日本生命、住友生命社員代表訴訟事件 原告準備書面

 

企業献金は無償の寄附である。営利を追求すれば賄賂であり、営利を追求しない以上、無償の寄附は取締役
の善管注意義務に原則として違反する。
わが国の政党が多数存在していること、国民の各政党への支持の変化、国庫助成金等が存在する状況で、特
定政党に献金することは、尚更、取締役の善管注意義務に反することを述べた書面です。

■日本生命原告準備書面
■住友生命原告準備書面(注:添付表は日生と同じ内容のため省略)


平成一二年(ワ)第四六九二号
日本生命社員代表訴訟事件
                                    
                原告準備書面(三)
    
                    原 告            外四三名
                  被 告  伊   藤   助   成
                                   外一名

       二〇〇〇年(平成一二年)一〇月一七日
    
                右原告ら訴訟代理人 弁護士    
大阪地方裁判所 
    第一〇民事部  御 中
 本準備書面では、被告の本件政治献金行為が取締役の善管注意義務に違反していることについて詳述する。

第一、善管注意義務違反について
  一、無償の利益の供与である企業献金についての善管注意義務
  1、善管注意義務の内容と主張立証責任
     献金行為は、無償の利益の供与を第三者に対してなす行為である。会社の財
   産を一方的に失う行為である。
     無償の利益の供与を行った取締役は、会社の財産を対価なしに供与し、会社
   に損害を与えたものとして、善管注意義務違反による損害賠償の責を負う。
   政治献金も見返りを期待して寄附すれば贈賄であるからそれを期待しない以上、
   原則として取締役の善管注意義務違反に違反する。
     但し、例外的に無償の利益の供与が、特段の事情があれば取締役の善管注意
   義務に違背しないこともあり得る。具体的には、当該無償の利益の供与が社
   会通念上期待要請される行為であり、かつ総社員の合理的意思をもってすれば、
   会社がそれを行うことを総社員が期待要請し、その同意を得られるような行
   為の場合である。
     例えば、天変地異に際しての救援資金、戦災孤児に対する慈善のための寄附、
   育英事業への寄附、純粋な科学上の研究に対する補助等の社会貢献活動に関
   しては、一般社会人であれば他人がその行為をなすことに反対しないだけで
   なく、自らも資力に余裕がある限りは、多少の財産流出を忍んでもそれをす
   るべきだと感じるような性質をもっている無償の寄附である。このような場
   合であれば、社会的にも期待、要請されている行為であり、かつ会社財産が
   流出しても総社員の合理的意思によれば、それを期待要請し、かつその同意
   を得られる行為であるからである。
     従って、当該無償の利益供与が右に述べた例外事由に該当し、右注意義務に
