平成13年(ワ)第144号・同262号 熊谷組株主代表訴訟事件
原 告  
被 告  熊谷 太一郎 外2名

最終準備書面(1)

──── 企業献金の実態 ────

2002(平成14)年9月18日
福井地方裁判所
  民事部 合議2係  御 中

            原告訴訟代理人
             弁護士(代表) 松   丸     正

第1 本件政治献金
1.大手ゼネコン業界の献金
(1)熊谷組の献金プロセスは、日本建設業連盟(日建連)の中の十日会からガイドラインと称する金額の要請があり、これに熊谷組が応じて業界団体が統一的、組織的に自民党に献金をしていることに特質がある(藤島幸雄調書)。
日建連が統一的に1995年(平成7年)から2000年(平成12年)までの間に国民政治協会を通じて自民党に献金した金額は、ほぼ別紙添付のとおりとなり、その合計は以下のとおりである(甲16号証)。
1995年(平成7年)  418,653,000円
1996年(平成8年)  634,245,000円
1997年(平成9年) 570,820,000円
1998年(平成10年) 581,266,000円
1999年(平成11年) 486,438,000円
2000年(平成12年) 427,240,000円
合  計 3,118,662,000円


(2)日建連は、建設業界を代表する団体であり、建設業に関係する様々な課題に取り組む団体である(甲17号証)。
1999年10月20日の政府への要求書を見ると、「10兆円を大きく上回る第二次補正予算の早期編成等」等の極めて政治・経済に密接する要求や、又、建設業界にとって必要な諸要求を提出している(甲18号証)。2001年7月の提案を見ると、建設業界に有利な規制緩和要求や税制要求、更には各地域の都市再建まで要求している(甲19号証)。まさに、日建連はゼネコン業界の利益代弁者である。その団体が政権党に巨額の献金をしているのである。


2.熊谷組の政治献金の事実
(1)恒常的献金  
   熊谷組は、日建連の統一的献金に応じて、主として政権党の政治団体に対し、巨額の政治献金を続けていた。自由民主党の資金管理団体である国民政治協会への献金額は次のとおりとなっている
1976(昭和51年) 25,340,000
1977(昭和52年) 27,589,000
1978(昭和53年) 18,254,000
1979(昭和54年) 26,000,000
1980(昭和55年) 30,500,000
1981(昭和56年) 17,760,000
1982(昭和57年) 24,140,000
1983(昭和58年) 20,720,000
1984(昭和59年) 23,220,000
1985(昭和60年) 17,700,000
1986(昭和61年) 27,960,000
1987(昭和62年) 26,700,000
1988(昭和63年) 33,920,000
1989(平成元年) 45,740,000
1990(平成2年) 65,200,000
1991(平成3年) 29,662,000
1992(平成4年) 24,302,000
1993(平成5年) 23,880,000
1994(平成6年) 15,120,000
1995(平成7年) 22,420,000


(2)本件政治献金
1996(平成8)年 1月22日 275,800円
3月14日  1,000,000円
5月10日    600,000円
5月29日 11,760,000円
5月30日  7,056,000円
9月13日  5,000,000円
  合計   28,174,000円

1997(平成9)年 2月10日 3,000,000円
2月13日 11,670,000円
9月14日 7,002,000円
  合計   21,672,000円

1998(平成10)年 3月30日   18,672,000円
3月19日   2,000,000円
合計  20,672,000円

1999(平成11)年 4月 8日   24,000円
 9月13日 16,277,000円
12月29日 24,000円
合計  16,325,000円

2000(平成12)年 4月20日     12,090,000円
4月27日 200,000円
合計  12,290,000円 

(3)以上、1976年(昭和51年)から2000年(平成12年)間の国民政治協会への献金総額は、645,260,000円と巨額な金額に達している。およそ個人が献金できる金額ではない。


第2 本件政治献金の使途の実態と最高裁南九州税理士会事件の判旨
1.政治献金の使途
(1)国民政治協会の自民党への献金
   国民政治協会はゼネコン業界から献金を受けた資金を次のとおり自民党に献金している(甲5号証)。
 1995年(平成7年) 59.07億円
   96年(平成8年) 55.18億円
   97年(平成9年) 58.84億円
   98年(平成10年) 74.84億円
99年(平成11年) 48.45億円
2000年(平成12年) 53.21億円


(2)自民党の支出(甲7号証)
自民党の全体の1995年から2000年の支出は、別表Aのとおりである。このうち、政党助成法に基づく収支報告書の支出は別表Bのとおりであり、その支出は詳細に報告されている。
   これに対し、政党助成金以外の収入分(企業献金分)に対応する支出は別表Cのとおりであり、これが企業献金分等の使途を示すものである。


