大林組コンプライアンス検証・提言委員会の提言書について
――株主オンブズマンのコメント――


本日、大林組のホームページに同社の「コンプライアンス検証・提言委員会」の「検証・評価」と「提言」(PDFファイル)が発表されました。以下、これについて株主オンブズマン(以下、「本会」という)のコメントを述べます。

1 経過

株式会社大林組においては、ここ数年のあいだに、旧防衛施設庁発注の特定土木建築工事、和歌山県発注のトンネル工事、名古屋市営地下鉄6号線延伸工事、枚方市発注の第2清掃工場の建築工事などの談合事件が相次いで発覚してきました。また、これらの事件にともない、法令違反による罰金、課徴金、営業停止処分、指名停止措置などを受けてきました。

本会は、こうした一連の談合事件を重視し、2007年6月の大林組の定時株主総会に際して、株主26名、合計581個(58万1315株)の委任を受けて、同社定款に談合防止条項を新設する株主提案を行い、それが会社提案として総会に議せられました。その結果、「当会社においては、役職員一人一人が、法令を遵守するとともに、企業活動において高い倫理観をもって良識ある行動を実践する。特に建設工事の受注においては、刑法及び独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)に違反する行為など、入札の公正、公平を阻害する行為を一切行わない」という条文(第3条)が定款に盛り込まれました。

その後、2007年11月20日の毎日新聞によって、枚方市発注の第2清掃工場の入札をめぐる大林組の談合事件で、談合罪により起訴され大阪地方裁判所において公判中であった被告人(当時)に対し、同社が顧問弁護士の紹介や運転手付き社用車の提供などの便宜をはかっていることが報道されました。本会はこれについて大林組に対して書面で質問をしましたが、その回答は、同社が株主や社会に対して談合決別を唱えながら、その裏では談合体質を依然として改めていないと思われるものでした。それゆえ、本会は、一連の談合事件の真相解明と談合の再発防止を目的に、同社の歴代の取締役15名を相手取り、総額12億8000万円を同社に返還するよう求める株主代表訴訟を大阪地裁に起こしました。

2009年6月1日、大林組談合株主代表訴訟の和解が成立しました。和解では、本会の要求に応えて、大林組は、利害関係人として、原告が推薦する弁護士などの外部委員を入れた「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置することを受け入れ、同委員会において、過去の談合事件を検証し、再発防止策を提言することを約束しました。また、その委員のなかに原告の推薦する弁護士が入ることが受け入れられました。また、被告らが本件の解決金として大林組に支払う2億円は、同委員会の検証・提言作業と、内部通報制度の整備の費用に充当することになりました。

この和解に基づき、社外の弁護士3名と大林組役員4名で構成された「コンプライアンス検証・提言委員会」が2009年7月15日に設置されました。以降9回にわたる同委員会での作業結果が、今回大林組から発表された「コンプライアンス検証・提言委員会」の「経緯」、「検証・評価」および「提言」からなる提言書(以下、「提言書」という)です。

2 検証・評価

提言書は、大林組におけるコンプライアンス体制の変遷を跡づけ、事件前のコンプライアンス体制と各事件後に実施した再発防止策を概観したあと、現在のコンプライアンス体制を検証しています。

提言書は、大林組の従来のコンプライアンス体制について、独占禁止法遵守マニュアルの制定、社員研修、公益通報者保護法の施行に対応した内部通報制度の整備など、「建設業者として一般的水準を超えた」体制を構築してきたと述べながら、「現に発生した各事件を振り返ってみた場合には、談合が起きやすい土壌や制度的背景に即した、もう一歩踏み込んだモニタリング体制の構築などが不足していた」と指摘しています。

次いで、提言書は、大林組において発生した4つの談合事件を、(1)官庁OB再就職先の確保型官製談合、(2)首長主導型官製談合、(3)業界主導型談合の3ターンに分類しています。そのうえで、再発防止策について、「談合事件を未然に防止するためのコンプライアンス体制」と「万一、談合がおこなわれた場合に、これを早期発見し、談合からの離脱を含めた適切な行動をとるためのコンプイアンス体制」の2つに分類して、検証作業を行っています。

「談合事件を未然に防止するためのコンプライアンス体制」については、以下の順に検証しています。
(ア)経営トップの決意表明
(イ)教育・研修制度の充実、行動規範、独占禁止法厳守マニュアルの整備
(ウ)人事制度の改善
(エ)受注活動の透明性確保
(オ)不正会計処理の防止体制の整備
(カ)グループ会社・協力会社の教育・協力体制
(キ)厳格な社内処分の実施

(ア)経営トップの決意表明に関しては、定款に新設された談合防止条項の規定を、「法令遵守に向けた会社の強い決意を定款に定めることにより、企業倫理を含めたコンプライアンスに対する意識の一層の徹底を図るとともに、健全な企業風土を創り上げていく礎としている」として高く評価しています。

ただし、提言書は、時間の経過やトップの交代によって談合根絶の取り組みが風化していくことを懸念して、「談合根絶の決意が現経営陣から代替わりして次代の経営陣に替わった後にも継承されていくような仕組みが必要」と指摘しています。

(イ)教育・研修制度の充実、行動規範、独占禁止法厳守マニュアルの整備に関しては、 必要十分な教育・研修が相当程度におこなわれていることを評価しています。しかし、「内部通報制度について、さらなる周知徹底を図る」課題については改善の余地があるとしています。

