第6 控訴人が本件政治資金の各寄附を行うにあたり、訴外会社にとっての長期的
利益・有用性を考慮して判断したこと(新主張)
1 総論
 会社が政治資金の寄附を行うことを認めるにあたって、原判決のように、利益
獲得に関わる具体的な効果や高度の必要性・有用性を要求することが誤りである
こと、今日ではどの政党も自由主義経済体制を標榜しているから、同体制を維持
発展させるという寄附の理由が合理的理由たり得ないと裁判所が断定することが
不当であること、一度欠損を生じた会社が以後行う政治資金の寄附について、会
社の経営状況と寄附の必要性ないし有用性との厳格な対比・検討が必要であると
することが不当であることについては、これまでに論じたところである。
 ところで、控訴人は、本件政治資金の各寄附を行うことが、自由民主党による
経済運営により経済・社会基盤を安定させ、建設業界及び訴外会社を取り巻く経
済環境を改善することに資するということに加えて、業界における訴外会社の信
用と地位を維持することに寄与し、もって訴外会社の受注機会の拡大にとって長
期的な有用性があり、逆に寄附をしなければ、訴外会社の信用低下につながり、
受注競争において不利益に働くおそれがあると考えたのである。
 すなわち、本件政治資金の寄附の大半は、国民政治協会から社団法人日本建設
業団体連合会(以下、「日建連」という。)を通じて会員各社に寄附の要請があっ
たものであるが、当時訴外会社は日建連における最大手6社のグループのうちの
1社として、日建連の各種委員会活動に積極的に従事するとともに、活動を支え
る会費や日建連を通じて行う各種社会的寄附等の金銭的負担においても他の大手
5社とともに最大割合の負担をしており、政治資金の寄附についても同様であっ
た。訴外会社は、日建連やその構成団体の一つである日本土木工業協会(「土工
協」)における有力なメンバーとして、その地位に応じた各種の活動を通じて、
土木・建築や環境・安全対策等に係る新技術の開発や建設業界におけるその時々
の諸問題に関する情報を得るなどして有形無形の大きな恩恵を受けていたが、業
界内における訴外会社の地位と信用を維持するためには、業界団体を通じた政治
資金の寄附の分担を含め、業界における訴外会社の規模と地位に応じた相応の社
会的責任を果たすことが必要であった。
 そして、業界における高い地位と信用を維持することが、間接的であるにせよ、
長期的に見れば、工事の受注機会の維持拡大につながるのであり、特にジョイン
ト・ベンチャー(JV)方式で施工される大型工事の受注にあたって有形無形の
利益が大きいJVスポンサーに就くためには、建設会社間相互問の評価と信用が
特に重要であることから、控訴人は、日建連を通じた本件政治資金の寄附につい
て訴外会社の業界における規模と地位に応じた分担を果たすことが、長期的には、
訴外会社の受注機会の維持・拡大に寄与するという有用性があると判断したので
ある。
 逆に、もし、業界の分担ガイドラインに従った寄附の要請を断れぱ、そのこと
が業界内において、様々な形で訴外会社の信用に関わるネガティブ情報として使
われ、激しい受注競争の中で不利に働く可能性があった。以下、分説する。
2 日建連と「十日会」を通じたその社会貢献活動について
(1) 日建連について
 目建連は、土工協や建築業協会等の建設業界の各同業者団体と、全国的な建
設業者等を会員とするわが国建設業界の最も重要な業界団体であり、その活動
は、建設業界に共通する基本的重要事項について意見を調整し確立すること、
建設業の健全な発展と事業遂行のために必要な諸制度の確立・改善に努めるこ
と、建設業に関連する諸問題に関する調査研究、統計の作成、資料の収集等を
行うことなど、多岐にわたっている。
 日建連は、企画委員会、広報委員会、環境委員会、国際委員会等の委員会を
設けて、業界に共通する多種多様な問題について研究を行い、意見や要望を取
り纏めて、立法府、行政府、経団連等への提案や働きかけを行っている。
 日建連の役員や各種委員会の委員長には、大手ゼネコンの社長・副社長が就
任するのが通例であり、訴外会社においても、昭和50年から同56年まで、
時岡収次副社長(当時)が副会長を、昭和61年から平成2年まで熊谷太一郎
社長(当時)が副会長を務め、また、最近における委員長としては、熊谷太一
郎社長が契約積算委員会や国際委員会の委員長を務めた。また、各種委員会の
委員には、訴外会社を含む大手建設会社である会員から社員が多数就任してい
る(以上につき乙18・日建連平成10年度事業報告参照)。
 また、土工協は、日建連の最も主要な団体会員であるが、訴外会社は伝統的
