平成12年(ワ)第4692号・日本生命社員代表訴訟事件
原 告   外36名    
被 告      外 1 名     
参加人      外 4 名

        最終準備書面(その2)


大阪地方裁判所                              
  第10民事部 合議係 御 中              

       2001年4月20日
            原告ら訴訟代理人 弁護士

                                記
第1 八幡製鉄政治献金事件とその批判
1 最高裁判決の理由の骨子
(1) 会社の権利能力の判断は定款に明示された目的に限局されるわけではなく、その遂行に直接又は間接に必要な行為であればこれに包含される。
    そして、その必要か否かは行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断されなければならない。
(2) 政治献金は社会から期待ないし要請されている。
  @  会社は社会的実在であるから、それとしての社会的作用を実現せざるを得ないのであって、ある行為が一見、定款所定の目的と関わりがないも
       のであるとしても会社に社会通念上、期待ないし要請されるものである限り会社は当然なし得る。
  A かかる社会的作用に属する活動をすることは会社にとっても無益無用のことではなく、企業体としての円滑な発展を図るように相当の価値と効
       果を認めることもできるから間接的に目的遂行にも必要である。 
B 災害救援金等の寄附はその適例であり、その社会的役割を果たすために相当程度の出捐をすることは社会通念上、会社としても当然であるから微塵
    も株主その他の会社の構成員の予測になるものではない。
C 以上の理由は会社が政党に寄附する場合も同様である。政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素であり、その健全な発展に協力することは社会
    的実在としての当然の行為として期待されるところであるから政党への寄附も例外ではない。
D 結論として、「会社による政治献金の寄附は・・・・・会社に対し期待ないし要請される限りにおいてなされるものである以上、会社は政治献金を
    なし得る」というのである。
(3) 参政権を認めた憲法にも反しない。従って民法90条にも違反しな   い。   
@ 企業は国や地方公共団体の施策に対し、意見の表明、その他の行動に出たとしてもこれを禁圧すべき理由はない(会社の政治活動の自由)。
  A のみならず、会社は自然人たる国民と同様、国や政党の特定の施策を支持、推進し、又は反対の政治的行為をなす自由を有するから、政治献金
       もその自由の一環である(会社の政治献金の自由)。
    B 憲法上は公共の福祉に反しない限り会社といえども政治献金の自由を有する。
(4) 取締役の忠実義務に違反もしない
@ 政党の資金はその一部が不正不当に、若しくは無益に乱費されるおそれがあるにも関わらず・・・・・その使途を限定する等の防圧の対策を講じな
    いまま漫然と寄附したのであるから忠実義務に違反すると上告人らは主張するが、そのような主張は原審において主張もなく、立証もない(政党へ
    の寄附は定款に違反し、公序に反するから忠実義務に違反すると主張しているだけで、被上告人らの具体的行為を云々するものではない)。
    よって、忠実義務違反に関する論旨は前提を欠き是認出来ない。
A いうまでもなく、取締役が会社を代表して政治献金の寄附をなすにあたっては会社の規模、経営実績、その他社会的経済的地位及び寄附の相手方な
    ど諸般の事情を考慮して合理的な範囲内においてその金額等を決定すべきであり、その範囲を超えて不相応な寄附をなすがごときは取締役の忠実義
    務に違反する。
B 原審の認定した事実に即して判断しても本件寄附は合理的範囲を超えたものとすることは出来ない。
(5) 以上の理由をつけて最高裁判決は八幡製鉄の献金(350万円の寄附)を肯定した。

2 最高裁八幡政治献金事件についての批判
(1) 政治献金は客観的・抽象的判断からすれば目的の範囲外の行為である
  @ 前記1(1)のとおり「目的遂行上必要ないか否かは行為の客観的性質に即し、抽象的に判断されなければならない」とした。
    A  行為の客観的、抽象的判断が肯定さているかつての判例はいづれも取引という社会における事象である。
    取引社会のにおいては「一見定款の目的とかかわりがない」取引行為であってもその行為は客観的にみれば営利的活動の手段である。だからこ
       の論理は妥当としたのである。
       しかし、慈善団体等への寄附とか更には政党への寄附という行為は通常の取引行為とは異質な行為である。
       即ち営利以外の利益、価値を有する団体が企業外にありこれらの利益、価値を援助応援する為になす行為であるからである。
    この論理からみると、政治献金の客観的性格に即し、抽象的に判断すれば、対価性のない(対価性が認められれば贈賄のおそれのある行為とな
       る。)一方的な会社資産の流出としての無償の利益の供与である。
  B アメリカの法律協会「コーポレート・ガバナンスの原理:分析と勧告」は無償の寄附は定款の目的の範囲外の行為に抵触するのでそれをわざわ
       ざ法律的に明示している。又、アメリカの州法には同様の内容が殆ど成文化されている(アメリカ模範会社法・北沢正啓外1名訳・22頁)
(a)  本条(b)項が定める場合を除き、会社は会社の利潤及び株主の利益を増進させるために事業活動を行うことをその目的とすべきである。
(b) 会社はその事業を行うにあたり、会社の利潤及び株主の利益がそのために増進させられない場合においても、
     イ.自然人と同様に、法が定める範囲内において行動しなければならず、
     ロ.責任ある事業活動にとり適当であると合理的にみなされる倫理上の考慮を加えることができ、並びに、
     ハ.「公共の福祉、人道上、教育上、及び慈善の目的に合理的な額の資源を充てる事ができる」という条文を入れている。
  この背景には慈善団体等への寄附は、会社の利潤及び株主の利益が増進させられないという行為の客観的性質からみて、矛盾が生じるからこの条文
    をわざわざ導入し、法律的に明確にしているのである。
  20世紀初頭の判例は、会社が公共の福祉・人道目的・教育目的または慈善目的のために支出することには否定的であったからである。
  会社の営利目的を狭くとらえたり、能力外法理(ultra Vires)を厳格に適用するとか、あるいはその両方を援用したことによる。(コーポレート
    ガバナンス アメリカ法律協会「コーポレート・ガバンスの原理:分析と勧告の研究」証券取引法研究会国際部会訳編・112頁)
C 以上のとおり抽象的、客観的にみれば、無償の寄附は会社、株主の利益と矛盾、抵触するのである。

