平成13年(ワ)第144号・同262号 熊谷組株主代表訴訟事件
原 告  
被 告  熊谷 太一郎 外2名

最終準備書面(3)

───  法令、定款違反 ─── 

2002(平成14)年9月18日
福井地方裁判所
  民事部 合議2係  御 中

            原告訴訟代理人
             弁護士(代表) 松   丸     正

第1 本件政治献金は公職選挙法199条1項に違反する
1.公職選挙法199条1項
(1)公職選挙法199条1項は、国または地方公共団体と請負その他特別の利益を伴う契約の当事者の寄附の禁止を定めている。「衆議院選挙及び参議院選挙に関しては、国と地方公共団体の議員及び長の選挙に関しては、当該地方公共団体と、請負その他特別の利益を伴う契約の当事者である者は、当該選挙に関し寄附をしてはならない。」
   これに違反したときには同法248条2項により、会社の役職員として当該違反行為をした者は、3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金の刑事処分に処せられる。更に同法200条は寄附の勧誘、要求をすることおよび寄附を受領することも禁止し、同法249条で処罰の対象にしている。
  「当該選挙に関し」とは選挙に際し、選挙に関する事項を動機としてなすことであり、選挙運動に関しとの観念より広義である。選挙に関する一切の寄附を禁止しようとするものである。約束も違法とされているのは、現実に選挙に影響を与えなくとも政治の面に不明朗な影響を及ぼすおそれがあれば罰せられる。
   このように公選法が国等と請負契約関係等にある者に対し、選挙に関する献金を厳しい刑事処分をもって禁圧しているのは、請負関係等にあるゼネコン等の企業が、政党等に寄附することがあると、選挙及びその後の政治の面で不明朗な影響を及ぼすおそれがあるので、これを防止する趣旨である(注釈特別刑法第3巻 選挙法1 新版伊藤栄樹外編 192頁)(甲22号証)。

(2)当該選挙に関する寄附をしたかどうかの認定は、寄付者の主観的弁明だけによって決定することにはならない。
寄附をする以上、
@ 当該選挙の実施される時期との関係。
A その金がどのようなものに費消されるのかの事前確認。
B 過去に寄附をしている以上、寄附を受ける政党の費消状況等を考慮して、同法に違反するかどうか決定すべきである。
 単に、被告らの主張するように選挙直前、またはその期間中等という形式論理では決定すべきではない。

(3)当該選挙に関する寄附の故意は、毎年、同党に寄附をする故意と当該選挙に関する寄附との故意は、併存して差し支えないものである。
毎年、同党に寄附しているからといって、当該選挙に関する寄附の故意を排除するものではないからである。当該選挙に関する寄附をしているとの未必の故意であっても、本罪は成立する。
2.熊谷組の公共工事の売上高に占める比率は次のとおりである(甲23号証 78頁)。
1995年   29.2%
96年   28.2%
97年   23.2%
98年   26.2%
99年   27.3%
この公共工事のうち、国の公共工事を請け負っていることは当事者に争いがない。
3.本件政治献金と国政選挙との関連
  本件政治献金がなされた時期と国政選挙との時期を整理するとつぎのようになる。
・1996(平成8)年1月22日 275,800円
3月14日    1,000,000円
5月10日      600,000円
5月29日   11,760,000円
5月30日    7,056,000円
9月13日    5,000,000円
9月27日 国会解散
10月 8日 告示
        10月20日 第41回衆議院選挙
※ バブルが崩壊した1992年から1995年までの献金額がだいたい200万円前後なのに、この年だけ突然2800万円余となっている。9月13日の500万円が選挙の関係で突出している。

・1997(平成9)年2月10日 3,000,000円
2月13日 11,670,000円
9月14日 7,002,000円
合計 21,672,000円

・上記同年11月16日、宮城県参院補欠選挙
〃 12月14日、衆議院宮城6区補欠選挙

・1998(平成10)年3月30日 18,672,000円
3月19日 2,000,000円
 合計 20,672,000円

・上記同年7月12日、参議院選挙

・1999(平成11)年4月 8日   24,000円
           9月13日 16,277,000円
12月29日 24,000円
合計 16,325,000円