(3)組織活動費等への大半の支出(甲7号証)   
  この別表Cの支出のうちの組織活動費名目で国会議員に配布した明細が甲5号証の1、2、3及び甲23号証である。これから判明することは政治献金の多くが自民党の組織活動費に費消されている。このうち、国政選挙の時は、その前後に国会議員に交付しており、選挙活動に費消されている(甲24,25号証)
  自民党の組織活動費名目の各国会議員に配布された金額は巨額になっているが、その国会議員から先の使途は不明である。野党対策費、飲み食い、国会議員個人のポケットマネー等、政界のアングラマネーと化している(甲8号証の1,2)。


2.南九州税理士会事件の判旨
最高裁の南九州税理士会事件判決は、献金の目的とその使途について注目すべきことを述べている。
 「原審は、南九各県税政は税理士会に許容された活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その活動が税理士会の目的に沿った活動の範囲に限定されていることを理由に、南九各県税政へ金員を寄附することも被上告人の目的の範囲内の行為であると判断しているが、規正法上の政治団体である以上、前判示のように広範囲な政治活動をすることが当然に予定されており、南九各県税政の活動の範囲が法所定の税理士会の目的に沿った活動の範囲に限られるものとはいえない。因みに、南九各県税政が、政治家の後援会等への政治資金、及び政治団体である南九税政への負担金等として相当額の金員を支出したことは、原審も認定しているとおりである。」
  この判旨からすると、熊谷組の献金の目的のとおり自民党がそのとおり使っているかどうかの調査は不可欠である。そうすると、自民党の活動は、広範囲に亘っているのであるから、熊谷組の献金目的の為に費消されているわけではないことは、重要考慮事情である。


第3 本件政治献金はゼネコンの業界の要求を政権党(自民党政府)の政策に反映させる為である(金で自らの要求を実現させる為である)。
1.熊谷組の献金する理由とその手続
(1)自由かつ安定的に建設業等を遂行していく上で、社会・経済の安定は不可欠の基盤であり、とりわけ自由主義経済体制の維持・発展はその重要な要素である。被告らは、自由民主党がそのような政策の策定・実施を担っていると判断し、その政治資金団体である国民政治協会に対する政治献金を行ったものである。このような政治献金は、民主政治の健全な発達にも資するものであり、政治資金規正法の目的(1条)および基本理念(2条)にも適っている。
  「建設業を遂行していく上において、自由主義経済体制の維持・発展は重要な要素である。自由民主党がそのような政策の策定・実施を担っているのであるから同党の資金団体(国民政治協会)に献金している」(乙6号証)
(2)熊谷組の献金手続
  @ 日建連の中の「十日会」から「これくらいの金額がどうでしょうかと、いわゆるガイドラインが示される」(藤島調書 7頁)。それを会社の総務部を通じて秘書部に要請がある。
秘書部では、
イ.選挙にかかる寄附ではないか。
ロ.政治資金規正法上の枠内かどうか。
ハ.例年の寄附金額とほぼ同額、あるいはその範囲内に納まっているかどうかチェックし、(同 3頁)副社長の承認を受け、社長が決裁をするこになっている。
  A 献金の審査の実態
 この秘書部では、2〜3人が上記基準をチェックするが、そうでない以上、
 イ.「国民政治協会からの要請について、総務部から要請があり、それを秘書部の判断で金額を変えることはない。」(9丁)
 ロ.「国民政治協会の寄付要請を秘書部で拒否したこともない」(15頁)
 ハ.そして献金を断ったら、何か不利益があるんじゃないかということについても、「そういう議論をしません。」(17頁)
 ニ.逆に、献金をしたら「熊谷組の利益に直接関係がない」(18頁)
 ホ.献金の使い道についても「調査をしていない」(18,22頁)
 ヘ.株主の意向についても「調査したことがない」(19頁)
 ト.献金していることを株主に公開していない(19頁)
 チ.熊谷組の方から自民党に「積極的に献金したものではなく」「寄附の要請があってはじめて献金をする」ことになっている(22頁)。
 リ.献金したことによって「自由主義体制が維持発展したかどうか調査しましたかの問いにも「調査していない」(22頁)
ヌ.無理だから献金するかどうか議論したかどうかという質問に、「そういう議論があったかどうかは記憶がない」(29頁)
   藤島証人以前の時も、献金に際して、無理だから云々ということを議論したとことについて積極的な主張も立証もない。
  B 以上のとおり、本件政治献金の実態は、日建連の要求があった金額を何の審査もしないで献金し続けていることを示している。
   即ち、秘書部では上記三基準は、チェックするが、それ以外の審査基準については、全く考慮・検討していないことを示している。
また、日建連の示すガイドラインと称する金額についても、何ら変更・修正を一切加えていない。最も熊谷組にとって、その年度に日建連の示された金額を寄附することが、
イ.会社の為にどのように具体的に貢献するのか。
ロ.株主にとって最大の課題である無配状況で献金することの是か否かということ。
ハ.会社の献金目的である「自由主義体制の維持発展にとってどのように貢献したのか」ということについても具体的に検討・考慮していない実態を示している。
これは、熊谷組が日建連の十日会の言われるままに、献金をしているのであって、熊谷組にとってどのように貢献するか全く考慮していない事実を示している。

