平成15年(ネ)第63号 熊谷組株主代表訴訟請求控訴事件
第一審原告  
第一審被告  熊 谷 太一郎・外2名

控 訴 理 由 書  (2)

  ── 取締役の善管注意義務違反、政治資金規制法違反、公序違反       ──   

2003年(平成15年)5月6日

名古屋高等裁判所金沢支部
    民事第1部A係  御 中

                第一審原告訴訟代理人
               弁護士  松  丸     正
                      外

第1 政治資金規正法と本件政治献金

1、原判決の判示の正当性と誤まり
原判決は、1998年(平成10年)3月期に訴外会社は2400億円余の損失を一括処理して488億円の欠損を
生じており、「これは多年の累積損失が経営を圧迫し、経営再建計画実現の目途がつかなくなったことを示すもので、
以後の株主配当が実施できなくなり、資本準備金の過半を取り崩さざるを得ない事態に至っていた。平成11年3月
期の決算においては、資本準備金の取崩しによって欠損は解消されたが、平成12年9月には新経営革新計画を策定
して、事業の縮小・人員の削減・給与の引下げの他、金融機関からの債務免除や減資をも実施しなければならない状
況に至っていたから、引き続き経営状況は逼迫し、取締役においてもそのまま推移すればさらに欠損を生じるべき確
定的認識が得られていたものと推認される。」としている。そのうえで、「少なくとも平成10年3月期以後は、政
治資金の寄附にあたり、会社の経営状況と寄附の必要性ないし有用性とを厳格に対比して検討し、その可否・数額・
時期等を慎重に判断すべき注意義務があったというべきである。」としたうえで、その後も、「本件政治献金の寄附
の使途や政治情勢に照らしてその必要性ないし有用性を検討した形跡も伺うことができず」善管注意義務違反の行為
であるとしている。
取締役が株主より経営者としての裁量にもとづき善管注意義務をもって遂行することを委任されているものは、経営
判断にかかわる行為にとどまることは言うまでもない。経営についてのプロフェッショナルとして、経営判断事項(
原判決の述べる「会社財産の増加を目指して業務拡大や新規業務の開拓を企画するため、その業務による利益獲得の
予想と損失発生の危険の予測とを相関的に判断すること」がこれに該当しよう。)については、経営判断についての
専門家としての取締役には裁量が認められて然るべきであろう。
しかし、企業の政治献金は無償の利益の供与であり、かつ会社の利益獲得という点での効果は「極めて間接的で希薄
なもの」にとどまらず、かえって会社資産の一方的流出であり、本来経営と直接の関連性を有しないものである。
かつ原判決も認めるように「一般の社会貢献活動への寄附とは異なり、社会への貢献、会社の社会的責任の遂行とも
係わりがなく、会社に対する社会の評価を直接・間接に維持し高める効果も有しない。」ものである。
これに加えて政治資金規正法が「赤字会社として株主に配当もできない経営状態にありながら政治資金の寄附をする
ことを許すのは適当でないとの配慮から、欠損が継続する期間一律に政治資金の寄附を禁止」するため、とくに「3
事業年度の継続した欠損という法の禁止要件に違反した会社の役職員に対しては刑罰をもって臨んでいるのであって(
同法26条の3第1号)、このような法の趣旨に照らせば、少なくとも会社に欠損が生じて以後の政治資金の寄附に
関しては、3事業年度の継続という法の禁止要件に該当しないときであっても、会社においてその可否・範囲・数額・
時期等につき厳格な審査を行い、欠損の解消にどの程度の影響があるか、株主への配当に優先して寄附を行う必要性
があるかを慎重に判断することが求められるといわなければならない。」ものである。
原判決が一般の経営判断事項と政治献金についての判断とを区別し、少なくとも1998年(平成10年)3月期以
後は「会社の経営状況と寄附の必要性ないし有用性とを厳格に対比して検討し、その可否・範囲・数額・時期等につ
き厳格な審査」を行なうことを求めているのは正当である。
しかし、原判決が訴外会社の確定した決算における貸借対照表の内容が虚偽であるとまでは認められないとし、政治
資金規正法違反を認めなかったこと、並びに1998年(平成10年)3月期以降の政治献金のみに善管注意義務違
反を認め、それ以前についてはその違反を認めなかったことは誤まりであり、以下それについて述べる。

