平成13年(ワ)第144号・同262号 熊谷組株主代表訴訟事件
原 告  
被 告  熊谷 太一郎 外2名

最終準備書面(4)

─── 取締役の善管注意義務論に違反する ─── 

2002(平成14)年9月18日
福井地方裁判所
  民事部 合議2係  御 中

            原告訴訟代理人
             弁護士(代表) 松   丸     正

第1 被告が主張する取締役の注意義務論について
1.被告が主張する取締役の善管注意義務違反の基準
株式会社の取締役は、法令、定款の定め、並びに株主総会の決議を遵守するのみでは十分でなく、株式会社の経営を委ねられた専門家として、長期的な視点に立ち、全株主にとって最も利益となるように職務を遂行すべき善管注意義務を負っていることはもちろんである(商法254上3項、民法644条)。
  もっとも、事業を営むに当たっては、時々刻々変化する諸々の要素を的確に把握して総合評価し、時機を失することなく経営判断を積み重ねていかなければならないから、経営の専門家である取締役がその職務を遂行するに当たっては、広い裁量があたえられているものといわなければならない。
  従って、取締役に対し、過去の経営上の措置が善管注意義務違反であるとしてその責任を追及するためには、その経営上の措置を執った時点において、取締役の判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがあったか、あるいは、その意思決定の過程、内容が企業経営者として特に不合理、不適切なものであったことを要するものと解するのが相当である。
そして、株式会社のする政治献金についても、事業活動の一環としてなされるものであり、取締役に広い裁量が認められており、株式会社の資産状況及び収益状況等、諸般の事情を考慮し、合理的な範囲内において政治献金を行うことができるものと解するのが相当である。
2.本件へのあてはめ
本件政治献金の額は、前述のとおり政治資金規正法の制限内である。そして、被告らは、取締役個人の、また、特定の、あるいは一部の株主の思想・信条及び主義・主張から離れ、株主全体の利益の観点から判断し、建設業を継続的、安定的に遂行していく上で、社会、経済の安定的な基盤の確保が不可欠の前提であり、とりわけ自由主義経済体制の維持・発展が主要な要素と考え、本件政治献金を行うことが適切であるとの考えに立って、本件政治献金をしているものである。
加えて、株式会社が特定の政党あるいは政治資金規正法上の政治資金団体に対して政治献金を行ったとしても、直ちに株主の政治的信条の自由を侵害するものではなく、政治資金規正法は、株式会社が政治献金を行うことを前提とする条文を設けており、株式会社が政治献金を行うことの社会的意義は今なお失われておらず、株式会社が政治献金を行うことがその社会的役割を果たすことに通じるとの社会的な評価は失われていないものと解される。
以上によれば、被告らが本件政治献金を行うことを決裁するに当たり、その判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがあったとは言えず、また、その意思決定の過程、内容が特に不合理、不適切なものであったとも言えないのであり、本件政治献金を行うこととした経営判断について、被告らは、認められている裁量の範囲を逸脱してはいない。従って、善管注意義務違反とはいえないこと明らかである。
なお、原告の主張に従えば、株式会社が政治献金を行ったら、必然的に取締役の善管注意義務違反ということになってしまう。このような主張は、株式会社の政治献金を認めている現法体系に合致しないというべきである。
第2 被告らの取締役の善管注意義務論は、商法254条3項、民法644条の解釈を誤っている。
1.取締役の注意義務違反についてのみ、何故上記第1、のごとき解するのか、それが全く説明されていない。
会社と取締役の法律関係は委任契約である。委任の趣旨に反すれば、その取締役の注意義務違反が肯定されるのは法律のイロハである。
会社自らが取締役の責任を追及する場合も同様である。株主代表訴訟も株主が会社を代位して請求するだけであるから、その法構造は同じである。
