三菱自動車工業損害賠償請求株主代表訴訟事件

訴      状
2001年3月12日

東京地方裁判所    御中


原 告 訴 訟 代 理 人


当    事    者      別紙当事者目録記載のとおり
原告訴訟代理人      別紙代理人目録記載のとおり

損害賠償請求株主代表訴訟事件
  訴訟物の価額  95万円
  貼用印紙額    8200円


第1  請求の趣旨
  1  被告らは、訴外三菱自動車工業株式会社に対し、各自、金11億7700万
円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5%の割合に
よる金員を支払え。
  2  訴訟費用は被告らの負担とする。
  3  仮執行宣言

第2  請求の原因
1  はじめに
(1)本件は、訴外三菱自動車工業株式会社(以下「三菱自工」という。)の株
主である原告が、同社が約30年間の長期間にわたり、自動車の安全性につ
いてのクレーム情報やリコール情報の、運輸省(当時)に対する届出をせず
に、いわゆるクレーム隠し、リコール隠しを継続してきたことについて、同
社の取締役(当時取締役であった者)である被告らに対して、同社の損害を
賠償することを求めて提起した株主代表訴訟である。

(2)1994年6月、我が国でも製造物責任法が成立し、翌1995年7月1
日から施行された。日本の社会も高度に発達し、消費者に提供される製品も
高度な科学知識・技術が用いられ、消費者と製造業者等との間で情報や危険
回避能力の格差が拡大する中で、同法は、製造業者等が無過失責任である「欠
陥」責任を負うことを明らかにすることにより、被害者の救済、被害の未然
防止、拡大防止を目的としたものである。近時、規制緩和、自己責任がいわ
れるなか、製造物責任が立法化されたことにより、企業の製品の安全性に対
する意識は大きく変わったといわれ、製造物責任に関する裁判外紛争処理機
関として財団法人自動車製造物責任相談センター等製品分野別のいわゆる
PLセンターも相次いで設立された。
こうした自動車を含む製品の安全性についての社会の環境が大きく変わ
り、企業の製品の安全性についての管理及びその姿勢が大きく問われること
となった状況のなかで発覚したのが、三菱自工における今回のクレーム隠し、
リコール隠しの事件である。製造物の中でも自動車の安全性は、もとより人
の生命にかかわる重大なものであるのに、三菱自工におけるこのクレーム隠
し、リコール隠しは約30年にわって継続されてきたもので、しかも、19
92年10月ころからは、情報を隠蔽するためのコンピュータによる情報管
理システムまでが構築されてこれらの行為が継続されてきたものである。製
造物責任法が立法、施行された際、当然なされるべきであった見直しも全く
なされなかったのである。このため今回、長年にわたったクレーム隠し、リ
コール隠しが発覚したことにより、三菱自工の自動車の安全性に対する消費
者の信頼は全く失われたばかりでなく、社会の同社に対する信頼を大きく裏
切り、同社の信用は大きく毀損されたもので、このため同社の被った損害も
深刻である。被告らの、これらの事態を招いた取締役としての責任は極めて
重大である。なお、日本弁護士連合会は、この三菱自工による本件クレーム
隠し、リコール隠しの事実を重くみて、運輸省(当時)に対し、リコール制
度の強化、罰則の強化、情報収集制度の充実についての意見書を提出してい
る。

(3)ところで、企業は、営利を目的とするが、当然その果たすべき社会的責任
を負っており、法律を守るべきことは当然とし、社会的規範、ルールを守っ
てその信用を維持、拡大することにより、利益を獲得、増大し、業務を継続、
伸長することができるものである。企業がこれらの社会的責任を果たし、利
益を獲得するためには、その経営陣に、法律はもとより、社会的規範、ルー
ルを遵守させることが求められる。それには企業における制度としてのチェ
ックシステムが有効に機能していることが重要である。株主代表訴訟は、ま
さにこのチェック機能を果たさせるシステムであり、取締役の不正をただし、
経営者の倫理を維持させることにより、企業が社会的責任を果たして健全に
発展することができるようにするために株主が行使できる最も有効な手段
である。
本件は、高度な技術を駆使した自動車という人の生命に関わる製品に関す
るクレーム情報、リコール情報という重要な情報を長年にわたり隠蔽するこ
とを許してきたという被告らの違法行為とその損害賠償責任を明確にする
ことにより、ひとり三菱自工に限らず、わが国企業の経営陣が、製品の安全
性についての社会的責任を自覚し、欠陥製品が流通におかれ、深刻な被害が
生ずることがないようにすることを目指した株主代表訴訟である。

