平成12年(ワ)第4692号・日本生命社員代表訴訟事件
原 告      
被 告    伊  藤  助  成    外 1 名     
参加人    井  上    和    宜    外 4 名

最終準備書面      

大阪地方裁判所                              
  第10民事部 合議係 御 中              

                                                         2001年3月23日
                                                     原告ら訴訟代理人
             

                 記

はじめに
1  本件事件の主要争点は
   @ 本件政治献金の行為が公序に違反するかどうか
   A  定款の目的に違反するかどうか
   B  取締役としての善管注意義務又は忠実義務に違反するかどうかである。

2 この検討にあたっては、政治献金の客観的役割について考慮することが不可欠である。

第1 政治献金について
1 政治献金の事実
(1) 本件政治献金
    会社は次のとおり政治献金(以下本件政治献金という)をした(甲17号証)(甲24号証の1)
       1995年 8月 2日 国民政治協会   1540万円
                 12月27日  同 上            1100万円
                 12月28日  同 上              770万円
                               合 計            3410万円
        1995年             改革国民会議   1230万円
       1995年             新政治協会     220万円
       1996年12月25日 国民政治協会     1800万円
       1997年 4月25日 同 上        1331万円
                 12月18日 同 上          469万円
                                合 計            1800万円
       1998年12月25日 同 上        1795万円
    なお、国民政治協会は自由民主党の政治資金規正法第5条1項2号の政治資金団体であり、改革国民会議は旧新進党の、
        新政治協会は新党さきがけの政治資金団体である。

(2) 生保業界の献金
    生保業界が国民政治協会へ献金した額はほぼ次のとおりである(甲18号証)。
       1995年     1億5660万円
       1996年         9324万円
       1997年         9112万円
       1998年         7490万円                            
       4年間合計     4億1586万円

(3) 国民政治協会の自民党への献金
   @ 国民政治協会が自民党に献金している金額は次のとおりである(甲21号証、1、2、3、4、これを整理したのが、
         甲24号証の2である。)
         1995年    59.07億円
           96年        55.18億円
           97年        58.84億円
           98年        74.84億円
   A 国民政治協会の収入(甲24号証の2)は、個人会員の寄附、法人会員の寄附、政治団体の寄附により成り立っている。
         個人会員の寄附は3億円から5億円前後である。政治団体分の寄附は十数億円から28億円前後であるが、これは地方
         の業界が結成した政治団体が圧倒的であり、地方の政治献金分とみることができる。
     直接の政治献金は40億円から50億円となっている。これをみると自民党への上記献金分の大半は中央・地方の政治
         献金により構成されている。

(4) 自民党の収支
   @  収入
     自民党の1996年から1998年の収入は別表のとおりである。政党助成法による交付金が同党の財政を基本的に支
         えている。 同助成金が交付されてからでも自民党の収入の20〜30%前後が国民政治協会によって支えられている
        (甲24号証の5)。
   A 支出
         自民党の全体の支出は、別表Aのとおりである。このうち、政党助成法に基づく収支報告書(甲4の1、2、3、4、)
          の支出は別表Bのとおりであり、その支出は詳細に報告されている。
     これに対し、政党助成金以外の収入分に対応する支出(甲3号証から甲4号証を除外した支出)は別表Cのとおりであり、
         政治献金分等の使途を示すものである(甲6の1〜4号証)。

(5) 組織活動費等への支出   
    この別表Cの支出のうちの組織活動費名目で国会議員に配布した明細が甲5号証の1、2、3及び甲23号証である。これ
        から判明することは政治献金の多くが自民党の組織活動費に費消されている。
    自民党の組織活動費名目の各国会議員に配布された金額は巨額になっているが、その国会議員から先の使途は不明である
       (甲7号証の1、2及び甲8号証の1、2、3)。野党対策費、飲み食い、国会議員個人のポケットマネー等、政界のアン
       グラマネーと化している(甲15号証の3、甲16号証の5)。

2 本件政治献金理由とそのプロセス
(1) 被告らの説明
    会社の政治献金の目的は「事業の性質上、長期的な事業であり、同社の経営基盤の安定化のためには議会制民主主義により
       日本の政治が安定的に発展することが望ましいので、その経営基盤の安定化のため」に本件献金をしている旨述べている
       (乙7号証)。
    そしてその具体的手続は、自民党又は国民政治協会の担当者から生保協会に要請があり、その年度の生保協会会長の会社の
        担当者が中心となる5社(日生、住生、第一生命、明治生命、朝日生命)で、生保業界としての寄附総額、各社の「目安額」
        を決め、それを各社に伝達し、各社で相談して国民政治協会に具体的に寄附することになるとの説明である。
(2)@ まず生保協会は社団法人で、日本での生命保険業を営む民間生命保険会社全社が加盟している(甲1号証、1項、上から
         2行目)。
     これには、甲1号証33頁の各社が加盟しており、この各社のうち国内法人であるソニー、オリックス、オリコ等が政治
          献金をしていない(甲18号証)。
     これらの会社が献金していないのは国民政治協会の法人会員でないからであると思われる。
      この社団法人が組織として自民党への献金について相談し、協議して決定をしておらず、たまたま生保協会が窓口になっ
          ているだけで、実質は上記大手5社の課長クラスの担当者で相談し、決定している。
     A   更に生保業界の献金は生保業界だけでは決めていない。経団連が全体として自民党にいくら献金するかを真実は決定して
          いる。
          1993年9月経団連が政党への献金斡旋を中止した(甲9号証の7、甲10号証の2)。
          しかし1995年11月、経団連はその斡旋を実質上復活した(甲10号証の2)。
     経団連が統一的に各業界別の分担をしているから毎年毎年国民政治協会に献金が集まるのである。実態は経団連と国民政
         治協会で決定しているのである。
(3)  石 証人によると1997年4月の1331万円、12月の469万円は、大手5社の課長クラスで決定した目安額について、
        社内でもそのまま認め決定して献金したと述べている。社内での決定手続について、証人によっても特別どのような事情を
        考慮し、どのような資料に基づいて決定を行ったかが明瞭でない。
    通常の決裁手続に従っただけであると証言している。証人らは諸事情を考慮し相当と判断したと証言しているが、それを裏
        付ける諸事情については何を考慮し、何を考慮しなかったのかの説明はない。
        実態は、5会社の決定(ひいては国民政治協会の決定)を鵜呑みにしただけに過ぎない。

3 本件政治献金は法律上は義務の履行としての会費であって寄附ではない
(1) 国民政治協会は1961年6月財団法人として設立され、1976年1月自民党の政治資金団体に指定された。
        この会の構成員は法人会員と個人会員により成り立っており、1999年9月段階では約1万人の法人会員と8千人の個人
       会員により構成されている(甲25号証の1)
       同会に入会するには、入会申込書(甲25号証の2・6頁)に記載して申し込むことになっている。会員になると法人会員は
       年額1口5万円以上の会費の納入義務を負担する(30条)(甲25号証の2・22頁)。
       なお、法人の政治団体への会費は政治献金規正法5条2項により寄附とみなされている。国民政治協会の収支報告書(甲21
       号証1〜4)の収入の内訳欄に寄附とあるのは、法人会員分の会費である。

(2) 日生・住生の会社は国民政治協会の会員としてその会費を支払っているのであるから本件政治献金分は真実は「会費」であり、
        法律上寄附とみなされているだけである。
    そうなると日生・住生の会社の本件政治献金は、国民政治協会の政治団体の規約から生じる法律上の「債務の履行」として支
        払うべき会費である。被告らはあたかも自民党からの要請により自由に献金を決定したかのごとく述べているが事実に反する。
        寄附することが義務づけられているのである。法人会員の会費は1口5万円以上であって、何口でもよいが、しかし法人会員
        として入会し、日生・住生のような大手業界の企業は業界に要請される金額を会社の規模、契約高等からそれ相当の会費を支
        払うべき義務を負担しているのである。銀行、その他の業界がそれ相当の献金をする以上、生保業界もそれ相当の金額を寄附
        せざるを得なくなるシステムになっている。

(3) 以上のとおり本件政治献金は義務の履行としての会費であって寄附概念から生じる任意性は存在しない点に注意する必要があ
       る。即ち法人会員として入会する以上、自民党に献金しない自由を有していないのである。