(2) 政治献金は、社会通念上、期待・要請される行為ではない
  @ このように行為の客観的・抽象的判断のみをもってしては、政治献金は会社の目的の範囲外の行為となってしまう。その点を意識して最高裁の
        判決は、会社は社会的実在であることから、一見定款の目的とかかわりのない無償の利益の供与であったとしても、会社に、社会通念上、期待
        ないし要請されるものであるかぎり、企業体としての円滑な発展を図るうえで相当の価値と効果が認められ、間接ではあっても目的遂行のため
        に必要なものであるとして、災害援助等の社会貢献活動を具体例として引用してこの論理を導き出した。
    援資金の寄付、地域社会への財産上の奉仕、各種福祉事業への資金面での協力等の無償の利益の供与である社会貢献活動に、応分の寄与をする
       ことは社会から評価されている。これは事実である。会社がディスクロージャー誌で積極的に広報している。社会貢献活動(社会事業・文化事
       業・教育事業等)は、その特定の事業が担う利益や価値は社会の構成員が共通に肯定しうる性質のものであり、その事業の発展に社会の一般的
       利益がかかっていると評価できる事業である。社員の相互扶助に基づく私的利益に一部反してでも、社会的利益・価値を積極的に実現すべしと
       いう社会的な要請・期待のある行為であるからである。
  A 問題は政治献金がこれらの社会貢献活動と同一視できるのかという点である。最高裁判決は次の理由でこれを正当化した。
   「憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては
       到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制
       民主主義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に、政党は国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかん
       は、国民としての重大な関心事でなければならない。したがって、その健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当
       然の行為として期待されるところであり、協力の一態様としての政治資金の寄付についても例外ではないのである。」
    しかしこの最高裁判決の論旨は二重の誤りを犯している。
    第1に、特定政党への寄附という政治献金の排他性、対立性を意図的に無視していることである。即ち、政党の公的使命一般に問題を解消、政
       党全般の発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在として当然の行為として期待されるところであるとしたことである。
    しかし、本件政治献金は政党全般に議席数やそれなりの合理的基準で献金されているものではない。特定の政党の、特定の政治的立場を支持し、
        これに資金援助をなしている行為である。最高裁判決はこの点、政治献金の持つ客観的役割(原告らの2001年3月23日付準備書面第2「政治献
       金の客観的役割とその特異性」にて記載した事実)を無視して論をすすめている。
    第2に、社会貢献活動と政治献金とを全く同一視していることである。
    社会貢献活動の分野においては、社会構成員のうちに基本的な価値の対立はなく、社会の一般的利益のための出捐として承認される寄付である。
    これに対し、政治、あるいは宗教の分野においては、異なる信条が存在し、相互に対立しあう関係にある。民主主義社会は複数の相対立しあう
       信条が存在することを前提にして、いずれの信条の価値を認めるかは個々人の信条の自由に委ねている。
    従って、政治献金(当然特定の政党に対するものであるが)は社会貢献活動の分野とは異なり、社会構成員のうちに対立がある分野での特定の
       政党の利益のためになされるものである。
    また、企業から巨額の献金を受けた特定の政党は、資金力において他政党と比べて選挙等で優位に立ち、政党政治の健全な発展どころか、かえ
       って歪める結果も招来する。
       最高裁判決は、特定の政党への政治献金を慈善団体等への寄附と同視し、更に特定の政党への寄附を無視して、政党一般への寄附であると論理
       をすりかえたのである。
  B 企業体としての円滑な発展をはかるうえに相当な価値と効果も認められない
    最高裁八幡判決は、定款の目的の範囲内の行為についての要件として、社会通念上期待・要請される行為との理由に付加して社会的作用に属す
       る活動をすることは、企業体としての円滑な発展をはかるうえに相当な価値と効果を認めうるから、これらの行為もまた、間接ではあっても目
       的遂行上必要なものであることを妨げないとの理由を述べている。
    しかし、どのような価値と効果を認めうるものであるのかについての説示はなされていない。災害救助・地域社会への奉仕、福祉事業への寄付
       等については既述したとおり、社会構成員のうちに基本的価値の対立はなく、社会の一般的利益に沿うものとして、その行為は社員並びに社員
       になろうとする者を含む社会構成員から積極的に評価される。
    従って、その行為により企業としてのイメージアップを図ることができ、その企業活動を円滑に発展させるにつき相当な価値と効果を認め得る
       と言える。だからこそ、ディスクロージャー誌やマスコミのコマーシャルで社会に広報しているのである。
    これに対し政治献金は、献金を受ける特定の政党の支持者以外の多数の社会構成員にとってはその意思にそぐわないものであり、マイナスの評
       価しか受けず企業としてはその事実が明らかになることはイメージダウンになる。だからこそ、世の企業は特定の政党への政治献金をしている
       ことを広報するどころか、それを明らかにすることを極力回避している。
    このように社会貢献事業と政治献金とを比べると、前者はそれを企業がなすことが社会的に積極的に評価されるのに対し、後者はそれをなすこ
       とは弊害をもたらすものとしてマイナスの評価がなされる。
    社会貢献活動が企業にもたらす円滑な発展を図るうえに、以上に述べた相当な価値と効果を認められるのに対し、政治献金にはそのような価値
       と効果を認めることができない。

(3) 前記1、(3)の公序違反については原告の2001年3月23日付最終準備書面に述べたとおりであり、(4)の忠実義務違反については後に反
       論する。

3 自民党への政治献金は現在にておいては尚更、社会から期待ないし要請されていない
(1) 市場主義を党是とする政党に対立する政党は存在しない
    当時の政治状況と政党の状況の相違は2001年3月23日付最終準備書面のとおりである。
  @  自由民主党は自由主義経済体制を擁護し、社会党は党網領で社会主義を、共産党も民主主義革命を経て社会主義から共産主義への網領をもっ
    ていた時代であった。
    当時世界の状況も米(自由主義経済)ソ(社会主義経済)との体制をめぐる争いであった。
    なお、この当時の自民党の得票率は57.8%であり、過半数以上に支持されていた(甲29号証の2)。
    この当時、共産党はともかく自民党は財界から、社会党は労働組合から献金を受け、それによって政党の財政が支えられていたことは事実で
    ある。
  A 1989年ベルリンの壁は崩壊し、ソ連という国家もその後、消滅した。戦後政治を支配していた米ソ対立、即ち自由主義体制対社会主義の
    対立は基本的に消滅し、自社対決といわれていた社会党も1990年3月党規約から社会主義革命を削除し、西欧型の社会民主主義に路線を
    転換した。国内での政治上の社会主義か自由主義かとの対立は解消した(甲29号証の4)。
    そして我が国の政党も多様化していった。1990年代に入り自民党と社会党が連立する時代に至った(公知の事実)。
    いずれの政党も議会制民主主義を前提とし、市場主義経済体制を前提としての中での政治方針や経済政策、社会政策の相違でしかなくなった。
        日本生命の石 証人は、原告代理人の「今国会に議席を持っている政党で議会制民主主義を否定している政党はないでしょう」との質問に、
    証人「ないと思いますが」とこれを肯定している(同証人調書 25頁)。
    住友生命の吉野証人も「現在の政党の中で自由経済体制を主張している政党についてお聞きします。自民党は当然主張していますね。」
    証人「自民党はそういう考えです。」と以下我が国の政党について市場主義を党是としていることを認めている(同証人調書 8頁)。

(2) 経済団体ですらも必ずしも企業献金を期待要請していない
    経済同友会は、1998年4月20日に「経済界と政治の新たな関係の構築」と題する提言をした。
      上記提言では、「政官業の鉄のトライアングルという言葉で象徴される利益誘導政治の問題が指摘されて久しいが、政治資金がその媒体にな
    りやすいことは否めない。」「政治資金の問題は、まず支出の検証により、政治資金構造が解明され、国民の納得を得ることが重要である。
      そのためには政治資金の情報公開のあり方を改め、国民による監視が可能な状況を創り、政治家に可能な限り支出を削減する努力を促すこと
    が必要である。
     そして同時に、政治資金への国民の更なる理解を促すため、使途制限と監視体制について議論が開始されなければならない。」
    「現状、政治資金の支出については、一定金額以上のものについては費目別に、支払先、目的、及び金額が報告されているが、個々のデータ
    の羅列であり情報量が膨大で纏まりがないため、全体として何のためにどう資金が使われているのかがわかりにくい。」と述べるとともに、
    「かつて企業献金は、革新政党の目指す社会主義体制から市場経済を守るために、保守政党を政治資金の面で支援するといった点で正当性を
    持つとされてきた。しかし、冷戦構造の崩壊後、政治状勢が大きく変化した現在では、市場経済を維持するための政治献金という大義名分は
    失われつつある。」として、情報公開のない下での企業献金と、被告の主張する自由経済体制維持のための献金への疑問を呈している。経済
    界からも企業献金は期待要請されているとも評価されない。

(3) 国民の自民党に対する支持率からみても社会から期待、要請されているとは思われない
    八幡政治献金事件の当時の自民党の選挙における支持率は50%を越え、60%前後となっていた(甲29号証の2)。
        しかし、自民党は政党の中では相対的に大きな政党ではあるが、最近の自民党の選挙における支持率は20〜30%前後である(甲30号証)。
    マスコミも「東西対立という冷戦構造の崩壊と共に国内政治面での保革の越えがたい溝が急速に埋まりつつある」(甲9号証の3)「自由主
    義経済体制を守るためという政治献金の大義名分が失われた今、献金を維持する論理はどこにあるのか」(甲9号証の4)と述べている。
    マスコミが上記のような社説で主張するように、企業の政治献金は多くの国民から期待ないし要請もされていないことを如実に示している。
  
(4) 政党の側からみても企業献金の必要性は不存在である
      政党助成法成立以前は自民党の収入の大半は国民政治協会からの献金によって支えられていた。その後1995年に政党助成法が施行された。
    1995年から1998年まで、各党に対する政党助成金は甲24号証の3のとおりである。自民党を除く大多数の政党は、上記助成金によ
    って基本的には政党が運営されている。組織活動費(甲5号証の1、2、3・甲23号証)と飲食代金等を除外すると、自民党も基本的には
    その助成金で運用されている(甲31号証の1、2、3)。
        少なくとも企業献金が存在しないからといって、自民党の財政の基本的部分が維持されないことにはならない。
    逆に、自民党も「組織活動費」を除外すると基本的には政党助成金と個人献金によって維持されている(甲2号証の3)。自民党の組織活動
    費は他党に比べて何十、何百倍の金額が多い。この組織活動費が実質、財界が献金する額に匹敵する(甲32号証3枚目参照)。そしてこの
    組織活動費なるものはその使途はアングラマネーと化している(甲7号証の1、2・甲8号証)。
       以上のとおり、政党助成法についての考え方はともかく現実に前記のとおりの多額の金が支給されている以上、企業が政党に献金する必要性
    は不存在である。あとは、政党の自助努力に委ねるべきであり、企業が政党、それも特定の政党に献金する必要性はきわめて乏しくなる。こ
    の点からみても、企業献金が政党一般から期待ないし要請されているとはいえない。