  2  当事者等
(1)	三菱自工は、資本金約2500億円、年商約2兆円(2000年3月末決
算期)、従業員約2万2000人(2000年3月末)を擁する日本有数の
自動車メーカーである。
  (2)原告は、三菱自工の株主で、後記の提訴請求書(甲6の1、2)を提出し
た2000年12月11日の6か月以上前から現在まで同社の株式100
0株以上を保有している者である。
  (3)被告らは、いずれも三菱自工の取締役である者あるいはあった者であり、
各被告の三菱自工での取締役の在任時期、担当職務等は別紙被告取締役担当
職務一覧表記載のとおりである。

3  本件違法行為
(1)運輸省立入検査に対する虚偽報告(リコール関連情報の隠蔽)
      ア  運輸省は、三菱自工に対して、1999年3月3、4日、道路運送車両
法に基づく立入検査を実施した。
この検査の際、三菱自工の運輸省立入検査等担当者は、運輸省に対し同
社製造に係る車両のリコール等の対象となる情報を含む車両の不具合情報
を報告せず、リコール等情報を隠蔽した。隠蔽したリコール等情報は、車
両販売店等から同社に提出される車両の不具合の内容等を記載した商品情
報連絡書であり、同社は、1997年7月から1999年2月までの間に
連絡を受けた商品情報連絡書91件を隠蔽した(甲1  運輸省作成の告発
書)。
      イ  運輸省は、三菱自工に対して、1999年11月4、5日、道路運送車
両法に基づく立入検査を実施した。
この検査の際にも、三菱自工の運輸省立入検査等担当者は、運輸省に対
し、1996年12月から1999年10月までの間に同社が販売店等か
ら連絡を受けた商品情報連絡書695件を隠蔽した(甲1  運輸省作成の
告発書)。
ウ  以上の各隠蔽行為は、道路運送車両法63条の4第1項及び同法100
条1項に違反し、同法110条1項3号により刑事罰の対象となる重大な
違法行為である。
なお、運輸省は2000年9月8日、上記各行為を警視総監に対して告
発し(甲1)、警視庁は2000年1月、被告本山彦一、同遠山  智及び同
中神達郎等を被疑者とする道路運送車両法違反被疑事件として、検察庁に
書類送致をした(甲5  新聞記事)。

