雪印乳業の社外取締役日和佐信子さんへのインタビュー


昨年4月、株主オンブズマンは消費者代表の社外取締役を選任することを求めて雪印乳業に株主提案をしました。雪印はこの提案を受け入れ、全国消費者団体連絡会の前事務局長であった日和佐さんを社外取締役に迎えました。私どもは株主提案をしたという経緯もあり、日和佐さんの社外取締役としての1年間の活動を報告する責任があると思っていました。それで、6月26日の株主総会を前に、東京、四谷の雪印本社に森岡が出向き、日和佐さんにインタビューをしました。

森岡 この1年間を振り返って率直な感想はどうですか。

日和佐 1年というのはあっという間でした。これまでになくたくさんのことを経験した1年でした。

森岡 消費者運動から企業の社外取締役という異質の世界に足を踏み入れて、いろいろと注目もされ、マスコミの取材も多く、お疲れではありませんか。

日和佐 消費者運動をやっていたときとくらべて、あまりストレスはありません。いままでにない、すごく充実した新しい経験をいっぱいした1年でした。

森岡 主にどんなお仕事をされてきましたか。

日和佐 取締役会と企業倫理委員会への対応です。企業倫理委員会をきちんと運営して、委員の方からたくさんの意見を出していただき、それを会社のなかにちゃんと反映させるようにしていくことがメインの活動です。

森岡 「雪印乳業行動基準」もこの間に策定されましたね。

日和佐 そうです。ちょうど1年間に二つのことを取締役会に提言しました。 一つはいままであった行動憲章を見直して、新しい行動基準を策定することでした。もう一つは商品の表示について、消費者に誤認を与えないようにし、なおかつ分かりやすいものにするという基準ですべての表示を見直すことでした。  企業倫理委員会では各委員の方々から、貴重なご意見をいろいろ出していただいています。それらはいちいち提言というかたちにせずとも雪印乳業に採り入れてもらっています。

森岡 たとえば。

日和佐 企業の再生に向けて再スタートすることになったわけですから、社員みんなの気持ちが一つになるということがとても大切です。それで社長に常に社員に対して直接メッセージを発してもらうようにする。これも採り入れていただいた意見の一つです。

森岡 工場の生産現場をこまかく回られたようですが。

日和佐 すべての工場を回りました。やはり、四谷にいては分からない、現場に行ってみなければ分からないことがずいぶんありました。現場の従業員の人はとてもまじめに働いています。地域差もありますが、とくに北海道に行けば、雪印の創業の精神が分かる。なかでも幌延あたりに行くと酪農のほかにはこれという産業がないわけです。その酪農で生活していけるように、腐りやすい牛乳をバターやチーズに加工して市場に出して収入が得られるようにするところから雪印の歴史は始まった。幌延あたりではその時代の精神がまだ生きているんですね。そうやって地域に貢献してきた雪印の歴史の重みというのは、現場に行ってみないと分かりません。

森岡 私たちが雪印製品の安全・安心を確立するために株主提案の呼びかけを行ったところ、やはり北海道は創業の歴史と伝統が根づいているためか、雪印の再生を願う酪農家とおぼしき株主の方々から強い賛同が多数寄せられました。

日和佐 そうでしょうね。

森岡 取締役会についてはどうですか。

日和佐 取締役会はほとんど欠席はしたことはありません。昨年12月までは、分社化だとか、どこそこの土地を売るとか、雇用調整とかの辛い議題が多かった。社員も辛い思いをしたでしょうけど。しかし、今年になってやっと落ち着いてきました。この4月、5月は、単月で黒字になりました。

森岡 日本の企業の取締役会は社内昇進制といわれるほど、ほとんど従業員のなかから選ばれていますが、そういう風土のなかに社外から消費者代表として取締役会に入られて、何か違和感のようなものはなかったですか。

日和佐 お辞めになった岡田晴彦前副社長が、私が入るにあたってきちんと路線を引いておいてくださったので助かりました。いまの高野瀬(忠明)社長も積極的に意見を聞きたいという姿勢を示してくれています。それに、私と同時に社外から副社長と取締役が二人入っています。全農中央会と農林中金から。それも私にとっては非常によかった。仮定の話ですけれども、私たった一人が外からで、他は全部が生え抜きということだったら、いささか疎外感があったかもしれません。それからもう一つ、企業倫理委員会というしっかりとした活動基盤があったことです。これがなければかなりやりにくかったと思います。

