神戸製鋼株主代表訴訟の弁護団意見陳述


A事件原告  (略)
A事件被告  亀  高  素  吉
B事件原告  (略)
B事件被告  奥  田  一  男

平成12年4月19日

右A事件・B事件原告ら訴訟代理人
       弁護士  垣  添  誠  雄
       同    藤  井  義  継

神戸地方裁判所 御中

1. 経団連は平成3年、企業行動憲章を発表して「社会の秩序や安全に悪影響を与える団体の活動  に関わるなど社会的常識に反する行為は断固として行わない」ことを宣言しました。そして企業  倫理を確立するうえで経営トップの役割と責任が重大であるとし、法令の遵守を社内に徹底する  ことを強調しました。しかし経団連の憲章に反して、平成8年から9年にかけて第一勧銀、四大  証券、三菱グループといったわが国を代表する企業が、総会屋・暴力団に対する利益供与を行な  い、相次いで検挙起訴される事件が発生したことは記憶に新しいところです。

  この一連の事件は、日本経済の中枢に闇の勢力が深く浸透してこれを蝕んでいる実態を国民の前  に明らかにし、日本社会を震撼とさせました。

  経団連会長も一連の事件は、自由主義経済の根幹を揺るがしかねない事態として、総会屋との関  係を遮断しない限り企業は国内のみならず、国際社会の信頼を失い、日本経済の難局打開は極め  て困難になると、総会屋対策の強化を再度訴えました。

2. ところがこのような総会屋の排除と、企業健全化の取り組みが進められ国民世論が高揚してい るさなか、神戸製鋼はこれに逆らって総会屋の奥田に対し利益供与を続けていたのです。しかも  神戸製鋼は表向きは総会屋との絶縁宣言を行なう一方、その裏で総会屋に金を渡すといった表と 裏の二つの顔を平然と使い分け、国民をあざむき、絶縁に向けて苦闘している他の企業に対する重 大な背信行為を敢行したといえます。

  神戸製鋼は鋳鋼大手五社の一角を占める日本の代表的企業であり、神戸商工会議所の歴代会頭を 送り出して来た神戸経済界の中心的存在でもあります。また七連覇のラグビー日本一として青少年 に夢と希望を与えるクリーンな企業として評価されて来ました。

  神戸製鋼は名門企業として他の企業に範を示すべきことが期待されていたのです。神戸市民は阪 神大震災により未曽有の被害を被りました。昨年11月9日付けの地元新聞は神戸製鋼の事件を「復興・・・神戸経済に傷」の見出しで取り上げ、神戸製鋼が震災復興のシンボルといわれて来ただ けに、今回の事件は震災の後遺症と不況にあえぐ被災地の市民と企業に図り知れない影響を及ぼし たと報道しています。

  神戸製鋼の事件は、単に一地域、一企業の問題にとどまるものではないと考えます。

 この事件によってわが国経済界全体が国民の信頼を失い、グローバルな大競争時代にあって、まだ 懲りない日本企業として国際社会からつまはじきされることを危惧せざるを得ません。

 本訴を提起した社会的意義も、神戸製鋼と稔会塵との癒着の実態と構造を解明して、その原因を究 明し神戸製鋼の社会的責任を明らかにするところにあります。

3.本訴では、直接利益供与を行ない、刑事訴追を受けた取締役のみならず、経営トップたる歴代取 締役三名に対し、監視義務の僻怠による責任を追及することにしました。

  私たち弁護団は神戸製鋼が自浄能力を喪失し、捜査機関によって検挙摘発されなければ総会屋と 決別できなかったことについて、その原因と背景を本訴において明らかにしたいと考えています。 神戸製鋼と同様、今なお総会屋・暴力団等闇の勢力と関係を続けている自浄能力を喪失した企業は 他にも広範囲に存在すると推察され、神戸製鋼の事件は氷山の一角にすぎないといえましょう。経 団連の企業行動憲章が次々と破られてゆく現実を見るとき、病巣の根深さに驚きを禁じ得ません。 わが国の経済界が絵会屋の呪縛にとらわれ、反社会的勢力の侵食を許している限り法治国家として の日本の将来はないと考えます。

  本訴の目的は、わが国の経済界に対して再び強く警鐘を鳴らし、神戸製鋼事件を契機に企業は膿 を出し切り総会屋との閑係を断ち、健全な企業倫理の確立と自浄能力の回復を求めるところにあり ます。

  代表取締役の地位にあった被告らの答弁書によれば、監視義務を尽くしても利益供与の発見防止 は不可能として、購償責任を否定しています。

  しかしそうであれば、取締役として利益供与を防止するために具体的に如何なる行動をとられた  のか。利益供与防止の監視制度を社内に設けていたのか。監視制度を設けていたというのであれ  ば、何故効果を発揮しなかったのかについて明確にすべきです。

  またいわゆるベネズエラ問題では、スクラップの売却代金を簿外処理した裏金を使って政治献金 をしたことを認め、政治献金は違法ではないといわれる。

  しかし政治献金が合法であるなら何故殊更裏金を使わなければならないのか。何故取締役が知り 得なかったのか。また答弁書のとおりとすれば、一本部長の判断で多額の裏金を勝手に作りこれを 第三者に無償で供与できるような社内体制であったというのか。それ程神戸製鋼はデタラメな会社 であったというのか。被告ら役員の説明は到底納得できません。

  被告ら役員が本件株主代表訴訟の意義と目的を理解し、真筆に応訴することを期待し、裁判所の 賢明な訴訟指揮により、迅速且つ公正な判断がなされることを切望する次第です。


意見陳述終わり
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