第2 政治献金の客観的役割とその特異性
1 政治献金は直接その政党そのものを支え、競争政党に敵対する極めて排他的性格を有する支出である
(1) 政党は政治上の主義もしくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対することを目的とする団体で、かつ特定の公職の候補者
       を推薦し、支持し又はこれに反対することを目的とする政治団体(規正法3条1項)のうち、国会議員等を有するもの(政治
       資金規正法3条2項)であると定められている。
    広辞苑によると「政党とは共通の原理、政策を持ち、一定の政治理念実現の為に政治権力への参与を目的に結ばれた団体であ
       る」とされている。
    この法律上ならびに政治学上の政党の各定義からみても抽象的一般的に議会制民主主義とか市場主義という理念だけではなく、
       時々の政治上の主義や施策に賛成、反対等で対立、競争することを本質的に有する団体である。
    その点では政党の存在そのものは極めて党派的であり、政治的であり、対立、競争する反対政党の存在を前提としている(こ
       の対立、競争がなければ独自の政党として存立基盤がなくなり、その政党は合同するか、一方は消滅する本質を有している)。

(2) 議会制民主主義とは政党が政権を掌握し、これを運営して動く政治システムであり、時々にはその交替があることを前提とし
       ている。各政党は政権奪取を目的としており、それを目的としない政党はない。
    政党が2つ以上存在するとすれば、それはお互いの政治上の主義や施策の違いで対立しているのであり、これが政党の政党た
       るゆえんである。
     この一方の政党に献金することはその対立、競争関係に立つ、他方の政党に反対することを直接意味する。

(3) 政治献金は政党間の争いに積極的に参加し、他政党を相対的に劣位に置くという結果を必然的にもたらしている。その点では
       政治献金は極めて排他的性格を有する。
     これが政治献金の持つ本質である。

2 政治献金は特定の政党の政策・方針に賛成し、他方に反対するものである
  1995年から1999年の政党間の対立、競争が行われた国政選挙でみると、時々の大きな選挙の争点は次のとおりであった。
   @ 1995年(平成7年)7月の参議院選挙では、自民、社会、新党さきがけの三党連立の是非が問われた(甲26号証の1)。
          選挙後の1995年8月2日に日生は国民政治協会に154
     万円、住生は980万円を寄附している。少なくともこの寄附の目的は参議院選挙に必要な金として献金されているこはと
          明らかである。                                        
     1995年(平成7年)この当時、参院選の政党は新進党、公明党、共産党、二院クラブ、自由連合、スポーツ平和党、市
          民リーグ等が反対、競争政党として存在している。これらの党には献金がない。選挙の争点が三党連立の是非であったとす
          れば、会社の献金は三党連立を支持するものとなった。
    A 1996年(平成8年)10月には総選挙が実施された。消費税の5%導入について、この選挙は争われた(甲26号証の2)。
          この選挙の後の12月に日生は1800万円、住生は1490万円を献金をしている。
     このように消費税の導入に反対している時に自民党に寄附をすれば、その政党の政策を応援し、寄附を受けない政党の政策
          に反対する結果をもたらす。
     公明党、社会民主党、自由の会、共産党、新党さきがけ、民主党には献金がない。極めて政治献金は党派的であり、対立競
          争の政治に介入するものである。財界の応援を受けた自民党は衆院で過半数に達した。
   B 1998年(平成10年)7月には参院選挙が実施された。
     この時の選挙の大きな争点は、1996年10月の選挙で衆院で過半数に達した自民党が参院でも過半数を確保し、一党支
          配がよみがえるかどうかであった(甲26号証の3)。しかし自民党は惨敗した。
     この選挙の後、12月25日に日生は1795万円、住生は12月28日に1047万円を寄附した。民主党、公明党、改
          革クラブ、新党さきがけ、社会民主党、共産党、自由連合には寄附がない。
     このような選挙の時に、会社が献金していることは結局のところ、自民党の一党支配の政策を結果的に応援することとなり、
          それと競争、反対関係に立つ政党の具体的政策に反対している役割を持っている。
          本来、国民の民意により決すべき選挙に会社が介入していることになる。

3 政治献金は圧倒的多数の社員の政党支持(思想・信条)と抵触する
    1993年から2000年の間における国政選挙の得票率は別表のとおりであり、自民党の支持率はせいぜい30%前後である。
    会社の社員が1400万人だとすれば未成年者もいるし、成人に限ってみても自民党の支持率は投票率を問わないとしてもせいぜ
    い30%前後であると推定され、残りの70%の社員は少なくとも自民党を支持していないことは推定される。これらの多数の社
    員の政党支持(思想・信条)と抵触することが推定される。

4 社会貢献活動とも異なる
(1) 会社(営利法人)は会社の利潤及び株主の利益を増進させるための事業活動を行う。非営利法人はその事業目的の為にその会 
      社、社員の為に本来の事業活動を行う。
    これに対し、本来の事業活動とは別に会社の利潤及び株主の利益が増進させられない場合においても人道上、教育上、慈善の
    目的の為に会社の資源をあてることが出来る(アメリカ法律協会コーポレート・ガバナンスの原理第2.01条)被告らが社
    会貢献活動として宣伝している活動である。
    住生の場合は、社会公共活動(乙3号証・29頁)、社会貢献活動(乙4号証・12頁)(乙5号証・24頁)(乙6号証・
    28頁)や文化活動(乙3号証・31頁)(乙4号証・14頁)と呼んでいる。 日生の場合は社会公共活動(乙1号証の1
    ・36頁)(乙1号証・26頁)(乙1号証の3・30頁)(乙1号証の4・33頁)を行っている。いずれも地域社会、健
    康医療、文化、芸術、ボランティア等その活動に対する金銭的な支援である。

(2) これらも一種の無償の寄附であるが、政治献金とその性質は根本的に異なる。
    第1に、上記具体的な社会貢献活動に金銭的な支援をしたとしても、その活動に反対するグループ、組織、団体は存在しない。
    寄付金を受けないグループ、組織、団体があったとしても、そのグループ、組織、団体に敵対することにはならない。
    しかし、特別の政党に寄附するとそれに対立する政党は必ず存在しているのであるから、その反対政党に政治献金は結果とし
    て敵対する。
    第2に、社会貢献活動と政治献金との違いは、これらの社会貢献活動は、社員の圧倒的多数はその趣旨には賛成することであ
    る。少なくとも会社や個人に剰余があれば、誰もが自己のポケットマネーでも出して、支援、応援したい活動である。
    これに対し特定政党への献金は、一方には歓迎されるが、他の人には嫌がられるし、反対もされる。反対政党には一円たりと
    も献金しないし、したくもない、社員間で価値が大きく対立する性格を有している。

5 政治献金は本来の事業活動とも異なる
(1) 被告らは本件政治献金を社会貢献活動とは異なり、本来の事業活動の一種であると説明している。日本生命の経営基盤の安定
    化に寄与するからであるというのである。
    本来の事業活動とは会社の事業目的に直接又は間接に必要、有益な行為である。
    政治献金は直接には保険という相互扶助目的に直接役立つものでもない。間接的に必要、有益な行為とも言えない。被告らの
    弁明によると自由主義経済や市場主義経済が保険の存立基盤であるからそれを増進している政党に応分の寄付をすることが市
    場主義経済、自由主義経済体制を維持させているのであるから本来の事業活動になるというのである。
    しかしこのような理論に立つと被告らの寄付行為は全て正当化出来る。 極端化すれば、保険業の維持存続する基礎には電話、
    電気、水道等の基礎的な設備が必要である。
    よって電話会社のNTT、電気会社の関電、水道は地方自治体等にも献金できることになる。
    会社の経営基盤の安定化という抽象化した論理は、事業目的の為の支出ではなく、むしろ最高裁判例の主張するような社会貢
    献活動の非営利、非相互扶助目的の活動とみるべき行為である。
    いずれにしても、本件政治献金は被告らの主張するような目的に直接、間接にも役立つものでない。仮にその目的に合理性が
    あってもそれが何故特定の政党への政治献金なのかが説明されていない。
(2) 事業費として支出すればするほど巨額化が求められ、それが反対政党と矛盾を生じる。
    1995年から1998年間の各政党の収入のうち、党費、政党交付金の寄附等を整理したのが甲24号証の3のとおりである。
    国民政治協会を通じての自民党への献金額が他の政党の収入と比較して如何に巨額になっているかが判明する(50数億円〜7
    0数億円)。
    競争政党である社会民主党や民主党と比較しても大きな格差を生じさせている。国民政治協会の金で、野党の2〜3党分の政
    党を財政的に支える位の金額になっている。
      本来の事業活動は、ある利益を得る為にある金額を投資する。費用と効果の因果関係は通常の経済人であれば判断できる。
    しかし、被告らの主張するように保険契約の安定的基盤に寄与するという政治献金についての費用と効果の因果関係は通常の
    経済人でも判断できない。
    保険契約の安定的基盤に寄与するとすれば、自民党の要求する金額に応じることがそれだけ効果も大きいこととなる。
    しかし、その効果を期待すればするほど金額が巨額化するが、しかし他方で競争、反対政党と敵対する矛盾さを政治献金は本
    質的に有している。