  この論理から取締役の注意義務違反を検討するとすれば「委任の趣旨」に反するかどうかであって、原判決のような「取締役の判断の事実の認識に重要且つ不注意な誤りがあった」とか「意思決定の過程、内容が企業経営者として特に不合理、不適切なものであった」ことに限定する理論は成り立ち得ない。
  しかるに被告らの注意義務論は取締役の場合の注意義務違反を著しく狭く解している。取締役と会社との間の法律関係は、委任契約であることを看過している。商法266条の3の第三者からの損害賠償と法構造が全く異なるのに代表訴訟を同法266条の3の解釈と同じ論理である。
2.政治献金の支出について広範な裁量権があると解することはできない。
(1)取締役の事業活動に関して一定の裁量が肯定される。しかし、政治献金について通常の事業活動と同等に広い裁量権が認められることにはならない。
   政治献金は通常の本来の事業活動とも異なる。それは通常の事業のように事業活動の基準、即ちどれだけ投資すればどれだけ利益が生じるか計測する基準がないからである。コストアンドベネフィット論で判断できないものである。利益の為に献金をするものであってはならないからである。この点では政治献金は慈善活動への寄附と類似する。
   このような慈善活動や政治活動についての取締役の判断は、株主が取締役に広範な裁量をもって委ねた事項ではない。事業活動について広範な裁量権の根拠は、その専門家としての専門性にある。しかるに政治献金については専門家としての判断が必要事項ではない。
   企業の社会責任又は企業も一市民であるという立場からの活動であるから専門性、技術性の判断が入らない。そうするとこのような本来の業務とは異なる本件政治献金の是か非かの判断に、広範な裁量権を認める根拠がなくなってしまう。
(2)@ 政治献金の特殊性を考慮すれば、尚更その裁量の幅は狭い。
     政治献金の行為の特質があるから、その判断は慎重でなければならい。
     a.政治献金は通常の事業活動等と異なる。
  経済のルールで考慮することが出来ないからである(前記のとおり)。
  b.社会貢献活動とも異なる
  圧倒的多数の人々が賛同する行為でもないからである。
  必ず対立する政党が存在する。
  c.政治献金は個人の選挙における投票の自由と表裏をなすものであり、かつ極めて政治性が高いものであるから、個人が自主的に決定すべき事柄であるからである(国労最高裁事件は安保反対のような政治献金、税理士会事件も政治献金はいづれも個人の政治的信条等に基づき自主的に決定すべき事柄と述べた)。
   以上のとおり、いづれにしても関係者の思想、信条等と抵触するか、又はそれらと密接に絡む問題があるから社会貢献活動よりも裁量の幅が狭い。
A 政治献金の無償性である。
  政治献金は企業への見返りを期待してなすことが出来ない性質の寄附である(賄賂となる)。
 被告らは建設事業の安定的基盤の確保と主張してみても、結局のところ一定の金額を寄附したから建設事業にどのような形で貢献するのか明確ではない。逆に献金しなかった場合、どのような事業遂行上マイナスがでるのかその証明が為されていない。経済ルールである費用と効果の関係が全く説明出来ない性質のものである。その点では結局のところ、無償である以上、会社、株主の利益に抵触することは明らかであるからその裁量の幅が極めて狭くなる。
   B 政治献金をするかどうかの判断は通常の事業活動と比べて迅速性が要求されていない。
通常の事業だと迅速性が要求されるが、被告の主張によるも政治献金は迅速性が要求されていないことは明らかである。迅速にしないと「建設事業」に損害を与えるものでもないからである。
第3 政治献金に対する取締役の行為の注意義務
   政治献金において取締役に裁量の幅が仮に与えられているとしても、以下にのべるような要件下においてのみ許されると解すべきである。訴状で詳細に述べたが、もう一度これを明確にする。
1.取締役の行為に対する注意義務の内容
    取締役が特定の政党に政治献金をする時に、その取締役の行為の注意義務は次のとおりである。
    もしその取締役の行為が次の注意義務に違反すると取締役の善管注意義務に違反する。
   @ 法令(コンプライアンス)又は定款との関係で違法である場合
    A 株主の大多数の意思に反する場合
