脳・心臓疾患の発症を招く恐れが大きい過重労働とみなしている。過重労働による健康障害を防止するための指導基準からいえば、1か月の残業が80時間を超えるような36協定は受理するべきではない。また、使用者も労働組合も、そうした過労死ラインを超える残業を容認するような36協定は締結するべきではない。
 にもかかわらず、本会の情報公開請求によって明らかになった日本経団連の会長・副会長企業の36協定は、付表に示したように、三菱商事と全日本空輸と第一生命の3社を除いて、すべて過労死ラインを超える36協定を結んでいる。会長企業のキヤノンの最大延長時間は月90時間、年1080時間と驚くほど長い。同社の別の事業所では、最大で月80時間、年700時間働かせることができる協定を結んでいるが、その場合の1日の延長することができる時間は15時間である。これによれば通常の拘束9時間をさらに15時間延長し、1日24時間働かせることもできる。こういう36協定を持つキヤノンの職場で実際に過労死や過労自殺が起きているのも不思議ではない。
 最近までの増産・増益の影で過労死・過労自殺が多発してきたトヨタ自動車においては、最大月80時間、年720時間という協定が結ばれている。新日本製鐵の月100時間、年700時間、パナソニック(松下電器産業)の月100時間、年841時間、日立製作所の3か月400時間、年960時間、三菱重工の3か月240時間、年720時間などと考え合わせれば、日本の製造業の巨大企業は、おしなべて労働者に殺人的長時間労働を迫る36協定を結んでいると言わなければなない。この点ではみずほFG、野村Hなどの金融業界も例外ではない。
 東レは、環境・気候変動と社会の持続的発展にかかわるCSR活動が評価されて、国連関係団体から「2008年ヒューマニタリアン賞」を受賞した。それにもかかわらず、労働時間を最大月160時間、年1600時間延長できるような36協定を結んでいる。これでどのように社会の持続的発展を図るというのだろうか。
今回36協定が公開された16企業のうち6社は所定の届け出文書のほかに、条文形式の協定 または確認文書を交わしている。その1社の東京電力の文書には、「過重労働防止の観点から、厚生労働省の『脳・心臓疾患の労災認定基準』を踏まえ、時間外・休日労働が月100時間または2〜6ヶ月平均で80時間を超えることのないように努めることにする」とある。しかし、そう言いつつも同社の36協定における最大特別延長時間は月100時間となっている。
 また上記6社の協定文書には、育児または介護を行う従業員より請求を受けた場合は、育児介護休業法の規定に従い1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働に従事させない、という旨の記載がある。この規制は育児・介護を行う労働者の家族的責任を特別に考慮したものであるが、すべての労働者が自分と家族の時間をもてるようにするためには、36協定を、望ましくはどの従業員の時間外・休日労働も月24時間、年150時間を超えないような内容に改めるべきである。
 問題は労働者の健康と安全に関する個々の企業の社会的責任だけではない。本会として看過できないのは、これらの企業が、日本の経済界に対して労務コンプライアンスの遵守という点で指導的責任を有する、経団連の会長・副会長の出身母体ということである。経団連はCSRに対する取り組みのなかで、ILOが唱える「ディーセント・ワーク」(まともな働き方、人間らしい労働)の実現を言葉としては受け入れている。しかし、実際には会長・副会長企業の大多数は、付表の36協定の概要に明らかなように、過労死・過労自殺を招く長時間残業の削減にはきわめて消極的である。
 本会は、今回明らかになった経団連のリーダー企業の36協定の内容を踏まえ、日本経団連、会長・副会長の母体企業、労働組合、厚労省に対して次の諸点を強く要望する。

1)経団連の会長・副会長企業は、自社の36協定を過労死ライン以上に働かせることのない内容に至急改める。
2)経団連は、傘下の企業に対して、CSRと労働時間のコンプライアンスの見地から、過重労働による健康障害を招く恐れのある36協定を抜本的に改めるよう指導する。
3)経団連の会長・副会長企業の労働組合および従業員代表は、労働者の健康と安全を最優先して、36協定における最長延長時間を厚労省の過重労働予防基準(過労死認定基準)を超えない範囲に制限する。
4) 経団連の会長・副会長企業とその労働組合は、当面の雇用維持と失業対策のためだけでなく、過重労働の軽減のためにも、労使連帯してワークシェリングを進める。
5)厚労省は、現行の36協定の指導基準だけでなく、過労死ラインの残業を容認する36協定を受理せず、過重労働と健康障害を招く長時間残業の削減に向けて指導監督を強める。

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