   違反しないことを、当該利益供与をなした取締役が主張立証しなければなら
   ない。即ち、被告らが、本件政治献金をなすにあたって考慮した事由を明ら
   かにした上で、右政治献金が社会的に期待要請され、かつ右献金によって会
   社財産が流出しても、総社員の合理的意思によれば当然その同意を得られる
   ことが期待できるという特段の事情を立証しない限り、被告らは右注意義務
   に違反したものとして会社に対する損害賠償義務を負う。
  2、保険契約の信託性から生ずる無償の利益の供与に対する制約
     相互会社における政治献金を考えるにあたっては、会社と社員との間 の信
   託的関係が存在するから、無償の寄附は尚更厳格でなければならない。
     即ち、保険契約者が、契約時に会社に対し拠出した保険料は、会社財産とな
   るが、保険契約者と会社との財産関係は、法的には信託性を有する。即ち、保
    険契約者は、受託者である会社に財産権を帰属させつつ、同時に、それを一定
    の目的に従って管理処分すべき拘束を加える関係にある(信託法第一条参照)。
     団体財産の所有権は最終的には保険契約者にあるから、会社の取締役は、会
  社に信託されたその他人の財産を、保険契約者の利益のために、保険契約関係
  を維持する目的に沿って管理・運用する権限を与えられているにすぎない。
     それ故、取締役は会社の財産を、保険契約者の承諾を得ないで、保険契約者
    の相互扶助利益のため、あるいは保険契約を維持する目的以外に使途すること
    はできない。仮に、取締役が右権限を超えて、会社財産を無償の利益の供与で
  ある企業献金をした場合、それはたまたま他人から預かった金を使って、自分
  (会社)の名前で寄付をするのに等しい行為であり、善管注意義務違背は明ら
  かである。
     この点、八幡製鉄政治献金事件に対し、故川島武宣教授も次のように評して
    いる。
     「実質的には他人の財産である会社財産をその管理人がいかに管理処分すべ
    きであるかという観点からの立論がなされなかったということは、同様の問題
    をもっぱら他人(株主)の財産の管理(信託関係)という点に焦点をおいて考
    えるアメリカの法律家の立論のしかたと比べてはなはだ印象的であった。法技
    術上は、いわゆる『法人の目的の範囲』の問題として議論したのは当然である
    が、そもそも『法人の目的の範囲』という技術概念が、他人(法人、そしてそ
    の背後にある株主)の財産の管理の問題を処理するための道具であるという観
    点ないし問題意識が、比較的弱く、問題がもっぱら一般取引社会における法人
    の『有機』的実在性という観点から論ぜられていることはここで問題にしてい
    るわが国の所有権意識とも関係があると思われるのである。」
 もちろん、無償の寄附は相互会社の場合でも前記1に述べたように例外的に許容
 されるが、その例外的事由は更に厳格に解され、総契約者のほとんど全員一致又
 はそれまでに至らなくとも圧倒的多数の人々が異議をとどめないほどの無償の寄
 附でなければならない。