2、訴外会社の確定した損益計算書
1998年(平成10年)3月期には2400億円余の損失を一括処理して欠損を生じ、その時点で取締役において
はそのまま推移すればさらに欠損を生じるべき確定的認識が得られていたものと推認できると原判決は判示している。
しかし、取締役は遅くとも1995年(平成7年)3月期には訴外会社には既に欠損が生じていることを確定的に認
識していたことは以下の点から明らかである。
訴外会社の株主総会で承認を得た損益計算書はつぎのとおりである。
(単位:百万円)                                                               
│年  度      │剰 余 金    │うち当期損益  │債務免除額    │特別損失     │
│(1993年)    │              │              │              │             │
│3月期        │179,190       │9,045         │         │  ・・・   │
│(1994年)    │              │              │         │             │
│3月期        │174,080       │1,088         │         │  ・・・   │
│(1995年)    │              │              │              │             │
│3月期        │173,141       │1,093         │         │  ・・・   │
│(1996年)    │              │              │              │             │
│3月期        │172,191       │1,093         │         │22,059       │
│(1997年)    │              │              │              │             │
│3月期        │171,038       │1,098         │         │19,170       │
│(1998年)    │              │              │              │             │
│3月期        │▲48,858      │▲217,644     │         │242,689      │
│(1999年)    │              │              │              │             │
│3月期        │1,431         │1,431         │         │14,370       │
│(2000年)    │              │              │              │             │
│3月期        │32,519        │2,755         │         │26,994       │
│(2001年)    │              │              │              │             │
│3月期        │▲120,231     │▲152,750     │430,000       │577,140      │
訴外会社は1998年(平成10年)3月期に2426億円、2001年(平成13年)3月期に5771億円の特
別損失合計8197億円を計上した。この巨額の損失はこの2年間に突如発生した損失ではない。
損失は以前から発生していたもので、この2期において損失計上の経理処理を行なうという意思決定を行なったまで
である。損失発生の事実は相当以前から認識されていたものである。
この特別損失額に加えて、後述するように2003年(平成15年)3月期には更に3000億円の特別損失が計上
される予定である。特別損失の総額は1兆円をはるかに上回る額であり、その殆んどはバブル経済期の過大な国内外
投資によって生じたものである。