(5) 結論
        よって、最近では自民党への献金は社会から期待もされていないし要請もされていない。

第2 八幡献金事件以降の政治献金に関する最高裁判決の検討
   八幡献金事件は時代の変化によりもはや現在では通用しない論理となっている。仮に認めるとしても営利を追求する通常の事業会社のケースで
   あり、それ以外の法人・団体には適用すべきではない。現に以下の最高裁判決は八幡献金事件の論旨を実質上採用していない。
1 国労広島地本献金事件(昭和50年11月28日最高裁判決)
(1) 上記最高裁判決の政治活動、政治献金で述べている点を整理すると次のとおりである
  @ 労働組合の組合員は、組合の構成員として留まる限り、組合が正規の手続に従って決定した活動に参加し、また、組合の活動を妨害するよう
    な行為を避止する義務を負うとともに、上記活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務を負うものであるが、これらの義務(以下「協力
    義務」という)は、もとより無制限のものではない。
  A 労働組合の活動の範囲が広く、かつ弾力的であるとしても、そのことから、動労組合がその目的の範囲内においてする全ての活動につき当然
    かつ一様に組合員に対して統制力を及ぼし、組合員の協力を強制することができるものと速断することはできない。
    労働組合の活動が前記のように多様化するにつれて、組合による統制の範囲も拡大し、組合員が一個の市民又は人間として有する自由や権利
    と矛盾衝突する場合が増大し、しかも今日の社会的条件のもとでは、組合に加入していることが労働者にとって重要な利益で、組合脱退の自
    由も事実上大きな制約を受けていることを考えると、労働組合の活動として許されたものであるというだけで、そのことから直ちにこれに対
    する組合員の協力義務を無条件で肯定することは相当でない。
  B  一般的にいえば、政治的活動は一定の政治的思想、見解、判断等に結びついて行われるものであり、労働組合の政治的活動の基礎にある政
    治的思想、見解、判断等は必ずしも個々の組合員のそれと一致するものではないから、もともと団体構成員の多数決に従って政治的行動をす
    ることを予定して結成された政治団体とは異なる労働組合としては、その多数決による政治的活動に対してこれと異なる政治的思想、見解、
    判断等をもつ個々の組合員の協力を義務づけることは、原則として許されないと考えるべきである。かかる義務を一般的に認めることは組合
    員の個人としての政治的自由、特に自己の意に反して一定の政治的態度や行動をとることを強制されない自由を侵害することになるからである。
  C これに対し、いわゆる安保反対闘争のような活動は、究極的にはなんらかの意味において労働者の生活利益の維持向上と無縁ではないとして
    も、直接的には国の安全や外交等の国民的関心事に関する政策上の問題を対象とする活動であり、このような政治的要求に賛成するか反対す
    るかは、本来、各人が国民の一人としての立場において自己の個人的かつ自主的な思想、見解、判断等に基づいて決定すべきことであるから、
    それについて組合の多数決をもって組合員を拘束し、その協力を強制することを認めるべきではない。もっとも、この種の活動に対する費用
    負担の限度における協力義務については、これによって強制されるのは一定額の金銭の出捐だけであって、問題の政治的活動に関してはこれ
    に反対する自由を拘束されるわけではないが、例えそうであるとしても、一定の政治的活動の費用としてその支出目的との個別的関連性が明
    白に特定されている資金についてその拠出を強制することは、かかる活動に対する積極的協力の強制にほかならず、又、上記活動にあらわさ
    れる一定の政治的立場に対する支持の表明を強制するにも等しいものと言うべきであって、やはり許されないとしなければならない。
  D 政治意識昂揚資金について
    上記資金は、総選挙に際し特定の立候補者支援のためにその所属政党に寄附する資金であるが、政党や選挙による議員の活動は、各種の政治
    的課題の解決のために労働者の生活利益とは関係のない広範な領域にも及ぶものであるから、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持す
    るかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的
    に決定すべき事柄である。
     従って、労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが(最高裁昭和3
    8年(あ)第974号、同43年12月4日大法廷判決・刑集22巻13号1425頁参照)、組合員に対してこれへの協力を強制すること
    は許されないと言うべきであり、その費用の負担についても同様に解すべきことは、既に述べたところから明らかである。

(2) 八幡政治献金事件における政党への献金は「社会から期待ないし要請される」行為であるという論旨は採用されていない。
  @ 本判決の上告理由書をみると、前記八幡政治献金事件の最高裁判決を引用し、労働組合も「社会等の構成単位たる社会的実在」であり、政党
    への資金の拠出が「社会通念上、期待ないし要請されている」のに会社と組合を不平等に取り扱うことは判例違反として縷々述べている。
    しかし、本判決はこの論旨を採用せず、組合の目的等からみて政治献金を許さないとした。労働組合は企業と同じように社会的実在であるこ
    とは争いがない。企業に政治献金が期待ないし要請されているという論理からすれば、組合も別の政党から寄附ないし要請されていることも
    社会的な現実である。
    企業と組合に特別差別をつける理由は八幡政治献金事件からみても本来つけ得ない筈である。
    以上の国労最高裁判決の論旨からすると八幡政治献金事件における政治献金は「社会から期待ないし要請される」という論旨は排斥されている。
  A  被告は本件事件は強制徴収した点のみをとらえ、それが違法とされたことのみを主張しているが、それはこの判決の全体をみておらず、正し
    くはない。
    思想、信条が異なる構成員が当然予定されている団体内において、その団体が政治活動をすることや政党への寄附をすることが権利能力の範
    囲外としているのである。もし、強制徴収の点が違法というなら、組合の権利能力の範囲内かどうかが議論するまでもなく、その徴収行為が
    組合員の思想、信条に抵触し、それを強制する決議であるという理由で違法、無効と判断すれば足りた筈である。それをしないで政治活動や
    政党への寄附は組合の規約の目的外としている事実は、八幡判決の論理は本判決により事実上崩されてしまっている。

2 税理士会政治献金事件(平成8年3月19日最高裁判決)
(1) 原審(福岡高裁)は次のとおり判断した 
  @ 税理士法49条の12の規定や同趣旨の被上告人の会則のほか、被上告人の法人としての性格にかんがみると、被上告人が税理士業務の改善
    進歩を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度の確立を目指し、法律の制定や改正に関し、関係団体や関係組織に働きかけるな
    どの活動をすることは、その目的の範囲内の行為であり、上記の目的に沿った活動をする団体が被上告人とは別に存在する場合に、被上告人
    が上記団体に上記活動のための資金を寄附し、その活動を助成することは、なお被上告人の目的の範囲内の行為である。
  A 南九各県税政は、規正法上の政治団体であるが、被上告人に許容された前記活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その
    政治活動は、税理士の社会的、経済的地位の向上、民主的税理士制度及び租税制度の確立のために必要な活動に限定されていて、上記以外の
    何等かの政治的主義、主張を揚げて活動するものではなく、また、特定の公職の候補者の支持等を本来の目的とする団体でもない。
    本件決議は、南九各県税政を通じて特定政党又は特定政治家へ政治献金を行うことを目的としてされたものとは認められず、また、上告人に
    本件特別会費の拠出義務を肯認することがその思想及び信条の自由を侵害するもので許されないとするまでの事情はなく、結局、公序良俗に
    反して無効であるとは認められない。
  B 本件決議の結果、上告人に要請されるのは5000円の拠出にとどまるもので、本件決議の後においても、上告人が税理士法改正に反対の立
    場を保持し、その立場に多くの賛同を得るように言論活動を行うこことにつき何等かの制約を受けるような状況にもないから、上告人は、本
    件決議の結果、社会通念上肯認することができないような不利益を被るものではない。