  二、企業献金は、社会通念上期待、要請される行為ではない
  1、企業献金は民主主義に反する(反公序性)
     企業献金は自然人たる個人に付与された選挙権を、強大な経済力を背景に、
    個人では及びようもない巨額の金の力で国家意思の形成を歪める側面を有して
  いる。更に巨額の企業献金を手綱として政治意思の形成を民主主義に反してコ
  ントロールするという公序に反する弊害を生み出している。どのような経済体
  制を選択するかは主権者である国民にある。企業献金はこの国民の有する投票
  権を侵害し民主主義を侵害する側面を有している。
     そもそも民主主義とは、人々の思想、信条、宗教、経済的利害は多様であり、
 そうした多様性を前提として、ものごとを決定していく手続であり、有権者個人が、
 投票と言論によって、政治を左右できる政治体制をさすものである。企業による政治
 献金即ち、企業が「金」の力で、政治を動かそうとすることは、それ自体が民主主義
 の破壊である。「金権による、金権の、金権のための」政治は民主主義とは遠いもの
 である。集中した巨大な経済力からの政党の独立が確保されなければ、民主主義はあ
 りえない。それらの点からみても、企業献金は民主主義に反する反公序性を有している。
  以上のとおり、反民主主義性を持つ企業献金を社会通念上、社会全体が期待、要請を
 していない。
 2、経済団体ですらも必ずしも企業献金を期待要請していない。
 経済同友会は、一九九八年四月二〇日に「経済界と政治の新たな関係の構築」と題
 する提言をした。
     右提言は結論として、「政治資金の構造が解明されて、初めて収入についての議
 論が可能となる。換言すると、政治資金構造が解明されなければ、収入のあり方につ
 いての議論を深めることができず、その場合は、見直し規定にそった二〇〇〇年の企
 業献金完全廃止を主張するしかなく、その分当面の政治資金が不足する可能性がある。
 政治資金についての本格的な議論を行うためには、政治資金の支出に関する真の情報
 公開が第一歩である。」と結んでいる。
     右提言では、「政官業の鉄のトライアングルという言葉で象徴される利益誘導政
 治の問題が指摘されて久しいが、政治資金がその媒体になりやすいことは否めない。」
 「政治資金の問題は、まず支出の検証により、政治資金構造が解明され、国民の納得
 を得ることが重要である。
     そのためには政治資金の情報公開のあり方を改め、国民による監視が可能な
状況を創り、政治家に可能な限り支出を削減する努力を促すことが必要である。
   そして同時に、政治資金への国民の更なる理解を促すため、使途制限と監視体制に
 ついて議論が開始されなければならない。」
「現状、政治資金の支出については、一定金額以上のものについては費目別に、支払先、
 目的、及び金額が報告されているが、個々のデータの羅列であり情報量が膨大で纏ま
 りがないため、全体として何のためにどう資金が使われているのかがわかりにくい。」
 と述べるとともに、「かつて企業献金は、革新政党の目指す社会主義体制から市場経済
 を守るために、保守政党を政治資金の面で支援するといった点で正当性を持つとされて
 きた。しかし、冷戦構造の崩壊後、政治状勢が大きく変化した現在では、市場経済を維
 持するための政治献金という大義名分は失われつつある。」として、情報公開のない下
 での企業献金と、被告の主張する自由経済体制維持のための献金への疑問を呈している。
 経済界からも企業献金は期待要請されているとも評価されない。
  3、政党の側からみた企業献金の必要性の不存在
    (一) 一九九五年に政党助成法が施行された。一九九五年から一九九九年まで、各党
 に対する政党助成金は別表「政党交付金の決定額」のとおりである。自民党を除く大多
 数の政党は、右助成金によって基本的には政党が運営されている。組織活動費と飲食代
 金等を除外すると、自民党も基本的にはその助成金で運用されている(原告準備書面(一))。
   国会議員一人一人に対する国の支給も次のとおりである。
       国会議員に対して、
         歳費                 一,三七五,〇〇〇円
         文書通信費           一,〇〇〇,〇〇〇円
         立法事務費               六五〇,〇〇〇円
         期末手当            約三,五〇〇,〇〇〇円
          (その他旅費等も支給される)
       秘書に対して、
          政策秘書    給与      四四九,九〇四円〜六七五,八〇八円
                      賞与      約一,三六〇,〇〇〇円
                      勤勉手当    約四六〇,〇〇〇円
          第一秘書    給与      四二五,九三六円〜六六六,一七六円
                      期末手当、勤勉手当等もあり    
          第二秘書    給与      三一九,五三六円〜四九一,六八〇円
