内部告発者保護制度の確立を求め、
内部告発支援センターの設置を各団体・弁護団に呼びかけます  
                                         株主オンブズマン


1.内部告発者保護制度の確立を求めます

 このところ従業員や取引業者等による内部告発(ホイッスルブロー)を契機に、消費者の安全に重大なかかわりをもつ企業不祥事がつぎつぎと発覚しています。

 BSE対策の国産牛肉買い上げ事業をめぐって偽装事件を起こした日本ハムのトップは、少なくとも本年2月には、社内調査で偽装工作の事実を掴んでいたにもかかわらず、それを隠蔽し、さらにはその物的証拠である牛肉を本年7月中頃に焼却し、そのうえ農水省に対し虚偽の弁明をし続けていました。この日本ハム事件が社会に公になったのは、7月末に、近畿農政局に電子メールで「日本ハムはJAS(日本農林規格)法違反ではないか」との関係者の内部告発があったことが発端だと報道されています。

 これに類した最近の主な事件を拾ってみると、2年前には三菱自動車で、社員が運輸省に内部告発をし、長年にわたるリコール隠しが発覚しました。今年に入って、雪印乳業の子会社であった雪印食品で、取引業者の内部告発によって、日本ハムと同じような国産牛肉買い上げ事業を悪用した偽装事件が発覚しています。ダスキン・ミスタードーナツの肉まんに無認可の食品添加物が混入していた事件の発覚も、関係者の名部告発がきっかけだといわれています。USJの一連の不祥事の先触れとなった品質保持期限切れ食品使用事件も、元アルバイトの内部告発によって発覚したものです。

 これらの事件は、もし内部告発がなければ、隠蔽されたまま、是正措置もとられずに放置され、いっそう重大化、悪質化したかもしれません。安全や環境に重大な脅威をもたらす恐れのある行為や悪質な違法・不正行為に対する内部告発は、公益をまもって社会正義を貫く勇気ある行動です。そうした内部告発は、推奨されこそすれ、非難されるべきではありません。

 しかし、残念ながら、現実には、「儲けのためには手段を選ばない」、「バレなければ、違法行為も辞さない」という企業が後を絶ちません。総会屋利益供与や粉飾決算もこうした企業風土に根ざした企業犯罪です。他方、そうした企業風土のもとでは、内部告発は「悪」とみなされ、いったん社内の違法・不正が外部に漏れると、「犯人探し」がされ、勇気をもって告発した社員がしばしば解雇されたり、不当な処分を受けたりすることがあります。

 株主オンブズマンでは、今年の3月から5月にかけて、安全問題でコンプライアンス(法令遵守)のあり方が問われている食品企業154社に対して、安全チェック体制を中心にアンケート調査を実施し、113社(回収率72%)から回答を得ました。そのなかで、食品の安全と表示に関して、社内に内部告発者を保護する制度があるかどうかを質問したところ、「ある」と答えたのはわずか11社(9.7%)に過ぎませんでした。「今後導入を検討する」と答えた企業が23社(20.4%)ありますが、全体の7割の企業では今後の検討さえ予定されていません。

 食品の偽装表示等の違法行為が多発していることを受けて、国民生活審議会(内閣府)は、消費者保護基本法を改正し、内部告発者を守る「公益通報者保護制度」の導入を盛り込む方向で検討中だと伝えられています。イギリスには、内部告発者を保護する「公益開示法」(1998年制定、99年施行)があり、法遵守義務違反、誤審、健康・安全への加害、環境破壊 、不正の隠蔽等に関して、従業員が雇い主や監督機関に内部告発を行った場合、従業員を解雇や損害賠償から保護することを定めています。アメリカには、州のレベルで類似の制度が導入されています。日本ではこれまでにあるのは原子炉等規制法で内部告発者を保護する規定くらいのものです。

 時代は内部告発者保護制度の早急な確立を求めています。問題は国家レベルと企業レベルの両方にまたがっており、国家レベルでは、健康・安全への加害行為、環境破壊、法令違反、不正の隠蔽等に対して、イギリスの「公益開示法」のような内部告発保護法を制定するべきです。それと同時に、企業レベルでは、違法・不正行為に気づいた社員が、不当な圧力を受けることなく、経営上層に通報することができる社内的な内部告発者制度(「スピーク・アップ制度」)を導入するべきです。後者については、会社や子会社から独立した真の社外取締役、弁護士会や消費者団体等の推薦を受けた者、会社と利害関係をもたない企業倫理の専門家等によって構成される内部告発保護委員会を設置し、内部告発者の保護(匿名性の保持、解雇その他の処分の禁止)を第一に、内部告発の受理と問題の適切な処理に当たることが望まれます。

 株主オンブズマンは、企業監視の市民団体として、企業内の内部告発者保護制度に重大な関心をもっておりますが、その確立にはしばらく時間を要すると思われます。そこで私たちは、これが確立するまでの間、他の市民団体や法律家グループと共同して、以下のような内部告発支援センターを立ち上げることにしました。

2.内部告発支援センターの設置を各団体・弁護団に呼びかけます

(1) 目的
内部告発者を法律的に支援し、必要なアドバイスを行うと同時に、反社会的行為の是正のための調査・提言・告発等を行います。

(2) 対象企業
内部告発を受付ける企業は上場企業、大規模会社等に限ります。

(3) 問題事象
@ 食品、薬品、自動車等の製造・販売等に関して、人の生命・安全・健康等を侵害する行為。また業種を問わず重大な環境破壊をもたらす恐れのある行為。
A 製造物責任に関わる違法性ないし危険性の濃厚な行為  
B 企業や業界団体の違法・不正行為を隠蔽する行為
C 総会屋・暴力団等への利益供与、談合、政治家等へのヤミ献金、ワイロ等の法律違反
D 粉飾決算や脱税に問われる行為    
E その他、経営者(取締役・監査役)の違法・不正および重大な公私混同。

(4) 支援センターの構成と事務局   
株主オンブズマン(企業不祥事一般)、PL弁護団等(製造物責任等)、労働基準オンブズマン・過労死弁護団(職場の安全・健康問題)、男女賃金差別弁護団、障害者雇用促進弁護団(雇用差別問題)、会計士グループ(粉飾決算・脱税)等に呼びかけ、趣旨に賛同する弁護士、公認会計士、学者、市民で構成し、事務局を株主オンブズマン事務所に置きます。

(5) 受付・相談担当者   
内部告発についての受付は、担当の弁護士、公認会計士があたります。秘密は守りま す。法律上、弁護士、公認会計士には守秘義務が課せられているので、ご安心下さい。
   
(6) 調査・連絡等   
担当弁護士、公認会計士で調査して、調査する価値があると認めた場合は、担当弁護士から連絡を入れます。

(7) 告発・申告等   
調査の結果、もし価値ある情報ならば、本会ホームページへの掲載、警察・検察庁・公正取引委員会等への告発、申告等を行います。

(9) 設立時期  2002年10月

なお、私たちは、内部告発は善であり正義であるという立場から、「内部告発者支援センター」立ち上げの最初の取組として、この秋に「内部告発シンポジウム」を開催しようと準備中です。この問題に関心をお持ちの方々の積極的なアイデアやご意見をお待ちしています。


掲載日:2002/08/19  情報番号:020819-01