平成一一年(ヒ)第六一三号   取締役会議事録閲覧許可申請事件

意  見  書

 

大阪地方裁判所
    第一〇民事部  御 中

記
一 申請の趣旨の取下
   申請書第一項は、被申請人より議事録が任意に交付されたので、取下する。
二 申請の趣旨第二項、同第三項の必要性
1 被申請人は、第二項、同三項取締役会議事録の閲覧等が、申請人らの株主の権利行使に必要がな
い旨反論している。仮に、株主権の行使の為にその必要性があったとしてもそれは労働組合活動の交
渉の資料とするための目的であるから、株主の権利行使の濫用である旨も反論している。
2(一) 申請人綱本守は、甲三号証のとおり、商法二六七条に基づく株主代表訴訟を前提として、同
法に基づきその旨監査役に通知している。
 申請人中森功も右趣旨に賛同し、株主代表訴訟に参加する意思で本申請に及んだ。その点で申請人
らの行為は、株主権の権利行使のために本申請に及んでいることは明らかである。
 (二)株主代表訴訟において、申請人らは退職慰労金の範囲内で提訴する旨甲三号証のとおり通知し
ているのであるから、申請の趣旨第二項取締役会議事録を閲覧する必要が存在する。
 なお、取締役らが会社に損害を与えた場合に株主代表訴訟においてはその損害額全額を請求するこ
とができることは当然であるが、あえて退職慰労金の範囲内において制限して請求する旨通知してい
るのであるから、尚更その必要性は存在する。
 (三)被申請人会社は、今回の件について、取締役は役員報酬の三〇パーセント等を減額した旨決議
している。申請人らは右三〇パーセントの減額については責任を果たしたことにならない旨通知し、
最低でも三〇〇〇万円を賠償させるべき旨通知している(甲三号証)。
 このような場合、取締役の報酬がどれだけであり、その三〇パーセント等が具体的にどれだけの金
額に達しているのか、株主代表訴訟の提訴にあたっても必要である(ちなみに、減額した総額が
三〇〇〇万円に達していれば提訴する必要性がなくなり、いたずらに争いをすることもなくなる実益
がある)。
 (四)取締役の責任の有無の存否並びにその責任の限度についても、同人に支給された報酬、退職慰
労金をひとつの考慮すべき事情とする考え方に立てば、尚更その必要性は強い。
 (五)更に、本年六月株主総会が開かれ、申請人綱本は出席して、昨年同様取締役の責任が十分で
あったかどうか質問する予定である。この為にも具体的減額内容が必要である。
 (六)よって、第二項、同第三項については、株主代表訴訟の権利行使の為に、取締役会議事録の
閲覧の必要性が存在する。
3  株主権の行使と組合活動について
  被申請人の主張によると、被申請人綱本は組合の元書記長も兼ねていたから、組合活動を目的とする
濫用であるから、商法二六〇条の四の四項に該当しない旨反論している。
 (一)1.申立人綱本は、一九五七年三月一日会社に入社し、その二年後の一九五九年に株式(一〇〇
株)を購入した当時は、労働組合はなかった。同人は、従業員が自己の勤務する会社の経営について
考えることが必要だと思い購入したものである。本件裁判のために購入したものでもないし、労働組合
運動に利用するために購入したものでもない。
 申立人中森は、一九五六年二月会社に入社し、一九八四年に株式を購入したもので、労働組合運動の
手段として株を購入したものではない。
    2.更に、被申立人は、労働組合運動を利用することが権利の濫用等と主張しているが、労働
組合といっても企業内労働組合であり、現代表取締役山内久司氏も組合の委員長であったし、退任取締
役の浦田孟信氏も組合の役員であった。
    3.いずれにしても、労働組合の活動云々と被申立人は主張しているが、いずれも正当な労働
組合である。
 (二)以上の事実を前提にして、法律論を主張する。
       取締役会議事録の閲覧請求を肯定するかどうかは、商法二六〇条の四、第五項の「会社又は
子会社に著しき損害」が生じる場合のみ拒絶出来るのであって、それ以外は原則開示すべきものである。
まして、株主権を行使する株主が総会屋や暴力団等の反社会的団体に属し、且つ、会社に対しても
利益供与等の不当要求を現実且つ客観的になしている場合ならともかく、
仮に、同人らが本申立について組合活動の内心の意思を有していたとしても、組合活動そのものは我国
の社会では当然に認められる行為であり、また被申立人会社内でも当然に肯定されている団体である
以上、そのような内心の意思を有していたとしても株主権の権利行使を違法不当ならしめる理由とは
なり得ない。
 ちなみに、原発に反対している住民が株主になって株主権の行使を多々行っている事例があるが、
このような動機を有している者の権利行使が違法・不当とされた事例はない。これは住民運動自体が
社会的に許容されているからである。
 申請人綱本が組合の元書記長であったからといって、同人が甲三号証のとおり株主権の行使を行って
いる以上、同人の行為は外形的、客観的に判断すべきであって、同人の内心についてあれこれ云々すべ
きものでもない。さもないと、株主権の行使という外形的、客観的行為を離れて内心の動機如何により
取締役会議事録の閲覧請求が認められたり認められなかったりするからである。
 このように株主権の行使は、外形的、客観的行為により判断すべきであり、権利行使者の内心の動機
に裁判所は介入すべきではない。実際問題として、甲三号証における通知内容は株主権の行使として
当然に認められる内容であり、労働組合に利用する云々は一切記載されていないのであるから尚更である。
三 (結論)
 いずれにしても、取締役は株主の委任を受け、その経営を執行しているのであるから、可能な限り
取締役の行為は株主に開示すべきものである。
 取締役会議事録を制限できるのは、商法二六〇条の四、第五項の、会社又は子会社に著しき損害が
生じる場合なのであるから、被申請人の反論は正しくはない。   
                                                                  以上

意見書終わり
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