(2) これに対し最高裁はこの原判決を破棄した。その論理を整理すると次のとおりである。
  @ 税理士会が政党などの規正法上の政治団体に金員の寄附をすることは、たとい税理士会に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現する
    ためのものであっても、法49条2項で定められた税理士会の目的の範囲外の行為であり、上記寄附をするために会員から特別会費を徴収す
    る旨の決議は無効であると解すべきである。
  A 八幡政治献金事件があるが、税理士会は会社とはその法的性格を異にし、その目的の範囲については会社と同一に論じることが出来ない。 
    この立場から税理士会の法的性格を検討し、目的の範囲も会社のように広範なものと律するならば法の要請する公的な目的の達成を阻害する
    として八幡政治献金事件の論旨を採用しなかった。。
  B そして、税理士会が前記のとおり強制加入の団体であり、その会員である税理士に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、
    その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条との関係で、次のような考慮が必要であるとした。
     イ.税理士会は、法人として、法及び会則所定の方式による多数決原理により決定された団体の意思に基づいて活動し、その構成員である会員
    は、これに従い協力する義務を負い、その一つとして会則に従って税理士会の経済的基礎を成す会費を納入する義務を負う。しかし、法が税
    理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有するものが存在することが当然
    に予定されている。したがって、税理士会が上記の方式により決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務
    にも自ずから限界がある。
      ロ.特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄附をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が
    市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。なぜなら、政党など規正法上
    の政治団体は、政治上の主義若しくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄附を含む広範囲な政治活動をすることが当
    然に予定された政治団体であり(規正法3条等)、これらの団体に金員の寄附をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持す
    るかに密接につながる問題だからである。
   ハ.税理士法は、49条の12第1項の規定において、税理士会が、税務行政や税理士の制度等について権限のある官公署に建議し、又はその
    諮問に答申することができるとしているが、政党など規正法上の政治団体への金員の寄附を権限のある官公署に対する建議や答申と同視する
    ことは出来ない。
  そうすると、前記のような公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を
  義務づけることはできないというべきである(最高裁昭和48年(オ)第499号、同50年11月28日第3小法廷判決・民集29巻10号1
  698頁参照)。
ニ.税理士会がそのような活動をすることは、法の全く予定していないところである。税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄附を
  することは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法49条2項所定の税理士会の目的の範囲外の行為と
  言わざるを得ない。
ホ.原審は、南九各県税政は税理士会に許容された活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その活動が税理士会の目的に沿った活
  動の範囲に限定されていることを理由に、南九各県税政へ金員を寄附することも被上告人の目的の範囲内の行為であると判断しているが、規正法
  上の政治団体である以上、前判示のように広範囲な政治活動をすることが当然に予定されており、南九各県税政の活動の範囲が法所定の税理士会
  の目的に沿った活動の範囲に限られるものとはいえない。因みに、南九各県税政が、政治家の後援会等への政治資金、及び政治団体である南九税
  政への負担金等として相当額の金員を支出したことは、原審も認定しているとおりである。
(3) 本判決を整理すると次のとおり要約できる。
@ 八幡政治献金事件は営利を目的とする会社であり、税理士会はその目的の範囲について会社と同一に論じることは正しくない。
  その団体の法の趣旨からその範囲を検討すべきとしていることである。
A 税理士会は強制加入団体である。しかし、前記(2)Bに述べるイないしホの論旨は、必ずしも強制加入団体にのみ適用される論旨ではなく、そ
  の他の団体に適用又は準用されるべき論旨である。少なくとも他の団体の政治献金を考慮する際の審査基準や考慮事情、解釈基準となり得るもの
  である。
  その点で、本最高裁判決の論旨は、税理士会という強制加入団体の会費の強制徴収という限定的側面だけを片面的にとらえる考え方で正しくはな
  い。以下、具体的に検討してみる。
   イ.税理士会は多数決原理により、団体の意見に基づき活動する。その場合、会員はそれに従い協力する義務を負う。
     しかし、税理士会は強制加入団体である以上、その構成員には種々な思想、信条を有する者が存在する。その為に会員に要請される義務に
  も自ずから限界があるという論旨である。
  この論理は強制加入団体に限らない。一定の目的を持って多数集まる団体には不可避な事象である。保険という相互扶助を目的に結合した保険会
  社の場合もその社員の多さからみれば、税理士会と桁が違う大きさである。
  確かに保険への加入は自由であり、脱退も形式的には自由である。
  しかし、この形式論でいえば労働組合も同様である。だが、「事実上脱退」が困難な労働組合については、前記国労事件の場合はこの形式論を採
  用していないことに注目すべきである。更に保険契約は後に述べるように「生活保障機能」の為に容易に脱退することは不可能である。
   ロ.団体の政党等への寄附は選挙における投票の自由と表裏を成すものであり、個人の思想、信条に委ね、自主的に決定すべき事柄である。こ
  の論旨も強制加入団体であるから必然的に生じるという行為でもない。団体が団体の意思決定で寄附をする以上、当然に構成員の個人の思想、信
  条と密接につながっている事柄であるからである。
   ハ.税理士会の税務行政について制度上の決議をする権利を有していること(政治活動の自由)と政党等への寄附は同視することが出来ないと
  した。この論旨も強制加入団体と因果必然に結びつく問題でもなく、団体が対外的に活動できること(法的に禁止されていないこと)と社内的な
  構成員の意思に合致するかどうかとは厳格に区別すべきことであるからである。このような論理は、団体一般に共通して存在する問題である。
   ニ.団体の活動目標と献金の受入先の団体の目標とが一致していたとしても、政治資金規正法上の政治団体である以上、広範囲な政治活動をす
  ることが予定されており、その団体の活動目標の範囲に限らないという論旨も同様である。
     被告らは保険事業の安定的基盤という目的で献金したとしても、それを受け入れる政党(自民党)はその範囲で政治活動をするものではな
  い。この論旨は本件の場合の重要な解釈基準となる。 
   
3 結論
  この最高裁八幡政治献金判決は、この裁判に関与した岡原裁判官によるといわゆる「助けた判決」として論理整合性がないことを自ら認めている。
  後の2件の最高裁判決が、労働組合も税理士会の寄附も「権利能力の範囲外」と言わずに、権利能力の範囲内であるが、しかし強制して徴収する
  ことのみについて義務がないと判断すべきであったのにそれをしないで、両法人について権利能力の範囲外としたのは多数の会員で構成される団
  体の政治献金はそもそもその性格上認められるべきでないという判断をしたからに他ならない。
    最高裁八幡政治献金事件の論理は、後の2件の最高裁判決によりもはや変更されているか、又は極めて限定的意味しか有しないものとなっている。

第3 保険業を営む相互会社(社団法人)の特殊性
1 生命保険の国民的広がりの事実
(1) 我が国の生命保険は国民の多数の中に深く根ざしている(甲36号証)
  @ 生命保険の我が国における世帯加入率は、別紙のとおり極めて高水準である。この20年間90%を越えている。民間の保険の加入者もほぼ
    80%を前後の高率である。ちなみに我が国の人口、世帯数は平成12年3月31日現在の自治省の調査によると
    人 口   約1億2,607万
    世帯数          4,741万
    となっている(甲38号証)。
    全生保で92%とすると約4,362万世帯が加入し、民間保険で80%の世帯数が加入しているとすれば、約3,793万の世帯が保険に
    加入していることになる。
    一世帯あたりの平均加入件数は全生保平均で4.6件となっており、民間保険レベルでは3.1件となっている。
    そうすると、我が国の国民が全生保では2億65万件、民間保険で1億1,758万件、加入している計算になり、膨大な国民が保険契約を
    していることを示している。。
  A 世帯主の普通死亡保険の保険金額は4,141万円である(甲36号証・12頁)。
    一世帯あたりの年間払込保険料は61万円であり、世帯年収の10%前後となっている(同16頁)。
(2) 生命保険等が上記のとおり高率であり、国民に深く根ざしている背景には保険の持つ特質がある
     生命保険の役割は保険需要者が持つリスク(死亡、病気、介護等)を除去又は軽減し安心を得ることを目的としている。
    この結果、国民が抱いているリスクのうち世帯主の死亡についての考え方は、前記調査によると別紙のとおり必要生活資金は7,126万円
    であり、約7割の人が万一の場合の生活資金に対して不安感を抱いている。そして将来のリスクに対応できる資産として生命保険が最も大半
    の国民の生活保障となっている。
    これをみると将来の生活保障に対して国民が生命保険に期待せざるを得ない現実を示している。
(3) 国民の多くが生命保険等の将来の生活保障機能に対して期待せざるを得ない現実が、それからの脱退を事実上不可能にしている。
    通常の事業会社の株主は上記の保険ほど、国民に深く根ざしていない。そして、株式にそれ程将来の生活保障機能を求めていない。株式投資
    は極めて営利性の側面が強いが、生命保険は将来の生活保障機能を有している以上、そこからの脱退は極めて困難である。