・上記同年4月11日、衆議院東京2区補欠選挙
〃 、 〃 東京15区 〃
〃 、 〃 静岡8区 〃
同年 10月17日、参議院長野補欠選挙

・2000(平成12)年4月20日      12,090,000円
  4月27日 200,000円
12,290,000円

・2000(平成12)年6月 2日 解散

・2000(平成12)年6月25日 衆議院選挙

4.本件献金は、当該選挙に関する寄附である。
(1)議会制民主主義下における政党は、最終的には選挙における多数の獲得を目標にして全ての活動を展開している。選挙を離れて政党の活動はあり得ない。
   従って、政党に寄附する以上、その政党が選挙において少しでも多くの国民の支持を獲得することを願って寄附しているものである。選挙を離れての寄附は論理上あり得ない。選挙に関しての寄附は前記のとおり選挙に関する事項を動機として寄附(約束も含む)することであるから、極めて広い意味とされている。
   従って、本件政治献金も自民党が我が国の政治状況の中で強くなることを願っての寄附である以上、自民党が選挙において一票でも多くの国民の支持を獲得することを目的としているものである。
(2)更に、国会議員一人一人に配布する組織活動費等も結局のところ、同党の国会議員を財政的に支える為であるから国会議員の地盤等を維持存続させる為に費消されている以上、選挙に関しての支出となる。
   また、一斉選挙のない年の寄附でも、寄附を受けた一部が翌年に繰り越されていることからみても、自民党の金の支出は、広い意味での選挙に関する寄附である。
  従って、本件献金は全て選挙に関する事項を動機としての寄附はあると解することが出来る。自民党を強化する為に寄附する以上、選挙活動に使われることは公知の事実であるからである。

5.選挙に関する寄附と政治活動に関する寄附とは区別が出来ない以上、選挙に関する寄附と解すべきである。
  前記南九州税理士会事件は、税理士会の活動の目的で寄附をしたとしても、政治団体は広範な活動を言うのであるから、その目的にのみ費消されるものでないと認定した(最終準備書面(1)参照)。
熊谷組が自民党の政治活動の為に寄附したとしても、同党は選挙活動も行っているのであるから、「政治活動のみ」に限定して費消されるとは限らない。その点で、選挙が密接した時機に行われる以上、その区別が困難であり選挙が日常的に実施されている以上、それに関して同党が支出する以上、本法に違反する。

6.上記献金のうち、1996年9月13日の500万円、1998年3月の20,672,000円ならびに2000年4月20日の1209万円は国会議員の選挙に密接していることからみると、選挙に関しての寄附であると認められる。

(1)1996年(平成8年)9月27日衆議院が解散し、10月20日選挙が実施された。ところが、熊谷組が500万円の政治献金をした1996年9月13日国民政治協会は自民党に、
 9月17日    1200万円
9月20日    2683万円
9月24日  1億0300万円
9月27日    1900万円
   10月 3日  5億9286万円
 10月 7日 1億7670万円
と順次、寄附をしている(甲16号証 別表(3))。この寄附を受けた自民党は、自民党の衆議院議員に組織活動費が配布され始め、9月27日の国会解散前後、小里貞利3億円、綿貫民輔3億円、越智伊平3億円、小泉純一郎2億円の巨額の金が配布された(甲24号証 19〜20頁)。更に、国会が解散した9月27日から衆議院議員全員に一律500万円が配布されている(甲24号証 20〜30頁)。 そして10月20日の選挙前後には巨額の金が配布されている。熊谷組が寄附した500万円は、国民政治協会から自民党にわたり、そして自民党の国会議員に対して、選挙の前後に寄附している以上、選挙に関する寄附と解すべきである(但し、闇から闇に消えているが)。
(2)1998年(平成10年)6月25日告示、7月12日参議院の選挙が行われた。参議院の選挙は予め決定されている。この年に熊谷組は前記のとおり、
  3月19日  200万円
  3月30日 18,672,000円
を寄附している。
 国民政治協会は自民党に
3月25日  約1億0246万円
4月 2日   約  6191万円
4月21日   約1億2960万円
5月 6日   約4億6340万円
5月20日  約7億2683万円
5月26日  約4億1972万円
6月 3日  約2億8993万円
6月24日   1億5600万円
7月 2日   2億2000万円
7月17日   2億1450万円
と寄附されている(甲16号証 別表(3))。
ところで、甲25号証によると、自民党の参議院議員を含む国会議員に5月26日から500万円づつ配布し、6月に入ると関谷勝嗣、宮下創平、奥田幹夫、西田司らに1億円〜1.2億円を配布している。6月17日から19日にかけ、300万円から5500万円を配布し、告示前後から投票日前後にかけて、億単位の金が動いている(甲25号証 21頁)。これを見る限り、3月前後の熊谷組の金は、この参議院選挙の為に費消されていることを示している。