1998年(平成10年)3月期現在の訴外会社の資産合計は有価証券報告書によれば1兆7000億円であり、こ
の資産合計額に迫らんとする特別損失額が1998年(平成10年)から2003年(平成15年)にかけて計上さ
れたことは、バブル経済崩壊の進行とともにそれが発生し、そのほぼ全容を遅くとも1995年(平成7年)3月期
までには訴外会社の取締役は認識していたものと推認できるものである。

3、取締役会議事録の議案の多くは不良債権にかかわるものである
訴外会社の1996年(平成8年)の取締役会議事録は、国内並びに海外での大規模開発事業についての投資や、プ
ロジェクトの保証債務の期間延長や投資から生じた不良債権の処理についての議案がその大半を占めている有様であ
る。
例えば1996年(平成8年)の第1回目の取締役会は1月26日に開催されているが、第4から第14の議案はつ
ぎのとおりである。
第4号議案 「(仮称)下総・神崎ゴルフ場建設事業」に係る貸付の弁済期日の延長および債務保証の期間延長の件
第5号議案 釧路キャッスルホテル株式会社に対する債務保証の保証内容変更の件
第6号議案 新都市計画株式会社に対する債務保証の期間延長の件
第7号議案 株式会社長柄カントリークラブに対する債務保証に係る借入利息の代位弁済の件
第8号議案 株式会社カワハラ技研に対する債務保証の期間延長の件
第9号議案 中央開発株式会社に対する債務保証の期間延長の件
第10号議案 日本観光株式会社に対する債務保証の期間延長の件
第11号議案 豪州営業所管轄の開発事業に係る平成8年度事業資金調達の件
第12号議案 ロンドン営業所管轄の開発事業に係る平成8年度事業資金調達の件
第13号議案 中国「北京遊楽園開発事業」に係る債務保証の件
第14号議案 九州ゴルフ倶楽部八幡コース造成工事に係る完成工事未収入金一部貸倒処理の件
このように国内外のプロジェクトにつき、プロジェクトを担う子会社・関連会社が借入金等の返済に窮し、その債務
保証をした訴外会社が債務保証の期間延長を行なうための議案が連なって上程されているのである。
それ以前、そして以降の取締役会でも、上程されている議案の殆んどは同様の議案である。そして、これらの債務保
証あるいは債務保証の対象となった国内外の子会社・関連会社への投資による損失は、1995年(平成7年)当時
においても現実化していることは、取締役は取締役会の議事を通じて周知していたものである。
これら損失が計上されたのは1998年(平成10年)3月期の2426億円、2001年(平成13年)3月期の
5771億円の特別損失によってではあるが、この特別損失はバブル経済崩壊期以降進行した訴外会社の債務増大・
資産劣化の結果である。
これは訴外会社一社にとどまる問題でなく、1995年(平成7年)度以前より経済界ではゼネコンの多くが事実上
欠損状態となっていることは「ゼネコン危機」として常識となっていたと言えよう。
銀行等の金融機関からの債権放棄も、
飛島建設  6400億円  1997年(平成9年)7月
青木建設  2049億円  1999年(平成11年)3月
フジタ   1200億円    〃  3月
長谷工   1130億円    〃  5月
佐藤工業  1109億円    〃  5月
ハザマ   1049億円  2000年(平成12年)9月
大末建設   640億円    〃  9月
と、訴外会社に対する債権放棄に先だってなされている。
4、少なくも1998年(平成10年)3月期以降の本件政治献金は政治資金規正法に違背する
訴外会社もこの点は認めている。当時取締役社長であった一審被告松本良夫は、2000年(平成12年)9月付の
株主宛の「株主の皆様へ」との文書(甲15)で、「昭和50年代後半から一層の発展を目指して国内外で数多くの
大規模開発事業に参画し、投資やプロジェクトの保証を行なうことで、飛躍的に受注を拡大いたしましたが、その後
の経済情勢の激変もあって、この投資や保証を有利子負債に転化し、今日の苦境を招く結果となったわけでございま
す。」と述べている。
「その後の経済情勢の激変」とは当然バブル経済の破綻であり、その時期であり、90年代前半において「この投資
や保証が有利子負債に転化し」たものである(藤島証人調書30頁〜34頁)。
このようにバブル経済破綻期に生じた巨額の評価損等が、貸借対照表上は何ら反映されることなく推移した。199
8年(平成10年)3月期にその損失分の一部である2426億円を特別損失として計上した。更に2001年(平
