福島第一原電の事故対応について要望書を東京電力に送りました

2011年4月26日
NPO法人 株主オンブズマン

福島第一原子力発電所の事故への対応について、東京電力に要望書を送付しました。以下にその内容を掲載いたします。


福島第一原発の事故対応についての東京電力への要望書

 東日本大地震に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故の発生から1か月半が経過しました。今回の事故では、いまだに放射性物質の漏洩・放出が続き、広範な地域で生活が困難になる事態を引き起こしています。私達は、一般株主の立場から上場企業に対して、経営の透明性と企業の社会的責任を求める市民団体として、東電経営陣の事故対応を見守ってきましたが、これまでのところ納得がいかないことがあまりにも多く、腹立たしい思いをしています。

「想定外」を逃げ口上にした危険無視の津波対策
 東電は、今回の原発事故を、当初から検証もせずに、「想定外」の大津波によるもので、不可抗力であったと言わんばかりの説明をしてきました。しかし、これは、東北地方の太平洋岸を襲った津波の歴史と、最近にいたるまで繰り返されてきた多方面からの警告を無視したもので、事故の重大性からは許されない責任逃れにすぎません。

廃炉を恐れて海水注入に抵抗
 3月11日の津波による電源喪失で原子炉の冷却機能が停止した直後に海水注入が開始されていれば、相次ぐ爆発は防げたのではないか、という見方もあります。しかし、東電が福島第1原発1号機への海水注入を開始したのは、翌12日の午後3時36分に1号機で水素爆発があった後でした。また、3号機への海水注入開始は13日午後8時、2号機への海水注入開始は14日の午後4時でした。これは海水注入が廃炉を招きそれが経済的損失をもたらすことを忌避した結果だと言われており、ここにも東電のコスト優先、安全軽視の体質が表れています。

悪夢のような増設計画の提出
 東電は原発事故後の3月末に、第1原発7、8号機の増設を盛り込んだ電力供給計画を国へ提出していました。藤本孝副社長が記者会見で、第1原発の増設計画を白紙撤回する意向を明らかにしたのは4月5日のことです。事故が収束せず住民の避難区域が拡大している最中に、同じ土地に原発を増設することに執着した計画を国に提出するのは、無為無策というより白昼の悪夢です。

ガバナンスの機能不全を曝した事故対応
 今回の原発事故への東電経営陣の対応で際だっているのは、同社の経営トップの事故対応のお粗末ぶりです。原子力発電とその事故は東電の最重要事項であるはずにもかかわらず、事故発生直後からしばらくの間は武藤栄副社長が表に立ちました。彼は東電経営の「聖域」である「原子力村」の「ドン」だという論評がありますが、そのことは東電の事故対応がトップ不在であったことを物語っています。
 勝俣恒久会長が今回の事故について事故後、初めて記者会見をし、破損の激しい1号機から4号機について、廃炉の意向を明らかにしたのは3月30日でした。清水正孝社長は事故発生から2日後の3月13日に初めて記者会見に出た後、4月13日に1ヵ月ぶりに記者会見を開きました。途中、体調不良で入院したとはいえ、4月22日になってようやく避難地域の住民に謝罪するため福島を訪れたことを考えると、東電のガバナンスはほとんど機能していないと言わざるをえません。

今回の事故でも変わらない東電の隠蔽体質
 よく知られているように、東電は、1980年代後半から90年代にかけて、福島第1原発を初めとする13基の原子炉の点検において、データ改ざんやひび割れ隠しがあり、2002年には、相談役を含む歴代トップ5人が辞任に追い込まれ、同社の原発17基すべてが一時稼働を停止するという事件がありました。それを契機に社内に「企業倫理委員会」が設けられ、再発防止の取り組みが実施されました。にもかかわらず、2006年11月にも、原子力安全・保安院から指示を受けて、発電設備のデータ処理の点検を求められ、2007年4月に、3原発を含む25発電所でデータ改ざんがあったと発表しました。こうした東電の隠蔽体質は、今回の原発事故発生後の小出し・後出しの情報開示でも改められていないことが判明しました。