(3)国民政治協会は、自民党に、
4月26日   2億5750万円
5月 9日   3億0412万円
5月19日  約1億4678万円
  と順次、寄附をしている(甲16号証 別表(3))。
   熊谷組の前記献金がこの中に入っているのである。そして、甲9号証によると、2000年4月21日から衆議院選挙が終了する6月25日までの間の衆議院議員であった自民党の国会議員全員に「組織活動費」名目に金を交付している(甲9号証 48頁から103頁まで)。
これをみると、2000年4月20日に献金された金が自民党の国会議員に湯水のごとく配布されている。これらの金はどのようにみても、衆議院選挙の為に費消されていると推定するのが合理的である。そうすると、この選挙の3〜4ヶ月前の献金は、結局のところ選挙の前後に国会議員に配布される組織活動費と消え、その時の選挙において費消されている以上、当該選挙に関しての寄附があると認められる。

7.熊谷組の本件政治献金は公選法199条1項に違背する
  熊谷組は、本件各政治献金をなした当時、前記のとおり国との間に土木・建設等についての請負契約関係にあったものであるから、刑事処罰の対象となる公選法199条1項に該当するものである。またはその疑いが極めて濃い寄附であると解すべきである。少なくとも1996年3月の500万円、1998年3月の20,672,000円、2000年4月の12,290,000円については、当該選挙に関する寄附と解すべきである。

第2 本件政治献金は政治資金規正法第22条の4第1項に違背する
1.同条項の意義
  会社が営利を目的とする企業体である以上、株主に対する利益配当もできないのに政治献金を禁止するのは当然であり、かつ赤字会社が経済苦境を乗り越えるため、政界と癒着した不明朗な寄附が行なわれやすいことを未然に防止するため同法第22条4第1項は定められている。
  本件政治献金は以下に述べるように、訴外会社並びにその業界団体である日建連が経済的苦境を乗り越えるために、実質的には欠損が生じているのを知りながらなされたものである。
2.ゼネコン業界の経営危機下でなされた本件政治献金
  この点につき重要なのは、本訴において本件政治献金が日建連(日本建設業団体連合会)に加盟するゼネコンのうち、外国の企業を除外した企業で構成する任意団体である十日会によりなされた点である。
  日建連加盟のゼネコンの多数は、訴外会社と同様バブル経済期における海外投資、ゴルフ場開発、大規模開発事業等とその後のバブル経済の破綻により、多額の不良債権や有利子負債を抱えていることは公知の事実である。本件各政治献金がなされた1996年(平成8年)から2000年(平成12年)の時期は、日建連加盟のゼネコン各社の経営が破綻状況となり、数少なくないゼネコンが倒産し、あるいは訴外会社同様金融機関の債務免除をうける事態となった時期である。

3.ゼネコン企業、同業界に有利な政策決定を慫慂する目的での本件政治献金
ゼネコンの業界団体であり、ゼネコン全体の利益団体である日建連、そしてその下にある十日会としては、政権を担う自民党がゼネコンの経済破綻の救済策に対し、いかなる姿勢で臨み、いかなる政策決定を行なうかは死活問題であったことは言うまでもない。少なくもゼネコンの破綻を容認する政策決定を回避することは、ゼネコンの利益団体としての日建連にとって至上命令であったと言っても過言でない。
  更に、ゼネコン各社は公共工事の受注にその売上高の多くの比率を依存している。訴外会社にあっても有価証券報告書によれば売上高において1994年度27.6%、1995年度29.2%、1996年度28.2%、1997年度23.2%、1998年度26.2%、1999年度27.3%とほぼ3割近くが公共工事の受注に依存している。公共工事について与党の中核である自民党がいかなる政策決定をするか、ゼネコン各社の将来の命運がかかっているのであり、特に慢性的経済不況下、民間受注がジリ貧となっている状況下ではなお更この点は重要である。
  十日会が自民党(国民政治協会)からの要請に応えて経済破綻していた訴外会社を含むゼネコン各社も含めて献金を求め、訴外会社らもこれに応えて、後述するように取締役らとして献金をするにあたって善管注意義務に基づき配慮すべき事項を一切配慮することなく献金をしたのはこのような背景からである。
  即ち、十日会を通じての国民政治協会に対する訴外会社の本件政治献金は、経済破綻に瀕した訴外会社を含むゼネコン業界全体がその経済苦境を乗り越えるため不利益な政策決定を政権党たる自民党がしないこと、並びに将来的にも公共事業工事が確保できることを企図してなされたものと言えよう。
政治資金規正法22条の4第1項の定めは、このような経済苦境下、政界と癒着して破綻回避策等の政策決定を慫慂する献金を禁止するところに意義があるものであり、特に本件政治献金を経済破綻状況下にあった訴外会社がなしたのは、その目的があったからに外ならない。