成13年)3月期に、2000年(平成12年)12月に住友銀行ほか12行の金融機関から4300億円の債権放
棄を受けるにあたり、更に5771億円もの特別損失を計上した。これは特別損失相当額の資産の劣化がバブル経済
破綻時に生じ、それを会計上計上することなく隠ぺいし、債権放棄(債務免除益として利益として計上されることに
なる)を機に、税金対策もあって、この時期に既に発生していた評価損失を計上したものであることは明らかである。
・商法上の資産評価の原則
商法第285条は「会社の会計帳簿に記載すべき財産の価額については、第34条第2号(固定資産の評価)の外、
第285条の2(流動資産の評価)及び第285条の4乃至第285条の7(金銭債権・社債・株式・暖簾等の評価)
の規定を適用す」と定めている。
これによれば、
固定資産については「予測すること能はざる減損が生じたるときは相当の減価を為すことを要する」
流動資産についても「時価が取得価額又は製作価額より著しく低きときは・・・回復すると認められる場合を除くの
外時価を付することを要す」
金銭債権については「金銭債権に付取立不能の虞あるときは取り立つること能はざる見込額を控除することを要す」
株式等については「市場価格なき株式に付ては其の発行会社の資産状態が著しく悪化したるときは相当の減額をなす
ことを要す」
とそれぞれ定めている。
・1998年(平成10年)3月期の特別損失計上
訴外会社は1998年(平成10年)3月期に2426億円の特別損失を計上しているが、その内訳はつぎのとおり
となる。
海外事業整理損         153,686 百万円
貸倒引当金繰入額         64,748
開発事業整理損失引当金繰入額   11,615
貸倒損失              6,640
 その他               6,000 
 合計              242,689
・2001年(平成13年)3月期の特別損失計上
訴外会社の2001年(平成13年)3月期(平成12年4月1日〜平成13年3月31日)には特別損失として5
771億4000万円が計上されている(甲12号証の7)。
この内訳は、
 固定資産売却損      214億8200万円
 たな卸不動産評価損    438億4200万円
 投資有価証券償却損    933億5700万円
 関係会社株式評価損   1500億1900万円
 貸倒引当金繰入額    1859億6400万円
 その他          824億7400万円  
             5771億4000万円
この特別損失が生じたのは、貸借対照表の前期との比較から、主につぎの資産の減価によるものである(当期中の資
産の新たな取得あるいは譲渡は無視して計算する)。
完成工事未収入金      △303億5000万円
有価証券          △250億9300万円
販売用不動産        △387億2400万円
未成工事支出金       △511億2700万円
関係会社短期貸付金     △339億1100万円
立替金           △208億3000万円
土地            △263億7900万円
関係会社株式       △1856億9800万円
関係会社出資金       △260億円
長期貸付金         △320億9100万円
関係会社長期貸付金     △103億0600万円
などである。
これらの減価あるいは損失の殆どはバブル経済期に購入した販売用不動産や、海外あるいは国内の関係子会社への投
資、貸付によるものであることは明らかである。バブル経済崩壊と共に生じたにも拘らず、商法の定めに反して減価
並びに損失として決算書類上は計上してこなかったものを、金融機関の債権放棄がなされた2001年(平成13年
)3月期の期末において計上したものである。
以上、訴外会社はこの商法の評価原則に違背して、資産を過大に、負債を過少に評価していたが故に確定した貸借対
照表上は欠損が生じていなかったものの、商法の評価原則に則して評価を正当に行なえば欠損が生じていたものであ
り、1995年(平成7年)3月期から1998年(平成10年)3月期以降の本件政治献金は政治資金規正法に違
背するものであり、その支出は違法である。
5、有価証券報告書からうかがえる国内外開発事業投資の巨額損失
1999年(平成11年)3月期(第60期)の訴外会社の有価証券報告書(44,45頁)には、訴外会社が国内