2.上記のごとき熊谷組の献金理由は真実の献金理由をごまかしている。


(1)経済界も熊谷組のごとき献金理由を肯定していない。
   経済同友会は、1998年4月20日に「経済界と政治の新たな関係の構築」と題する提言をした(甲4号証)。
   右提言では、「政官業の鉄のトライアングルという言葉で象徴される利益誘導政治の問題が指摘されて久しいが、政治資金がその媒体になりやすいことは否めない。」「かつて企業献金は、革新政党の目指す社会主義体制から市場経済を守るために、保守政党を政治資金の面で支援するといった点で正当性を持つとされてきた。しかし、冷戦構造の崩壊後、政治状勢が大きく変化した現在では、市場経済を維持するための政治献金という大義名分は失われつつある。」として、被告の主張する自由経済体制維持のための献金理由を否定している。経済界からも上記のごとき企業献金理由は肯定されていない。昔はともかく、このような献金理由は、本当の理由ではない。
(2)自由主義経済体制を守る為に献金する理由もなくなった(反対党は存在しないか又は取るに足りない問題となっている)。
 被告らは、自由主義経済体制を支持するのは自由民主党であり、その維持発展に協力することことが必要かつ有意義である、と主張している。しかし、自由主義経済体制を支持する政党は被告らが献金をした政党だけではない。
  ちなみに、1995年1月から1999年12月までの間の政党の存在状況は、政治資金規制法の規定による収支報告書から見ると次のとおりであった。
  @ 1995年(平成7年)度
   自由民主党、公明党、新進党、新党さきがけ、自由連合、市民リーグ、    
  スポーツ平和党、第二院クラブ、共産党、社会民主党、民主改革連合
 A 1996年(平成8年)度(甲5号証の1)
  自由民主党、公明党、社会民主党、自由の会、新進党、第二院クラブ、    
  新党さきがけ、共産党、民主党
 B 1997年(平成9年)度(甲5号証の2)
 自由民主党、公明党、社会民主党、新党さきがけ、第二院クラブ、太陽党、
 共産党、フロムファイブ、民主改革連合
 C 1998年(平成10年)度(甲5号証の3)
 自由民主党、公明党、改革クラブ、新党さきがけ、参議院クラブ、社会民主党、
 自由党、第二院クラブ、共産党、自由連合、民主党
 D 1999年(平成11年)度(甲5号証の4)
 自由民主党、公明党、改革クラブ、新党さきがけ、社会民主党、政党自由連合、
 第二院クラブ、共産党、民主党、無所属の会
 前記政党は全て「社会、経済の安定」を目的にかかげ、その為の政策の策定、実施を目標に掲げている。「社会、経済の安定」に反対している政党は存在しない。「自由主義経済体制」に反対している政党も存在しない。このような同じ自由主義経済体制を前提にしている政党の中で自民党にのみ「特別」に選択して巨額の献金をする理由は不存在である。自民党が建設業という業界の「利権」の為に貢献する政党であるからに他ならない。そうとすれば、それは賄賂となる。

(3)選挙制度審議会の企業献金の考えたかにも相反する。
 1961年選挙制度委員会(第1次)は「会社労働組合、その他の団体が選挙又は政治活動に関し寄附することは禁止すべきものである。但しその実施時期については引き続き検討する」とした(甲20号証)。
 1962年5月の第2次選挙制度委員会も上記第一次答申を尊重した(第3次、第4次は政治献金の問題は触れられていない)。
 1967年4月、第5次選挙制度委員会は「政党の政治献金は個人献金と党費により賄われることが本来の姿」としながら、さしあたり寄附の制限をする等の案を答申した(甲20号証 174頁)
 1990年4月、第8次選挙制度委員会は答申を出し、これを尊重した細川連立内閣が、1993年9月政治家個人の企業団体献金は廃止、政党及び政党の資金団体への企業、団体献金は廃止の意見を尊重し、「5年後に見直す」として政治献金規正法案を国会に提出した。しかし、5年後に見直しされず、そのままとなっている。
   以上のとおり選挙制度委員会、政府の立場は政治献金は決して望ましい姿ではないという考え方で貫かれ、ただ現実の政党はそうなっていないから企業、団体献金を続けるとしているだけである。
   決して被告らが述べているように企業の存立基盤を維持するために必要でもあり、有要でもあるとの考え方ではない。
 その点で被告らの本件政治献金の考え方は社会から否定された「特異」な見解、考え方である。むしろ、被告らの献金理由は、真実の献金理由を意図的に隠す為のものである。