4.日建連(=十日会)の政府(=自民党)に対する政策要望
  日建連は政府に対し、その経済運営に対し、その都度ゼネコン業界の利益団体としての立場から要望を提出している。
  その要望は予算の編成にあたりゼネコン業界の公共事業工事の受注増につながる「高速道路、新幹線、空港等の物流・交通システムや都市生活のための基盤整備等に重点配分されたい」「公共投資に消極的になる自治体が増え始めているため、地方財政の現況を踏まえた措置を講じられたい」「住宅投資は国民のニーズが強く、また経済波及効果も高いことから、現行の住宅ローン控除制度の拡充措置を講じられたい」、更には「道路特定財源諸税の堅持」「着実な社会資本整備の推進」とともに「官公需法の運用にあたっては過度な地元優先や分割発注が行なわれることがないよう配慮されたい」(以上1999年10月20日当面の経済運営等に関する要望)等の政策決定を求めているものである。そして、このようなゼネコン業界の公共事業工事の確保・拡充を求める要望は常時政府に対してつきつけている。本件政治献金もゼネコン業界にとって有利あるいは不利益とならない政策の呼び水となることを期待して、政権の中軸にある自民党(その政治資金管理団体である国民政治協会)に対しなされたものである。
  同法第22条の4第1項はこのような経済苦境下において企業や業界がこれを乗り越えるため、政界に対し一定の政策誘導をするおそれのある不明朗な献金を禁止するものであることからして、以上の点は強調されなくてはならない。
  しかし、訴外会社は資産の内容が、バブル経済崩壊後、資産の時価が取得価額を大幅に下回り劣化していった。時価が著しく低下した場合は、資産価額を時価を基準とする額に評価替をして評価損等の計上をなすべきが会計上の原則である。
  しかし、訴外会社は大幅な欠損発生による会社の信用力低下、経営責任の追及等を回避するがために、会計上の原則を逸脱して土地や貸付金、出資金等の評価損等を計上しなかったため「確定した決算における貸借対照表」において欠損が生じなかったにすぎない。
  同法22条の4第1項の「確定した決算における貸借対照表」とは、当該貸借対照表につき、法令あるいは会計原則に違背した資産の過大計上(評価損の未計上)等、資産状況が著しく真実に違背する場合は、真実の資産状況にひきなおして修正した貸借対照表を基準とすべきである(少なくとも後述するように、取締役の政治献金をなすにあたっての注意義務としては取締役が認識している資産の劣化状況に基づいてこの条文を理解すべきである)。
5.訴外会社の決算書類上の損益状況
  訴外会社の定時総会に提出され、その承認を得た損益計算書によれば、剰余金と当期損益は次のとおりである。
(但し、2001年3月期は決算短信によった。)
(単位:百万円)

年度 剰余金 うち当期損失 債務免除額 特別損失
(1993年)
3月期

 179,190

   9,045

--- ・・・
(1994年)
3月期

 174,080

   1,088

--- ・・・
(1995年)
3月期

 173,141

   1,093

--- ・・・
(1996年)
3月期

 172,191

   1,093

---

 22,059

(1997年)
3月期

 171,038

   1,098

---

 19,170

(1998年)
3月期

▲48,858

▲217,644

---

242,689

(1999年)
3月期

  1,431

   1,431

---

 14,370

(2000年)
3月期

 32,519

   2,755

---

 26,994

(2001年)
3月期

▲120,231

▲152,750

---

577,140

  訴外会社は1998年(平成10年)3月期に2426億円、2001年(平成13年)3月期に5771億円の特別損失合計8197億円を計上した。この巨額の損失はこの2年間に突如発生した損失ではない。
  損失は以前から発生していたもので、この2期において損失計上の経理処理を行なうという意思決定を行なったまでである。損失発生の事実は相当以前から認識されていたものである。