2 保険業を営む相互会社に対する法的規制
(1) 生命保険事業は多数の契約者から保険料を徴収し、これを安全かつ有利に運用管理し、保険事由が発生した場合に保険金を支払うことを業と
  している極めて公共性の高い事業(保険業法1条)である。
  国家による保険監督の方法としては、伝統的に形式的監督主義と実体的監督主義の二つに大別されてきた。
  形式的監督主義は、さらに公示主義と準則主義に分けられる。公示主義は保険会社の事業成績など一定の事項を公示させて契約者や一般公衆の判
  断に委ねるもので、準則主義は保険事業の開始及び継続について一定の準則を定めて、その遵守を国が監督するものであるとされる。この形式的
  監督主義は、保険市場の自律調整機能、保険会社の自主規制に期待し、自由主義経済を基調とする立場である。
  一方、実体的監督主義は、監督官庁に広範な権限を与えて、保険事業の開始から業務運営、そして経営不振会社に対する最終的整理、統合に至る
  事業経営のあらゆる段階において監督を行うものである。これは現在、我が国でもこの方式が採られている。
  その点で株式会社が準則主義をとる点で同じ法人でありながら根本的に異なる。

(2) 規則の内容
  @ 免許制
        業務の公共性に鑑み、免許制が採用されている(第3条)。
        一般の株式会社の設立と異なる。
  A 目的・業務
   イ.保険業法により行う保険会社の業務は、次のaからcである。
      a 固有業務(第97条)
           固有業務として保険の引受に加えて、資産の運用が規定されている。しかもその資産運用も制限を受けている(97条の2)。
       b 付随業務(第98条)
           固有業務に附随する業務を行うことができ、以下の事業が例示されている。
           ・他の保険会社の業務の代理または事務の代行
           ・債務の保証 等々
       c 法定他業(第99条)
           固有業務、付随業務に加え、固有業務の遂行を妨げない限度において次の法定他業を行うことが出来る。
           ・社債などの募集又は管理の受託
           ・公共債ディーリング
   ロ.保険会社は保険業法その他法律により行う業務のほか、他の業務を行うことが出来ない(第100条)。
     ハ.一般の株式会社がどのような目的を掲げて業務をするかが法令に違反しない限り、全く自由と著しく異なる。
  B 業務規制等
   イ.保険商品・料率の認可、届出
         保険商品・料率については、原則は認可が必要である。但し、保険契約者等の保護に欠けるおそれが少ないものとして総理府令・大蔵省令
     で定められる特定の商品・料率については届出でよい(第123条)。なお、届出の場合、保険会社は原則90日経過後、届出事項を実施
     できる(第125条)。
     ロ.資産運用規制
        資産の運用方法、資産の運用割合の制限が総理府令・大蔵省令で定められており、保険会社がこれに従う(第97条、第97条の2)。
      ハ.行政監督権
       a 報告徴収権
           金融再生委員会は、保険契約者などの保護を図るため必要があると認めるときは、保険会社に対し業務又は財産の状況に関し報告又は資
       料の提出を求めることが出来る(第128条)。
       b 立入検査権
           金融再生委員会は、保険契約者などの保護を図るため必要があると認めるときは、当該職員に保険会社の営業所、事務所などに立ち入ら
      せ、帳簿書類などを検査させることができる(第129条)。
    c 一般的監督権
           金融再生委員会は、保険会社の業務又は財産の状況に照らして保険契約者などの保護を図るため必要があると認めるときは、当該保険会
       社に対し業務の全部もしくは一部の停止、財産の供託、その他監督上必要な措置を命じることができる(第132条)。
       d 早期是正措置制度(1999年改正分も含む)
           保険会社の保険金支払い能力に関し導入された制度で、金融再生委員会はいわゆるソルベンシー・マージン比率が200%未満の会社に
      ついて、各区分毎に以下の是正措置を命じることができる。
          ・第一区分(ソルベンシー・マージン比率 100%以上200%未満)
                                ・・・・・経営改善計画の提出及び実行  ・第二区分(ソルベンシー・マージン比率 0%以上100%未満)
               ・・・保険金等の支払能力に係る計画の提出及び実行等
          ・第三区分(ソルベンシー・マージン比率 0%未満)
                            ・・・・・業務の一部または全部の停止
   ニ.経営危機対応制度
         保険会社が経営危機に陥った場合の救済策等である。
    ホ.保険の募集
     これについても法275、276条、282条、300条等の種々の規制を実施している。
  C 剰余金の分配の制限
        基本的には契約者に帰属するという立場から規制している。
        これは通常の事業会社や業務規制がある銀行もと著しく異なる点に注意すべきである。これについては次の項で述べる。
(3) 相互会社は営利性を追求しない社団法人である
      以上の法的規制は保険事業からくる特殊性によるものであるが、更に相互会社は商法52条2項(営利性)は準用されていない(法21条)
    から通常の株式会社と著しく異なる。これ程異なる法人を通常の営利法人である事業会社と同一に論じることは出来ない。

3 本件政治献金の金は契約者から直接徴収した金である
(1) 本件政治献金の原資は保険契約者の保険料から支出されている
  @ 被告らの説明によると本件政治献金はいずれも「事業費」から支出している(日生・乙7号証2頁2(3)、住生・平成12年9月8日付準備書
    面3頁1、2)。
  A 事業費は直接契約者から徴収した金である。生命保険協会発行の「生命保険総論」によると事業費について次のとおり説明している(項12
    号証の5、55頁以下)。長くなるが引用する。
      「保険金の支払いに充てる予定の保険料(予定どおりの死亡率、利回りが実現すると過不足なしというのが純保険料)だけでは保険事業を運営
    していくことはできない。保険事業を運営していくためには、契約を募集する営業職員をはじめ契約の維持そのほかの職務に従事する従業員
    への給与などの人件費、事務所やコンピュータ、事務用品などに関する物件費等いろいろの経費が必要となる。そこで、これら事業経営に必
    要な諸経費を契約者に一部ずつ負担してもらう必要が生ずるのである。
    これら諸経費に充てる予定で純保険料に上乗せする、つまり付加する分(保険料)を付加保険料という。そして、純保険料にこの付加保険料
    を加えたものが営業保険料である。保険会社が保険業を営業する上で必要な保険料であるからである。」
        即ち事業費部分に相当する付加保険料は契約者が直接負担した金である(甲12号証の5、58頁の説明図をみれば一目瞭然である)。  な
    お、この事業費は
     「それは一般金融機関、例えば銀行のように資産運用成果から補填するレベルではないため、事業の運営上その費用を保険料におり込む必要が
    ある。」として銀行等の預かった資産を取締役が運用した成果でないことも強調されている(甲12号証の4、23頁)。
  B 会社の損益計算書(日生・乙21号証の1〜4、住生・乙21〜25号証)によると、保険会社の経常損益はほぼ次のとおりとなっている。
    経常収益は
          @  保険料等収入   
      A 資産運用収益
      B  その他の経常収益          
      により構成されており、
        経常費用は、
           @  イ.保険料支払い
                                          純保険料相当分
               ロ.責任準備金等繰入額       
           A  資産運用費用
             (上記収益のAに対応)
      B イ.事業費(付加保険料相当分)       
               ロ.その他経常費用(上記Bに対応) により構成されている。
        以上の損益計算書をみても本件政治献金は「事業費」から支出している以上、契約者が直接保険料名目で会社に支払った金である。
  C 会社の予定事業費の中に政治献金を会社は予め含め徴収している。会社は国民政治協会等に設立当時から加盟している。そして毎年毎年、相
    当額の政治献金を継続的にしている。1995年迄は日生が約5,000万〜7,000万円、住生は3,000万〜5,500万円を献金
    していた。1995年以降は、日生は1,800万円前後、住生は900万〜1,500万円についてはほぼ献金している(甲17号証)
    生命保険契約は30〜40年の長期スパンであるからこれまでの間、会社が政治献金を継続的にしていることからみると、予定事業費の中に
    この政治献金分を当然必要事業費として組入れしている計算になる。
  D 政治献金をしていることを隠している
        前記国労事件、税理士会事件は政党に献金することを明示して徴収しようとしている。毎年毎年、会社は政治献金しているのであるから、毎
    年毎年契約者に開示して1円か2円ではあるが徴収しようとすると社員の反発は必至である。
        しかし、会社の場合はそのような事実を社員に開示せず徴収していることからみると国労事件、税理士会事件よりむしを悪質である。
        なお、保険料の中の政治献金分を万一1円でも2円でも払われないとなると保険契約は解約される。
    その点では政治献金相当分は強制的に徴収されていることになる(むしろ、欺罔して「任意」に交付している外形が存在するだけである)。