(2)運輸省へのリコール等の届出義務違反
三菱自工は、次のア〜エのとおり、リコール等対象情報を入手しながら、
道路運送車両法に基づく、運輸大臣(当時)に対するリコール、改善措置の
届出を行うことなく、秘密裏に車両の不具合の改修等を実施した。かかる行
為は、道路運送車両法63条の3第1項に違反し、同法111条の2による
過料対象となる行為である(甲2の1〜5  過料通知書)。
なお、届出をしない改修措置等は、下記アを除き、改修が必要な車両のう
ち、その一部の車両について実施されたのみである。
ア  乗用車デボネアについて
三菱自工は、1998年9月9日に商品情報連絡書によって同社製造の
乗用車(通称名デボネア)の、動力伝達装置(A/Tトルクコンバータ)
に関する不具合情報を入手しながら、同年10月27日に、被告中神達郎
(当時品質技術本部副本部長)、京都製作所樹下副所長、同製作所平山部長、
品質技術本部村川部長等が協議して、リコール対象の不具合であるにもか
かわらず、リコール届出をせずに内密に回収・修理を実施することを決定
し、同年11月から1999年3月16日までの間、運輸大臣に対するリ
コール届出をせずに秘密裏に市場における改善措置を実施した〔甲2の2  
違反事実(1)〕。
  なお、三菱自工では、リコール等の運輸大臣への届出をせずに、秘密裏
に改修を実施することを「指示改修」と呼んでいた。以下、本書面で「指
示改修」というときは、かかる違法な改修措置をさす。
      イ  トラックふそうについて
三菱自工は、1998年6月16日に商品情報連絡書によって同社製造
のトラック(通称名ふそう)の、動力伝達装置(プロペラシャフト)に関
する不具合情報を入手しながら、2000年1月18日、同年同月28日、
同年2月4日、同年3月27日に、同社品質保証部門、トラック・バス技
術センター、東京自動車製作所等の各担当者が協議して、リコール対象の
不具合であるにもかかわらず、正規のリコールを行った場合と、違法な指
示改修を行った場合のメリットデメリット等を検討し、指示改修を行うこ
とを決定し、同年5月から、販売店等に対し指示改修の指示を行った。
しかし、改修が必要な全車両152台のうち、実際に改修が行われたの
は約40.8%の62台のみであった。
なお、三菱自工は、本件違法行為が発覚した後の2000年7月26日
に、本件不具合について運輸省にリコール届出を行っているから、本件不
具合については不具合の発生当初からリコール届出が必要であったことが
明らかである〔甲2の3  違反事実(2)〕。
      ウ  バス(ふそうエアロバス、ふそうエアロクイーン)について
三菱自工は、1998年3月31日及び同年6月3日に商品情報連絡書
によって同社製造のバス(通称名ふそうエアロバス、ふそうエアロクィー
ン)の、@緩衝装置(スタビライザ)及びA制動装置(エアーチャージパ
イプ)に関する各不具合情報を入手しながら、1998年8月10日、同
年同月28日に、同社市場品質部、トラック・バス技術センター、東京自
動車製作所等の各担当者が協議して、リコール対象の不具合であるにもか
かわらず、正規のリコールを行った場合と、違法な指示改修を行った場合
のメリットデメリット等を検討し、指示改修を行うことを決定し、同年8
月から、販売店等に対し指示改修の指示を行った。
しかし、前記@緩衝装置については改修が必要な全車両472台のうち、
実際に改修が行われたのは約83.7%の395台のみであり、前記A制
動装置について改修が必要な244台のうち、実際に改修が行われたのは
約85.7%の209台のみであった。
本件不具合の対象車両は、乗合の公共バスとしての利用が予定されてい
るものであり、上記各不具合は、最悪の場合、タイヤのバーストあるいは
制動力の低下を招き、走行不能ひいては重大な交通事故を引き起こす危険
のあるものであった。
なお、本件各不具合についても、三菱自工は、本件違法行為が発覚した
後の2000年7月26日に運輸省にリコール届出を行っている〔甲2の
4  違反事実(3)〕。