                      期末手当、勤勉手当等もあり
が支給されている。少なくとも国会議員として活動する最低限の金額は国から議員個人
にも支給されている。
   (二) 以上のとおりの政党助成金や議員一人一人に対する国の補助がある段階で、
企業が「民主主義のコスト」のために各政党に寄附をする必要性は不存在である。前記
のとおり、自民党も「組織活動費」を除外すると基本的には政党助成金と個人献金によ
って維持されている。自民党の組織活動費は他党に比べて何十、何百倍の金額が多い。
この組織活動費が実質、財界が献金する額に匹敵する。そしてこの組織活動費なるもの
はその使途は準備書面(一)のとおりアングラマネーと化している。
       以上のとおり、政党助成法についての考え方はともかく現実に前記のとおりの
多額の金が支給され、かつ議員一人一人にも支給されている以上、政党に献金する必要
性は不存在である。あとは、政党の自助努力に委ねるべきであり、企業が政党、それも
特定の政党に献金する必要性は不存在である。
 4、献金する実質上の理由の不存在
 被告らは、議会制民主主義の下で自由主義経済体制、市場主義経済体制を支持する政
党の維持発展に協力することことが必要かつ有意義である、と主張している。しかし、
自由主義経済体制を支持する政党は被告らが献金をした政党だけではない。又、自由主
義経済体制、市場主義経済体制を支持する政党の中には企業献金を受け取らない政党も
存在する。
    ちなみに、一九九五年一月から一九九九年一二月までの間の政党の存在状況は、
政治資金規制法の規定による収支報告書から見ると次のとおりであった(傍線は献金を
受けた政党)。
   @ 一九九五年(平成七年)度
     自由民主党、公明党、新進党、新党さきがけ、自由連合、市民リーグ、スポ
     ーツ平和党、第二院クラブ、共産党、社会民主党、民主改革連合
   A 一九九六年(平成八年)度
     自由民主党、公明党、社会民主党、自由の会、新進党、第二院クラブ、新党
     さきがけ、共産党、民主党
   B 一九九七年(平成九年)度
     自由民主党、公明党、社会民主党、新党さきがけ、第二院クラブ、太陽党、
     共産党、フロムファイブ、民主改革連合
   C 一九九八年(平成一〇年)度
     自由民主党、公明党、改革クラブ、新党さきがけ、参議院クラブ、社会民主
     党、自由党、第二院クラブ、共産党、自由連合、民主党
   D 一九九九年(平成一一年)度
     自由民主党、公明党、改革クラブ、新党さきがけ、社会民主党、政党自由連
     合、第二院クラブ、共産党、民主党、無所属の会
    「自由主義経済体制を支持する政党」とあるが、前記大半の政党は市場主義
    体制を前提として活動している。そうすると、前記政党は市場経済や自由主義
  経済体制を前提にしているのであって、この点から考察しても、政党間にその
  優位差がない。にもかかわらず、訴外会社が何故、自民党、新進党、新党さき
  がけだけに献金をしたのか、その理由が不存在である。更には途中から新党さ
  きがけにも献金をしなくなっている(新進党は解散)。市場主義、自由主義経
  済体制を、新党さきがけは一九九五年度までは守っていたが、一九九六年度か
  ら守らなくなったというわけでもあるまい。被告の説明では右政党間の格差の
  理由となり得ない。更に、同じ市場主義経済体制を守る党と言いながら、自民
  党に九〇パーセント以上の献金を集中する理由の説明にもなっていない。
     即ち、従前どおり寄附をしていたから献金していたという悪しき悪弊を守っ
    たというに過ぎないか、又は、取締役らが自分が支持する政党又は自分が好ま
    しいと判断した政党に寄附をしたに過ぎないからである。
    その点で、この五年間に、自由民主党を中心としたその他二〜三の政党だけ
    に寄附を集中していることは、訴外会社の極めて恣意的な寄附となることが判
    明する。
  5、訴外会社自ら企業献金は社会貢献しないことを自認している
     企業献金及びそれがもたらす様々な弊害に対する社会的批判が甚だしく、そ
    れがなされることが社会的に期待要請されるどころか、禁圧すべしとの世論が
    多数の現状においては、政治献金が会社にもたらす害悪は著しい。この点、訴
    外会社も所属する社団法人生命保険協会が社会貢献活動に関するパンフレット
    を作成し(「社会貢献活動」)、生命保険会社各社のイメージアップを図るため、
  各社が行なっている無償の利益供与等による社会貢献活動を事細かに広報して
  いるが、このパンフレットには政治献金が全く触れられていない。このことは、
  生命保険会社自身が政治献金を社会的に期待要請される社会貢献活動として認
  識していないだけでなく、自社が政治献金を行なっていることが明らかになると、
  企業イメージが悪くなり経営に悪影響を及ぼしかねないことを認めている証左
  である。
  6、小括
     以上、企業献金は、社会的に要請期待される行為ではなく、取締役の注意義
  務に違反する。

