「スピークアップ・アドバイザー制度」(仮称) ガイドラインの発表にあたって

       ――日本ハム鰍ノは直接要請いたしました――

                              株主オンブズマン


 食品業界の一連の不祥事に続いて、今度は、電力業界の東京電力でも、原発のトラブル隠しが発覚しました。2年前に発覚した三菱自工のリコール隠しの場合もそうでしたが、消費者や市民の安全にかかわる近年の重大な不祥事の多くは、社員や取引業者等による内部告発がきっかけで公になったところに一つの特徴があります。

 ということは、もし内部告発がなかったとすれば、事件は、隠蔽されたまま、是正措置もとられずに放置され、いっそう重大化、悪質化したかもしれません。逆にいえば、勇気ある内部告発があったおかげで、関係当局が告発や是正に乗り出し、報道がなされ、多くの人が知るところとなり、事件を起こした会社自体もようやく原因調査と再発防止に乗り出さざるをえなくなるわけです。

 しかし、日本の現状では、国のレベルでも、企業のレベルでも、内部告発者保護制度はまだ局部的、例外的な試みにとどまっており、全般的な制度化にはほど遠い状態にあります。そのため、企業内では、隠蔽体質が根強く、いったん社内の違法・不正が外部に漏れると、「犯人探し」がされ、勇気をもって告発した社員がしばしば解雇されたり、不利益な取扱いをされたりする恐れがあります。

 私たちはこういう背景のもとで、当面は食品企業に焦点を合わせて、実効性のある内部告発者保護制度を確立することを求めて、調査と提言を行ってきました。そして、このたび、食品業界各社に以下のような「スピークアップ・アドバイザー制度」(仮称)を導入していただこうと考え、その実施要綱(ガイドライン)をお示しすることになりました。

 まだ試案にとどまっており、今後、各方面からご意見をいただき、またなによりも食品各社に実際に試行していただいて、よりよいものに改善していきたいと考えております。

 この試案で直接の念頭にあるのは食品企業でありますが、通報(申立)事項の業種による違いを別とすれば、制度の骨子は他業種にもあてはまります。その点で、食品業界にとどまらず、他業種においても、内部告発者保護制度の導入・確立の参考になれば幸いです。

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食品業界に求めるスピークアップ制度 (内部告発アドバイザー制度)についてのガイドライン試案

1.はじめに−−今なぜ食品業界にスピークアップ制度を求めるか

(1)今食品業界の信用、信頼は完全に崩壊している。

失われた信頼を回復することは従前のような小手先の改革では不可能である。しかし、不祥事企業は次のような通り一遍の改革で嵐が過ぎるのを待っている。

@ 会社の指名で「外部者」を選任して不祥事の原因を調査し、結果を報告する。

A 会社の指名で「社外」取締役や「社外」監査役を選任する。

B コンプライアンス委員会および内部告発保護制度を設置する。

  これらはそれぞれ肯定しうるように見えるが、実際は名目だけで本来の機能は発揮で きない。なぜならこの場合に選ばれるのは、役員の意を受けた紐付きの外部の人物や、 社内の人物でしかないからである。こうした方法によっては企業体質や社内風土を改め ることはできず、内部告発を促す効果も期待できない。

  このようなごまかしの改革では誰も信用しないほど食品業界は最悪の状態にある。農 水省の役人等が認めても消費者は信用しない。重要なことは消費者の目、社外の目を企 業の改革に取り入れることである。

(2)当面急がれるのはスピークアップ(内部告発)保護制度である。

  私たちは、多くの内部告発者またはその周辺の関係者と接しながら多くの代表訴訟を 経験してきた。この経験から内部告発またはスピークアップについて多くの関係者が悩 んでいる姿を知った。

@ 会社の不正を糾したい。しかしそれをすると会社から解雇、配転、等の不利益処分を 受ける危険性がある。表向きは告発したことを理由にせずとも、あれこれ理由をつけて 配転を迫ってくる危険性がある。会社から処分をされなくとも同僚等と気まずくなる恐 れが大きい。

A 会社にスピークアップ制度がない。あってもそれを利用できない。すれば、会社に誰 がしたかバレル。相談を受付ける者は通常社内の人物か紐付きの社外の人物であるから である。真に会社のためを思ってスピークアップをしようとする者はこれらの相談者を 信用していない。

B しかし、マスコミ、管轄庁などに告発するまでには心理的抵抗感がある。なぜなら、 やはり会社や仲間を「裏切る」ことになる。ともすればその結果会社に大きな損害を与 える。しかし会社の不正、違法、不当行為を是正したい。

(3)この制度は社会にとっても会社にとっても必要である。

@ 私たちの今回の提案は以上の多くの関係者の気持ち、感情を考え、社内の制度であり ながら、しかし社内の人間が自己の氏名を秘匿して社内の違法、不正行為を是正できる システムとして考えた。

A このような制度がないと、会社の違法行為は何時もでも放置されるし、これを放置し ていると逆に時にはマスコミ、監督官庁等に直接告発となるからである。

B この制度は社会にとって必要であるのみならず会社にとっても必要な制度である

2.食品業界に求めるスピークアップ制度の内容

(1)本制度の基本的位置づけ

@ 食品会社は以下のスピークアップ・アドバイザー制度を設置する。

A 本制度は、会社の従業員や取引先から寄せられる当該会社の違法・不正の疑いのある 行為に関する情報を、会社が委嘱した複数の相談員(以下これをスピークアップ・アド バイザーと呼ぶ)が受付け、スピークアップ・アドバイザーはその情報を社内のコンプ ライアンス委員会等に対して通知するとともに、必要に応じて早期に是正措置をとるこ とを勧告し、もって違法・不正行為の予防に寄与し、また違法・不正行為が行われた場 合は、早期にその違法・不正行為を是正することを目的とする。   