    B 社会から期待、要請されていないのに献金する場合
    C 献金した金が献金目的に費消されていない場合
    D 献金した場合の弊害が存在する場合
    E 上記@乃至Dの事項に明白に該当しない場合でも、その疑いがある場合
2.上記注意義務が要求される理由は次のとおりである
(1)法令(コンプライアンス)又は定款に違反する場合。
   これは当然のことである。しかし、法令に違反しなければ、取締役は政党への政治献金を政治資金法の規正の枠内で自由に為すことができるということにはならない。法的に会社が献金出来るということ(刑罰が科されないこと)と、対内的にその献金が許されるかどうかとは別個の事柄であるからである。即ち、刑事上の責任と民事上の責任とは同一基準でないからである。
(2)株主の大多数の意思に反する場合。
取締役は会社、株主の利益の為に為すべき注意義務がある。株主の圧倒的多数が会社に期待しないことを取締役はそれをなすことが出来ない。とりわけ会社の経営状況が悪化し、実質上剰余金等が無くなった年度からは株主の圧倒的多数の意思に反することは明らかである。このような場合は一円でも支出を少なくするのが取締役の任務であるからである。
   配当すら出来ない状況で政治献金をすることをおよそ株主は期待もしていないし、要請もしない。株式会社は株主に配当することを至上目的としている。配当も出来ず、又は会社が危機的状況に陥っているのに「市場主義体制を守る」とか「自由主義体制を守る」といってみても、自らの会社が倒産寸前では意味のない支出となるからである。
(3)社会から広く期待要請されていないのに献金する場合
   最高裁の八幡献金事件はこの点を考慮して、政治献金を認めたからである。政治献金も社会貢献活動と同一レベルの支出である以上、社会から期待されるものでなければならないからである。
(4)献金した金が献金目的に費消されていない場合。
   通常の取引行為の場合は、その投下された金がどのような使途に費消されているか、当然に予測できる。これは基本的に寄附という行為により必然的に要請される基準である。しかし社会貢献活動の場合、寄附された金が何に使われたかは、はっきりしている。しかし、政治献金の場合は、何に費消されているのか判らないから、尚更、使途の調査が必要とされる。
   もし、寄附した金がその寄附目的に支出されていないケースの場合は、取締役の義務違反が生じる。
(5)献金した場合の弊害がある場合。
  イ.巨額の政治献金が政権党を左右し、その政治姿勢、政策を歪める場合、またはその歪めるおそれがあると多数の国民に疑惑を招く場合等は、企業が民主主義社会(言論、提案によって決定する制度)を歪めていると社会から評価される。これは献金の最大の弊害である。 
  ロ.政治献金は受ける政党からみればプラスであるが、献金を受けない政党からみればマイナスに作用することは客観的事実である。そうすると、政治献金の場合は他党に対し弊害を生じているものである以上、その程度がとるに足りないものでなければならないことが要求される。金額が多いと必ず他党にマイナス作用を与える。
(6)上記イ乃至ホの事項に明白に該当しない場合でも、その疑いがある場合。
   政治献金は本来、正常な企業活動ではない。このような政治献金の性質上、もし上記イ乃至ホの各事項に明白に違反しないでもその疑いが存在する場合は取締役は原則に戻り、政治献金を抑制すべきであるからである。
   もし、疑いがあるとすれば、いつ何時そのことをめぐって関係者からの批判が出るかもしれず、企業にとってプラスとならないからである。
(7)本件注意義務のひとつでも抵触すれば、それ以外の基準を考慮することなく取締役の注意義務違反があったと解すべきである。 
第4 取締役の注意義務違反の事実
1.しかるに、被告らは前記注意義務に関する事実も検討もせず、又は前記2(1)乃至(7)の事実に全て違反して漫然と本件政治献金をした注意義務違反がある。
2.法令(コンプライアンス)又は定款に違反する事実
最終準備書面(3)に縷々述べた事実のとおりであり、本注意義務に違反する。
3.株主の大多数の意思に反する場合外の義務違反
(1)熊谷組の1999(平成11)年株主構成をみると次のとおりとなっている。