(4)マスコミの論調も政治献金を被告らの主張するとおり有用であり、有益でもあるとの論調は全くない。
   朝日、毎日等は政治献金を廃止すべきという立場であり、経済界のオピニオン新聞紙をいわれている日経も「自由経済体制を守るという論理はとっくに根拠薄弱になった」「経団連会長も最終的には政治献金をやめるべきだと述べた」(甲22号証の2)
「政治献金のかなりの部分が結局、飲み食いや冠婚葬祭に消えてしまう恐れがある。政党が何に使うか確かめないで安易に企業が献金に応じるのはどうみてもおかしい」(甲22号証の4)
等々のように被告らの主張を肯定する論理は全く存在しない。

(5)この間の国政選挙においては、自由主義経済体制を守るかどうかということは全く争点となっていない(熊谷組の献金理由は時代錯誤である)。
1995年(平成7年)7月の参院選は、連立の枠組みをどうするかであった(甲27号証の1)。又、各政党の政策も体制の問題が一切議論となっていない(甲30号証)。
1996年(平成8年)10月の衆院選は、やはり同様であった(甲27号証の2)。
1998年(平成10年)6月の参院選も同様であった(甲27号証の3)。
およそ被告らが主張するような自由主義経済体制の存続かどうかとうことが微塵も争点になっていない。現実の政党間の選挙において、被告らのような主張は全くの時代錯誤である。


3.政権政党への献金は結局のところ、政府の政策にゼネコン業界への見返りを期待しての献金である。これが真実の理由である。
(1)去る1月25日衆議院の予算委員会で共産党議員により、長崎の諫早干拓事業を受注したゼネコンが1995年から2000年の間、合計3億円余を自民党長崎県連に献金していたことが報ぜられた。熊谷組は、この公共工事を受注していたのだが1989年から2000年までの間、合計3900万円をこの12年間に同県連に献金している(甲11号証)。長崎の諫早干拓事業の推進は、自由民主党が最も積極的推進政党であった。自由主義経済体制の維持・発展の為の献金等という「もっともらしい」理屈をつけているが、実態は公共工事に支配的地位を有する自民党(政権党)に献金して公共事業を受注するという「見返り」を期待又は、その「お礼」として献金しているのが実態である。

(2)日建連は建設業に有利な要求を政府に統一的要求していることは前記に述べた。政府への自らの要求を実現させるのは、政権党に対して要求し、その為に票とカネを交付することがある。政府の関係者にカネを交付すれば賄賂だが、政府を支配する政権党に献金することは、我が国では刑罰上、違法ではない。しかし、実態は政権党への巨額の献金は、見返りを期待しての「賄賂」である。日建連、即ちゼネコン大手企業の要求を実現させるために、年間4〜6億円も献金し続けているのである(甲21号証)。これほどの巨額の献金を毎年毎年受け続けている自民党は、建設業界に有利な政策を策定し、政府に実施するよう働きかけることになる。これがゼネコン業界の真の献金理由である。

(3)政治体制、経済体制の選択は国民が選択すべきであって、企業・業界がカネで選択させるべきではない。
   そもそも民主主義とは、人々の思想、信条、宗教、経済的利害は多様であり、そうした多様性を前提として、ものごとを決定していく手続であり、国民一人一人が、投票と言論によって、政治・経済を左右できる政治体制をさすものである。熊谷組の献金理由だと企業が「金」の力で建設業に有利な政治・経済体制を存続、維持しようとしているになる。企業が特定の政党に「金」を供与し、自己に有利な体制を選択させようとすることは、それ自体が民主主義の破壊である。集中した巨大な経済力からの政党の独立が確保されなければ、民主主義はありえない。それらの点からみても、国民一人一人がどのような体制を選択するかが民主主義の根本であるのにが、企業が建設業にとって有利な体制を存続させる為に献金しているとすれば、民主主義の破壊であると同時に、それは見返りを期待しての献金そのものと言える。

                                                              以 上