B 社員等が社内や子会社、取引先等でなされた違法・不正の疑いのある行為を知りなが ら、圧力や処分等を恐れて、スピークアップする(思いきって考えを口に出す、知って いることを遠慮なく話す、違法・不正について通報する)のを避けることのないように、 通報者を保護することをも目的とする。

B 本制度は従前から設けられている社員等による社内の内部告発を受理する制度を排斥 するものではない。本制度とそれは併存してよく、またその方が望ましい。内部告発をする者にとって会社に自己の氏名を秘匿したい時に活用できる制度であればよいからで ある。

(2)受付ける内容

食品の安全、表示、品質等の消費者の安全・安心にかかわる重大事項。

(3)スピークアップ・アドバイザーの選任

@ スピークアップ・アドバイザーは、通報者の秘密を守りながら、かつ会社に対して、その是正がなされない場合の社会的影響等を考慮しながら、是正を勧告することができ る者でなければならない。相当経験を積んだ弁護士等が最もふさわしい。
A この委員の選任は、会社の顧問弁護士、その知人、友人といった、会社からいわゆる一本釣りで直接選任された者であってはならない。そのためには、会社から全く独立した弁護士会や消費者団体の推薦を経ることにより、その人は会社からも相対的に独立していなければならない。

(4)スピークアップ・アドバイザーの権限

@ 会社に対し、告発内容を会社に通知し、その是正を勧告することである。勧告内容は、 軽徴な場合はその是正にとどまるが、重大な場合はその是正ならびにその再発防止策の 骨子を含む。とりわけ社会に対する重大な影響を与える場合は、その是正と合わせて社 会への公表等を勧告することができる。

A スピークアップ・アドバイザーが会社に勧告しても、なお会社がそれを是正しない場 合、またはそれを隠蔽しようとする悪質なケースは、関係官庁に自ら通報公表すること ができる権限をスピークアップ・アドバイザーに付与する(選任された段階でその旨契 約をする)。    
B しかしこの制度の基本的目的は、会社による自主的是正を促すことにあることからして、関係官庁への通報は極めて例外的ケースである(※あくまで従わない場合に限り、 関係官庁に自ら通報することができる権限をスピークアップ・アドバイザーに附与する ことにより、本制度が尻抜けにならないことを目的としている)。

(5)スピークアップ・アドバイザーの義務

@ スピークアップ・アドバイザーは、通報者が申立てた情報が事実に基づいていること、あるいは事実である疑いが濃厚であること、個人的利益や誹謗中傷のための告発でないこと等を可能なかぎり確認し、不適切な情報が被告発者の人権侵害を招かないよう最大 限に配慮する。

A 告発によって知った事実についても、原則、守秘義務があるが、上記(4)の@の例 外的な場合は、守秘義務は会社に対して免除される。

B 告発者に対する守秘義務は一切免責されない。

C スピークアップをした者に対し、その結果報告をする義務がある(但し、スピークアップ・アドバイザーに匿名で通報があった場合は除く)。

(6)会社の責務

@ スピークアップ・アドバイザーに申立てた従業員、取引者に対し、これを理由に一切 の不利益な取扱いをしてはならない。

A スピークアップをした者が誰であるかを探るための「犯人探し」等をしてはならず、社内にそのような動きがあれば、直ちに禁止しなければならない。

B 万一、スピークアップの申立をした者に対して、会社が上記の義務に違反して不利益 処分をした場合、スピークアップ・アドバイザーは、その是正を勧告することができる。 この勧告を会社は尊重する義務がある。

(7)従業員をはじめ関係者の責任

従業員をはじめ関係者が会社(および子会社を含むグループ内)で違法・不正の疑いのある行為がなされていることを知った場合には、その是正のために行動しなければならない。その場合に本スピークアップ制度も利用することができる。

3.スピークアップ制度は会社の経営にとって二重の意味で必要とされる。

(1)違法行為の抑止

このような制度が社内に存在すれば、これを活用して申立をする者がいるかも知れないということが、逆に関係者の違法行為を抑止する効果がある。

(2)違法行為の迅速な是正

不幸にして現実に違法行為が行われた場合には、この制度は、違法行為の迅速な把  握と是正を可能にする。

  日本ハム鰍フケースの偽装行為についても、もっと早くこの制度が活用されておれ  ば、それを受付けた弁護士が社長に対し、早期に違法行為の是正を勧告することがで  きたはずである。  

(3)本スピークアップ制度のない食品企業は信頼できない。

  本制度は会社にとっても必要であると同時に社会や消費者にとっても必要なもので  ある。何よりも会社が自主的に違法・不正行為を防止、是正するための自浄作用シス  テムであるが、それは違法行為をあらかじめ防止し、また違法行為を早期に是正させ  る制度であるからである。

  食品業界の偽装表示・偽装行為は、業界ぐるみとの批判を受けている。消費者もそ う思っている。この信頼を回復するには本制度がぜひ必要とされる。

  以上の内部告発者保護制度を設けた会社は真に信頼のおける会社として評価され、設けない会社は消費者にとって安全な会社でないと批判されるであろう。

  なぜなら、不正・不法行為をしない会社にとって、このような制度ができても痛くも痒くもないからである。                                    

                                            以上