株主オンブズマン                        2002/05/13
食品企業安全問題アンケート調査結果(第一次集計)


株主オンブズマンは本年3月から4月に、食品関係の上場・店頭公開企業158社に対して、
食品の安全と表示に関するアンケート調査を実施し、4月末日現在で、100社から回答を
得た(回収率63%)。回収率を高めるために5月末日まで締切を延長し、6月初めに最終
報告を行うが、ここでは4月末日までの回答結果をもとに第一次集計を発表する。

食品の品質・安全のチェック体制と、取締役および監査役の安全上の役割に関する質問
(問1〜問4)への回答をみると、食品企業の多くが、安全・品質問題を重視していることが
うかがえる。しかし、安全担当の取締役がいる企業は81社で、12社は「いない」と答えている。
安全担当の社外取締役については、4社が「今後導入を検討する」としているものの、現に
置いている企業は一社もない。また、監査役の安全問題に関する定期的業務監査がなされ、
その結果が取締役会に報告されているかという質問に対しては、4割近くの企業(38社)が
「いいえ」と答えている。これらのことから判断すると、最近の一連の事件を契機に食品企業
の安全監視体制を強化する動きは見られるが、大きく強化されたれたとは言い難い。

消費者の苦情処理、安全(倫理・品質)に関するコンプライアンス体制の構築、社内告発制
度の導入、倫理規範の作成など(問5〜問10)については、今後に大きな問題を残している。
弁護士などを含むコンプライアンス機構を「置いている」企業は24社にすぎない。安全確保
のための倫理規範・行動基準を「作成している」企業は半数(51社)にとどまる。社内告発者
保護制度が「ある」と答えた企業は9社しかない。また、「置いている」「作成している」「ある」
と答えた企業のなかにも、名称や添付資料からみて、それらが実体をともなっているとは認
めがたい企業が少なからずある。

安全問題で予期せざる重大事件が発生した場合の消費者や株主への説明に関する質問、
(問11〜問12)では、消費者に対しては「マスコミに発表する」が「日刊紙等におわび広告を
出す」と並んで多く、株主に対しては「次回の定時株主総会で説明する」が最も多く、ついで
「日刊紙等におわび広告を出す」が多い。

安全問題で不祥事が続発する原因と背景(問13)についての回答では、遵法精神の欠如―
―91社、社内チェックシステムの欠陥――80社、日常の社員教育の不徹底――70社、会社
の利益のためには安全等を犠牲にしてもよいという考え――57社が、上位4位までを占めて
いる。この結果は、問題は行政の監督機能の弱さ(24社)などの外部事情より、主要には内
部要因にあることを示すものといえる。

問14ではアンケートの調査項目に関連して何か特別に取り組んでいることがあれば記入し
ていただいた。この質問で目立つのは、少なくない企業が「ISO9001」の認証を取得した、あ
るいは認証を申請中であると特記していることである。HACCPシステムの認証や、
AIB(American Institute of Baking)の適正製造規範検査を受けた企業もある。

問14の記述回答からは、食品企業の安全問題への取り組みは、総じて、ここ1、2年の間に
急激に日程に上ってきたことがわかる。それだけに抜本的な改革の実行はこれからの課題
である。

伊藤園が問14で書いているように、食品企業は、食品の安全・安心に対する消費者の厳しい
目から見れば「社会通念上これで良しと考えられてきた事が通用しない」時代であることを認
識し、「会社の常識は、社会の非常識という視点」をもって、企業改革にあたることが求めら
れている。

1.調査の目的と対象

 雪印乳業の牛乳集団食中毒事件と子会社の雪印食品の牛肉すり替え・虚偽表示事件を契
機に、食品業界における製品の安全と適正表示に関する消費者の関心が高まっている。そう
いうなかで、株主オンブズマンは、本年3月から4月に、食品企業158社(食品関係および一部
水産関係の上場・店頭公開企業)を対象に、各社の食品安全監視の現状を把握するためにア
ンケート調査を行い、4月末日現在で、100社から回答を得た(回収率63%)。

2.調査内容

1. 商品の品質にかかわる安全性チェックの組織について
2. 安全担当の取締役について
3. 安全担当の社外取締役について
4. 監査役の安全関係の業務監査について
5. 消費者からのクレームの伝達システムについて。
6. 安全性の確保に関わるコンプライアンス機構について
7. 社内告発者保護制度について
8.安全と適正表示の倫理規範について
9.危機対応マニュアルについて
10.安全性の確保のための従業員に対する教育・研修について
11.重大事件発生時の消費者への説明について
12.重大事件発生時の株主への説明について
13.安全問題で不祥事が続発する原因・背景について
14. 各社の安全問題に関する独自の取組について 