  三、企業献金は総社員の合理的意思からみて期待要請される行為でもないし、又、
   その同意が得られる行為でもない
  1、企業献金は総社員の思想信条の自由を侵害し、又は社員は企業献金を期待し
   ていない
      ベルリンの壁が崩壊し、自由主義体制と社会主義体制の対立が解消し、わが
   国の政党もますます多様化している。そしてそれが国民の意識にも反映し、
   この五年間の政党の選挙結果を見ると、極めて国民の支持状況は分かれてい
   る(別表「国会議員の選挙における各政党の支持率」参照)。このように国
   民の政党支持率が分散化している状況下で、特定の政党だけに献金を集中す
   ることの是否が今問われている。特定政党への政治献金は、特定の思想信条
   によって結合する団体への献金という点で、特定の宗教団体への献金とその
   性質を同じくする。宗教団体への献金と同様に、特定政党に対する政治献金は、
   その特定の思想信条を有しない多数の社員にとっては、思想信条の自由の侵
   害となる。直接侵害ではなくとも間接的な侵害となり、一四〇〇万人の社員
   が期待、要請している行為ではない。
     更に保険契約者である社員は、取締役に対し、政治意思の決定まで委任はし
   ていない。政党とは、特定の政治理念、政策を実現するため、政治権力への
   参加を目的とする団体である。どのような理念、政策の実現を目指すかは政
   党によって異なるし、どのような理念、政策を支持するかは個人によって異
    なる。そのような場合に、社員は会社に対し政治活動をすることを委任も
   していないし期待もしていない。むしろ契約者の期待、要請に反する。
 2、退社による不利益が生ずることによる脱退の拘束
    (一) 生命保険会社においては、社員が脱退すること、即ち、会社との生命保
   険契約を解約することは、社員にとって大きな不利益をもたらす。即ち、今
   までに払い込んだ保険料が無駄になるだけではなく、高齢になってから新た
   な契約を締結すると、契約内容が著しく不利益になる(病歴によっては、契
   約締結自体が拒絶されることもある)。従って、取締役が社員の利益に反す
   る行為を行なった場合であっても、社員が脱退することは困難である。この
   ように、解約によって生じる不利益が大きいため、社員が脱退する自由は著
   しく制限されている。従って、マーケットルールにより自由に脱退できる株
   式会社と比べて、特定政党への企業献金に異論を有する社員にとっての思想
   信条の自由の侵害の程度はより重大である。
    (二) 被告らは右原告の主張に対し、契約者が生命保険に加入後、解約時まで
   の間、保険事故発生の場合に保険金の支払いを受けるという保険保護(危険
   負担給付)を既に受けてきたことを見忘れている、保険事故が生じなかった
   契約者も危険負担給付を受けうる利益を既に享受済みということになると反
   論している。
     しかしながら、この反論はまったくあたらない。即ち、生命保険は人の死
   亡を原因とした保険であるが、死亡の確率は、年齢の増加とともに増加し、
   会社が保険金を支払う確率は、契約者の加齢とともに増加する。もし、年齢
   に応じた保険料を算定するならば、死亡が近くなるにしたがって、保険料を
   上昇させる必要が生じ、そうすると高齢者は高額の保険料支払いを避けるた
   め保険に加入しなくなる。そこで、保険加入時の年齢を基準にして、生命表
   に基づいて、平均余命を予測し、保険料率を定め、この料率は、保険契約が
   継続する限り変更されることはない。ということは、例えば三〇歳で保険に
   加入した場合、死亡の確率の高い高年時の保険料も予め支払っていることに
   なり、保護を享受するコストと比較して、高額な保険料を支払っていること
   になる。その代わり、高齢時には、保護に要する実際のコストと比較して、
   低額な保険料で保護を受けることができるのである。
     従って、生命保険はその料率の構造上、長期の存続を前提とするものであ
   るから、中途解約を余儀なくされることは契約者にとって重大な損失に他な
   らない。以上の脱退が事実上拘束されていることからみても、総社員が特定
   の政党への企業献金を期待、要請していない。
 3、取締役の選任が非民主的であることによる総社員の合理的意思を確定するこ
   とが著しく困難である
   株式会社と異なり、相互会社の場合には会社の意思決定が民主的になされて
   いない。株式会社においては株主によって構成される株主総会が最高決議機
   関であるのに対し、相互会社においては、取締役が極めて偏った選考基準に
   よって一方的に選んだ総代によって構成される総代会が一応の最高決議機関
   となっている。この総代会には一般社員は参加できない。株主総会とはこの
   点で著しく異なる。一般社員の企業献金を含む会社の経営に対する意見は総
   代会では反映されない。そして、この総代会がまた取締役を選任するのであ
   るから、取締役選任の際に社員の右の意見が反映されることは期待できない。
   従って、取締役が企業献金するにあたって、社員がそれを期待要請している
   のか、あるいは異議を唱えているのかの意見を掌握することはできにくい非
   民主的組織であるが故に、その判断にはより慎重さが求められる。
  4、小括
 以上、企業献金は、そりわけ相互会社にあっては、社員の思想信条の自由に対し
 直接又は間接に侵害を生ずるものであること等から、社員が期待要請する行為で
 はなく、またその同意が得られる行為ではない。