外の子会社・関連会社の銀行借入金について保証している額の一覧が記載されている。
国内については、
椛蜩ッ            14700百万円
草津高原リゾート開発梶@   14515百万円
夷隅観光開発梶@       13800百万円
日本緑化梶@         10500百万円
等合計26社であり、海外については、
クマガイオーストラリアファイナンスリミテッド  100732百万円
ファンデックコーポレイション 28429百万円
KGA&Aコーポレイション  28294百万円
等合計39社である。
その保証債務の合計額は4305億6100万円となっている。その殆んどの保証債務額は前期(59期)と較べて
増額あるいは同じ額で推移しており、債務の支払いが延滞あるいは利息のみの支払いであったことがうかがわれる。
一部減額しているものもあるが、正常に返済がなされたものではなく、資産処分等によって返済がなされたものであ
ろう。
これら訴外会社が債務保証していた子会社・関連会社の殆んどは、それ以前から破綻に近い状況にあったものであり
、既述したように取締役会において保証期間の延長を行なうことで形式上存続させてきたものと言えよう。
6、本件政治献金は善管注意義務に違背する
仮に本件政治献金が政治資金規正法に直接違背するものでなかったとしても、それは取締役としての善管注意義務に
違背したものである。
原判決は、既述したとおり1998年(平成10年)3月期においては、取締役においてもそのまま経営状況が推移
すればさらに欠損を生じるべき確定的認識が得られていたものと推認されるとしている。
しかし、遅くとも1995年(平成7年)3月期以降は、既に欠損が生じている、あるいはそのまま経営状況が推移
すれば巨額の欠損が生じるとの確定的認識を最高経営責任者たる一審被告らは勿論、取締役はいずれも有していたも
のである。
そのことは、バブル経済崩壊によって訴外会社に発生した含み損は、つぎに述べるように1兆円を大きく上回る莫大
な額に及んでいることからも容易に推認されるものである。その何分の1かの額でも認識していれば、金融機関の債
権放棄なくしては欠損が生ずる額なのである。
この経営状況と寄附の必要性ないし有用性を厳格に対比して検討し、その可否・数額・時期等の慎重に判断すべき注
意義務を怠り、本件政治献金はなされたものであることは、原判決は正当に判示するところである。
7、2003年(平成15年)3月期における3000億円の特別損失の計上(予定)
訴外会社は、既述のとおり実質的には欠損の状況があったので、1993年(平成5年)7月に「体質改善計画」を
、更に1997年(平成9年)10月には「経営革新中期計画」を策定し、経営危機からの脱出を計ったが成功しな
かった。
そこで2000年(平成12年)9月に「新経営革新計画」を策定し、住友銀行をはじめ金融機関12行に4500
億円もの債権放棄を申し入れた。
同年12月に、借入れをしていた住友銀行ほか12行の金融機関から総額4300億円もの債権放棄を受け、更に2
001年(平成13年)1月の臨時株主総会の決議に基づき約820億円の資本を約170億円に無償減資をしてや
っと会社として存続できたのである。本来ならば破産していた。
1998年(平成10年)3月期の2426億円、2001年(平成13年)3月期の5771億円という巨額の特
別損失は、バブル経済崩壊時から現実に発生し続けていたことを考えれば、バブル経済崩壊期以降、それによる不良
債権並びに資産の劣化の発生(商法の評価原則のいう「予想すること能はざる減価」「時価が著しく低く」「取立不
能の虞」など)が認識し得るための相当期間が経過した1995年(平成7年)3月期までには、それによる特別損
失を計上することが商法上必要とされていたものであり、それを正当に計上していれば、欠損金が生じていた財務状
況にあったことは明らかである。
更に、訴外会社のバブル経済期における過大な国内外のプロジェクトへの投資等により生じた損害は、前記特別損失
額を更に上回ることが明らかになっている訴外会社は、2003年(平成15年)4月4日付で「経済構造改革3ヵ
年計画」を策定している。
そこでは「過去・現在・未来」の3つの不安要素からの脱却をテーマに改革計画が述べられている。
「過去」の不安とは「多額の有利子負債と資産の含み損」であるとし、財務内容の健全化をはかるため、保有資産を
厳格に査定・評価し、評価損等約3000億円を2003年(平成15年)3月期に前倒しして損失計上するとして