3.調査の方法と期間

2002年3月12日に郵送により調査用紙を発送し、4月30日を締切として回答を郵送およびFAX
で得た。

4.調査結果の概要

1. 商品の品質にかかわる安全チェックの組織について

ここでは商品の品質にかかわる安全チェックのための組織の有無と、その名称および構成につ
いて質問した。安全チェックの組織を「置いている」と回答した企業は94社にのぼる。しかし、「 置
いていない」が1社、「今後導入を検討する」が2社、「その他」が3社あり、食品企業にも安全チェッ
クの独自の組織をもたない企業がごく少数ながら存在することがわかる。

組織の名称は本社、工場、研究所等で異なるが、大多数が「品質保証部」「品質管理室(課)」「品
質監査室」等となっている。構成は生産担当役員と品質に関わる部門長(事業部門、生産部門、研
究開発部門等)からなる場合が多い。
個別事例では、山崎製パンが「食品安全衛生管理本部」という名称の下に @食品衛生管理セン
ター(細菌・カビ等の微生物による食品事故の未然防止対策の立案・実施担当部署) A食品品質
管理部(虫等異物混入防止対策の立案・実施担当部署)を置いていることが注目される。

2. 安全担当の取締役について

ここでは取締役会に安全担当の取締役がいるかどうかを質問した。その結果は、「いる」81社、「い
ない」12社、「その他」7社であった。「いる」「いない」「その他」のいずれの回答中にも、生産本部担
当、製造担当、工場担当、研究所担当等の取締役が「兼務」と注記している会社が見出される。これ
から判断して、安全担当の取締役は置かれている場合も、必ずしも専任的な担当ではないと考えら
れる。

3. 安全担当の社外取締役について

ここでは、日本企業においては安全担当に限らず社外取締役はほとんど置かれていないことを承知
で、取締役会に安全担当の社外取締役がいるかどうかを質問した。「いる」と答えた企業は1社もなく、
95社は「いない」と答えている。そういう現状にあって、「今後導入を検討する」としている企業が4社(ブ
ルドックソース、マルタイ、丸大食品、雪印乳業)あることは注目に値する。

4. 監査役の安全関係の業務監査について

ここでは、監査役の業務監査において、少なくとも1年1回以上、食品衛生、安全性、適正表示などに
関する監査が実施され、取締役会はその結果の報告を受けているかどうかを尋ねた。この質問では
「はい」(39社)と「いいえ」(38社)がほぼ拮抗している。「その他」(22社)に付された説明のなかには、
「食品衛生に関する監査役の業務監査を実施しているが、報告を要する事項がなかったため、取締
役会へは報告されていない」としているものや、「各事業所の監査に包含されるものと考える。列記さ
れた項目に限定しての実施は行っていない」としているものがあった。

5. 消費者からのクレームの伝達システムについて

ここでは消費者からのクレームは「生の声」として関係役員に伝わるシステムになっているかどうか質
問した。その結果は、「はい」97社、「いいえ」1社、「その他」2社であった。

6. 安全性の確保に関わるコンプライアンス機構について

ここでは安全性の確保に関わるコンプライアンスのために弁護士などを含む特別な機構を置いている
かどうかを質問し、置いている場合はその名称と構成を記入していただいた。その結果は、「置いてい
る」は4分の1の24社にとどまり、他は「置いていない」49社、「今後導入を検討する」14社、「その他」13
社であった。

「置いている」と答えた企業の当該機構の名称は「コンプライアンス委員会」2社(合同酒精、日東製粉)、
「企業倫理委員会」2社(ヱスビー食品、ニチレイ)、「安全遵法委員会」1社(永谷園)、「行動規範遵守推
進委員会」1社(なとり)である。雪印乳業は、本年4月からのため「企業倫理室」を設置し、コンプランアン
ス体制の強化について検討している。

「置いている」と答えた企業であっても、名称的には、「PL委員会」「安全衛生委員会」「品質監査委員会」
「品質保証委員会」「安全・品質・環境会議」と、かなり広がりがある。また、「顧問弁護士」をもってコンプラ
イアンスの機構とみなしている企業や、「特別な機構を置いているが特に名称等はない」としている企業も
ある。

「その他」と答えた企業のいくつかは、関係する機構として「危機管理委員会」、「危機管理チーム」、「リス
クマネジメント委員会」を挙げている。なかには「危機管理委員会」の設置をもってコンプライアンスの機構
を「置いている」と答えている企業もある。

7. 社内告発者保護制度について

ここでは食品の安全と適正表示に関わって、社内に内部告発者を保護する制度があるかどうかを質問した。
その結果は、「ある」9社、「ない」62社、「今後導入を検討する」21社、「その他」8社であった。「ある」と答えた
9社は、キューサイ、明治乳業、なとり、日清製粉、日本ハム、アサヒ飲料、森永製菓、味の素、雪印乳業で
ある。

