住友金属工業「コンプライアンス検証・提言委員会」報告書について

先頃、住友金属工業の「コンプライアンス検証・提言委員会」の報告書がまとまりました(報告書の全文はこちらのPDFファイル[1.9MB]をご参照ください)。以下、これについて株主オンブズマンのコメントを述べます。
2011年7月18日
NPO法人 株主オンブズマン


住友金属工業「コンプライアンス検証・提言委員会」の報告書について
――株主オンブズマンのコメント――

1 報告書発表までの経緯
 2010年3月30日、後述の3事件に関わる住友金属工業株式会社の取締役および元取締役らに対する株主代表訴訟について、大阪地方裁判所の和解勧告に基づき、原告、被告および会社との間で和解が成立しました。その結果、「住友金属コンプライアンス検証・提言委員会」が発足し、8月以降10回の審議を重ね、2011年4月11日付け報告書がまとまりました。以下に、この株主代表訴訟を支援してきた株主オンブズマンの立場から簡単なコメントを述べます。
 なお、報告書のなかの提言部分の要旨とその本文である第6「会社への提言とその理由」は、住友金属のホームページに掲載されています(住友金属ホームページ「コンプライアンス検証・提言委員会からの提言と当社取り組みについて(再掲)」及びその添付文書「報告書(38頁乃至49頁)第6 会社への提言とその理由」[PDFファイル 297KB]を参照)。またその要旨は去る6月17日に開催された定時株主総会において報告されました。

2 検証対象となった事件
1) ステンレス鋼板カルテル事件(2006年6月19日提訴)
 2001年9月頃から2003年1月までの間、住友金属を含む6社は、冷間圧延ステンレス鋼板および鋼帯の販売価格を上げるためのカルテルを計4回にわたり締結しました。この件について、公正取引委員会は、住友金属に対し、2003年12月2日に排除勧告を行ない、2005年3月9日に9億8000万円の課徴金納付を命令しました。

2)橋梁談合事件(2006年6月27日提訴)
東日本の国土交通省関東・東北・北陸地方整備局や日本道路公団(当時)が発注する鋼橋上部工事の競争入札において、住友金属を含む鋼橋工事業者47社は、長年の間、K会やA会と呼ばれる入札談合組織を構築して違法な談合行為を行なってきました。この件について、公正取引委員会は、住友金属に対し、2005年9月29日に、2002年4月1日から2004年10月29日までの談合を認定して排除勧告を行ない、2006年3月27日に1億4000万円の課徴金納付を命令しました。

3) 使途秘匿金事件(2006年6月19日提訴)
 住友金属は、1999年3月期から2004年3月期までの6年間に総額34億5000万円の裏金を作って、環境プラント工事受注のための地元対策費に費やしました。住友金属がその使途を明らかにしなかったために、大阪国税局は、2005年5月30日、上記金額を「使途秘匿金」として認定し、更正処分を行ないました。その結果、住友金属は法人税、重加算税、消費税、地方税等を合わせて総計25億4000万円を納付しました。  なお、住友金属が上記使途秘匿金の支出を担当した従業員を懲戒せず、通常解雇にして本来支給するべきではない退職金を支給したことに対しても、2007年6月18日に追加提訴が行われました。

3 本委員会の委員(*は原告側の推薦)
委員: 江見弘武、井上善雄*、千森秀郎(いずれも、弁護士)
サポート委員: 佐賀義史、伊藤大義(公認会計士)、八木倫夫、三馬忠夫*(公認会計士)、猿木秀和、荻野伸一(特に明示する者の他は弁護士)

4 報告書の主な内容
第1 委員会設置に至る経緯
第2 本委員会の活動内容
第3 本件3事案を巡る事実経過及び会社の対処についての本委員会の判断
第4 本件3事案の発生の防止又はその中止ができなかった原因
第5 会社の講じた措置に対する評価
第6 会社への提言とその理由
別表1: 「本件3事案とコンプライアンス体制時系列表」
別表2: 「使途秘匿金に関わる納付税額表」
添付: 「和解条項」

5 事件ごとの検証
 報告書の内容は詳細で多岐にわたるものなので、ここでは第3「本件3事案を巡る事実経過及び会社の対処についての本委員会の判断」および第4「本件3事案の発生の防止又はその中止ができなかった原因」から、目につく箇所を引用しておきます。