6 政治献金は決して望ましいものではない
(1) 被告らの説明によると政治献金は保険業にとって望ましく、必要不可欠な支出となる。しかし、この見解はおおよそ社会で認
    められている政治献金の考え方と著しく異なる。
        1961年選挙制度委員会(第1次)は「会社労働組合、その他の団体が選挙又は政治活動に関し寄附することは禁止すべき
    ものである。但しその実施時期については引き続き検討する」とした(甲16号証の6・170頁、171頁)。
        1962年5月の第2次選挙制度委員会も上記第一次答申を尊重した(第3次、第4次は政治献金の問題は触れられていない)。
        1967年4月、第5次選挙制度委員会は「政党の政治献金は個人献金と党費により賄われることが本来の姿」としながら、
     さしあたり寄附の制限をする等の案を答申した(甲16号証の6・174頁)
        1990年4月、第8次選挙制度委員会は答申を出し、これを尊重した細川連立内閣が、1993年9月政治家個人の企業団
     体献金は廃止、政党及び政党の資金団体への企業、団体献金は廃止の意見を尊重し、「5年後に見直す」として政治献金規
     正法案を国会に提出した。
    以上のとおり選挙制度委員会、政府の立場は政治献金は決して望ましい姿ではないという考え方で貫かれ、ただ現実の政党は
    そうなっていないから企業、団体献金を続けるとしているだけである。
    決して被告らが述べているように企業の存立基盤を維持するために必要でもあり、有要でもあるとの考え方ではない。
        その点で被告らの本件政治献金の考え方は社会から否定された「特異」な見解、考え方である。

(2)  マスコミの論調も政治献金を被告らの主張するとおり有用であり、有益でもあるとの論調は全くない。
     朝日、毎日等は政治献金を廃止すべきという立場であり、経済界のオピニオン新聞をいわれている日経も「自由経済体制を守
    るという論理はとっくに根拠薄弱になった」「経団連会長も最終的には政治献金をやめるべきだと述べた」(甲22号証の2)
      「政治献金のかなりの部分が結局、飲み食いや冠婚葬祭に消えてしまう恐れがある。政党が何に使うか確かめないで安易に企
    業が献金に応じるのはどうみてもおかしい」(甲22号証の4)
    等々のように被告らの主張を肯定する論理は全く存在しない。

(3) 被告らの論理は社会で通用する論理ではない。政治献金の実態を意図的にごまかしている。

第3 政治献金をする理由の不存在
1 本件政治献金(平成9年度及び10年度寄附)の実施を決定した石 三洋証人の証言並びに乙第7号証の記述によれば、本件政治
  献金は「日本生命の経営基盤の安定化のためには、議会制民主主義により日本の政治が安定的に発展することが望ましい。」「日
  本生命の経営基盤の安定化のために応分の政治資金の寄附を行うことは法人に認められており、社員すなわち社員にとってもその
  利益に沿うものと考えます。」として、「日本生命は、政治資金の寄附が日本生命の経営基盤の安定化につながるものと判断して
  外の寄附と同様に当該事業年度の費用(事業費)として支出しています。」と主張している。                     
 
2 八幡政治献金事件当時の政党の存在状況と最近の違い
(1) 1960年3月(献金時)〜1970年6月(最高裁判決時)の政治状況。
    八幡製鉄が自民党に政治献金をしたのは1960年3月である。この当時我が国の政党は自由民主党、社会党、民主社会党(
    1960年1月30日結成)共産党であった(甲29号証の1)。
       自由民主党は自由主義経済体制を擁護し、社会党は党網領で社会主義を、共産党も民主主義革命を経て社会主義から共産主義
    への網領をもっていた。民主社会党は社会党から1960年1月分裂した政党である。
    当時世界の状況も米(自由主義経済)ソ(社会主義経済)との体制をめぐる争いは民族解放、独立運動にも米ソの影響が及び
    (キューバ危機等)国内の安保条約批准をめぐる政治闘争(1960年6月自然承認)にも重大な影響を与えていた。
    このような時に八幡製鉄は自民党に政治献金をしたのである。
    なお、この当時の自民党の得票率は57.8%であった(甲29号証の2)。
    その後、公明党が創価学会をバックに組織され、国会で一定程度の議席数を有していた。
    1970年6月(最高裁判決時)当時の政治状況も米ソ対立は変わらず、我が国の政党も自由民主党と社会党との政治対立状
    況があり、 その他に民社党、公明党、共産党等が存在した。この当時の社会党の網領に変更はなかった(甲29号証の3)。
    国際的にも社会主義と自由主義の対立が激しく存在した。
    このような政党、政治状況の中で最高裁判決は出された。
(2)@ 1989年ベルリンの壁は崩壊し、ソ連という国家もその後、消滅した。戦後政治を支配していた米ソ対立、即ち自由主義
    体制対社会主義の対立は基本的に消滅した。自社対決といわれていた社会党も1990年3月党規約から社会主義革命を削除
    し、西欧型の社会民主主義に路線を転換した。国内での政治上の社会主義か自由主義かとの対立は解消した(甲29号証の4)。
    そして我が国の政党も多様化していった。1990年代に入り自民党と社会党が連立する時代に至った(公知の事実)。
    本件政治献金が行われた1995年から1998年の我が国の政党であったの存在は次のとおりであり当時とは著しく異なる。
      イ.1995年(平成7年)度(甲3の1)
         自由民主党、公明党、新進党、新党さきがけ、自由連合、市民リーグ、スポーツ平和党、第二院クラブ、共産党、社会
       民主党、民主改革連合
      ロ.1996年(平成8年)度(甲3の2)
       自由民主党、公明党、社会民主党、自由の会、新進党、第二院クラブ、新党さきがけ、共産党、民主党
      ハ.1997年(平成9年)度(甲3の3)
       自由民主党、公明党、社会民主党、新党さきがけ、第二院クラブ、太陽党、共産党、フロムファイブ、民主改革連合
      ニ.1998年(平成10年)度(甲3の4)
       自由民主党、公明党、改革クラブ、新党さきがけ、参議院クラブ、社会民主党、自由党、第二院クラブ、共産党、自
       由連合、民主党
      ホ.1999年(平成11年)度(甲3の5)
       自由民主党、公明党、改革クラブ、新党さきがけ、社会民主党、政党自由連合、第二院クラブ、共産党、民主党、無
       所属の会
     そして従前の自由主義、市場主義とそれに対立する社会主義制度を主張する政党は存在しなくなった。
     議会主義を廃棄してそれに代わる制度を主張する政党も存在しない。
     いずれの政党も議会制民主主義を前提とし、市場主義経済体制を前提としての中での政治方針や経済政策、社会政策の相
     違でしかないのである。
   A イ. このような我が国の政党への考慮は経済同友会もこれを肯定している。
      「革新政党の目指す社会主義体制から市場主義経済を守るために保守政党に支援するという正当性をもってきた。しか
      し冷戦構造の崩壊的政治状況が大きく変化した現在では市場経済を維持するための政治献金という大義名分は失われつ
      つある」(甲2号証・4頁)と指摘し、冷戦構造が崩壊した後の政治状況は変化し、市場主義経済を守ることの意味は
      なくなりつつあることを認めている。
     ロ. マスコミも「東西対立という冷戦構造の崩壊と共に国内政治面での保革の超えがたい溝が急速に埋まりつつある」
      (甲9号証の3)。「自由主義経済体制を守るためという政治献金の大義名分が失われた今献金を維持する論理はどこ
      にあるのか」(甲9号証の4)と述べているように自由主義(市場主義)とそれを否定する政党は存在しないし、我が
      国にもそのような対立の存在を肯定することは事実(現状)を誤ってみていることになる。
     ハ. 吉野証人も認めるように、冷戦終結後の現在にあっては、自民党から共産党に至るまで、いずれの政党も自由主義
        経済体制維持を承認しており、そのために政治献金をする必要性は失われている。
       「社会・経済の安定的な発展」という点についても、それがどのような意味(どうなったら不安定になるかとの質問
       への答なし)をもつかについての説明すらない(吉野証人調書11頁・甲33号証)。
        被告らの主張する本件政治献金の目的は、空念仏の如き内容のない抽象的な理由であり、その目的の具体的理由は
        一切説明できないでいる。
   B イ. 議会制民主主義(日本生命においては、これを献金の目的にあげているが)とは、多くの理念・政策を異にする政
        党が、その理念・政策をもって国民によびかけ、選挙を通じて国会で多数派となり政権を担うシステムである。
        自由主義経済体制も将来、議会制民主主義のシステムを通じて、国民の望む新たな体制に改変されることもあり得
        よう。会社は20年30年という長期的スパンの展望をもって政治献金をしている。長期的展望に立つなら、同じ
        自由主義経済体制を党是とする政党相互の選挙による政権交代こそが民主主義の下における社会の安定的基盤とな
        りうるものであり、政権交代のない一党長期政権は、かえって社会の不安定要因となり得よう。
        国民が民主主義の下で決すべき体制の選択を、政治献金という金を使って阻もうとする目的は、民主主義に敵対す
        るものである。
        また自民党に対する献金は、自民党の経済基盤を強め(他党の経済的基盤を相対的に弱体化させ)、その長期永続
        政権を継続させる目的を客観的には有するものである。被告らの主張する社会・経済の継続的・安定的発展がもた
        らすものは、「自由主義経済体制」というより「自民党長期永続政権」であり、会社あるいは生保業界に利益をも
        たらす(少なくも不利をもたらさない)政策を期待しているとしか考えられない。いずれにしても市場主義を党是
        とする政党が多数存在する中で、この理由で本件政治献金を合理化する理由となり得ない。
          ロ. 最近の世論調査によると自民党の支持率は22%になっている。この数年間は30%前後である。
        更にこの調査の中で、あなたは自民党に政権を任せてよいと思いますかとの問いに
                     任せてよい       31%
                     任せられない     50%
                     その他、応えない   19%
              となっている(甲35号証)。
                このような国民意識が変化している中で、生保業界が保険業の安定的基盤の為に自民党の長期政権を経済的に支え
       る理論は現に破綻している。
(3) そうすると市場主義経済体制とそれを否定する政党が客観的に存在しない事実の中で、被告らは今なおそれが存在するとい
    う前提で本件政治献金を続けているとすれば彼等の事実認識に重大な過誤があるか又は重大な不注意な誤りがあることになる。