  政府及び
地方公共
団体
金融機関
法人
証券会社
その他の
法人
外国法人
(うち個人)
個人
その他
株主数
(人)

117

88

1,099

268
(26)

86,927

88,500

割合
(%)

0.03

12.93

0.62

24.58

3.86
(0.02)

57.98

100

   これをみると、個人株主88,927人(57.98%)を含む多数の株主により構成されている以上、必ずしもこれらの大多数が自民党を支持しているとも思われない。
   更に、1993年7月に「体質改善計画」を実施し、剰余金が欠損状況になっているのであるから、又は欠損状況になっていなくとも会社の財務状況が悪化しているのであるから1996年以降の本件政治献金はおよそ株主の大多数の賛同が得られる状況ではないことは明らかである。
  しかるに被告らはこのような状況について株主の意思がどうなるか考慮せず、献金した注意義務違反がある。
(2)社会から期待要請されていないのに献金した事実については前記に述べたように、社会から期待要請されていないことは明らかなのに、それを全く検討もせず、被告らは本件政治献金をなした注意義務違反がある。
(3)献金した金が献金目的に費消されていない
本件政治献金は国民政治協会を通じて自民党に寄附されている。
   自民党の1996年から2000年の自民党の支出は別表のとおりであり、企業献金の大半は自民党の国会議員の「組織活動費」として選挙活動として消え、これがアングラマネーとなっている。
   市場主義経済等を守ることと自民党の国会議員のアングラマネーと化すこととは何の因果関係もないにもかかわらず、被告らは政治献金を続けた違反がある。
(4)献金した場合の弊害がある場合
1996年から2000年の政党は前記最終準備書面(1)のとおり多数の政党が存在する。自民党に巨額の献金をすることは献金を受けない多くの政党にとってマイナスに作用することが明らかである。にもかかわらず、この点に違反して献金することは取締役の注意義務に違反する。
(5)上記(1)乃至(4)に明白に違反しないでも違反する疑いがある場合も献金を抑制すべきなのに漫然と本件献金をなした違反がある。
第5 経営判断としても誤りである(取締役の判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがある)。
1.経営判断原則の5原則
  仮に、政治献金の支出にこ被告の主張するような経営判断原則が適用されたとしても、本件の支出には経営判断原則が適用されない。
  神戸大学近藤光男教授は「経営判断と取締役の責任」(122頁以下)において経営判断の5要件について次のとおり述べている(甲26号証)。
 『その第一の要件としては、十分な情報を集めた上での経営判断であることが挙げられる。いくら取締役の経営判断だからといっても、いい加減で杜撰になされた経営判断までもが、裁判所によって尊重されることはないのである。そこで、取締役は経営判断を下すにあたって、十分な情報に基づくことが要請されるのである。このことは、経営判断を行うにあたって必要な情報を集めなければならないことのみならず、取締役にはたえず必要な情報が入ることを確保すべく、そのためのシステムを設けておくことも要求される。すなわち、たとえば、取締役が緊急な決定を下す場合においても、十分な情報を得ることが要求される。しかし、この場合には、情報収集に限界があり、必ずしも十分な情報に基づく経営判断でなくとも、責任は問われないと考えられる。但し、その場合においても、取締役はほとんど情報を集めなくてもよいということにはならない。通常その会社ではどのような情報管理のシステムを構築していたかが問題となろう。更に、同学者は35頁以下に次のとおり述べている。『経営判断の事項について、当該状況の下で、適切であると合理的に取締役が信じる範囲で十分に情報を得ていることである。例え取締役の経営判断であっても、情報を得た上での判断(informed decision)でなければ、保護されないのである。