      エ  バス(ふそうローザ)について
三菱自工は、1998年10月26日に発生した同社製造のバス(通称
名ふそうローザ)の、制動装置(ブレーキパイプ)に関する不具合に関す
る情報を同年同月30日までには入手しながら、1998年11月5日ま
でに、同社品質保証部門、トラック・バス開発本部、トラック・バス技術
センター、名古屋自動車製作所等の各担当者が協議して、リコール対象の
不具合であるにもかかわらず、指示改修を行うことを決定し、同年11月
から、販売店等に対し指示改修の指示を行った。
しかし、改修が必要な全車両33台のうち、実際に改修が行われたのは
約57.6%の19台のみであった。
なお、本件不具合の対象車両も乗合バスであり不具合が重大な交通事故
を招く危険があり、また、三菱自工は、本件違法行為が発覚した後の20
00年7月26日に、本件不具合について運輸省にリコール届出を行って
いる〔甲2の5  違反事実(4)〕。
      オ  以上ア〜エの指示改修について、三菱自工は、東京地方裁判所から20
00年10月2日に過料400万円に処せられている。
(3)上記の刑事告発び過料の直接の対象となった違法行為以外の違法行為
ア  虚偽報告
(ア)不具合情報等の二重管理
三菱自工は、販売会社等からの商品情報連絡書によって、車両の不具
合等を把握し、リコール実施等の対応を検討することとしていたが、こ
の商品情報連絡書による情報を、通常管理対象とするものと、別管理扱
いとするもの(運輸省検査時等に秘密扱いにするもの等)とに二重に管
理していた(甲3  社内調査報告書)。
(イ)二重管理の歴史
三菱自工では、既に1977年9月ころから、関係者が申合せをして、
一部の商品情報の秘匿を開始しており、これが慣行化した。秘匿した情
報(商品情報連絡書)は、社内では「○H扱い」等の名称で呼ばれていた。
その後の1992年10月ころに三菱自工は情報管理システムを構築
した(情報管理の電算化)が、このときにも特定のコードを用いて、秘
匿すべき情報を分離する機能を組み込んで、上記二重管理を継続した。
かかる二重管理は、1998年4月に情報管理システムを改変した時に
もさらに継続された(以上  甲3)。
(ウ)運輸省監査に対する非提示
三菱自工が1998年4月から2000年6月30日までの間に受け
取った商品情報連絡書は8万7757件(乗用車関係6万2629件、
トラック・バス関係2万5128件)であったが、三菱自工は、このう
ち約3分の2程度の情報件数を、以上の商品情報連絡書の二重管理に基
づき、運輸省による監査時等に提示しなかった(甲3)。
このように、前記刑事告発対象となった虚偽報告以外にも、三菱自工
は、運輸省による検査等に対し、報告提示すべきリコール等の情報を、
長年にわたり隠匿し、虚偽の報告を繰り返していたのである。
イ  指示改修
三菱自工は、既に1969年ころには乗用車に関する指示改修を実施し
ており、また、社内調査(甲3)によっても、トラック・バスに関する指
示改修の開始時期は確認できないという状況である。
したがって、三菱自工では、指示改修も長期間にわたって繰り返してい
たのである。
      ウ  道路運送車両法改正後の違法行為
リコール・改善措置届出制度は、道路運送車両法の1994年改正によ
り、それまで政令等に基づく制度であったものが、1995年1月1日か
ら同法に基づく制度として施行された。しかし、前記のとおり、同日以降
も、三菱自工は、刑罰ないし過料対象となる重大な違法行為である虚偽報
告と指示改修を繰り返していた。
      エ  リコール隠しの常態化=過去に遡ってのリコール届
  また、三菱自工は、運輸省に対して、リコール隠し等が発覚した後の2
000年7月26日にリコール9件(対象台数53万2000台)、同年8
月22日にリコール8件(対象台数8万8000台)の届出を行った(甲
4  運輸省自動車交通局プレスリリース)が、対象車両の製作期間はもっ
とも古いもので1990年12月まで遡っており、かかる過去の遡っての
大量のリコール届が行われたこと自体が、リコール等情報を秘匿し、リコ
ール届出をせずに秘密裏に改修を行っていたという違法行為が会社内で常
態化していたことを明らかにするものである。
      オ  以上のとおり、三菱自工は、運輸省への虚偽報告、指示改修という違法
行為を繰り返し、継続してきていたのである。