(2) 保険会社の剰余金の性格
  @ 仮に資産運用収益等から政治献金をしたとしてもそれは契約者に帰属する金である。
    生保協会発行の「生命保険総論」(甲12号証の7)は剰余金について次のとおり説明している。
   「生命保険契約の保険料は保険期間を通じての死亡率(死亡者の生ずる割合)、利率(積立金の運用利回り)、事業費率(事業運営経費)をあ
    らかじめ予定して計算されている。そして、これらの計算基礎について予定と実際とが一致するときには、保険料に過不足が生じないように、
    つまり生命保険会社の収支に利益(剰余)も損失も生ずることのないように設計されている(収支相当の原則)。」
        しかし、現実には安全目に上記率を計算しているので、剰余金が発生する。
      「このように生命保険会社の決算によると剰余金の大部分は、保険料の計算基礎を安全に設定していることによって通常、必然的に生ずるも
    ので、一般企業の利益金(利潤)とは性格が異なっている。剰余金の源泉が本来、契約者から払い込まれた保険料にあることからして、剰余
    金の大きさにもよるが、経営形態のいかんを問わずその大部分は契約者に返還されるべき性質のものである。そしてこの返還されるものが契
    約者配当金である」(128〜129頁)
  A 剰余金の処分
        以上の剰余金の性格からみて一般の株式会社である利益配当と著しく異なった形で分配すべく法律上義務づけられている。
    営利を追求する株式会社であると利益配当金に関する規制は商法288条ないし289条に定める準備金等の積立を除外した後、290条に
    定める規定に抵触しない限り、どのように株主に配当するかは株主総会の自治に委ねれている。
    しかし相互会社では前記剰余金の性格づけに厳しい法律上の規制をしている。損益計算書面では「当期剰余」は「前年度繰越剰余金」ととも
    に「当期末処分剰余金」として経理される。そして、総代会における「剰余金処分に関する決議書」によって、社員配当準備金および社員配
    当平衡積立金等への繰り入れがなされ、残額の差引純剰余金が社会福祉事業助成金などとなり、残額が次年度へ繰り越される。 
      社員配当準備金等への繰り入れについては、保険業法第58条において、法律上義務づけられている。即ち、剰余金から基金利息、損失てん
    補準備金及び基金償却積立金への繰入額等を控除した金額の一定比率以上積み立てることを定款に定め、その比率が総理府令・大蔵省令で定
    める比率(施行規則第29条により80%とされている)を下回ってはならないことが定められている。
    このようにして、積み立てた社員配当準備金から約款に定めた方法に従って契約者への配当金が義務づけられているのである。
    以上のとおり、剰余金も契約者に法律上も分配づけられている性格の金であり、株式会社での株主配当とその質において異なる。
    なお、法人税法上、相互会社の剰余金の分配は利益処分でないので、法人の「損金」として処理されていることはこれを裏付けする(法人税
    法60条参照)。

(3) 以上のとおり、会社の資産は社員が保険料として保険保護を受ける為の資金として払い込んだものである。会社が自民党に献金した金は会社
    が契約者から保険料(付加保険料)として直接、徴収した金である(又剰余金だとしても契約者に帰属する金である)。
     その点で、株式会社が株主から預かった資本を運用して得た金から政党に献金した金とその性格が基本的に相違する。

第4 八幡政治献金事件における取締役の注意義務違反の内容とその限界
1 八幡政治献金事件において最高裁は次のとおりの取締役の注意義務の内容(審査基準)を示した
(1)「取締役が政党等に献金するにあたっては、その会社の規模、経営実態その他社会的経済的地位およびその寄附の相手方等、諸般の事情を考慮
   して合理的な範囲内においてその金額等を決すべきであり、その範囲を超え、不相応な寄附をなすがごときは取締役の注意義務に違反する」
(2) しかし同事件については、原告株主は政治献金は公序に違反する、定款目的違反が忠実義務に違反するとして主張しただけで、それ以外の取
   締役の具体的な注意義務について主張し、立証をしなかった。その結果、高裁、最高裁がその主張がないとして棄却した。

2 政治献金は法律の枠内であれば取締役の裁量の範囲内で、裁判所の審査が及ばないのか 
(1) 営利企業において取締役が取引行為を行う場合について、比較的取締役の裁量が広く認められている事件でもその審査基準については一定の
    歯止めがなされている。
   イ.即ち取締役の経営判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがなく、
      ロ.「意思決定の過程、内容が企業経営者として特に不合理、不適切なものと言えない限り当該取締役の注意義務違反に違反しない」
   (東京地刑平成8年2月8日セメダイン事件・商事法務144号111頁)
     最高裁八幡判決は上記の要件のうち、イの要件は欠落している。
    しかし上記のケースは企業の買収という極めて取締役の専門性、技術性にかかわる事案であり、しかも迅速性が要求される事案である。
(2)  政治献金はこのような事案ではないことは2001年3月23日付準備書面で主張し、政治献金には取締役に広範な裁量権が委ねられていないこと
    を述べた。
(3) 最高裁判決における政治献金にあたっての取締役の注意義務の内容が双方で主張し、反論しあった結果でないが故に、この判例の論旨は一般
    性を持つものとは言い難い。
    上記審査基準で述べている会社の規模、経営実態、その他社会的経済的地位、寄附の相手方、諸般の事情を考慮し合理的な範囲内で寄附をす
    るのは全くあたり前の事であって、何の基準ともなり得ないからである。
    その結果この審査基準によると結局のところ、取締役は法律の範囲内で献金する以上、いくら、どの政党に献金するかはその裁量に委ねられ
    ていることになる。
    本件の場合、宗教色の濃いと世間からみられている公明党、自民党と対局にあると世間からみられている共産党等からもし「要請」がありそ
    れらの政党に政治資金規正法の量的規制の範囲内で寄附をしたとしても許されることになる。少なくともどのような政党でも議会制民主主義
    を守り、市場主義を党是として活動する以上、保険事業の安定的な基盤の確立には役立つと言えるからである。
    そうすると会社の規模、経営実態等からみて自民党への献金なら許されるが、公明党や共産党なら「寄附の相手先」が誤っているということ
    にはならない。金額の合理的範囲内という制約も規正法上の量的範囲内であれば、何の取締役の裁量を制約する原理となり得ない。
    2,000万円だと合理的範囲内であるが、5,000万円だとその範囲を超えるということにはならない。
    政治献金という性質の行為は、通常の取引行為のように費用対効果の原理で経済人としてその金額を判断できる性質のものではないからであ
    る。この場合の金額の基準というのは、経済のルールが支配せずそれと異質の政治という基準が適用されることになるからである。 
    最高裁八幡政治献金事件の論理で寄附をするならば、100%取締役の判断に委ねられた不合理な結果をもたらすことになる。

3 八幡政治献金事件は通常の事業会社の場合であって、非営利の保険業に従事する相互会社には適用すべきではない 
(1) 前記国労事件では、八幡政治献金事件の論旨が上告理由とされたが採用されなかった。
        税理士会事件では、税理士会と会社とはその法的性格を異にする法人であり、その目的、範囲についてもこれを会社のように広範なものと解
    するならば法の趣旨を没却する結果となるとして、八幡政治献金事件の論旨を採用しなかった。
    いづれも団体の行為能力、権利能力に関する論点であったが、取締役の注意義務の内容についても同じ考え方、即ちその献金をした団体の法
    性格から考慮すべきことになる。
(2) 本件政治献金した会社は前記の述べたとおり、いづれも保険業を営む非営利法人であり、その団体について極めて厳しい法規制があり、また
    社員の脱退の自由が法形式上はあるが 、社会的、経済的には極めて困難である団体について八幡政治献金事件の法理を適用ないし準用する
    ことは正しくはない。

第5 生保会社における政治献金に対する取締役の行為の注意義務
1(1)取締役の行為に対する注意義務の内容 
  @ 取締役が特定の政党に政治献金をする時に、その取締役の行為の注意義務は次のとおりである。
    もしその取締役の行為が次の注意義務に違反すると取締役の善管注意義務に違反する。
      イ.法令(コンプライアンス)又は定款との関係で適法であること
      ロ.社員の大多数の意思に反しないこと
      ハ.社会から期待、要請されていること
      ニ.献金した金が献金目的に費消されること
      ホ.献金した場合の弊害が存在しないこと、又はその弊害があってもとるに足りないこと
  A 上記注意義務が要求される理由は次のとおりである。
          イ.法令(コンプライアンス)又は定款に違反しないこと
       これは当然のことである。しかし、法令又は定款に違反しなければ、取締役は政党への政治献金をその枠内で自由に為すことができる
       ということにはならない。法的又は定款の範囲内で会社が献金出来るということと、対内的にその献金が許されるかどうかとは別個の
       事柄であるからである。
     ロ.社員の大多数の意思に反しないこと。
              政治献金の持つ特質、即ち選挙における投票の自由と表裏をなすものであり、個人の政治的信条等に基づき自主的に決定すべき事柄
       であるからである(前記最高裁税理士会事件の判旨)。更に、保険事業において政治献金は事業費から出捐している以上、その金は社
       員から直接集めた金であるからであり、かつ社員は前記の述べたように脱退の自由は事実上拘束されているからでもある。
     ニ.献金した金が献金目的に費消されていること。
       通常の取引行為の場合は、その投下された金がどのような使途に費消されているか、当然に予測できる。社会貢献活動政治献金等の無
       償の寄附の場合はその団体に委ねる性格を有している。そうするとその金が寄附目的に費消されていない以上、全く無駄な金となるか
       らである。これは基本的に寄附という行為により必然的に要請される基準である。
     ホ.献金した場合の弊害がないこと、又はその弊害があってもとるに足りないこと。
       政治献金は受ける政党からみればプラスであるが、献金を受けない政党からみればマイナスに作用することは客観的事実である。そう
       すると、政治献金の場合は他党に対し弊害を生じているものである以上、その程度がとるに足りないものでなければならないことが要
       求される。
  B 本件注意義務のひとつでも抵触すれば、それ以外の基準を考慮することなく取締役の注意義務違反があったと解すべきである。 