いる。
主な損失内容としては、
海外開発事業等    △930億円
国内問題債権等    △830億円
国内不動産      △650億円
その他        △590億円
          △3000億円
としている。
過去二度に亘る巨額の特別損失の計上にも拘らず、更に「保有資産を厳格に査定、評価」することによって3000
億円もの特別損失を計上するとしているのである。
このことは、訴外会社の取締役の資産並びに負債の評価が評価原則に従って正当かつ厳密になされておらず、バブル
経済崩壊とともに進行拡大していった資産の劣化、負債の増大という事実を反映したものに未だなっていなかったこ
とを自認するものであり、過去二度の特別損失計上前においてはよりそうであったことを如実に物語るものである。
この5年間に訴外会社の特別損失として計上された額はつぎのとおり1兆円を優に上回っている。
1998年(平成10年)3月期      2426億8900万円
2001年(平成13年)3月期      5771億4000万円
2003年(平成15年)3月期(予定)  3000億円     
                      1兆1198億2900万円
この特別損失額は、それぞれの期に発生したものではなく、バブル経済期における国内・外での過剰かつ放漫な開発
事業等から生じたものであることは、訴外会社並びに一審被告らも争いないであろう。
訴外会社の経営の最高責任者として、その保有資産並びに負債につき「厳格に査定・評価」し、財務状況を適正に把
握すべき注意義務を有する一審被告らとしては、この1兆円を上回る莫大な含み損を、バブル経済が崩壊し含み損の
発生を認識しうる相当な期間を経過した後である1995年(平成7年)3月期には1兆円を超える含み損の実態の
大半は把握しえていたものである。
しかし、商法の資産、負債の評価原則に違背して含み損を決算書類上反映させず、1995年(平成7年)3月期に
なって把握していた損失分のうち2426億円余を金融機関の債務免除のもとに2001年(平成13年)3月期に
5771億円余を、そして2003年(平成15年)3月期に同じく金融機関の債務免除のもとに3000億円(予
定)を特別損失として計上しているのである。
このことは、訴外会社が商法の評価原則に基づいて資産・負債を評価しているのではなく、金融機関から債務免除を
とりつけた額にあわせて、既に把握していた特別損失として計上すべき額をその都度計上したことを推認させる。
以上、今回訴外会社が更に3000億円の特別損失を計上しようとしていることは、訴外会社の取締役が遅くとも1
995年(平成7年)3月期までの間には1兆円を超える巨額の損失の概要を把握しており、それを「厳密に査定・
評価」すれば訴外会社は重大な経営危機を迎えており、欠損状態にあることを認識していたことについての更なる証
左となる。
以上、訴外会社の取締役は、訴外会社の資産、負債状況についての取締役会等の社内会議あるいは業務執行のなかで
得られる情報にもとづき、遅くとも1995年(平成7年)3月期においては、訴外会社は正当に資産、負債の評価
を行なえば欠損状況にあったことを認識していたものである。
そのうえで、その経営状況にもとづき、政治献金の特質を踏まえたうえ、その有用性、必要性の有無並びにその可否
・範囲・数額・時期等につき厳格な審査を行なえば(この判断にあたっては一般の経営判断事項と異なり、取締役の
裁量は極めて限定されていることは既述のとおりである)、それは不可との判断になったものである。

第2 公序良俗違反について
 1 国民の参政権を侵害する点に関して
   (1) 原判決の認定
    原判決は、政治資金の寄附(以下、端的に「献金」という。)が、政党の政治上の主義、施策ないし活動等に
賛同し、自ら出捐してその活動を支援する意思を表明することにほかならないことから、政治的表現の自由の一種で
あるとした上で、その経済力に応じて献金を行なう結果、間接的にせよ政党に対する影響力に差が生じると認定した。
    さらに、会社が行なう献金については、会社が有する経済力が個々の国民を圧倒的に凌駕するのみでなく、
同一産業界の会社が産業団体を結成して献金するときは、その影響力は個々の国民による献金に比してはるかに甚大
と認定した上で、「政党の政策が会社あるいは産業団体からの政治資金の寄附によって左右されるとすれば、政党の