6.バブル経済破綻期に生じた巨額損失
  この点は自明の理であるが、当時取締役社長であった被告松本良夫も、平成12年9月付の株主宛の「株主の皆様へ」との文書(甲15)で、「昭和50年代後半から一層の発展を目指して国内外で数多くの大規模開発事業に参画し、投資やプロジェクトの保証を行なうことで、飛躍的に受注を拡大いたしましたが、その後の経済情勢の激変もあって、この投資や保証を有利子負債に転化し、今日の苦境を招く結果となったわけでございます。」と述べている。
 「その後の経済情勢の激変」とは当然バブル経済の破綻であり、その時期であり、90年代前半において「この投資や保証が有利子負債に転化し」たものである(藤島証人調書30頁〜34頁)。
  このように、バブル経済破綻期に生じた巨額の評価損等が貸借対照上は何ら反映されることなく推移した。1998年(平成10年)3月期にその損失分の一部である2426億円を特別損失として計上した。更に2001年(平成13年)3月期に、2000年12月に住友銀行ほか12行の金融機関から4300億円の債権放棄を受けるにあたり、更に5771億円もの特別損失を計上した。これは特別損失相当額の資産の劣化がバブル経済破綻時に生じ、それを会計上計上することなく隠ぺいし、債権放棄(債務免除益として利益として計上されることになる)を機に、税金対策もあって、この時期に既に発生していた評価損失を計上したものであることは明らかである。

7.商法上の資産評価の原則
  商法第285条は「会社の会計帳簿に記載すべき財産の価額については、第34条第2号(固定資産の評価)の外、第285条の2(流動資産の評価)及び第285条の4乃至第285条の7(金銭債権・社債・株式・暖簾等の評価)の規定を適用す」と定めている。
  これによれば、
固定資産については「予測すること能はざる減損が生じたるときは相当の減価を為すことを要する」
  流動資産についても「時価が取得価額又は製作価額より著しく低きときは・・・回復すると認められる場合を除くの外時価を付することを要す」
  金銭債権については「金銭債権に付取立不能の虞あるときは取り立つること能はざる見込額を控除することを要す」
 株式等については「市場価格なき株式に付ては其の発行会社の資産状態が著しく悪化したるときは相当の減額をなすことを要す」
とそれぞれ定めている。
 バブル経済崩壊以降、訴外会社の資産には「予測すること能はざる減損」「時価が著しく低き」「取立不能の虞」が生じていたことはつぎの点から明白である。

8.1998年(平成10年)3月期の特別損失計上
  訴外会社は1998年(平成10年)3月期に2426億円の特別損失を計上しているが、その内訳はつぎのとおりとなる。
  海外事業整理損          153,686 百万円
  貸倒引当金繰入額         64,748
  開発事業整理損失引当金繰入額    11,615
  貸倒損失              6,640
  その他               6,000
  合計              242,689


9.2001年3月期の特別損失計上
  訴外会社の2001年(平成13年)3月期(平成12年4月1日〜平成13年3月31日)には特別損失として5771億4000万円が計上されている(甲12号証の7)。
  この内訳は、
  固定資産売却損       214億8200万円
  たな卸不動産評価損    438億4200万円
  投資有価証券償却損    933億5700万円
  関係会社株式評価損   1500億1900万円
  貸倒引当金繰入額    1859億6400万円
  その他          824億7400万円
              5771億4000万円

  この特別損失が生じたのは、貸借対照表の前期との比較から、主につぎの資産の減価によるものである(当期中の資産の新たな取得あるいは譲渡は無視して計算する)。
完成工事未収入金      △303億5000万円
有価証券          △250億9300万円
販売用不動産        △387億2400万円
未成工事支出金       △511億2700万円
関係会社短期貸付金     △339億1100万円
立替金           △208億3000万円
土地            △263億7900万円
関係会社株式        △1856億9800万円
関係会社出資金       △260億円
長期貸付金         △320億9100万円
関係会社長期貸付金     △103億0600万円