3 被告らの献金理由の根本的欠陥
    被告らは自民党を中心とする政党に献金しているが、仮に自民党への献金が上記理由で肯定されたとしても、他の市場主義経済
  を党是とする政党との間に差別を設ける理由は存在しない。自民党への献金が会社、社員にとって価値があるならば、その他の
  市場主義、議会主義を至上とする政党にも献金をするのが経営上必要となるはずである。経営基盤の安定化に役立つならば、そ
  れらの政党にも献金するのが望ましいし、又するのが取締役にとって責務となるはずである。
  被告らは自民党への献金は要請があったからだという理由でこれを「合理化」している。他方、要請がないから他党に献金をし
  ていないという。
  会社、社員の安定基盤にそれ程役立つ事業活動であるならば「要請」という一事のみでその他の政党との間に格差を設ける理由
  とはなり得ない。
  この論理は結局のところ、もし自民党から要請がなければ献金しないのであるから、事業上の必要性があるものともおよそ思わ
  れない。
    「要請」という一事のみで事業上の必要性の有無を決することは献金理由の根本的欠陥を自ら示している。事実上必要ならば、
  要請の有無に関わらず支出すべきものであるからである。

第4 本件政治献金は公序に反するものである
1 国民の参政権への侵害
  国民個人の一人一人の総体に主権が存するという国民主権の原理は人類普遍の原理であるとともに憲法の中核的原理であり、公  
  序の基礎を構成している。
  それを実現するために憲法は公務員の選定・罷免の権利・普通選挙の保障(15条)、国会議員の選挙(43条)、最高裁裁判
  官の国民審査(79条)等の参政権を定めている。
  選挙権を中心とする参政権は原則として日本国民たる、自然人たる個人に人類普遍の原理として認められたものであり、自然人
  でなく、法によって人格を与えられている法人はその主体となりえないことは言うまでもない。
  政党への政治献金は、政治上の主義もしくは施策を推進し支持し、もしくはこれに反対し、または公職の候補者を推薦し支持し、
  もしくはこれに反対することを本来の目的とする団体への献金である(政治資金規正法第3条)。
  即ち、当該政党の政治上の主義もしくは施策を推進し支持すること等を目的としてなされる行為であり、国民の参政権の一環と
  してなされる能動的な政治活動への参加行為の一態様である。政党にとっては国民の選挙等における支持拡大等の政治活動の資
  金的源泉となり、国家の意思形成に大きな影響を与えるものとなる。
  このような参政権にかかわる政治的行為は自然人たる国民のみがなしうる行為であり、政治活動・選挙活動と同様、国民個々人
  の政治的信条に基づいてなさるべき行為であり、株式会社等の法人がなすことは国民の参政権に抵触する公序違反となる。
  企業に社会の富の多くが集中・集積し、その資産から特定と政党(自民党が殆どである。)に対し個人の「浄財」には比較にな
  らない程の巨額の政治献金が行なわれることによって、政党の政治活動における経済的較差が圧倒的に生じてしまう。このこと
  は、個々人の政治的信条でなさるべき選挙活動が「企業ぐるみ選挙」と呼称される企業活動の一環としてなされたとき、選挙結
  果を歪めることと同様に考えられよう。
  その結果、個々人の政治的信条に基づいてのみなさるべき政治献金が参政権のない、しかし巨大な経済力を有する企業によって
  大きく歪められているのである。
  被告らは自由主義経済体制の下における経営の継続的・持続的発展を献金の目的としている。しかし、証人吉野も自認するよう
  に、現在、日本の政党はいずれも自由主義経済体制を是としており、その目的は失われている。更に、いかなる経済体制を国が
  採用するかは、主権者である国民が決すべきものであり、企業はその経済体制を所与のものとして、その経済活動を行なうべき
  は当然である。
  本件政治献金は、特定政党たる自民党に対する献金という意義を有するものであり、他の政党には献金せず(他政党はその要請
  もしていないが)自民党にのみ献金することは、議会制民主主義の下において、自民党のみを経済的優位に置き、他政党を劣位
  に置くものであり、それによって選挙結果に決定的とも言って過言でない影響を及ぼし、国民の選挙権を侵害するものである。

2 社員の政治的信条の自由への侵害
(1) 社員の政治的自己決定権の侵害
     会社が特定の政党に政治献金することは、社員(社員)の政治的信条を侵害する。
     すなわち、社員(社員)の中には、自民党を支持しないものもいるし、他の政党を支持する者、無党派の者もいる。政治や
    宗教の分野においては、特定の政治的・宗教的信条を有する者と、他の信条を有するものとは相対立するものであり、会社
    が自民党の政治資金団体に献金することは、自民党の主義・主張と異なる意見を有する社員にとっては、その信条に反する
    行為となる。会社の場合、社員(社員)は、約1400万人いるから、自民党の支持率が別紙のとおり30 %前後である
    から残りの人の政治的信条を侵害することになる。
     その社員の支出した保険料の一部が、支持していない政党の政治活動に支出されるのである。ここで本件政治献金につき特
    に検討すべきは、政治献金の財源は、社員から徴収された保険料から支払われ、多くの社員にとっては、自分が支払った保
    険料がその政治的信条を異にする特定の政党への政治献金に支払われているという点である。
     即ち、保険料は、本来の目的である保険金の支払に充てる予定の保険料(純保険料)が基本となるが、これだけでは、保険
    事業を運営していく事ができないので、事業経営に必要な諸経費(いわゆる事業費)を社員に一部ずつ負担してもらう必要
    が生じる。そのため、純保険料に上乗せ、即ち付加して保険料を徴収する必要が生じる。この本来の保険料に付加された分
    が付加保険料である(甲第12号証の5)。
     被告主張のとおり、政治献金は、会計上、事業費として支出される。ということは、取りも直さず献金に必要な金は、純保
    険料に上乗せされ付加保険料として、社員から徴収されるのである。政治献金を会社は継続的に行なってきており、事業費
    の支出項目として当然計上されており、それが付加保険料として社員より徴収されている。
     このように、会社がなす献金の財源は、まさに社員が負担するのであり、付加保険料として保険契約上の債務として徴収さ
    れ、政治献金相当額の付加保険料分の保険料の不払いは、保険契約上の債務不履行として契約解除事由となり社員に不利益
    をもたらす。
    当初予定していた事業費よりも実際にかかった事業費が少なければ、その差益は会社の利益となるから剰余として計上され
    る。剰余は、社員に分配されるべきものである。本来、社員の配当に充てられるべき剰余を多くの社員の政治的信条に反し
    て特定政党に政治献金しているのである。
    このような政治献金は、まさに政治的信条の自由(憲法21条)の侵害に他ならない。政治献金は、どの政党を支持するか
    しないか、政党に寄附するかしないか社員の政治的自己決定権(憲法13条)に対する明らかな侵害でもある。