例えば、後でも紹介するが、トランス・ユニオン事件がその旨を判示している。この事件では、会社の合併という重大事項について審議した取締役会において、取締役会議長のわずか20分間の口頭の説明に基づき、議長の報告を信頼するだけで、2時間討議して合併を承認してしまった。その際に取締役等は、社外の機関による調査、研究、公正な意見を求めることはしなかった。その結果、デラウエア州の最高裁判所は、経営判断の法則の保護を否定して、取締役に厳格な責任を課している。ここでは、意思決定の合理性を求められているわけである。もちろん情報を得ているかどうかということは、取締役が経営判断を下すに当たっての準備が万全かという点に関して意味があるのであり、経営判断の質の評価の問題ではない。
  ここで、「当該状況の下で、適切であると合理的に取締役が信じる範囲で十分に情報を得ていること」という表現が使われているのは、必要な情報量は、経営判断を下す際の時間的な制約等によって決まる問題でもあるからである。
  第二の要件として挙げられることは、合理的な根拠のある経営判断でなければなならないということである。単なるカンに基づく経営判断や根拠のない経営判断であれば、裁判所はこれを尊重することはないと思われる。言い方を変えれば、その取締役だけしか理解出来ない経営方法ではなく、筋道の通った経営判断でなければならないのである。
  第三の要件としては、忠実義務違反の事例には適用されない。つまり、取締役が会社のために最善と思う判断を下したということが前提となる。
  第四の要件として、法令に違反する経営判断は保護されない。たとえ会社の利益になる経営判断であっても、法令に違反するものまで、裁判所が尊重するのはおかしいからである。
  第五に、原則として不作為は保護されないことである。』
2.本件政治献金についての経営判断としての検討
(1)本件献金理由についての被告らの経営判断
@ これは前記第1に述べた理由、即ち建設業を継続的、安定的に遂行していく上で、とりわけ自由主義経済体制の維持・発展が重要と考え、本件政治献金を行うことが適切であると判断して行ったと主張している。まず、この判断内容が前記五要件のうちの第二の要件「合理的な根拠のある経営判断」でなければならない。
A 合理的な経営判断かどうかについては、およそ経済界、マスコミ界、政府の選挙制度審議会の見解とも異なり、異端な考え方であることは最終準備書面(1)第3、2に詳細に述べたとおりである。
社会から許容されない経営判断は合理的な経営者の判断にそもそもならない。
  B また、現実の政党間の間では、上記のようなことが全く争点ともなっていない(甲27号証の1,2,3)。その点で、この経営判断は取締役としても時代錯誤であり、取締役の思い込みでしかない。
  C 合理的な判断という為には、会社にとって利益となるかどうかだけでなく、株主の利益、期待にも答えることが出来るかどうかの判断が必要である。株式会社の取締役は、株主利益の最大追及が目的であるからである。
    熊谷組は最終準備書面(3)で述べたとおり、1996年頃からは実質は、欠損会社であり、債務超過会社であった。少なくとも、株主配当をしていないことは明らかであった。
    1998年3月期は確定決算上も488億円余の欠損があった。このような時に取締役は自己の会社の実態としての欠損状況、配当状況等からみれば、株主の利益、期待に全く添っていないことは明らかであった。このような時に以上の会社の財務状況、配当状況を考慮せず、資本金、売上高等から算出された日建連の言われるままの金額を献金することは、赤字会社の取締役としては、合理的な十分な経営判断をしていたことにはならない。このような経営判断は失当である。
  D 現実には、本件政治献金の実態は、日建連というゼネコン業界が統一的に自己の要求を実現する為に、その見返りを期待しての献金である以上、そのようなおそれのある献金をすることは経営判断としても誤りである。公序に反するか又は反するおそれがあるからである。