涙金の見舞金とわずかな仮払い補償金
 東電は、今回の原発事故で避難指示を受けた福島県の10市町村に対して3月末に、一律2000万円の見舞金ともいえない涙金を支払いました。また、4月26日のニュースでは、避難生活を余儀なくされている地域の住民を対象に、一般世帯に100万円、単身世帯に75万円を支払うといいます。これは本格的な賠償に先立つ仮払い補償金にしてはあまりに遅すぎ、損害を償うにはあまりにも低すぎます。

過去の報酬に触れない姑息な役員報酬削減
 東電は今回の事故に関連して役員報酬を半減とすると伝えられています。しかし、半減と言っても、09年度に支払われた平均報酬約3700万円の5割ではなく、2007年の中越沖地震による柏崎刈羽原発の停止事故にともなう2割削減以前の平均報酬約4600万円の5割ということですから、実際には09年度比約4割カットの2300万円程度にとどまるものと推定されます。監査役報酬は、同率のカットだとすると、09度の平均3300万円から2000万円程度になると見込まれます(平均報酬額はいずれも社外役員を除く)。これでは取締役も監査役も経済的に大きな痛みを覚える減額とはいえません。しかも、過去の報酬について何も触れていないことは大きな疑問です。

 以上の事態と経緯を踏まえて、私達は、今回の事故に対する東電の対応と役員責任の履行について、取り急ぎ以下の4点を申し入れます。

1 放射能汚染拡大の収束に総力をあげる
 いうまでもないことですが今最も急がれるのは、政府関係機関の指揮の下に専門家の英知と経験を結集し、放射能汚染拡大の閉じ込めと収束に総力をあげることです。それとともに原発事故関連情報の迅速かつ正確な開示を行うことが強く求められています。

2 原発事故に関する損害賠償に第一義的責任をもつ
 枝野幸男官房長官は4月21日の記者会見において、東電福島第1原発の事故に関する損害賠償について、東電と国との関係では「東電が一義的に責任を持っている。東電に一義的な負担はお願いすることになる。国としても被害者に対する補償がなされるよう責任を持って進める」と述べました。東電においてもこの点を明確にして、間違っても原子力損害賠償法(原賠法)の例外規定を持ち出して賠償責任を免れるかのような主張は行わないようにする必要があります。 

3 東電のガバナンスの仕組みのなかに「環境安全委員会」を設置する
 原発史上チェルノブイリと並んで過去最悪の今回の事故に対しては、原子力安全・保安院の下で事故調査委員会が立ち上げられ、福島第1原発の事故原因の徹底的な調査究明と、東電が運転する全原子炉の全面的な点検が行われるものと考えられます。その結果によっては、経営体としての東電のあり方も左右されますが、今後東電が民間電力会社として生き残るには、東電のガバナンスの仕組みのなかに、原発依存からの脱却と自然エネルギーへの転換を説く外部の独立性を有する専門家を入れて、技術体系のみならず、ヒューマンシステムについても検討する、「環境安全委員会」を設置することが望まれます。

4 東電役員は過去数年の報酬を被害住民への見舞金に拠出する
 東電の有価証券報告書で見ると、2005年度から2009年度までの5年間に社外役員を含む全役員に支払われた報酬等(賞与と退職慰労金を含む)の総額は、約45億円に上ります。しかし、聞こえてくるのは姑息な報酬カットのニュース程度で、社長・会長・副社長などの代表権を持つ東電役員でさえ、何億円あるいは何千万円かの寄付をしたという報道はありません。東電役員に今回の事故についての責任意識が多少ともあるのであれば、過去数年に受け取った全役員の報酬を総額拠出して、原発事故被害を受けた住民と事業者に見舞金として寄付するべきです。

 東電取締役会と監査役会に対して、以上のとおり重ねて要望します。

2011年4月25日
NPO株主オンブズマン代表
関西大学教授  森岡 孝二
〒530-0047 大阪市北区西天満4−6−3
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