(2) 社員の脱退による不利益による拘束
     このような政治的信条の自由及び政治的自己決定権の侵害という不利益を避けるためには、社員が保険契約を解約し、会社
    から脱退すれば、かかる不利益は回避できよう。
    しかし、社員が支払う保険料というものは、保険加入時の年齢によって定まり、それは死亡するまで変わらないから、その
    場合、最初の保険契約時よりも年をとった社員の保険料率は高くなってしまい、その分不利益が生じるし、年齢・疾病によ
    っては、再契約不可能の場合も生じうる。
     政治献金に反対の立場をとる社員が、現状よりも不利益を被らずに脱退することは不可能であり、その意味で脱退によって、
    社員の政治的信条の自由に対する侵害を回避できない。株式会社においては株式を売却するというマーケットルールにより、
    この侵害を経済的不利益なしに回避することが可能であることと異なる。

(3) 手続的保障があれば政治献金は可能なのか
    手続的に社員を代表する機関などで多数決によって、政治献金をすれば政治献金は許されるか。例えば、社員の代表機関で
    はないが、総代会による多数決が考えられる。
    前述のように、政治献金は、社員の政治信条に関わる問題であり、その性質上およそ多数決原理にはなじまない。確かに具
    体的な個々の政治問題、政策についての論点について、その賛否を多数決に委ねることは決定過程としては、十分な討議の
    保証のもとであれば、許されるであろう。
     しかし、特定の政党に対する献金は、個々の政治的論点を前提とせず、政党そのものに対してなされるものであるから、そ
    もそも多数決になじまない。会社が支持する政党を多数決で決めるということは、たとえて言うならば、信仰する宗教(例
    えばキリスト教)を多数決で選び、他の宗教(例えば仏教)を信仰する者、無宗派の者に信教を強制するようなものである。
    政治的信条が異なる社員が存在する以上、その社員の信条は多数決によっても奪えないというべきである。
     では、政治献金が認められるためには、手続き的にどのような要件が必要か。
     政治献金の性格が以上のようなものである以上、個々の社員に対して、特定政党に対する献金についての同意は不可欠であ
    る。そして、有効な同意と言えるためには、同意の前提条件として、契約時に会社が特定政党に政治献金していること及び
    その額等を開示し、十分な情報を契約しようとする者に与えることが必要である。
     ただ、この議論は、今から契約しようとするものに対していえることである。現在、既に存在する1400万人もの社員の
    全員の同意をとることはおよそ不可能であること、反対者の脱退の自由が事実上制約されていることから、やはり、会社が
    特定の政党に対し献金することは許されないというしかない。
    現在、会社は政治献金をしていることについて、全く情報を開示しておらず、個々の社員の同意をえようとしないばかりか、
    総代会ですら政治献金の事実は全く明らかにされていない。言うなれば、社員の意思が全く反映されない中で、政治献金が
    行なわれているのであって、手続き的にみても政治献金が許容される余地は全くない。

第5 本件政治献金は権利能力の範囲外の行為である
1 権利能力を考察する視点
  本件政治献金につき、会社の定款の目的の範囲内にあり、権利能力を有するか否かについてはつぎの点についての検討を欠かす
  ことはできない。
  即ち、会社は保険業により社員(社員)の相互扶助を目的とする相互会社である。また本件政治献金は、その行為を客観的・抽
  象的に判断すれば相互扶助のために使途されるべき会社資産の一方的減少である無償の利益の供与であり、会社の目的に反する
  行為である。従って、その行為の客観的・抽象的判断からするならば、権利能力外の行為となる。しかし無償の利益の供与でも
  それを具体的・個別的検討をした結果、会社の目的遂行に必要な行為として権利能力の範囲内となりうる。本件政治献金につい
  ては以下の点の具体的・個別的検討を要する。
  即ち、国民並びに社員の少数者しか支持していない特定の政党に対する無償の利益の供与である点が第1である。また第2は、
  会社がそれをなすことは期待・要請される行為ではなく、社員にとってはその政治的信条に反する行為となる点である。第3は、
  特定の政党に対する巨大な経済的実在である会社らによる献金は金権政治、政治腐敗の温床となる点である。以下これらの点に
  つき述べる。

2 相互会社の特質から生ずる権利能力の限定
 会社は生命保険業を営む相互会社である。
 保険会社の業務は保険業法の定める固有業務(同法第97条)、付随業務(同法第98条)、法定化業務(同法第99条)に限定
 されており、これら以外の他業務を行なうことはできない(同法第100条)ものとされている。従って定款の目的もこれと同様
 に定めている。
 このように法令・定款により業務範囲を限定して狭少に定めているのは、会社が保険引受以外の業務を広く行なうことにより社員
 に不測の損害が生ずることを避けるためである。
 また相互会社はその構成員である社員の相互扶助によって共通利益の促進擁護を行なう人的結合を基礎とする社団である。相互会
 社は保険社員一人一人が会社の社員(構成員)となり、「一人は万人のため、万人は一人のため」という相互扶助の精神に基づい
 ていることがディスクロージャー誌等にも強調されている。その事業内容は相互扶助としての保険金の確実な支払い並びに保険料
 として社員から受領した金員の堅実な運用による配当率の維持にある。
 株式会社にあっては営利の目的のため広く第三者との取引業務を行なうことが予定されているが、相互会社にあっては商法52条
 の準用はなされておらず、営利性を有せず原則的に内部的な保険事業活動によって社員の相互扶助の目的を実現するため堅実かつ
 限定された業務を行なうべきことが法令・定款で定められている。かつ取引による第三者の利益以上に会社の目的が限定されるこ
 とによる社員の利益の保護が重視されなくてはならない。

3 客観的・抽象的にみれば、本件政治献金は権利能力外の行為である
  定款の目的の範囲内であるか否かの判断は、「定款の記載の目的に現実に必要であるかどうかの基準によるべきではなくして、
  定款の記載自体から観察して客観的に抽象的に必要であり得べきかどうかの基準に従って決すべきもの」(昭和27年2月15
  日最判、民集6巻2号779頁)とされている。
  政治献金はそれを客観的・抽象的にみれば特定政党の政治資金団体に対する無償の利益の供与であり、社員の相互扶助の目的の
  ために保険金、配当等として使途さるべき資産の対価のない減少となる行為であることは明白である。
  定款に記載されている相互扶助に立脚した保険業の業務から観察して、客観的・抽象的に必要とはいえない行為であり、目的の
  範囲外である。
  確かに無償の利益の供与であっても、その対価を期待してなされるものもある。例えば取引先あるいは取引先となることが期待
  される相手への中元・歳暮や接待、取引先に対する債務保証や物上保証をなす行為などである。これらの行為はその取引上の対
  価を期待してなされる利益供与である。
  これに対し政治献金は、対価を求めればそれは贈賄罪を構成するものであり、被告らは当然、対価を求めることを予定すること
  なく供与しているものであろう。
  以上、行為の客観的・抽象的な検討という点からすれば、政治献金あるいは慈善、学術、文化、災害救助事業等への贈与は会社
  の目的の範囲外の行為となってしまう。

4 個別的・具体的な本件政治献金の検討
(1) 個別的・具体的検討の必要性
    しかし、社会的・経済的に巨大な実在となった会社においては、社員の相互扶助利益の極大化は会社存続維持の重要な必要
    条件ではあるものの十分条件ではなく、社会から期待・要請される一般的利益をも尊重して事業を行なうことなしには円滑
    かつ継続的・安定的な事業を継続することが困難となりうることも事実である。
    従って、客観的・抽象的な考察によっては会社の目的の範囲外となる行為であったとしても、更に目的遂行のため必要なの
    か否かの個別的・具体的な判断を行なったうえで権利能力の範囲内の行為かどうかを決する必要がある。