政治上の主義、施策を選挙において訴え、選挙における国民の選択によってその活動に信任を得るという選挙制度の
意義を否定し、その根幹をも揺るがすことになりかねず、政党政治そのものへの批判にも結びつくこととなる。従っ
て、会社あるいは産業団体による政治資金の寄附の規模如何によっては、国民の有する選挙権ないし参政権を実質的
に侵害するおそれがあることは否定できない。のみならず、会社あるいは産業団体の政治資金の寄附が特定の政党な
いし政治団体にのみ集中するときは、当該政党のみが資金力を増大させて政治活動を強化することができ、ひいては
国の政策にも決定的な影響力を及ぼすこととなって、過去に幾度となく繰り返された政界と産業界との不正常な癒着
を招く温床ともなりかねない。」と明言し、それに引き続いて、会社あるいは産業団体による献金は謙抑的でなけれ
ばならず、それは実質的に国民の選挙権ないし参政権を侵害することのない限度に止まるべきである、との判断を行
なった。
   (2) 原判決への批判
       @ 原判決によるここまでの認定及び判断は極めて正当である。そして、この論旨からすれば、会社の献金
を一般的に禁ずるとの判断を行なうことが自然であり、そうするべきであったのである。ところが、原判決は、上記
のような論旨を採用しながら、会社による献金を具体的にどの限度で許容するかについての判断を、その内容が憲法
の趣旨に反しない限り、第一次的には立法に委ねられているものとした。要するに立法機関の裁量を幅広く認めてし
まったのである(立法裁量が憲法の趣旨によって制約されるのは当然のことであるから、この制約があると宣言してみ
ても特別の意味は無い)。   しかし、企業献金は政治過程そのものを傷つけて国民の参政権を侵害するものであ
る上に、国会議員自身の利害に密接に関わるものであるから、これを立法機関に委ねていればいつまで経っても適正
化が図れないことは必然である。かかる意味で、献金問題は立法機関による是正には馴染まない問題であるから、こ
れには立法機関とは独立して、司法機関が厳格な審査をなす必要がある。従って、他の人権問題の様に単なる立法裁
量の問題として裁判所が見逃すことは許されないのである。
       にもかかわらず、原判決が、献金が有するこのような憲法上の問題点を配慮せずに、立法機関の裁量を
幅広く認めてしまった点には、事実認定及び法律解釈に違法がある。
    A そして、原判決は、立法過程の分析によって、立法機関でさえも、相当早い時期から会社による献金が政
治腐敗を招くおそれのあるものとして位置づけていたことを認めておきながら、法がいまだに会社の献金を禁圧する
に至っていないことや、法が会社の献金をすべて反社会的なものとまではみなしていないことから、現時点でこれを
直ちに公序良俗に反するとまではいえないと断じた。
     しかし、そもそも、営利企業である会社には、政治的表現の中でも国民の参政権を侵害するおそれが極め
て高い政治献金を行なう自由は認められないものであるから、立法機関は、会社による政治献金を合法化する権限を
有しない。従って、立法機関が企業献金を容認していたとしても、そのことが直ちに献金の公序良俗違反性を払拭す
るものではないのである。
     むしろ、原判決は、法が、政治家個人に対する企業献金が癒着の温床となり得る危険に着目して、これを
反社会的なものとして禁止しているものと認定したのであるから、この論旨に従って、企業献金の一般的な違法性を
認めるべきであったものである。もっとも、原判決は、法が、政党を中心とした政治活動がなされるよう推進するた
めに、企業献金をすべて反社会的なものとまではみなしていないとの認定をも行なっているが、これこそが、この問
題に関する前述した立法機関の限界なのであり、司法機関こそが合憲的判断をなし得る部分である。すなわち、政党
に対する企業献金も癒着の温床となり得る危険を有することは間違いなく、また、政党を中心とした政治活動がなさ
れるよう推進するためには個人献金を奨励することで十分であるにもかかわらず、さらに政党助成金によって手厚い
保護を与えているのであるから、政党に対する企業献金だけを合法化する理由は皆無なのである。にもかかわらず、
立法機関がこれを禁圧しないのは、その構成員である国会議員が腐敗し切っているからである。このような立法機関
による判断の欺瞞性に司法機関が騙されてはならない。
     以上により、原判決が、立法機関による歪んだ判断に盲従し、司法機関としての独自の判断を行なわなか