(2) 取締役の注意義務の程度
  @ 以上の注意義務は取締役の行為の内容を審査する基準である。
    しかし、取締役の政治献金が上記注意義務に客観的に違反していたとしても直ちに取締役の注意義務は肯定されない。取締役としてなすべき
    義務を尽くしている以上、善管注意義務に違反しないからである。しかしこの注意義務の程度は、取締役個人がその基準に単に抵触しないと
    信じたというだけでは足りず、その信じたという事実認識に客観的でかつ相当な理由、根拠がなければならない。いわゆる経営判断原則にお
    いて前記判例等に引用されている「経営判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがない」という基準もこの場面を指していっ
    ていると思われる。
    しかし、政治献金という行為の性質上、上記のような「重要かつ不注意な誤り」でなくとも、その取締役の認識、判断に客観的でかつ相当な
    理由、根拠がない場合は、やはり取締役の注意義務に違反すると解すべきである。
    これに対し、取締役の事実の認識に客観的でかつ相当な理由、根拠がある場合には、仮に結果として上記注意義務に抵触したとしても取締役
    の注意義務は尽くされたとことになる。
A これを整理すると
     イ.法令(コンプライアンス)又は定款との関係で適法であること。
     これは、絶対的命題であるから、取締役が信じたことに客観的でかつ相当な理由、根拠があったとしても違法である。
          ロ.社員の大多数の意思に反しないと判断したことに客観的でかつ相当な理由、根拠があること。
     ハ.社会から期待、要請されていると判断したことに客観的でかつ相当な理由、根拠があること。
     ニ.献金した金が献金目的に費消されると信じたことに客観的でかつ相当な理由と根拠があること。
     ホ.献金した場合の弊害がないこと又はその弊害があっても、とるに足りないと信じたことに客観的でかつ相当な理由と根拠があること。

(3) 注意義務の程度が客観的でかつ相当な理由、根拠があることが要請される理由は次のとおりである。
  @ 第1に、政治献金の行為の特質があるから、その判断は慎重でなければならいからである。
    イ.政治献金は通常の商取引等と異なる。
           経済のルールで考慮することが出来ないからである。
       ロ.社会貢献活動とも異なる
           圧倒的多数の人々が賛同する行為でもないからである。
           必ず対立する政党が存在する。
       ハ.政治献金は個人の選挙における投票の自由と表裏をなすものであり、かつ極めて政治性が高いものであるから、個人が自主的に決定すべ
      き事柄であるからである(前記国労事件は安保反対のような政治献金、税理士会事件も政治献金はいづれも個人の政治的信条等に基づき
      自主的に決定すべき事柄と述べた)。
        以上のとおり、いづれにしても社員の思想、信条等と抵触するか、又はそれらと密接に絡む問題があるからである。
  A 第2に、政治献金の無償性である。
        政治献金は企業への見返りを期待してなすことが出来ない性質の寄附である(賄賂となる)。
        被告らの保険事業の安定的基盤の確保と主張してみても、結局のところ一定の金額を寄附したから保険事業にどのような形で貢献するのか明
    確ではない。経済ルールである費用と効果の関係が全く説明出来ない性質のものである。その点では結局のところ、無償である以上、それは
    アメリカ法律協会が前記のとおり述べているように会社、株主の利益に抵触することは明らかであるからより慎重さが求められる。
  B 第3に、本件保険契約の特殊性がある。
    イ.政治献金は事業費で支出している以上、契約者が直接保険料として負担した金であるからである(もし、支出しなければ剰余金となり大
      半は配当されるべき性質の金であるからでもある)。
        ロ.生命保険の生活保障機能が強い為にその脱退も事実上拘束されているからである。
  C 第4に、社団法人の組織からくる制約もある。
        具体的には、契約者社員が取締役の政治献金について異議等を申立する手段が制度上不存在であるからこの判断について慎重な審査等が要求
     される。
    イ.政治献金は会社のディスクロージャー紙等に一切公表されていない。社会貢献活動については会社自らが社員や社会一般に公表している。
      従って、社員は契約にあたって、又は契約後も社会貢献活動をしていることを承知している。
      「株主その他の会社の構成員の予測に反するものではない」という最高裁八幡判決も情報開示がなされている限りという限定付で肯定さ
      れる。
          しかし政治献金は会社自らは一切公表していない(当事者間に争いがない)。
          国民政治献金の収支報告者(甲21号証の1〜4)を詳細にみれば、会社が献金している事実は判明するが、しかし契約者の圧倒的多数
      に公表されているものでもない。
      この点、政治献金の事実が契約者に広く知らされていない事実は取締役の政治献金にあたってのより慎重さが求められる事情となる。
    ロ.相互会社において社員が直接、会社の社員総会に出席し、その場で発言、異議を申し立てる場はない。
          相互会社には社員総会が存在するが、社員が多数の為、総代会に代えられている(保険業法42条1項)。しかもその総代の選出方法に
      ついて法律の定めがなく、実態は会社が選任している。総代会は会社の御用機関となっており、そのあり方についての批判は厳しい。そ
      の為に一般社員が株主総会に出席して発言し、異議を申し立てする法制度は存在しないことを考慮すべきである。
      そうすると取締役は政治献金をするにあたって、より慎重に社員の意思について考慮すべきことになる。
  D 第5に、政治献金をするかどうかの判断は迅速性が要求されていない。
    被告らの説明でも要請があってから何ヶ月かの期間がある。平成9年度は要請があったのは正月明けであり、献金したのは4月である。本来
    の取引行為における経営判断のように迅速になす必要性がない。

2 取締役の注意義務違反の事実
(1) 法令(コンプライアンス)又は定款に違反しないことについて
    本件寄附については一応法律に違反する事実は存在しない。
        しかし、法律に違反しないということは刑罰をもって強制されないというだけであり、取締役の行為が注意義務に違反しないということには
    ならない。
    定款に違反しないことについては、従前から述べているとおりであり、本件献金は定款に違反する。
(2) 大多数の社員の意思に反しないという内容について
@ 住生の吉野証人は「社員の意思に反するか反しないかということは検討したことがございません」(同人調書16頁)と、そもそも検討したこと
  もないことを認めている。
  他方、日生の石証人は次のとおり証言している(同人調書32頁以下)。
   「献金するにあたって、契約者、社員の意思といのは検討したことがありますか。」 
      「具体的にどういう意見があるかということでの検討をしたことはございません。」
      「そうすると、社員の総意に献金はどういうふうにそぐうものかそぐわないものか、そういう検討はしたんですか。」
      「そのときの判断としては、それは日本生命のご契約者の利益に沿うものだということで決裁を致しました。」
    同証人は契約者の利益に沿うものだと述べながら、具体的にどのように検討したのかという質問には答えていない。
   「企業献金というのは政治的なものですから、非常に思想信条、政治的な信条、人それぞれによって違うということはお分かりですよね。」
     「そうですね。」
   「契約者の中にもいろんな考え方があるでしょうね。」
   「はい。」
   「そうすると、自民党に献金をするということを積極的に支持される方、それは自民党の支持者ということに当然なるでしょう。」
   「そうでございますね。」
   「どのぐらい契約者の中にあるというふうに検討されましたか。」
      「それは分かりかねますが。」
      「そういう検討はしたことはあるんですか。」
      「ございません。」
      「全くない。」
      「はい。」
      「社員、契約者全体の意思からすると、この献金はどういうふうに受け止められるかどうかという検討はしていないというふうに考えて
    よろしいですね。」
      「ええ、あくまでもやはりご要請に対して議会制民主主義ということの中の判断で社員にとってもそれに沿うものだというふうに考えて
    ございます。」
  A いづれにしても、これらの証人によると本件献金が具体的に、直接契約者の意志に反するかどうかということで検討したものでない。
    保険事業の安定的基盤に貢献するからひいては契約者の為になると考えたということに尽きる。
        しかしこのような判断の前提となった事実について被告らは具体的にどのような事実を考慮したかについて何ら説明しない。
    会社は20数年前から献金をしている。そうするとこの間に社員の意思に反するかどうかについてサンプリング調査等、専門会社に依
    頼して調査する方法は十分にある筈であった。その費用(といっても献金する額にも満たないが)の節約をする必要があるならば、デ
    ィスクロージャー紙の中に記載し、社員の反応等をみる機会は十分にあった筈である。又、総代会でも議論しようと思えば出来た筈で
    ある。
    しかし、会社はそのようなことをこの20数年間に何ら調査したことや社員の反応を見ることすらしなかった。とりわけ米ソ対立、社
    会主義社会が終焉し、かつ我が国の政党が全て市場主義を党是にした1990年代に入ってからでも調査すべきであった。 
       会社は上記容易になし得る調査や「試み」を何ら実施することなく、漫然と保険事業の安定的基盤の確立の為であるから契約者の利益
    になると、客観的な資料等に基づかず判断して献金をしているだけである。 その点で取締役の前記判断は、客観的かつ相当な根拠が
    あるものとは思われない。