などである。
これらの減価あるいは損失の殆どは、バブル経済期に購入した販売用不動産や、海外あるいは国内の関係子会社への投資、貸付によるものであることは明らかである。バブル経済崩壊と共に生じたにも拘らず、商法の定めに反して減価並びに損失として決算書類上は計上してこなかったものを、金融機関の債権放棄がなされた平成13年3月期の期末において計上したものである。
10.商法の評価原則にひき直して欠損の有無を判断すべきである
  政治資金規正法第22条の4の法の趣旨からするなら「確定した決算書類」に商法の定めに違背する資産の評価がなされているときは、それを同法の定める評価にひき直して計算したうえで欠損が生じているか否かを判断すべきである。
11.実質的に考えるなら訴外会社には遅くとも1995年から継続的に欠損が生じていた。
  以上の事実を前提に、1998年(平成10年)3月期の特別損失2426億円、2001年(平成13年)5771億円は、バブル経済崩壊時に直ちに発生したと考えられるが、いずれも1993年(平成5年)ころから6〜8年にわたって毎年毎年損失が発生したであろうと推定して考え(「予測すること能はざる減損」「時価が著しく低く」「取立不能の虞」を認識するには一定期間必要と考えられるため)、これを修正して実態に合致した剰余金等を年度別に整理するとつぎのとおりである。
(単位:百万円)

年度

剰余金

うち
当期損益

債務
免除額

特別損失

2001
年特別損
失の修正

1998
年特別損
失の修正

修正後
剰余金残高
(▲は欠損)

(1993年)
3月期

179,190

9,045

---

・・・

 

 

40,000

139,190

(1994年)
3月期

174,080

1,088

---

・・・

50,000

40,000

44,080

(1995年)
3月期

173,141

1,093

---

・・・

50,000

40,000

▲46,859

(1996年)
3月期

172,191

1,093

---

22,059

80,000

40,000

▲167,809

(1997年)
3月期

171,038

1,098

---

19,170

80,000

40,000

▲288,962

(1998年)
3月期

▲48,858

▲217,644

---

242,689

80,000

42,689

▲388,858

(1999年)
3月期

1,431

1,431

---

14,370

80,000

 

 

▲418,569

(2000年)
3月期

32,519

2,755

---

26,994

80,000

 

 

▲467,481

(2001年)
3月期

▲120,231

▲152,750

430,000

577,140

77,140

 

 