1)ステンレス鋼板カルテル事件
 「我が国におけるステンレス鋼板の主要販売業者である……会社(住友金属)等6社は、かねてから、営業担当部長級の者による会合(部長会)、及び営業担当課長級の者による会合(課長会)を開催し、ステンレス鋼板の販売等に関する情報交換を行っていた。」(15ページ)。
 「部長が部長会への参加を続け、これを取りやめなかったのは、コンプライアンスに関する意識が欠知していたと解せざるを得ず、このことが、公取委の調査が開始されるまで、第1事案に係る不祥事が継続した原因というべきである。」(27ページ)。
 「同業者、取引先その他の外部者との聞の会合等についての実態を把握する体制が整備されていれば、コンプライアンス上問題となる会合や接触に早期に気づくことができ、不祥事に繋がるリスクのある事柄が長期間継続することなく、これを中止させることができたと解され、実態を把握することもないまま、会社として、社員によるそのような会合への参加を許容していたこと自体も、第1事案に係る不祥事の発生の防止又はその中止をすることができなかった原因というべきである。」(27ページ)。

2)橋梁談合事件
 「○○部長は、平成4年6月、土木鉄鋼営業部東京橋梁営業室長に就任し、初めて橋梁事業に携わり、会社が橋建協への加入をミッションとしている旨上司に言われ、営業先からも、橋建協に加盟してから売込みに来るように言われた経験等から、橋建協に加盟することが会社に重要であることを理解して事業に従事してきたが、この間に開業の他社の者の話から、加盟している各社が「表向き存在しない会」(加盟後、「A会」及び「K会」と称された談合組織のことと知った)を構成して談合をしていることを知った。○○部長は、平成5年、会社の橋建協への加盟が内定した後、A会に所属する加盟社の人から、上記会による談合の歴史等について説明を受け、「あなたが会社の代表である。代理等は認められないし、上司に相談するようなことでもない。それでもよいか」と言われ、談合に加わることへの葛藤を感じたが、橋建協への加盟が会社の目標とされていたことから、会社の上司等に相談することもなく、これに応じ、平成6年4月、会社が橋建協への加盟を認められた後、公取委による調査が開始されるまで、約10年間、談合の合意に従って会社の橋梁事業を担ってきた。」(17ページ)。
 「○○部長は、また、会社が公団OBを雇用する意義について、これにより急激に受注が増加する訳ではないが、安定的な受注が期待できることにあるとも述べる。技能や経験に関わりなく公団OBを雇用するような会社と公団の関係は、現在の価値基準に照らす場合はもとより、当時においても、健全な事業の運営の観点からは、容認できない現象というべきである。公団OBを雇用したことが談合の原因であるとは直ちにいうことはできないが、雇用に当たり、公団OBの会社における役割を評価し直すことにより、第2事案の発生を予防することができた可能性はあった」(28〜29ページ)。
 「○○部長は、談合が社会的に是認することのできない行為で、犯罪にもなりうることを理解しながら、長期間橋梁工事を巡る談合に関わった。このような行為をかくも長く継続してきた理由は、売上げによる会社の利益を重視したのにほかならないが、談合が露見した暁には会社の社会的信用が大きく段損される行為であるにもかかわらず、売上げやそれによる利益を重視するコンブライアンスの意識の低さが、一部長において、橋建協への加盟時及び加盟後長期間にわたり、談合組織であるA会の存在及びそれからの脱退を会社に建議することもなかった理由であると解せられる」(29〜30ページ)

3)使途秘匿金事件
 「第3事案は、要するに、○○参与が、環境プラント工事の受注に当たり、代理店A社の前社長から、公共工事の受注のためには「地元対策費」の支払を要すると助言を受け、金銭の支払が、公表できず、また社会的にも是認されないいわゆる地元有力者に対するものと理解しながら、上司の承諾を得たり、上司に相談したりすることなく、助言に従うこととし、A社に「地元対策費」を支払わせ、これを加算した額の代金により受注を図り、受注に成功した工事の施工に際し、加算された「地元対策費」相当額の仮装の工事を一次下請等の会社を介してA社に施工させたように装い、この仮装工事の代金として、会社の経理部門をも欺く方法により、会社から一次下請等を介してA社に支払い、「地元対策費」を補填していたのにほかならない。○○参与は、A社の前社長の死亡(平成14年末)後、平成15年から平成16年5月ころまでの問、A社から提供を受けた上、自ら「地元対策費」の支払をした。/○○次長は、この問、○○参与の指示に従い、「地元対策費」相当額を工事に仮装した見積書を作成するなどして、上記方法による受注及び「地元対策費」の支払を手助けした。」(31~32ページ)。
 「○○参与は、平成8年7月、環境プラント部に異動して営業を担当するようになり、平成10年6月以降平成16年5月ころまでの問、「地元対策費」計約34億円を支払って多くの工事の受注をもたらした。」(32ページ)
 「○○参与は、「地元対策費」の支払が、社会的にも、社内においても、是認されないことを知りながら、これを支払う方法による受注を選択した。この事実の下では、平成10年6月ころから平成16年5月ころまでの問、会社においては、社会的に是認されない方法により事業を遂行することはしないという、経営者の明確な方針を従業員に未だ十分に伝えることができておらず、従業員においても、経営者の明確な方針を的確に認識していなかったと見るほかなく、このことも、第3事案に係る不祥事の発生を防止し、又は早期に止めるに至らなかった原因と解せられる」。(33ページ)