(ウ)人事制度の改善に関しては、a 顧問任用の厳格化と、b 官公庁出身者を採用する際の厳格なチェックが実施されていることを、適切な対策が採られているものとして評価しています。

(エ)受注行動の透明性の確保に関しては、a 入札業務の責任者による入札プロセスのチェック、b 同業者との会合等の事前承認制度を取り上げています。前者に関しては、各店の土木・建設事業の入札責任者は、JV(共同企業体)相手の選定理由、見積金額の算出根拠、入札金額の決定根拠などについて各担当者から具体的な説明を求め、不審な点がないかを確認することになっているとされています。

(オ)不正会計処理の防止体制の整備に関しては、「事件発生の反省を踏まえ、使途秘匿金として金銭支出の処理を行うことを全面的に禁止している」ことが注目されます。

「万一、談合がおこなわれた場合に、これを早期発見し、談合からの離脱を含めた適切な行動をとるためのコンプイアンス体制」については、提言書は、社内で談合を発見する仕組みの整備」を検討しています。

そのなかで「過去の談合事件の要因分析結果からすると、現在のモニタリング体制は、複数の機関によるチェック体制を整えて、再発防止のための見直しが図られ、一応の成果を挙げている」が、「談合行為者が大林組の上層部に対して談合の事実をあくまでも秘匿しようとする場合には、現行のモニタリングは限界があると考えるので、未だ改善の余地がある」と指摘しています。

3 提言

提言書は「提言」部分で、「現在の大林組のコンプライアンス体制は、事件発生当時と比べ、同業者との会合等事前承認制度及び内部通報制度等のモニタリング体制など、新たな談合再発防止措置が講じられており、過去の体制から大幅に改善、強化されていることが確認できた」としながら、建設業界には、歴史的・構造的に談合が発生しやすい上壌があり、現に大林組で過去に談合事件が発生したことを鑑みると、現在のコンプライアンス体制をもってしても決して安心することはできない」として、4つの施策を提言しています。

(1)経営トップの決意を次代の経営陣に受け継いでいくこと

(2)内部監査にサンプリング調査を導入するとともに内部通報制度のさらなる周知徹底を図ること

(3)談合行為や官製談合の存在を発見した場合の行動プログラムの策定

(4)本提言を受けて新たに構築したコンプライアンス体制の検証を行うこと

4 本会の評価

大林組の「コンプライアンス検証・提言委員会」が今回発表した提言書は、大手建設会社が談合根絶を言葉に終わらせず、実効性のあるもにするためにおこなわれた「検証・評価」と、それに基づく「提言」として画期的な意義をもっています。これが株主代表訴訟の和解条項にしたがった原告側推薦委員を含む外部委員のイニシアティブによる作業結果であることも注目されるところです。

「検証・評価」および「提言」の内容に関しては、「検証・提言委員会」は、談合の未然防止と事後対応に分けて、大林組における事件前、および事件後のコンプライアンス体制の整備状況を詳細に検討し、4点にわたって提言をおこなっている点で肯けます。

しかし、大林組が事件前にも建設業界の一般的水準を超えるコンプライアンス体制を構築していながら、それでもなぜ今回の検証した4つの事件が発生したのかという疑問が残り、それぞれの談合の要因や背景についての構造的・組織的・歴史的な踏み込みが不足していると感じざるをえません。とりわけ、入札プロセスにおける受注活動の透明性の確保と会計処理のチェックに関しては、見積金額の算出方式や入札金額の決定方式にメスを入れ、もっと明確な改善策が示されてしかるべきであったと考えます。

内部通報制度については、従業員へのいっそうの周知徹底を図ることだけが今後の課題とされていますが、本来なら現行の通報制度が社内およびグループ会社・協力会社のあいだでどのように運用されているかの検証がなされるべきです。談合行為に限らず、広くさまざまな違法、不正、リスク、問題行為に関して内部通報制度が有効にワークしていなければ、談合行為を未然あるいは早期に発見し防止する役割を内部通報制度にもたせることはできません。

こういう不十分さがあるとはいえ、株主推薦の真の外部委員を入れて、一連の談合事件を洗い直した点は、大手ゼネコンでは初めてであり、鹿島、清水、大成なども見習うべきでしょう。他のスパーゼネコンがウヤムヤにしている現状からみると、今回の提言書に示されている大林組の姿勢は高く評価できると考えます。

談合事件の発覚や、営業停止、指名停止がある度におこなわれるマスコミの報道は、社員や家族に辛い思いをさせているだけでなく、採用市場で優秀な人材を確保することを危うくし、また株式市場で株価を押し下げる要因ともなっています。その意味で、提言書の「まとめ」にも言われているように、近年では「談合を行った企業は経済的のみならず、社会的信用の失墜といった影響から企業の存続にも大きな影響を与えるような状況になって」きています。それだけに本会は、談合根絶を大林組の存続の根本条件と位置づけ、「検証・提言委員会」がいうように、「大林組が過去の談合事件の茄みを決して忘れることなく、これを契機として健全な企業風土を創り上げ、将来にわたって社会から信頼される会社であり続けることを期待」しています。

2010年3月30日
NPO株主オンブズマン代表
関西大学教授 森岡 孝二


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