  四、特段の事由の不存在
     以上のとおり、特段の事情が存在しないのに、企業献金を行った取締役に注
   意義務違反が存在する。

第二、剰余金の処理について(被告に対する反論)
  被告らは、本件寄付の経理上の処理について、株式会社の場合同様、当該事業
  年度の費用(事業費)として支出されていることを政治献金を正当化する理由
  としている。
     しかし、この事業費の財源は、剰余金をもって充てられる。即ち、被告らも
    認めているが、相互会社にあっては、契約者が社員であるので社員配当金は、
    社員総代会の決議によって決定される。つまり、損益計算書面では、「当期剰
    余」は「前年度繰越剰余金」とともに「当期未処分剰余金」として経理される。
    そして、総代会における「剰余金処分に関する決議書」によって、社員配当準
    備金及び社員配当平等積立金等への繰り入れがなされ、この部分が約款の定め
    た方法によって社員(契約者)に配当金として支払われるわけである。そして
    剰余金から社員配当準備金等を差し引いた残額が、例外的に、社会福祉事業等
    に支出される。政党への政治献金も経理上は、ここから支出されるのである。
     この点、重要なことは、この剰余金を構成する事業費は、契約者の支払った
    保険料から支出されているということ、及びこの剰余金の源泉が契約者から払
    い込まれた保険料にある以上、株式会社の場合とは異なって、本来契約者に返
    還されるべき性格のものだということの二点である。被告らは、この点を完全
    に失念している。
     すなわち、通常保険料という場合、それは営業保険料のことを意味するが、
    それは二つの部分からなっている。即ち、純保険料と呼ばれる部分と付加保険
    料というのがそれである。
     このうち、純保険料は、保険金の支払いに充てる予定の部分で、その計算に
    は、被保険者の死亡割合を仮定した予定死亡率と、保険料の運用利回りを仮定
    した予定利率の二要素が用いられる。付加保険料は、保険事業を運営していく
    ために必要な経費等に充てる予定の部分である。この付加保険料を分かり易く
    言えば、契約を募集する営業職員をはじめとする従業員への人件費、事務所、
    OA等事業経営に必要な経費をいう。政治献金は、事業費として計上されるか
    ら、まさにこの部分が献金に充てられるわけである。
     ところで、保険料は、保険期間を通じての死亡率(死亡者の生ずる割合)、
    利率(積立金の運用利回り)、事業費率(事業運営経費)をあらかじめ予定し
    て計算されている。そして、これら計算基礎について予定と実際とが一致する
    ときには、保険料に過不足が生じないように、つまり生命保険会社の収支に利
    益(剰余)も損失も生じることのないように設計されている(収支相当の原則
    )。しかし、現実には、通常、保険料は、契約の長期性を考えて、あらかじめ、
    この予定(計算基礎)を保守的に安全目に設定している。そこで、予定と実績
    とが不一致する場合には、剰余金としてあらわれる場合がほとんどであり、そ
    れは必然的といっても過言ではない。この点は、株式会社の経済活動の結果生
    ずる利益金(剰余)とは、その性格が決定的に異なっている。
     このように相互会社において剰余金は、必然的に生ずるものであり、しかも
  その財源は、契約者が払い込んだ保険料にある以上、その大部分は最終的には
  契約者に返還されるべき性質のものなのである。
    以上のとおり、被告の反論は誤っている。

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