6 提言の要旨
 報告書の第6「会社への提言とその理由」では、住友金属「コンプライアンス検証・提言作業」の提言部分が述べられています。以下に同社のホームページ掲載の文章を引用して、提言の要旨の紹介に代えます。
 (1) 企業理念の確立
会社(住友金属)は、既にコンプライアンス経営を強化している方向にはあるが、更にコンプライアンス重視の経営姿勢を「企業理念」等に明文化して定め、これを全社員に明示し、また、経営者自らがこれを繰り返し全社員に発信し、伝播する活動を継続していくこと。
 (2) 事案の解明、説明責任の重要性の再確認
 会社は、不祥事の判明時には、利害関係者に対する説明責任を果たし、再発防止策を検討する観点から、事実の解明には徹底的にこだわる姿勢を持つ(事案の解明を曖昧にすれば、コンプライアンス違反のリスクを抱え込むことになる)こと。
 (3) リスクマネジメント、コーポレートガバナンスの体制
 現状のリスクマネジメント、コーポレートガバナンスの体制に満足せずに、常に新たな課題を見つけ、それを更に施策に移す、いわゆるPDCAサイクル(計画〔Plan〕、実行〔Do〕、評価〔Check〕、行動〔Act〕の反復継続)を実施するという作業を継続すること。
 (4) 懲戒処分
 社員の不祥事が会社の内部統制に関わる事柄である場合の懲戒処分に当たっては、単なる企業内秩序違反に対する非難だけでなく、内部統制を担保する機能をも併せ有するものであることに特に留意して、懲戒規定を定めるとともに、その運用に当たっては、当該不祥事の内容が内部統制を蔑ろにするものであるかどうか、その影響の度合いはどうか等を十分に検討した上で、懲戒を決定(その最終の判断の責任は、会社法上、内部統制構築義務を負う取締役会にある)すること。
 (5) その他の再発防止策
 その他具体的な再発防止策として、(i)独占禁止法遵守にかかるコンプライアンス体制の維持・強化、(ii)内部通報制度の周知徹底・強化、(iii)適切な人事ローテーション、(iv)内部牽制機能の精緻化等を考えること。

7 全体的評価と問題点
 報告書は、株主代表訴訟で問われた企業不祥事の原因とその再発防止策を、当訴訟の原告側が推薦する委員を含む外部委員3名とサポート委員6人によって構成される委員会が検証・提言したものです。このことは、被告らが会社に支払った解決金2億3000万円からその費用が充当されたことと合わせて、企業のコンプライアンス構築の先進的な試みとして評価できます。こうした検証・提言作業は、2010年3月に報告書が発表された大林組の一連の談合事件についても行われました。大林組の場合は、委員は社外の弁護士3名と同社役員4名で構成されていましたが、住友金属の場合は、会社役員は含まれていないという点で新しさがあります。
 報告書は、上記の3事件の原因と再発防止策について、かなり立ち入った検討をしていますが、いずれの事件についても、真相を糾明する点で掘り下げが足りず、担当者のコンプライアンス意識の欠如を問題にしていても、役員やトップの責任を問う点で曖昧さを残しています。とくに第3事件の地元対策費(使途秘匿金)の使途をめぐっては、「告訴又は告発をしなかったのもやむをえないのではないかとの意見と、会社として告訴又は告発をすることにより、捜査機関に真相究明を託すべきではなかったか、少なくとも真実を話さなければ告訴又は告発をするという態度で臨むべきでなかったかという意見と、見解の分かれるところであった。後者の立場からは、会社が事件を小さく終息させる目的で、あえて徹底した調査を怠ったという意見もあった」と指摘されているだけに、より立ち入った調査と検討がなされるべきであったと考えられます。
 報告書のなかでもとりわけ残念なのは、5ページから14ページまで、9ページにわたり見出しのほかは空白になっていることです。住友金属は、その理由を、事情聴取をした関係者の氏名等の個人情報を保護するためと説明していますが、それだけの理由であれば、氏名のみを墨字にすればすむことです。使途秘匿金に関わる第3事件については、空白部分の残る見出しから、「社内調査」、「会社のコンプライアンス体制」、「今後の課題、再発防止策」などを述べていると考えられますが、それらの内容はいずれも秘匿されています。ここには会社と役員にとって不都合なことが書かれているのではないかという不要な疑いを招かないようにするためにも、空白部分を含む全文を開示することが望まれます。

2011年7月18日
NPO株主オンブズマン代表
関西大学教授 森岡 孝二


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