  E また、公職選挙法199状に明白に違反しなくとも、当該選挙に支出される危険性のある本件支出は、経営者の経営判断としても合理性がある判断とも思われない。
(2)@ 最も重要なことは、上記のごとき経営判断に至る過程において、十分な情報に基づいて行っているかである。特に被告らの献金判断が特異であればある程、その判断に至る過程において十分な情報に基づいていなければならない。
     取締役は、政治献金の必要性を取締役個人がその旨信じたということだけでは足りない。
政治献金が必要とされる事情について、十分な情報を得た上で、手続がなされなければならない。
     いづれにしても、被告らの説明によるも本件献金が具体的に、何故に自由主義経済体制を守ることになるのか、その必要性が検討されたものではない。
     しかしこのような判断の前提となった事実についてどのような情報をもとに決定したかについて何ら説明しない。
   A 会社は20数年前から献金をしている。そうするとこの間にこの献金の必要性についてサンプリング調査等、専門会社に依頼して調査する方法は十分にある筈であった。その費用(といっても献金する額にも満たないが)の節約をする必要があるならば、デスクロージャー紙の中に記載し、株主社会の反応等をみる機会は十分にあった筈である。
     しかし、会社はそのようなことをこの20数年間に何ら調査することや株主の反応を見ることすらしなかった。とりわけ米ソ対立、社会主義社会が終演し、かつ我が国の政党が全て市場主義を党是にした1990年代に入ってから、更には、政党助成法が施行されてからでも、その必要性について検討すべきであった。
     会社は上記容易になし得る調査や「試み」を何ら実施することなく、漫然と建設事業の安定的基盤の確立の為であるから会社の利益になると、客観的な資料等に基づかず判断して献金をしているだけである。このような長年の惰性と「悪しき慣行」どおり献金していることは、経営者としての経営判断を放棄しているに等しい。
B 政治献金をする必要性、有用性があるかどうかは疑わしいが、仮に献金をする必要性、有用性があるとしても、被告らはそれをその側面も比較考慮し、検討して本件支出を決定したならば、それも経営判断である。しかし、実態はそのような判断を全くしていない。日建連が十日会が決めたことをそのまま鵜呑みにしているに過ぎず、そもそも取締役としての経営判断をしていない。
C 更に、他党から要請がないというだけで、他党への献金を考慮、検討していない。しかし、建設業にとって必要不可欠で有用ならば、同じ自由主義を党是とする政党にも献金するかどうか検討すべきである。
しかし、それもしていないことはそもそも前記経営判断をしていない証拠である。
D 被告らは自民党を中心とする政党への献金は、建設事業の安定的基盤に役立つという認識を有し、献金したと信じたということにつきる。
(3)前記税理士会事件は、「規正法上の政治団体である以上、前判示のような広範な政治活動をすることが当然予定されているのであるから、この献金は税理士会の目的に沿った活動の範囲に限られるものではない」と認定した。
これと同様に、仮に被告らは建設事業の安定的基盤という目的の為に献金したとしても受け取った自民党は広範な政治活動をしており、かつその為の諸支出をしているのであるから、この目的に沿った活動に限定されるものでもない。
   自民党は安保条約肯定、憲法改正を含む広範な政治活動を展開している。そして、選挙になればその時々の政策(例えば消費税導入・・・)や政権の枠組(自社、自保公・・・)について国民の審判を仰ぐべく他の政党との違いを明らかにして国民の支持を受けようとしている。
   従って、その時々、会社が自民党に寄附したとしても会社が考える目的に費消されていない以上、被告らの献金目的に費消されていない以上、その支出は失当である。
(4)以上を総合すると、被告らの経営判断においても事実の認識に重要かつ不注意な誤りがあったことになる。
第6 結論
被告らの本件政治献金は、取締役の注意義務違反を構成する。

          以 上