4  責任その1  監督義務違反ないし監視義務違反
(1)被告らは、いずれも、取締役として、三菱自工に対し、委任契約ないし商
法に基づく善管注意義務、忠実義務を負い、少なくとも法令等に違反する行
為を行うことがないようにすべき義務がある。
にもかかわらず、被告らは、道路運送車両法が1994年に改正され、1
995年1月1日からリコール制度が法律に基づく過料の制裁を伴う制度
として法制度化された後も、運輸省に対するリコール届出をせずに改修を実
施する指示改修、運輸省の検査に対する虚偽報告、それらの違法行為の前提
としての不具合等情報の二重管理の事実を認識し、または認識しえたにもか
かわらず、これらを放置した。
かかる行為は、取締役として、自ら担当する部署の従業員を監督すべき監
督義務ないし、他の取締役の違法行為を是正すべき監視義務に違反するもの
であって、かかる義務違反行為によって会社が被った損害を賠償すべき責任
がある。
    ア  被告鈴木元雄
同被告は、1989年6月に取締役に就任し、乗用車開発本部副本部長、
乗用車技術センター所長の職務を担当していたから、当時から、前記三菱
自工におけるリコール関連情報の二重管理、指示改修等の実態を認識して
いたはずである。
また、1995年6月からは、取締役副社長に就任し、リコール関連情
報を直接担当する技術本部の担当となったのであるから、本件違法行為を
認識したか、少なくとも容易に認識できる立場にあったにもかかわらず、
これを放置した。
    イ  被告樋口敏雄
同被告は、1991年6月に取締役に就任し、乗用車開発本部副本部長
の職務を担当していたから、当時から、前記三菱自工におけるリコール関
連情報の二重管理、指示改修等の実態を認識していたはずである。
また、1993年6月からはリコール関連情報を直接担当する技術本部
の副本部長職を担当し、1995年6月からは、常務取締役に就任し、リ
コール関連情報を担当する技術本部の担当となったのであるから、本件違
法行為を認識したか、少なくとも容易に認識できる立場にあったにもかか
わらず、これを放置した。
    ウ  被告本山彦一
同被告は、1993年6月に取締役に就任し、乗用車開発本部副本部長
の職務を担当し、同年10月からはトラック・バス開発本部副本部長、1
996年6月からは同本部本部長を担当していたから、当時から、前記三
菱自工におけるリコール関連情報の二重管理、指示改修等の実態を認識し
ていたはずである。
また、1997年6月には常務取締役に就任し、リコール関連情報を直
接担当する技術本部担当となり、1998年6月には代表取締役副社長に
就任し、同じくリコール関連情報を直接担当する品質・技術本部担当とな
ったのであるから、本件違法行為を認識したか、少なくとも容易に認識で
きる立場にあったにもかかわらず、これを放置した。
    エ  被告村田有造
同被告は、1993年6月に取締役に就任し、トラック・バス生産本部
副本部長、東京自動車製作所長の職務を担当し、1996年6月からは乗
用車生産本部長を担当していたから、当時から、前記三菱自工におけるリ
コール関連情報の二重管理、指示改修等の実態を認識していたはずである。
また、1998年6月には代表取締役副社長に就任し、トラック・バス
統括本部のとなったのであるから、本件違法行為を認識したか、少なくと
も容易に認識できる立場にあったにもかかわらず、これを放置した。
    オ  被告遠山  智
同被告は、1993年6月に取締役に就任し、乗用車開発本部副本部長
の職務を担当していたから、当時から、前記三菱自工におけるリコール関
連情報の二重管理、指示改修等の実態を認識していたはずである。
また、1997年6月には常務取締役に就任し乗用車開発本部の担当と
なり、1998年6月に代表取締役副社長に就任し、1999年6月から
は、リコール関連情報を直接担当する品質・技術部門担当となったのであ
るから、本件違法行為を認識したか、少なくとも容易に認識できる立場に
あったにもかかわらず、これを放置した。
    カ  被告河添克彦
同被告は、1995年6月に取締役に就任し、乗用車生産本部副本部長、
名古屋自動車製作所長の職務を担当していたから、当時から、前記三菱自
工におけるリコール関連情報の二重管理、指示改修等の実態を認識してい
たはずである。
また、1997年6月には常務取締役、同年11月には代表取締役社長
に就任したから、自動車メーカーの最高責任者として、自動車の安全性確
保のためのリコール制度を遵守し、本件違法行為を是正し得る最高権限を
得たにもかかわらず、これを放置した。
    キ  被告宇佐美  
同被告は、1995年6月に取締役に就任し、トラック・バス開発本部
副本部長の職務を担当していたから、当時から、前記三菱自工におけるリ
コール関連情報の二重管理、指示改修等の実態を認識していたはずである。
また、1998年6月には常務取締役に就任し、トラック・バス統括本
部長補佐、トラック・バス技術センター担当となったのであるから、本件
違法行為を認識したか、少なくとも容易に認識できる立場にあったにもか
かわらず、これを放置した。
    ク  被告鈴木弘敏
同被告は、1997年6月に取締役に就任し、乗用車生産本部副本部長、
京都製作所長の職務を担当していたから、前記三菱自工におけるリコール
関連情報の二重管理、指示改修等の実態を認識していたか、少なくとも容
易に認識できる立場にあったにもかかわらず、これを放置した。
    ケ  被告金安淑夫
同被告は、1997年6月に取締役に就任し、トラック・バス生産本部
副本部長、東京自動車製作所長の職務を担当していたから、前記三菱自工
におけるリコール関連情報の二重管理、指示改修等の実態を認識していた
か、少なくとも容易に認識できる立場にあったにもかかわらず、これを放
置した。
    コ  被告加藤勝人
同被告は、1997年6月に取締役に就任し、生産技術本部長の職務を
担当し、1998年6月に常務取締役に就任し、生産技術本部等を担当し
ていたから、前記三菱自工におけるリコール関連情報の二重管理、指示改
修等の実態を認識していたか、少なくとも容易に認識できる立場にあった
にもかかわらず、これを放置した。
      サ  被告中神達郎
同被告は、前述のとおり、過料対象となった指示改修の決定に直接関与
しており、1998年6月に取締役に就任し、リコール関連情報を直接担
当する品質・技術本部副本部長の職務を担当し、1999年6月からは品
質・技術統括となったのであるから、前記三菱自工におけるリコール関連
情報の二重管理、指示改修等の実態を認識していたか、少なくとも容易に
認識できる立場にあったにもかかわらず、これを放置した。
  (2)各被告の違法行為の認識可能性を基礎付ける事情
ア  運輸省は、道路運送車両法に基づくリコール制度、立入検査制度の適正
な実施を確保するため、1997年11月に自動車メーカー各社に対しリ
コール制度に関する総点検を指示した。この指示は、当時、やはり自動車
メーカーである富士重工業のリコール隠しが発覚したことをきっかけとす
るものであった(なお、同社も当時過料を受けた)。
三菱自工の当時の品質保証担当本部長は、1997年12月8日付け文
書で、運輸省の点検指示事項である「リコール届出が適正であるか否か」
「立入検査における提示書類は真正かつ全てであるか」という項目につい
て、「適正」「真正かつ全て」と回答したが、この回答を正当とするだけの
根拠資料はなかった(甲3  社内調査結果)。
    イ  また、運輸省は、1999年3月にも不具合情報の業務の適正化、リコ
ール届出等に伴う回収・修理の的確な実施等を指導したが、三菱自工は、
非常に表層的に対応したに過ぎなかった(甲3)。
ウ  さらに、運輸省は、1999年12月にも、三菱自工のRVRスライド
ドアハンドル対策問題に関して、欠陥車関連業務に係る業務改善指示を行
った。しかし、このときも、三菱自工は、品質保証担当副社長の下で関係
部門によって、市場品質案件の重要度判定等の処理の適正化、既販車措置
の適正化等について検討を行っているが、二重管理、指示改修は改善され
なかった(甲3)。
エ  以上のとおり、被告らには、いずれも何度も違法行為発見及び是正のチ
ャンスがありながら、自動車メーカーにとって最重要事項である自社が製
造販売する自動車の安全性確保のために法律で義務づけられたリコール届
出制度に関して、指示改修、虚偽報告等の違法行為の存在を放置しつづけ
たのである。