ったことには重大な違法がある。
 2 株主の思想・信条の自由を侵害する点に関して
   企業献金は、株主の所有財産を費消するものであるにもかかわらず、その詳細が株主に知らされないまま、言
わば、株主に隠れて行なわれている。しかも、株主のうちの大多数が反対することが見込まれ、それだからこそ株主
にはことさらに秘匿しているのである。このような企業献金が、株主の思想・信条の自由を害することは自明の理で
ある。 にもかかわらず、原判決は、企業献金が株主の思想・信条の自由を害するものとはいえないとの判断を導く
ために、会社が強制加入団体でないこと、株主が株式を譲渡して構成員から離脱することは全くの自由であること、
会社の献金と株主個人が特定の政治的意見を表明することとを同視することはできないこと、の各点を無理やり挙げ
た。
   しかし、まず、株主が預けた財産を取締役が勝手に費消することが許されるかという本件の問題について、会
社が強制加入団体でないことや、株主が株式を譲渡して構成員から離脱することが全くの自由であることは、何の関
係もない。原判決がこのような理由を挙げることは、大切な財産を預かって浪費しておきながら、その浪費を知らさ
れないまま預けた人に対して、嫌なら出て行けば良い、と言い放っているだけのことであり、何の説得力も有しない。
   また、原判決は、会社の献金と株主個人が特定の政治的意見を表明することとが同視できないと言うが、株主
個人にとっては、支持していない(むしろその存在自体に反対している)政党に自分の財産を使われることは、あたか
も自分の首を絞めるのと同様に苦しいことであるから、会社の献金と株主個人の政治的意思表明とは、株主個人の思
想・信条の自由を侵害する程度において、何らの差異もないのである。従って、このことも、企業献金を許す根拠と
はなり得ない。
   以上により、原判決が行なった、条理に反する非常識な判断過程には重大な違法がある。

第3 本件献金が定款の目的の範囲内にあるかについて
 1  原判決の認定
   原判決は、会社の目的の範囲内の行為を、その目的を達成する上に直接または間接に必要な行為であればすべ
てこれに包含されるとし、一定の行為が会社の目的を達成するために必要であるか否かは、行為の客観的な性質に即
して抽象的に判断すべきであるとした。そして、献金について、一般の社会貢献活動とは性格を異にすることを指摘
しながら、政治資金規正法が会社による献金を一定限度で許容している以上、定款の目的達成に関連する行為として
会社の目的の範囲内に含まれるとした。
   要するに、原判決は、政治資金規正法が許容しているという一事のみをもって、献金一般を会社一般の目的の
範囲内にあると認める大間違いを犯してしまったのである。
 2 原判決への批判   
   既に述べたように、立法機関には企業献金を合法化する権限がないのであるから、政治資金規正法が企業献金
を許容したからと言って、企業献金が合法になるわけではない。また、立法機関は、特定に企業献金が犯罪にあたる
か否かという観点から政治資金規正法を定立したのであるから、政治資金規正法と会社の目的には何の関係もない。
さらに、原判決も認めるとおり、献金は、一般の社会貢献活動とは性格を異にするのである。すなわち、企業献金は、
原判決も認める様に政治腐敗の温床となり、国民の参政権及び株主の思想・信条の自由を侵害するものである。であ
るから、企業献金は社会悪としてこそ評価し得るものであり、社会貢献活動などとは決して評価できないものである。
この点、原判決は、企業献金を、「一般の社会貢献活動とは性格を異にする」という極めて婉曲的な表現しか行なわ
なかったが、ここには、立法機関及びそれに派生する権力を恐れて遠慮した姿勢が見受けられる。原判決の誤りの根
源はここにある。
   むしろ、前述した、原判決による企業献金に関する認識からすれば、企業献金は無償による利益供与であるか
ら原則として会社の目的の範囲内に含まれないところ、企業献金が有する反社会性を考慮すれば、企業献金は社会通
念上期待・要請されるものではなく、むしろ、企業体としての円滑な発展を損なうから、会社の目的の範囲内に含ま
れるとは解し得ない、との判断を下すべきであったのである。
   以上により、原判決が行なった、条理に反する非常識な判断過程には重大な違法がある。

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