(2) 社会貢献活動は権利能力の範囲である
    この点からするならば、会社がディスクロージャー誌において広報している社会福祉、学術研究、教育、芸術・文化等の社
    会貢献活動は、国民の何分の1という多数の社員を擁する巨大な経済的・社会的実態である会社にとって社会からの期待・
    要請に応えて、応分の寄与をすることは当然許されるものである。しかし、それが会社の取締役の個人的関心や信念に基づ
    いてではなく(そのような場合は善管注意義務違背の問題が生じよう)、社員全体の合理的意思に基づいてなされなくては
    ならないことも言うまでもない。また、それは人の生命に関わる生保事業を営む会社のイメージアップの利益をもたらすも
    のでもある。それが故に、会社はディスクロージャー誌やマスコミ、あるいは行事に企業名を「冠」して積極的に社会に広
    報しているのである。
    同時にこれらの寄付は社員全体の合理的意思にも沿うものであり、社員の意思に反した資産の逸失にもならない。

(3) 本件政治献金は社会的に期待・要請されている行為ではない
    これに対し、本件政治献金はその一部を除いては特定の政党、しかも選挙における得票率が有権者全体の20%にも満たな
    い自民党の政治資金団体に対する寄付である。旧新進党への献金は自民党出身者を母体として同様の理念をもって政治活動
    にあたっているから(乙11号証、吉野証人調書10丁)である。
    政治献金については、かねてよりそれが経済的・社会的に巨大な実在である企業からなされる、一人一人の国民では到底、
    出捐することのできない巨額なものであり、金権・腐敗政治の温床となることが指摘され、それを禁圧することを求める社
    会的世論の下に法的にも制限されてきたことは既述したとおりである。
    慈善、学術、文化、災害救援等の事業への寄付が巨大な経済的・社会的実在である企業に対し社会が期待・要請する公益性
    を有する行為であったのに対し、政治献金は、巨大な経済的・社会的実在として私的権力をもつ企業が、政治に経済的に関
    与することを社会は期待・要請をしない行為であることは明白である。
    とりわけ本件政治献金は特定の政党(自民党)に対する献金であり、その主義・主張を支持し、その政治活動・選挙活動を
    支援するためになされたものである。政党政治を発展させるという一般的・公益的価値を有するものではないことは明らか
    である。本件政治献金を期待・要請しているのは、社会一般ではなく、献金を受ける特定政党とその支持者(国民の1割台
    の少数者にすぎない)である。
    政治献金を社会が期待・要請しないことは、献金している企業そのものが最も悉知している。即ち、会社も含めて、企業は
    政治献金をしている事実を先に述べた社会貢献活動とは反対に隠すことに努めている。ディスクロージャー誌には一切記載
    がなく、総代会でも報告もされず、社員(社員)に知らされることもない。社会の大多数の者は、特定政党に対する献金を
    期待・要請しておらず、有用な行為とはみていないことを悉知しているからこそ、社会貢献活動とは全く逆にその事実の公
    開を避けているのである。

(4) 本件政治献金による国民の参政権侵害
    以上、政治献金は、社会は期待・要請している行為ではなく、企業自らもそのようなものとは認識していないことは明らか
    な行為である。
    それのみならず、既述したとおり、経済的に大きな害を有する企業が個人では到底出捐しえない献金をすることによって献
    金を受けた特定政党(自民党)の経済的基盤を強固にさせ、選挙運動をその経済力をもって有利に展開し、特定政党の得票
    率を国民の総意以上に上昇させる結果をもたらすものであることは、政治の世界における公知とも言うべき経験的事実であ
    る。一方、巨額の献金によって献金を受けた政党に、当該企業あるいは当該業界にとって有利な政策誘導をさせる機能を有
    することも否定できない。少なくも、当該企業あるいは当該業界の業務に支障が生ずるような政策決定を未然に予防させる
    という機能を有し、またそれを期待してなされていることは明らかと言える。
    ところで、生命保険事業は多数の社員から保険料を徴収し、これを安全かつ有利に運用管理し、将来被保険者が死亡したり、
    また満期まで生存した場合に、保険金を支払って個人あるいは企業の必要とする経済的需要を確実に保障する責任を有する
    ものであり、国民経済全般に及ぼす影響は多大で、極めて社会性・公共性の高い事業である。そこで保険業法は、監督官庁
    に広範な権限を与えて、保険事業の開始から業務運営、そして経営不振会社に対する最終的整理、統合に至る事業経営のあ
    らゆる段階において監督を行なっており、保険業監督の主務大臣は金融再生委員会委員長および大蔵大臣である。このよう
    に国家の監督下に事業を行なっている会社にあっては、生命保険業に対し、政党とりわけ政権党がいかなる政策を採用する
    かについて大きな利害関係を直接有することになる。従って政党への献金は会社あるいは生保業界にとって有利な政策誘導
    を期待して行なわれがちとなることは否めない。
    国民の参政権を阻害し、企業にとって有利な政策誘導の呼び水となるおそれという点からも社会的に期待・要請されるもの
    ではなく、有用な役割を果たすものでもない。

(5) 金権による政治腐敗を招来するおそれ
    また被告らは、自民党から要請があったことを政治献金をなしたことの理由にしている。政治と企業の癒着、金権腐敗の弊
    害のおそれを正当に認識している自民党以外の政党は、現在政治献金を企業に対し要請していない。
    個人献金と政党助成金に加えて献金の要請をして多額の政治献金をその政治資金の原資にしようとする金のかかる政治活動
    を行なう政党にのみ献金をしているのである。
    その結果は金のかかる金権体質の政治活動を助長させ、政治献金に依存しない政党の政治活動の相対的な経済的劣位を招く
    ことにもなる。
    政治献金による政党と企業の癒着・金権政治の弊害をなくすためには、政党の政治資金は参政権の主体である国民個人並び
    に既に法的制度として確立した政党助成金によるべきであり、国民のみならず、企業の多数もそう考えている。
    「要請」や「打診」のある政党に企業が安易に多額の献金をする構造を、国民がその支持する政党の政治資金を自らの政治
    的信条に基づいて出捐する構造に転換することが、国民の民主主義の意識を育む基盤となるものである。

(6) 本件政治献金は八幡製鉄最高裁判決とも異なる。
    八幡製鉄最高裁判例は「ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、(社会的実在としての会社
    が負担せざるを得ない社会的作用として、会社に社会通念上期待ないし要請されるものである限り、その期待ないし要請に
    こたえることは、会社の当然になしうるとろこである」とする。
    しかしながら、会社の代表は本件政治献金は、「経営基盤の安定化」のために特定の「政党(自民党)の具体的要請によっ
    て」なされたものであり、自民党以外の政党からは要請がなかったから献金しない」とするのである。そして、社会的に期
    待(要請)され、会社の社会的役割を果たすための社会福祉活動、社会公共活動とは異質のものである。
    従って本件政治献金は、八幡製鉄最高裁判決がいう「客観的・抽象的に観察して会社の社会的役割を果たすためになされた
    もの」とは認められない。
    「会社による政治資金の寄附は、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められる限り、会社の権利能力の範囲
    に存する行為である」とする上記最高裁判例の適用を受けるものでもない。

5 結論
    よって、本件政治献金は権利能力外の行為である。

第6 政治献金の判断に経営判断原則を適用すべきでない
1 アメリカの株主代表訴訟の判断の中で、いわゆる経営判断原則の法理が形成されてきた。アメリカ法律協会「コーポレート・ガ
  バナンスの原理、分析と勧告」の中でも定式化されている。我が国の判例においても野村証券株主代表訴訟事件(判例時報14
  69号・25頁)、セメダイン株主代表訴訟判決(平成8年2月8日東京地裁・商事法務114号・111頁)、朝日新聞社株
  主代表訴訟判決(平成11年5月26日大阪地裁・商事法務185号・228頁)においても、取締役の裁量の幅を広く認める
  形で、この法理の趣旨が適用されている。朝日新聞社株主代表訴訟判決は、
  「時々刻々変化する現在の取引社会において、取締役がその職務を遂行するにあたっては、その時々の市場の動向、会社の事情、
  会社の属する業界の状況、我が国のみならず国際的な情勢等、さまざまで相互に影響し合いかつ流動的な考慮要素を的確に把握
  するとともに総合的に評価し、短期的・長期的将来予測を行い、時期を失することなく経営の判断を積み重ねていかなければな
  らず、専門家たる取締役に経営を委ねることが結局全株主の利益につながるという考慮から取締役制度が設けられているのも正
  にそのためであり、取締役には広い裁量が与えられている、取締役の過去の経営上の措置について、その取締役の判断の前提と
  なった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがなく、また、その意思決定の過程、内容が企業経営者として特に不合理、不適切な
  ものといえない限り、その措置に係る経営判断は裁量の範囲を逸脱するものではなく、取締役としての善管注意義務または忠実
  義務に違背するものではない」と述べ、経営判断に広い裁量権を認めている。