  5  責任その2  違法行為防止のためのシステム構築義務違反
(1)自動車メーカーにおいては、その製作する自動車の安全性を絶対的に確保
するため、自動車の欠陥等の情報を早期に入手し、消費者ユーザーに迅速に
情報提供ができるシステムを構築すべきであり、まして、道路運送車両法に
基づくリコール制度等については、法に基づき確実に実行されるべきことが、
欠陥自動車による被害防止のために強く求められている。
したがって、三菱自工の各取締役は、自動車メーカーにとっての根幹をな
すリコール関連情報の入手、管理とその対応について、当該部署を直接担当
する取締役に法遵守等の方策を全て委ねてしまうことなく、違法行為を防
止・発見できる内部システムを構築すべき義務を負うというべきである。
(2)ところが、三菱自工では、長期間にわたって、リコール関連情報の二重管
理、リコール情報等の隠蔽(運輸省への虚偽報告)、指示改修が行われてい
たにもかかわらず、これを是正することができずに、延々と違法行為が継続
してしまった。
このような長期間にわたる、しかも多数のリコール関連情報の隠匿が実行
されてきたこと自体が、三菱自工において、リコール制度等を適法に実施し、
違法行為が行なわれないようにするための内部システムが不十分であった
ことの証左である。
  リコール関連情報を直接担当する品質技術部門を掌握していた被告取締
役はもちろん、その他の被告取締役も、リコール関連情報の管理等の状況を
的確に把握し、不適切な点があれば是正すべきであったにもかかわらず、違
法行為防止のためのシステム構築責任を果たさなかった。
  したがって、各被告には、違法行為防止のための有効適切なシステムを構
築せず、漫然と従前の違法行為を放置した点に、システム構築義務違反が認
められる。