「ない」あるいは「その他」とする企業のなかには、問題があった場合は社長に意見具申あるいは連絡するこ
とを求めているとする企業が数社あった。「今後導入を検討する」という企業が21社あることは、少なくない食
品企業が、安全監視の視点から社内告発者保護の必要性を認識しつつあることを示唆している点で注目さ
れる。

8.安全と適正表示の倫理規範について

ここでは食品の安全と適正表示の徹底を図るための明文化された倫理規範ないし行動規範を作成している
かどうかを質問した。その結果は、「作成している」51社、「作成してない」7社、「今後作成を検討する」34社、
「その他」8社であった。全質問中で「今後(作成ないし導入を)検討する」という比率は本質問が最も高い。し
かし、食品会社の企業倫理が厳しく問われている時代に、倫理規範を作成している会社が全体の約半数に
とどまっていることは対応の遅れを示すものといわなければならない。
添付資料に見る限り、回答企業中ではマルタイが、食品の安全確保と虚偽表示の排除について、関係法規
の遵守を含む具体的な行動規範を明文化している点で、最も高く評価できる。

9.危機対応マニュアルについて

ここでは、食品の安全と適正表示に関連して危機対応マニュアルがあるかどうかを質問した。その結果は、
「ある」78社、「ない」2社、「今後作成を検討する」14社、「その他」6社であった。

10.安全性の確保のための従業員に対する教育・研修について

ここでは食品の安全に関する従業員に対する教育・研修制度の有無について質問し、実施している場合は、
その名称、対象、方法などを記入していただいた。その結果は、「ある」69社、「ない」11社、「その他」20社で
あった。名称で最も多いのは「安全衛生委員会」である。同名の委員会は、コンプライアンスの機構に関する
問6の回答にも出てくるが、両者の区別ははっきりしない。

11.重大事件発生時の消費者への説明について

ここでは食品の安全と適正表示に関して予期せざる重大事件が起きた場合、消費者に対してはどのように
説明責任を果たすのが適当と考えるか質問した(複数回答可)。その結果は「マスコミに発表する」が最も多
く86社、ついで「日刊紙等におわび広告を出す」の80社、以下、「店頭など消費者の目に触れる場所に掲示す
る」44社、「その他」27社となっている。「その他」のなかでは、「ホームページで発表する」とした企業が数社あ
った。

12.重大事件発生時の株主への説明について

ここでは問11と同じような重大事件が起きた場合、株主に対してはどのように説明責任を果たすのが適当と
考えるか質問した(複数回答可)。その結果は、「次回の定時株主総会で説明する」が最も多く71社、ついで
「日刊紙等におわび広告を出す」の57社、以下、
「株主に対して報告書を作成し郵送して説明する」41社、「速やかに臨時株主総会を開催して株主に説明す
る」6社、「株主といっても特別扱いをしない」6社、「株主懇談会または株主集会の形で株主に説明する」3社、
「その他」14社となっている。

13.安全問題で不祥事が続発する原因・背景について

ここでは、今回の雪印食品におけるような事件が発生する背景や原因を一般化的にどう考えるか質問した
(複数回答可)。その結果は、次のような数字と順序になっている。

遵法精神の欠如――91社
社内チェックシステムの欠陥――80社
日常の社員教育の不徹底――70社
会社の利益のためには安全等を犠牲にしてもよいという考え――57社
行政の監督機能の弱さ――24社
臭いものに蓋をする企業風土――21社
みんなで渡れば怖くないという考え――21社
長いものには巻かれよという企業風土――19社
ウソ・イツワリに甘い社会風土――18社
内部告発は悪という考え――13社
取締役会の機能不全――11社
監査役制度の不備――7社
その他――2社

14. 各社の安全問題に関する独自の取組について

問14ではアンケートの調査項目に関連して何か特別に取り組んでいることがあれば記入していただいた。こ
の質問で目立つのは、少なくない企業が「ISO9001」の認証を取得した、あるいは認証を申請中であると特記し
ていることである。HACCPの認証を目指して、現在申請中という企業や、AIB(American Institute of Baking)が
全米の食品企業に対して実施している適正製造規範検査を受け、ある工場が合格したと書いた企業もある。
問14の記述回答からも、食品企業の安全問題への取組は、ここ1、2年の間に急激に日程に上ってきたことが
わかる。最近になって、社内の安全点検を実施した企業や、グループ企業への緊急検査を実施した企業もある。
しかし、そういう企業を含め、食品企業全般にとって、安全監視体制の確立のための抜本的な改革はなお今後
の課題である。


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