(3) 社会から期待、要請されているかについて
@  本件政治献金は社会から期待、要請されていないことは今まで縷々述べてきたとおりであり、前記1(1)の注意義務に抵触する。
   社会から広く期待、要請されているという事について、時代によって変わるものである。政治献金は寄附を受ける政党からみれば、広く
   期待、要請されることは当然であるが、競争反対政党からは、厳しく批判されることは前記のとおり明らかである。
A  取締役はこのような政治献金の行為の性質に着目して、この要素を考慮すべきである。取締役個人がその旨信じたということだけでは足り
  ない。社会から広く期待要請されている判断の前提となる諸資料等の収集に合理的な手続がなされなければならない。
  社会から広く期待、要請されているかどうかの調査方法も専門的なリサーチ会社等に調査させれば容易にそれなりの調査をすることも可能
  である。そこまで調査しなくとも社会の反応は我が国ではマスコミを通じて社会一般の傾向が判る。
     しかし、被告らは1990年代のマスコミがどういう点を指摘して政治献金の禁止を求めているのかこれも具体的にどう考慮したのか
  その説明はない。
    もちろん、上記のようなマスコミの社説等を考慮した結果、マスコミ等の世論に反してでも政治献金をする場合もあり得るが、しかし
  被告の弁明ではその世論を考慮した後、あえてそれに反対しても献金をした理由とその考慮過程についての主張もないし、立証もない。
    吉野証人はこれを認めている。
   「会社のほうで献金するにあたって、社会がこの献金に対してどういうふうにみるかどうか、そこら辺の判断はされているんでしょうか。
  それを公にしたときに、世間がどう見るかと。」
     「世間がどう見るかということを断しながら政治献金をしたかということは、そういうことは考えておりません。」(同調書36頁)

     むしろ被告らは社会から期待、要請されているので献金していると主張もしていないのであるから、そもそも検討すらしていないこと
  は明らかである。

(4) 献金した金が献金目的に費消されているかについて
@ イ.被告らは自民党を中心とする政党への献金は、保険事業の安定的基盤に役立つという認識を有し、献金したと主張している。
  ロ.前記税理士会事件は、「規正法上の政治団体である以上、前判示のような広範な政治活動をすることが当然予定されているのであ
    るからこの献金は税理士会の目的に沿った活動の範囲に限られるものではない」と認定した。
        これと同様に、仮に被告らは保険事業の安定的基盤という目的の為に献金したとしても受け取った国民政治協会、自民党は広範な政治
    活動をしており、かつその為の諸支出をしているのであるから、この目的に沿った活動に限定されるものでもない。
      自民党は安保条約肯定、憲法改正を含む広範な政治活動を展開している。そして、選挙になればその時々の政策(例えば消費税導
    入・・・)や政権の枠組(自社、自保公・・・)につて国民の審判を仰ぐべく他の政党との違いを明らかにして国民の支持を受けよう
    としている。
    従って、その時々、会社が国民政治協会を通じて自民党に寄附したとしても会社が考える目的に費消されていないことは明らかである。
A  被告らは献金先の金が何に費消されているか、そもそも調査する意思も有していないし、又調査もしていない。
    吉野証人は、
    「住友生命が行った政治献金が、各政党においてどのような使途に使われているかは知っていますか。」
        「知りません。」
        「本件訴訟で原告は使途も分からないのに献金するのは問題ではないかというような主張をされています。この点についてはどのよう
     にかんがえますか。」
        「仮にも公党に対する献金でございます。各政党がご自分の考えの下に政治活動に使っておられるというふうに理解しております。」
    (同調書4頁)
    石 証人は
   「政治献金がどのように具体的に使われているか、その使途について具体的に調査したことがございますか。」
     「そこはございません。」
   「全くないですか。」
     「ございませんが。」
「  じゃ、自民党に献金したその献金がどのように使われているか全くご存じないわけですね。」
     「それはやはり信頼申し上げて寄附いたしておりますから、先方様が考えることだというふうに思っておりますが。
                 〜    〜    〜
              それはやはり国民政治協会のほうが一番有効な形で利用するというふうに考えてございます。
       「それを検証したことはないんですね。」
      「はい。そこまではしてございませんが。」
        「全くないんですね。」
            「してはございません。」

        いづれにしても被告らは国民政治協会、自民党を信頼しているから何に費消されているか調査していないことについて自白している。
        経済団体の意見(甲2号証)やマスコミの社説等で、使途について様々な疑問が出されているのにそれを調査しないで「公党であるか
    ら信頼した」から使途についても信じたということに客観的かつ相当な理由や根拠がない。

(5) 政治献金の持つ弊害について
  @ 政治献金は前記のとおり特定政党を応援することである。競争、反対政党からみれば敵対行為である。政治献金の直接の弊害は反対政
    党にあらわれる。
        この4年間をみても日生は8,800万円、住生で6,027万円余りである。業界では4億円を超えている。
        他方、反対党である社会党(後の社会民主党)民主党に対しては一円も寄附をしていない。
A しかし被告らはこれについては一切考慮、検討もしていない。
  石 証人は、
         「要請があるところだけに献金をするという、そういう献金のあり方から生ずる弊害があるかないか、そういう検討はしたことあり
      ますか。」
             「やはり寄附というものでございますから、ご要請があって、それに対して妥当なものかどうかを判断するというふうに考えて
        ございますが。」
         「みんな議会制民主主義を党是としてるんだったらどこにも献金しないという選択肢は考えたことはなかったですか」
              「そういう仮定の話についてはお答えできませんが。」
         「そういうことを検討したことはありますか。」
              「いえ、やはりご要請があっての検討になりますので。」(同調書35頁)

     吉野証人は、要請のある政党について献金したが、要請のない他の政党については一切考慮していない(同調書12頁)ことからする
    と、他党に対する弊害、影響について何ら考慮していない。
B  その弊害を考慮してもなお、政治献金をする必要性、有用性があるかどうかは疑わしいが、仮にその弊害を考慮した結果、献金をする必要
   性、有用性があるならば、それもひとつの経営判断であるが、被告らはそれを比較考慮し、検討して本件支出を決定した旨の主張もない
   し立証もない。
   更に、他党から要請がないというだけで、他党への献金を考慮、検討していないが、要請がない場合には政治献金の前記性質に着目して
   その弊害面も考慮して決定すべきなのにそれをしていない。

3 取締役が政治献金をするにあたっての考慮事情と上記注意義務との関係
(1) 原告は2001年3月23日付最終準備書面の第7、2、(2)において考慮事情について主張した。この考慮事情は取締役が政治献金をす
  る際に当然考慮すべき事情である。これを考慮していなければそもそも取締役としての前記注意義務の内容の審査に入ることすら必要なくなる。
(2) このような考慮事情を取締役が献金にあたって考慮していないとすれば本件献金は当然に善管注意義務違反になる。
    仮に、考慮したとしても上記注意義務について裁判所は具体的に審査する必要性が生じる。
 
4 結論
    以上のとおり本件政治献金はいづれにしても取締役の善管注意義務に違反する。

     日生、住生関連情報メニューへ戻る。