6  三菱自工の被った損害
(1)過料  400万円
  前述のとおり、東京地方裁判所は、2000年10月2日、運輸省からの
通知に基づき、三菱自工に対して、道路運送車両法違反(運輸大臣への届出
をせずに改修を行った前記各行為)について、過料400万円を課した。か
かる過料は、前記違法行為によって三菱自工が被った損害である。
(2)信用失墜による売上減少  15億円
三菱自工は、自動車メーカーとして、消費者、ユーザーの生命身体の安全
を確保するために絶対的に自動車の安全性を確保すべき義務があるにもか
かわらず、かかる自動車の安全性を確保するための道路運送車両法に基づく
リコール制度を無視した違法行為を繰り返していた。
かかる違法行為によって、三菱自工の自動車メーカーとしての消費者から
の信頼、信用が失われ、同社は、次のとおりの損害を被ることとなった。
ア  新車販売台数の減少
  三菱自工の新車販売台数は、本件違法行為のため、2000年10月で
前年比27.7%減の1万5000台(前年同月販売台数約2万0700
台)、同年11月で前年比30.5%減の1万6040台(前年同月販売台
数2万3084台)と大きく減少した。同じ期間の国内新車販売総台数は、
かえって前年同月比で上昇している。
  したがって、本件違法行為の結果、三菱自工はこの2か月間だけでも少
なくとも約1万台分の売上を失った。
上記売上喪失による損害は、三菱自工における1台あたり平均売上額を
約150万円として算定して売上額ベースで約150億円であり、同社の
売上利益率がここ数年少なくとも10%以上であることから、売上利益ベ
ースでも損害額は少なくとも15億円を下回ることはない。
    イ  指名停止による売上減
また、三菱自工は、本件違法行為のため、各省が発注する公用車の競争
入札について、運輸省により2000年9月4日から18か月間、郵政省
により同年9月13日から6か月間、防衛庁により同年9月18日から6
か月間の指名停止処分等を受けた。
かかる指名停止処分によっても、三菱自工は、その売上の減少を余儀な
くされる。
      ウ  以上の売上減少分の損害は、少なくとも15億円を下回ることはありえ
ない。
(3)信用回復等費用  約100億円
さらに、三菱自工は、本件違法行為によって失った自動車メーカーとして
の信用を回復するための消費者に対する対応を行うことが必要不可欠とな
り、同社が製造販売した約600万台を対象に2000年11月から無料点
検サービス等を実施するための費用として約100億円を準備することと
した。
かかる費用は、将来に向けて消費者の信頼及び売上を回復するために必要
な費用であって、本件違法行為がなければ負担する必要のなかった支出であ
るから、本件違法行為と相当因果関係の認められる損害である。
(4)損害合計
以上から、本件違法行為によって三菱自工が被った損害は、少なくとも合
計115億0400万円を下回らない。
(5)本訴訟で請求する損害額
ア  原告は、本訴訟で、被告らに対し、上記損害のうち11億円を三菱自工
に賠償することを求める。
      イ  原告が勝訴した場合には、原告は三菱自工に対して、原告訴訟代理人の
弁護士報酬等の負担を求めることができるところ、かかる弁護士報酬も本
件違法行為と相当因果関係の範囲内にある損害と評価できる。
  請求額11億円に対する弁護士会報酬会規に基づく弁護士報酬額(着手
金及び成功報酬の合計額)の標準額は7700万円強である。
      ウ  以上から、本訴訟では、原告は被告らに対し、上記ア及びイの合計額1
1億7700万円の賠償を求める。

7  提訴請求
  以上のとおり、三菱自工は、本件違法行為によって甚大な損害を被ったので、
原告は、2000年12月11日到達の提訴請求書(甲6の1、2)によって、
三菱自工の監査役に対し、被告らを含む各取締役に対して上記損害の賠償請求
をなすように通知したが、その後30日を経過しても三菱自工監査役は提訴を
行わない。

  8  請求
  以上から、原告は、請求の趣旨記載のとおり、被告らに対し、本件違法行為
によって三菱自工が被った損害のうち、各自、金11億7700万円およびこ
れに対する本訴状送達の日の翌日から支払い済みまで民法所定年5%の割合
による遅延損害金の支払を求める。

証   拠   方   法
1  甲1号証            告発状
2  甲2号証の1〜5    過料事件通知書
3  甲3号証            三菱自工による調査報告書
4  甲4号証            運輸省交通局作成のプレスリリース
5  甲5号証            新聞記事
6  甲6号証の1、2    提訴請求書、同配達証明書


附   属   書   類
1  訴状副本                                                  11通
2  甲1〜6(写し)                                        各12通
3  証拠説明書(甲1〜6)                                    12通
4  訴訟委任状                                                  1通

以上

 



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