2 経営判断原則が適用されるのは、実質上次の理由があるからである。
(1) 取締役に広範な裁量権を与える趣旨は、株式会社にあってはその営利(商法52条)の追求が根本にある。
    「株主自体の最上の利益は、取締役及び役員の決定の質につき限定的な審査をすることによってよく達成される。取締役ま
    たは役員がより危険性の少ない決定よりもより危険性の多い決定をする方がしばしば株主の利益に合致する。けだし、より
    危険性の多い決定の期待利益の方がより危険性の少ない決定のそれより大きいことがあるからである。」(前記アメリカ法
    律協会文献163頁)
(2) 更に経営判断には取締役の専門性、技術性の諸要素があるのに、専門性、技術性がない裁判官がそれを審査することが、か
    えって取締役の行為を萎縮させる結果となるからである。
(3)  アメリカの経営判断原則を研究している神戸大学の近藤光男教授は大胆な経営が行われる必要性と裁判所の能力の問題が背
    景にあると述べている(「経営判断と取締役の責任」近藤光男著・20頁)

3 本件政治献金の判断については経営判断原則は直ちに適用されない
(1)@ 会社は、生命保険事業を営むことを目的とする相互会社であり、営利性を追求しない法人である(保険業法では商法52
     条が準用されていない点を注意)。
     経営判断原則は前記のとおり営利を追求する為に取締役に広範な裁量権を与えている。
     それに対し、相互会社では相互扶助を基本としての法人であるから、経営判断原則の前提である営利性の追求が欠落して
     いる。
   A 相互会社であっても本来の保険事業については、その目的に従った取引については取締役に裁量権は与えられている。相
     互扶助の保険業務を遂行する過程での専門性、技術性が要求される取引についてである。
         これらの保険業ならびにそれに関連する取引を専門家である者に委ねた方が結局全体の社員の利益にもつながるという考
     慮からである。
(2)@ しかし政治献金は通常の本来の事業活動とも異なる。通常の事業活動の基準、即ちどれだけ投資すればどれだけ利益が生
     じるか計測する基準がないからである。コストアンドベネフィット論で判断できないものである。この点では政治献金は
     慈善活動への寄附と類似する。
   A このような慈善活動や政治活動についての取締役の判断は専門家としての判断ではない。
     企業の社会責任又は企業も一市民であるという立場からの活動については専門性、技術性の判断が必要ではない。そうす
     るとこのような本来の業務とは異なる本件政治献金の是か非かの判断は、専門家の判断ではない以上、市民として審査す
     ることが可能な活動であり、同時に裁判官において審査可能な事柄でもある。
     その点で本件政治献金の支出について取締役に広範な裁量権が与えられているとすることを裏付けする実質上の理由は不
     存在であり経営判断原則を適用する2大要件は欠落している。
         よって、政治献金に広範な裁量権が付与されているという理論は正しくはない。

第7 取締役の注意義務違反
1 政治献金に裁量が許されるか
(1) 取締役等が本来の業務を行うことに関して前記のとおり相当程度の裁量権が与えられている。相互会社は営利法人でなくと
    も、本来の営業活動について取締役に一定程度の裁量権が与えられていることも事実である。それは営利性からくる裁量権
    ではなく、専門性、技術的な取引からくる裁量論である。
    しかし、本来の業務とは異なる無償の寄附については、いわゆる経営判断の原則が直ちに適用されないことも前記に述べた
    とおりである。
        だが、無償の寄附について相互会社でも取締役に何らの裁量権が与えられていないと解することは実態に合致しない。
    被告らの会社が行っている社会貢献活動等について一定程度取締役に裁量の幅を与えることは必要でもあるし妥当でもある
    からである。 しかし、社会貢献活動に取締役に裁量の幅が肯定されるのは次の事実があるからである。
   @  圧倒的多数の株主や社員の意思に反しない(=推定的承諾がある)。
   A  企業も社会の構成体である以上、社会的影響を考慮して、従業員、取引会社、地域住民等会社が関心をもってしかるべき
     各種の集団の福祉、文化、芸術、慈善に関しての配慮をすることがむしろ望ましいし、期待もされている。
   B 以上の事実の範囲内であるならば、会社及び全株主、全社員は会社の規模、収益その他諸事情を考慮し取締役に一定の範
     囲内で無償の寄附をすることを取締役に委ねていると解しうる。

(2) しかし、政治献金も無償の寄附であるが以上のような性質を持つ社会貢献活動とは本質的に異なるからその裁量がないと解
    すべきである。 
    第1に、大多数の株主や社員の大多数の意思に反する危険性があるからである。
    第2に、特定の政党への政治献金は要請がある政党への期待には応えるが、反対党からは歓迎されないし、厳しく批判され
    る。社会から広く期待要請もされていないからである。
    政治献金のような価値対立があり、かつ現実の政党政治の中で、一方では積極的に歓迎されるが、他方の陣営から厳しく批
    判を受ける問題について取締役に会社、社員は広い裁量権を与えていない。
(3) 政治献金において取締役に裁量の幅が仮に与えられているとしても
  @  大多数の株主や社員の意思に反するおそれがなく(社員等がほとんど賛成している)
  A 寄附を受けない政党からみて、特別に批判されるおそれがない場合に限定さるべきものである(社会的儀礼の範囲内)。

2 本件政治献金の意思決定の誤りと注意義務違反
(1) 本件政治献金の支出について、被告らの判断に重要かつ不注意な誤りがあった。
  第1に、本件政治献金は事業費から支出している。しかし事業費は前記に述べたとおり保険社員から別紙のとおり直接付加保険
  料名目で徴収した金銭の中から支出している。
  そうすると社員は相互扶助の為の事業費への支出を、取締役に委ねているとしても、その中から「保険事業の安定的基盤の確立
  」の名目で特定の政党に寄附することまでも取締役に一般的に委ねていると解することは出来ないからである。社員が取締役に
  委ねている趣旨に反するか又はその裁量の幅を逸脱して支出していることになる。
  仮に取締役がこれが社員の意思に反しないと理解したとすればその旨理解したことに重要かつ不注意な誤りがあったことになる。
  第2に、被告らの主張する本件政治献金の理由について、それなりの合理性があったとしても社員の圧倒的多数の者は自民党だ
  けに献金することを承諾することが出来ない。
  市場主義原理等を党是とする政党は他にも多数存在するからである。長く続いた政党だから支持するとも限らない。新しく生ま
  れた党に社員は期待するかも知れないからである。
    第3に、他の政党も同様の党是を持っている。もし事業の為に必要であれば要請の有無に関わらず他党にも献金する必要性
  がある。しかし、他党から要請がないから事業費として支出する必要性がないと軽信して自民党にのみ献金したことには、取締
  役の判断に重要かつ不注意な誤りがあったことになる。
(2) 更に仮に百歩譲り取締役に一定程度の金額を特定の政党に寄附する裁量権が与えられていたとしても、取締役は政治献金の
  持つ特異性に着目し、次の事情を慎重に考慮の結果、政治献金の有無を決定すべきである。考慮すべき事実を考慮せず、考慮す
  べきでない事実を考慮して献金した場合は、取締役の注意義務に違反すると解すべきである。
        イ.法令との関係(コンプライアンス)
ロ.社員の大多数の意思に合致するかどうか
ハ.社会から期待要請されているかどうか
ニ.献金した場合の弊害はどの程度か         
ホ.献金した金が何に費消されるのか
      等々を献金にあたって取締役は上記の事情を慎重に考慮して決定すべきである。必要ならば、その為の諸資料等の調査が時間
  の許す限りなすべき注意義務がある。もし、この事情を考慮をしていないとなるとその決定に過誤があったことになり、注意義
  務に違反する。