▲120,231


  なお、政治資金規正法第22条の4第1項における「貸借対照表に記載された欠損金」とは、剰余金の反対概念としての資本の欠損のことであり、当期損失とは異なる。したがって、当期損失が生じていても、任意積立金等で補填される状況である限り欠損は生ぜず、その損失の額が任意積立金等を超過する状態になったときに初めて欠損金として処理されることになる。すなわち、欠損を生じているかどうかは、貸借対照表の資本の部に「欠損金」が記載されているかどうかにより判断されることになる。
  前記の表で説明すると、1993年3月期においては剰余金(貸借対照表の資本の部のその他の剰余金のこと)は1791億9000万円であるが、1998年3月期の特別損失のその年度の推定割当修正額400億円を剰余金で損失処理すると、修正後の剰余金残高は1391億9000万円となり、この年度は欠損が生じない。1994年度3月期は2001年3月期の特別損失のこの年度分の修正額500億円と1998年3月期の同じく修正額400億円の計900億円に、この間の剰余金の減少額(1791億9000万円−1740億8000万円=51億1000万円)を加えた額を、前年度末の剰余金1391億9000万円から差し引いて損失処理すると、剰余金残高は440億8000万円となり、未だ欠損は生じていない。
  しかし、1995年3月期は、特別損失修正額計900億円に、剰余金の減少額を加えた909億3900万円を、前年度の剰余金残高440億8000万円から差し引くと、マイナス468億5900万円となり、剰余金では不足する欠損が生ずることになる。以降の年度も当然欠損が継続する。
  訴外会社は、このような実質的には欠損の状況があったので、1993年7月に「体質改善計画」を、更に1997年10月には「経営革新中期計画」を策定し、経営危機からの脱出を計ったが、成功しなかった。
  そこで2000年9月に「新経営革新計画」を策定し、住友銀行をはじめ金融機関12行に4500億円もの債権放棄を申し入れた。
  同年12月に、借入れをしていた住友銀行ほか12行の金融機関から総額4300億円もの債権放棄を受け、更に2001年1月の臨時株主総会の決議に基づき、約820億円の資本を約170億円に無償減資をして、やっと会社として存続できたのである。本来ならば破産していた。
  この特別損失額がバブル経済崩壊時から現実に発生し続けていたことを考えれば、遅くとも1995年から資本の部において欠損金が生じていた財政状況にあったことは前記の表から明らかである。
  同法22条の4第1項の法意からするなら、遅くとも3事業年度に亘り継続することが必要であるから、少なくも1997年3月からの政治献金は同法に違反する。被告らは会社の資産状況を商法の基準に基づいて検討したなら、欠損を生じていることが明らかなのに、寄附をしたのであるから、本条文に該当する違法な献金である。
第3 本件政治献金は定款の目的の範囲外の行為である
1.本件政治献金は客観的・抽象的な行為の性質からするなら、無償の利益の供与であり、定款の目的の範囲外行為である。
 本件政治献金の支出は、訴外会社の資産の対価性のない流出である無償の利益の供与であり、客観的・抽象的に明らかに株主の営利目的に違背するものである。利益の供与であっても、その対価性が明らかなものもある。取引先あるいは取引先となることが将来期待される相手に対する中元・歳暮や接待、取引先に対する債務保証や物上保証をなす行為がこれである。これらの行為は目的の範囲となるのは顧客・取引先の獲得、維持という取引上の対価を前提とする対価性のある利益供与のためである。これに対し政治献金は対価を求めればそれは贈賄罪を構成するものである。
   従って政治献金を含む対価性のない無償利益の供与は、客観的・抽象的に観察すれば目的の遂行に直接・間接に必要な行為どころか、株主共同資産の一方的流出という目的違背の行為にならざるを得ない。
   しかし、慈善的寄附や災害救助などを含む無償の利益の供与という行為がすべて目的の範囲外となるものではなく、後述するようなその行為の具体的・個別的検討を加えたうえで目的の範囲内の行為となり得るものである。
   このように、無償利益の供与は、客観的・抽象的に観察すれば目的の範囲外となることは明白である。
2.本件政治献金は社会通念上期待・要請されるものでない。
(1)本件政治献金は、憲法の求める選挙権の「徹底した平等化」に違背する
経済的・社会的に巨大な企業によりなされる政治献金は、選挙権を有し、国政決定の主体である一人一人の国民では到底出捐することのできない巨額なものである。
   国民の選挙権につき最高裁昭和51年4月14日衆議院議員定数是正事件判決(民集30巻3号223頁)は、
   ア.選挙権は、国民の国政への参加の機会を保障する権利として議会制民主主義の根幹をなす。
   イ.選挙権に関しては、国民はすべて政治的価値において平等であるべきであるとする徹底した平等化を志向する。
   ウ.各選挙人の投票の価値の平等もまた、憲法の要求するところである。
としている。
   この最高裁判決の述べている「徹底した平等化」とは、選挙結果そのもののみならず、選挙結果に至る選挙のプロセス全体を通じて個々の選挙人たる国民が選挙結果に対し同じ影響力を及ぼすことのできる平等な法的可能性と解することができよう。
   企業による巨額の政治献金は、個人の浄財である個人献金の額を桁違いに凌駕し、その献金を受けた政党(その政治資金団体)の経済的基盤を強固にさせる。それによって政党の選挙運動を有利に展開し、得票率を国民の総意以上に上昇させる結果をもたらすことは、政治の世界においては公知の事実と言えよう。逆に企業の政治献金に依存しない政党を相対的に経済的劣位に置くことになる。
