大林組談合株主代表訴訟の和解に関するコメント
2009年6月1日

株主オンブズマン代表・関西大学教授 森岡 孝二
大林組談合株主代表訴訟弁護団長  松丸 正


 大林組談合株主代表訴訟の和解が本日成立しました。和解の内容は別掲の「和解条項」のとおりですが、ここに提訴にいたった経緯と本和解の意義について述べ、原告である株主オンブズマン代表および弁護団長としてのコメントといたします。

1.談合訣別の定款新設を求める株主提案の実現
 本会は、2007年6月の大林組の定時株主総会を前に株主26名、合計581個(58万1315株)の委任を受けて、同社定款に談合防止条文を新設する株主提案を行いました。この提案を受けて、定款に談合防止条文を新設する会社提案が総会で議決される運びになった時点で、本会としては、同社の一連の談合事件についての責任追及訴訟は行わないことを表明しました。

大林組定款 第3条(法令遵守及び良識ある行動の実践)
 当会社においては、役職員一人一人が、法令を遵守するとともに、企業活動において高い倫理観をもって良識ある行動を実践する。特に建設工事の受注においては、刑法及び独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)に違反する行為など、入札の公正、公平を阻害する行為を一切行わない。

2.談合事件被告への便宜供与報道についての質問状と提訴請求通知
 その後、2007年11月20日付け毎日新聞によって、枚方市発注の第2清掃工場の入札をめぐる大林組の談合事件で、談合罪により起訴され大阪地方裁判所において公判中であった被告人(当時)に対し、同社が顧問弁護士の紹介や運転手付き社有車の提供などの便宜をはかっていることが報道されました。本会は、これを株主総会での談合防止条項の新設や談合決別の意思表明に反する行為であると判断し、事実関係を確認するために、同社に対して同年11月20日と21日に質問状を送りました。
 しかし、11月28日に本会に届いた回答は、談合罪で逮捕・起訴された2名の被告の刑事事件手続きにおいて、顧問弁護士の紹介、保釈保証金相当額の同弁護士への支払い、1名に対する社有車の提供の事実などを認めているものの、顧問弁護士の紹介や保釈保証金の支払いを不適切と認めたものではありませんでした。
 そこで本会は、同社が株主や社会に対して談合決別を唱えながら、その裏では談合体質を依然として改められないでいると考え、談合防止センター弁護団と共同して、談合事件被告への便宜供与問題のみならず、近年の一連の談合事件を含め、取締役の責任追及、真相究明及び再発防止のために、大林組監査役に対して損害賠償請求訴訟の訴えを起こすよう求める通知を送付しました。

3.談合の監督責任を追及して株主代表訴訟を提起
 本会の提訴請求通知に対して、大林組監査役から、2008年2月15日付けで、談合は実行担当者が「秘密裡に行なっていた」もので、取締役は「知り得ない状況にあった」という理由で、会社としての責任追及はしないという回答がありました。
 この回答を受けて、本会は、同年6月25日、和歌山県発注のトンネル工事談合事件、旧防衛施設庁発注の特定土木建築工事談合事件、枚方市発注の第2清掃工場の建築工事談合事件、名古屋市営地下鉄6号線延伸工事談合事件などに関して、同社の歴代の取締役15名を相手取り、総額12億8000万円を同社に返還するよう求める株主代表訴訟を大阪地裁に起こしました。その目的は、談合行為を未然に防止するための内部統制システムを構築すべき義務を負っていながらそれを怠った取締役の責任を追及して、談合多発の真相を明らかにし、談合防止の内部統制システムの構築を求めることにありました。

4.同社のこれまでの「談合防止の取り組み」の欠陥
 同社は今までいろいろな「談合防止の取り組み」をしてきました。にもかかわらず、上記の一連の談合事件を防止できませんでした。これは同社の談合防止の内部統制システムに何らかの大きな欠陥があったからと思われます。
 談合事件が発生した場合には、本来なら外部の有識者などを入れて、なぜ談合事件が起こったのか、その原因は何か、会社のコンプライアンスのどこに欠陥があったのかを明らかにして、真に有効な再発防止策を作るのが、不祥事を発生させた企業の本来とるべきコンプライアンスの在り方です。しかし、大林組は外部委員などを入れた再発防止策の検討はしてきませんでした。自浄能力を発揮して再発防止策を検討してこなかった点では、大林組だけでなく、他の多くの談合企業は同様です。それは建設業界において、談合体質が温存され、長年談合が継続されてきた原因でもあります。
 2005年12月に大手ゼネコンは「談合と決別宣言」をしたと報じられました。しかし、どのような経過で、なぜ談合と決別する宣言をしたのかは一切明らかにされていません。それまでの談合防止の社長の宣言とどこが異なるのかも不明です。このままでは何年かすれば、形を変えた談合が再発する危険性もあります。
 ゼネコン汚職で1993年に仙台市長が逮捕されたあと、清水建設、鹿島建設などの大手ゼネコンが談合決別に動き始めましたが、その後、結局、業界ぐるみの談合が復活したという経緯もあり、談合からの決別は簡単ではないことを示しています。

5.「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」の設置と運営
 以上の経緯をふまえ、本会は、大林組に対して、真に談合と決別したというなら、原告が推薦する弁護士などの外部委員を入れた「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置し、そのなかで名古屋地下鉄談合、和歌山談合、防衛施設庁談合、枚方談合事件などを調査し、なぜ談合から決別できなかったのか、その原因を明らかにし、その外部委員会からの提言を受けて改革に取り組むことを会社に要求しました。
 今回の和解では、大林組は、「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置することを約束し、この委員会において、過去の談合事件を調査し、その原因を解明し、再発防止策を提言することも約束しました。また、その委員のなかに原告の推薦する弁護士が入ることになりました。本会は原告側として、これを機に大林組が談合と決別して、今後二度と談合をしない内部統制システムを作るために、自浄作用を発揮する決意であると判断し、今回の和解に至ったものです。
 この委員会は、過去の談合事件を暴くことが目的ではありません。過去の役員、従業員の責任を追及する機関でもありません。むしろ、彼らに、真実を語らせるために、責任追及をしないという免責を与えてでも、過去の談合がなにゆえ長年継続してきたのか、組織の持つ病理現象を明らかにし、将来二度と同じ過ちを繰り返さない内部統制システムを作ることこそが目的です。
 原告側としては、談合防止コンプライアンス検証・提言委員会の設置とその実行が誠実に履行されるなら、仮に、過去の談合事件に関する役員の責任問題がこの委員会の調査で明らかになったとしても、本和解以前に発生した談合の責任追及はしないことを約束しました。それは過去の責任の問題より、役員たちに真実を語らせることにより、将来の企業の談合防止に役立たせたいと考えたからにほかなりません。
 なお、被告らが本件の解決金として大林組に支払う2億円は、同社における談合防止コンプライアンス検証・提言委員会や、内部通報制度の外部受付窓口などの運営、その他談合防止の取り組みのための費用に充当されます。


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