(3) イ.政党に対する寄附は刑法、政治献金規正法、地方自治法、保険業法、商法等の法令に抵触する可能性がある。まずこの
      点を考慮することは当然である。
      上記法令に抵触しない場合でも、取締役は自由に献金できるということにはならない。公法上の法令に抵触しないだけ
      である。 政治献金の寄附という私法上の経営判断にあたっては次の事実を考慮すべきである。
        ロ.大多数の社員の意思に合致するかどうかまず考慮すべきである。政治献金は事業費から支出している以上、社員から付
      加保険料として徴収しているからである。これは単に取締役個人が社員の為だと信じたとするだけでは足りない。その
      判断の前提となる資料等の収集に合理的な手続が尽くされなければならないからである。政治献金は、毎年毎年、繰り
      返しているのであるから、社員の意思について専門会社等にアンケートを実施するとか、自社の情報誌に開示して社員
      の反応をみるとか又は総代会で意見を聴取するとか、何等かの社員の意思を聴取する等して大多数の社員の意思がどう
      なのかを調査する等、十分時間と余裕があるからである。
      しかし、被告らは本件政治献金を決定する過程において、自民党又は国民政治協会関係者から寄附の要請を受けた後支
      出するまでの間に社員の意思に合致するかどうかを考慮していないし又その調査等も実施していない(それをしたとい
      う主張も立証もない)。
      更にそのような手続を実施する過程で、社員の大多数が反対している場合は献金を中止するか、逆に大多数の社員が反
      対であっても、積極的に献金をすべき特別事由等がある場合は、その場合の諸要素を考慮して決定したというならば、
      その献金決定手続の合理性が肯定される余地もあるが、被告はその主張もしないし立証もしない。
            実態は取締役は社員の為になると信じたというに過ぎないものである。この点の考慮を欠く判断だけで、以下の考慮事
      情を検討するまでもなく、本件政治献金は取締役の注意義務に違反すると解すべきである。付加保険料の一部から政治
      献金をしているからである。
        ハ.社会から広く期待要請されているかどうかについても考慮、検討すべきである。最高裁の八幡献金事件はこの点を考慮
      して、政治献金を認めたからである。社会から広く期待要請されているという事項は、時代によって変わるものである。
      政治献金は寄附を受ける政党からみれば、広く期待要請されることは当然であるが、競争反対政党からは、厳しく批判
      されることは前記のとおり明らかである。
            取締役はこのような政治献金の行為の性質に着目して、この要素を考慮すべきである。取締役個人がその旨信じたとい
      うことだけでは足りない。社会から広く期待要請されている判断の前提となる諸資料等の収集に合理的な手続がなされ
      なければならない。
      社会から広く期待、要請されているかどうかの調査方法も専門的なリサーチ会社等に調査させれば容易にそれなりの調
      査をすることも可能である。そこまで調査しなくとも社会の反応は我が国ではマスコミを通じて社会一般の傾向が判る。
      しかし、被告らは1990年代のマスコミがどういう点を指摘して政治献金の禁止を求めているのかこれも具体的にど
      う考慮したのかその説明はない。
      もちろん、上記のようなマスコミの社説等を考慮した結果、マスコミ等の世論に反してでも政治献金をする場合もあり
      得るが、しかし被告の弁明ではその世論を考慮した後、あえてそれに反対しても献金をした理由とその考慮過程につい
      ての主張もないし、立証もない。
       ニ.特定の政党に対する継続的に高額な政治献金の有害性や弊害についても考慮すべきであるのに考慮していない。
      政治献金は前記のとおり特定政党を応援することである。競争、反対政党からみれば敵対行為である。
      この4年間をみても日生は8800万円、住生で6027万円余りである。業界ではでは4億円を超えている。
      他方、反対党である社会党(後の社会民主党)や民主党等に対しては一円も寄附をしていない。
      その弊害を考慮してもなお、政治献金をする必要性、有用性があるかどうかは疑わしいが、仮にその弊害を考慮した結
      果、献金をする必要性、有用性があるならば、それもひとつの経営判断であるが、被告らはそれを比較考慮し、検討し
      て本件支出を決定した旨の主張もないし立証もない。
      更に、他党から要請がないというだけで、他党への献金を考慮、検討していないが、要請がない場合には政治献金の前
      記性質に着目してその弊害面も考慮して決定すべきなのにそれをしていない。
    ホ.無償の寄附をする以上、その金が何に費消されているかどうか検討するのは取締役としての最低の責務である。
        政治献金は前記のとおり費消されている。
       このうち、組織活動費や会議費等が何に費消されているのか全く不明であるし、これらの受け取った議員らが自己の収
      支報告書等に記載していない。政界のヤミ金として費消されたり、又は自己のポケットマネーとして消えている可能性
      もあるのに調査もしていないし、検討考慮もしていない。
      しかし、被告らは「公党であるから信用している」との答弁である。しかし、経済界自らが「支出」について疑惑を述
      べており、マスコミの社説等もあれこれこの「支出」について問題を提起している状況について、政治献金は最終的に
      何に費消されているのか、」調査が可能であったのにそれをそもそも調査をしていないのであるから、判断の前提であ
      る必要な情報も入手しない。

(4) 献金しないとどういう不利益が生じるのか一切検討していない。
    会社は国民政治協会の法人会員である。法人会員として加盟した以上、その業界基準に沿った金額を寄附することを承諾し
    て加盟している。彼らは同業他社や他業界とりわけ、銀行業界献金額を参考にしたということを証言しているが、法人会員
    としてとどまる以上、必然的にその前記の金額の寄附が義務づけられている。
    担当役員のレベルで決済したと主張しているが、そもそも同会の法人会員として加盟した以上、一定の寄附することが義務
    づけられているのであって、寄附しないという判断をそもそも取ることが、一担当取締役には出来ないのである。そうする
    と、同会を脱退しない限り、寄附するという義務が生じる以上、その脱退については検討したが、しかしあえて、それでも
    なお法人会員としてとどまり献金を続けるという意思決定をしたとの主張もないし立証もない。いずれにしても、会社とし
    て国民政治協会に加盟している以上、献金しないという裁量権を有していないのであるから、献金しないとどういう不利益
    が生じるのかについて全く検討の余地もないのである。最も重大な考慮すべき事実を考慮していないから取締役の注意義務
    違反である。

3 結論
      以上のとおり、会社の取締役らは主観的には、長期的には社員の為になると考え、政治献金を実行したが、しかし前記に述べ
   たように無償の寄附をするにあたっての必要最低限の考慮事項を考慮せず献金しているから取締役の善管注意義務に違反する。

第8 会社の損害と差止の必要性
1 取締役らの本件政治献金としての支出は会社に献金額相当の損害を与えたので、その分を損害賠償すべきである。
2  差止の必要性
    本件政治献金は、公序又は定款目的違反、又は取締役の善管注意義務違反があり、かつ今後も継続する危険性があり、会社に回
  復すべからざる損害が生ずるおそれがあるので将来に対しても差止の必要性がある。

 

国会議員の選挙における各政党の支持率

    1993(H5) 7.18  衆 1995(H7)7.23   1996(H8)10.20  衆 1998(H10)7.12  参 2000(H12) 6.25 衆
自民党 22,999 (36.62) 11,096 (27.29) 18,205 (32.76) 14,128 (25.17) 16,943 (28.31)
民主党     8,949 (16.10) 12,209 (21.75) 15,067 (25.18)
新進党     15,580 (28.04)    
自由党       5,207 (9.28) 6,589 (11.01)
保守党         247 ( 0.41)
さきがけ 1,658 ( 2.64) 1,455 ( 3.58) 582 ( 1.05) 784 ( 1.40)  
社民党 9,687 (15.43) 6,882 (16.92) 3,547 ( 6.38) 4,370 ( 7.79) 5,603 ( 9.36)
公明党 5,114 ( 8.14)     7,748 (13.80) 7,762 (12.97)
共産党 4,834 ( 7.70) 3,873 ( 9.53) 7,268 (13.08) 8,195 (14.60) 6,719 (11.23)
10 自由連合       514 ( 0.92) 560 ( 1.10)
11 日本新党 5,053 ( 8.05)        
12 民社党 2,205 ( 3.51)        
13 二院クラブ   1,282 ( 3.15)   579 ( 1.03)  
14 女性党       130 ( 0.55)       690 ( 1.23)  
15 新社会党           925 ( 1.65)  
16 スポーツ平和党       541 ( 1.33)       477 ( 0.85)  
投票総数 62,804   55,569   59,844
有権者総数 94,477   97,680   100,491
投票率 (67.26)   (59.62)   (62.45)

 

   1993年度選挙は、衆議院の選挙は中選挙区の合計、1996年、2000年の衆議院の選挙は比例区、参議院の選挙は比例代表を表す。


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