   選挙のプロセス全体を通じた、選挙人たる個々の国民の政治的価値の「徹底した平等化」にとって、企業・団体の政治献金は大きな阻害物となっている。
   この点からして、本件政治献金は社会通念上期待・要請される行為でないこと明白である。
(2)本件政治献金は特定政党並びに献金を行なっている一部企業のみが期待・要請するにすぎない
   本件政治献金は特定の政党(自民党)に対する献金であり、その主義・主張を支持し、その政治活動・選挙活動を支援するためになされたものである。政党政治を発展させるという一般的・公益的価値を有するものではないことは明らかである。本件政治献金を期待・要請しているのは、社会一般ではなく、献金を受ける特定政党とその支持者である。
   政治献金を社会が期待・要請しないことは、献金している企業そのものが最も悉知している。即ち、会社も含めて、企業は政治献金をしている事実を、つぎに述べる社会貢献活動とは反対に隠すことに努めている。株主総会でも報告されず、株主に知らされることもない。社会の大多数の者は、特定政党に対する献金を期待・要請しておらず、有用な行為とはみていないことを悉知しているからこそ、社会貢献活動とは全く逆にその事実の公開を避けているのである。
(3)本件政治献金は政治腐敗や利益誘導に結びつく危険性を有している
   更に、巨額の献金によって、献金を受けた政党に、当該企業あるいは当該業界にとって有利な政策誘導をさせる機能を有することも否定できない。昭電疑獄事件、造船疑獄事件、ロッキード事件、また近年のリクルート事件、共和事件、佐川急便事件、金丸巨額脱税事件、ゼネコン汚職事件、KSD事件など、企業・団体献金が利権・利益誘導と結びつくことによって、政治腐敗や汚職の原因となってきたことは明らかである。仮にそこまでに至らずとも、企業・団体の献金は少なくも、当該企業あるいは当該業界の業務に支障が生ずるような政策決定を未然に予防させるという機能を有し、またそれを期待してなされていることは明らかと言える。
   とりわけ、日建連が政府に提出している要望等からも明らかなように、ゼネコン企業並びにその業界の利益団体である日建連(=十日会)にとっては、ゼネコン企業の工事受注率の多くを占める公共事業工事について、政府がいかなる政策決定をするかは死活問題と言っても過言でない。
   また、訴外会社も含め殆どのゼネコン企業は常時、国との土木・建築工事についての受注契約関係にあり、個別的・具体的に国と利害関係を有している。
   従って、政府の政策決定に対し、与党として決定権を有する自民党(その政治資金団体である国民政治協会)に対する本件政治献金は訴外会社あるいはゼネコン業界にとって有利な政策誘導を期待して行われがちとなることは否めない。
   国民の参政権を阻害し、企業にとって有利な政策誘導の呼び水となるおそれという点からも、社会的に期待・要請されるものではなく、有用な役割を果たすものでもない。
   社会通念は政党の政治資金については、党費並びに浄財たる個人献金並びに政党助成金によるべきとしており、企業・団体の政治献金についてはそれを受領する政党、並びにそれを献金することによって何らかの事業上、営業上の利益を期待する一部企業・団体のみが期待・要請しているものにすぎない。
3.本件政治献金は「企業体としての円滑な発展」の障害になる
 政治献金をなすことによって社会的に企業としてのイメージアップをはかることができ、それが「企業体としての円滑な発展をはかるうえ相当な価値と効果が認められ」、それが、間接的に目的達成に寄与することができるなら、定款の目的の範囲内と言うこともできよう。
   企業がディスクロージャー誌において広報している社会福祉、学術研究、教育、芸術、文化等の社会貢献活動はイメージアップの効果をもたらすことは当然である。だからこそ企業は、ディスクロージャー誌やマスコミ、文化行事等に企業名を「冠」して積極的に広報し、これが国民に広く知られるよう努力し、また知られることを期待してなされているものである。
   これに対し、同じ無償の利益の供与であっても政治献金にあっては、全く反対に、既述したとおり、その事実をひた隠しているのである。
   これは、政治献金をすることが社会的にイメージアップどころかイメージダウンになるものであり、そのことを自認しているからこそ、その事実が社会的に知られることを極力回避しているのである。
   このように、本件政治献金は「円滑な発展」にとって障害になっており、イメージアップという「相当な価値と効果」にとっては全く逆のイメージダウンをもたらすにすぎないものである。
4.政治資金規正法上容認されても、定款の目的の範囲の行為とならない
  政治資金規正法は、既述したような企業の政治献金による多くの疑獄・汚職事件が発生するなかで、それを規正するために制定されたものであり、これにより政治献金が社会的意義あるものと認められているものではない。却って、一定限度を超えた献金を刑事罰の対象とし、その抑制を図っているものである。また立法は、政治献金を受けている多数党たる自民党を中心になされており、同法の内容は社会通念との齟齬が生じている点も充分検討さるべきである。
  定款の目的の範囲内か否かについては民商法上の解釈の問題であり、その要件は既述してきたところであり、政治資金規正法上認められていても、それが「客観的・抽象的な性質に即し目的の範囲内かどうか」「社会通念上期待・要請される行為かどうか」等によって判断されるべきことである。

                                                            以 上