森岡 この1年間のなかで印象に残った活動を3つ挙げるとすれば、どんなことですか。

日和佐 一番よかったと思うのは「雪印乳業行動基準」を策定できたことです。 ほんとうに全社員参加のかたちでやることができましたから。骨格ができたところで約800人にヒアリングして、枠組みができたところで全社員に配って意見を聞き、1500人以上から意見を出していただきました。その反応がうれしかったですね。それから企画会社などに頼まずに企業倫理室の西根さんが文章化して、自力で作りました。また、消費者団体からも意見を聞きました。 したがって、単にできたというだけでなく、たいへんよい経過を踏んでできたことがよかった。 二つ目は、異業種交流だとか消費者団体の交流ができたことです。それほど密にできているわけではありませんが、外部との新しい交流に糸口が付けられたかな、という感じがしています。「雪印乳業行動基準」の策定の際も、表示の見直しの際も、消費者団体に来ていただきました。私が消団連にいたときにお付き合いのあった世界と、雪印が知らなかった世界とのあいだの橋渡しがいくらかできたと感じています。 三つ目は、品質部会をつくりましたけれど、これがうまく動きはじめたと思っています。視察ということではなく、監査ということで工場に入るようになりました。監査については素人も同然でしたから、いったいどの程度までできるのか心配だったのですが、ずいぶんいい監査ができるようになってきたと思っています。外部の人が工場、ラインの監査をやる場合の一つのパターンがつくれるのではないかという感じがしています。

森岡 このところ、社外取締役を消費者分野から迎え入れる動きが広がろうとしています。日和佐さんはそのパイオニア(笑い)として、何が重要だとお考えですか。

日和佐 企業がどれだけ本気になっているかですね。世の中がそういう流れになってきているのでお願いしようかとというだけじゃだめじゃないかと思います。私の場合は企業倫理委員会ですが、入ったあとに活躍できる環境や基盤が整えられていることが重要です。

森岡 情報をどれだけ共有できるかということも問題ですね。

日和佐 そうです。情報がなければ判断もできない訳ですから。私の場合は、会社にデメリット情報を含めて情報はきちんと出してほしいと最初にお願いしていましたし、実際に出してくれていると思っています。良いことも悪いことも、情報を開示してくれなければ、企業倫理についてはものが言えないですよ。 それと会社全体の体質だとか組織の特徴だとかをトータルに理解できるようになるにはやはり半年くらいかかりますね。社外取締役の場合は、スタート時点で半年くらいかけて必要な十分の情報を収集することが重要だと思いますね。

森岡 ところで、私たちは男女共同参画の見地から、上場企業における女性役員の人数についても調査したことがあります。その現状はたいへんお寒い状況です。そういうなかで、昨年、ソニーに女性取締役の選任を求める株主提案を行い、高い賛成を得ました。その結果、今年は橘・フクシマ・咲江さんという、花王の前社外取締役で外資系企業の日本担当代表取締役である女性がソニーの社外取締役に迎えられることになりました。日和佐さんの場合、男性ばかりの取締役のなかにひとり女性として入っているということがあり、女性役員と消費者代表との両方を兼ねられていますが、女性として取締役会に入った感想はどうでしょうか。

日和佐 女性は優秀な社員が多いですよ。しかし、幹部、とくに役員には女性はいない。もっと登用してほしいとおもいます。

森岡 この間、コンプライアンス、法令遵守と関連して、ヘルプラインやホットラインと呼ばれる企業内での公益通報(内部告発)の相談窓口の設置が広がっていますが、雪印におけるその取り組みについてはどうお考えですか。

日和佐 雪印の場合はホットラインがあるということがまだ皮膚感覚になっていない。社員のあいだに十分に浸透していない。このあいだ行動基準の事例研究をやったときに、こういう事例のときはあなたたちはどうしますかと質問して議論してもらったんですが、2会場で6つあったグループのなかで、ホットラインに相談するという解答が1会場では出なかったんです。「こんなことがあって悩んだらすぐホットライン」というようにはまだなっていないところがあります。 いまは企業倫理室が受付場所になっていますが、将来的には外部の法律事務所などに窓口を置く必要があると思っています。さしあたりはグループ会社の共通の相談窓口を外部に置き、雪印社員もそこに言っていけるようにしたほうがいいですね。

森岡 雪印にとって、食品の安全安心という点でこれからの課題は何でしょうか。

日和佐 やはり企業倫理をどう徹底させるかが今年1年の課題だと思いますね。行動基準は作っただけでよしとするのではなく、それを全社員のものにしていく。そういう基盤がないと、安全・安心も確かなものにならないと思います。雪印はシステムを作ることは上手なんです。しかし、それを徹底させる点でどこか尻切れトンボのようなところが従来はありました。行動基準が徹底されれば意識も変わってくる。そうなると、安全・安心ということも、より確立しやすいのではないかと思います。これは容易なことではありませんが。

森岡 商品の安全・安心を確立するという活動は、直接に利益を生み出す活動ではではありませんが、長い目で見ると消費者の信頼を確保するという点で、経営基盤をより確かなものにする活動であると思います。その点で、日和佐さんの活動は消費者にとってだけでなく、株主、投資家にとっても大きな意義をもっています。それだけに今後のいっそうのご活躍を期待しています。本日はお忙しいところをたいへんありがとうございました。                                       終わり


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