に土木工事に強かったことから、訴外会社の熊谷太一郎社長(当時)が会長や
各種委員会委員長を、控訴人(当時社長)が土木工事技術委員会委員長を、鳥
飼一俊社長が環境委員会委員長を歴任するなど、訴外会社の役職員が主要なポ
ストについて活動を行っている。
 このような日建連や土工協等の業界団体の主要ポストに就くことは、業界全
体に対する奉仕であるとともに名誉なことであり、また、業界内部において大
手のゼネコンと目される会社の役員・幹部でなけれぱ、かかるポストや委員に
就くことができない。
 そして、これら業界団体は、各種委員会を通じて、建設業界が共通に抱えて
いるその時々の様々な問題(各種政策提言、契約約款や積算方法の改訂、新規
土木・建築技術の研究開発、環境・公害・安全対策等々)を扱っているから、
それらの委員長や委員に役職員を派遣していることによって、各種の最新の情
報や動向をいち早く把握することができ、それを会社の業務・研究開発に役立
てることが可能になり、会社の競争力を強化することができる。
 日建連や土工協その他の日建連の構成団体の多種多様な活動には膨大な資金
が必要であるが、それらは会員各社が会費という形で分担して負担している。
そして、日建連の会費の分担割合は、会員である数十社を、それぞれの売上高
や総合力に応じて、数グループに分け、大手会社であるほど大きな割合の会費
を分担している。そして、どのグループに属するかということが、業界内にお
ける各社のランクを端的に物語っているのである。
 このグループ分けは年度ごとに多少変動するが、最大手の会社から成る第1
グループには、いわゆる大手5社と言われる、大林組、一鹿島建設、清水建設、
大成建設及び竹中工務店が毎年常に入っている。そして、訴外会社も、昭和63
年以降、これら大手5社とともに第1グループに属し、最大の割合の会費を
分担してきたのである。それは、訴外会社がこれらの各年度において、資本金
額及び売上高において、平均して業界3位ないし5位という高い地位を占めて
いたことによるのである。
 第1グループに入ることは、建設業界内で最大手の会社の一つとして評価さ
れることを意味し、業界内の地位・信用が著しく高まるのである。そして、業
界内の信用が高まれぱ、民間工事の受注にとっても有利に働くのである。また、
前述した各種業界団体におけるポストや委員の割付けも、業界におけるランク
に応じてなされるのが実情であるが、主要なポストや委員会の委員になること
により様々な新しい情報に接する機会が多くなるから、高いランクを保つこと
は会社の業務にとっても間接的に有用性があるといえる。このような事情から、
日建連の会員会社の多くが、より高位のグループに入ることを望んでいるので
ある。
(2)「十日会」を通じた社会貢献活動について
 「十日会」(通称)はその正式名称を「社会貢献活動協議会」といい、原則
として日建連の法人会員である会社をもって構成する。その目的は、建設業界
としての各種の社会貢献活動に関して、協力要請の受付、要請議案の協議、協
力の実施である(乙19・社会貢献活動協議会規約)。
 具体的には、日建連が福祉、医療、教育、文化関係等の各種団体等から寄附
の要請を受けた場合、これについて、十目会の例会において協力要請の報告、
協力金額及び会員会社の負担金額等についての目安を協議したうえで、会員各
社が自社に持ち帰って最終的には各社の自主的判断において各社負担目安の寄
附に応じるか否かを決定する(以下において、このやり方を便宜上「日建連を
通じた寄附」と呼ぶ)。政党又はその政治資金団体から日建連に対して政治資
金の寄附の要請があった場合も、同様に、十日会の例会で寄附に応ずるか否か
及び寄附金額を協議し、各会員各社の負担金額の目安を決め、会員各社が自社
に持ち帰ってその判断で寄附に応ずるか否かを決定する。
 そして、各会員各社の負担金額の目安については、年度毎に、十日会の会員
会社数十社をその資本金額及び売上高に応じて数グループに分け、各グループ
毎に1社毎の分担割合を決めている(グループが上位なほど、1社当たりの分
担割合が大きい)。
 このグループ分けは、前述した日建連の会費の分担に関するグループ分けに
ほぽ対応している。そして、日建連の会費負担の場合と同様、最大手の会社か
ら成る第1グループには、いわゆる大手5社と言われる、大林組、鹿島建設、
清水建設、大成建設及び竹中工務店が毎年常に入っているが、訴外会社も昭和
62年から平成13年までの間、この第1グループに属し、日建連を通じた各
種寄附について他の大手5社とともに最も大きい割合の負担を担ってきたもの
である。それは、訴外会社が、前述のように、上記各年度において、資本金額
及び売上高において、平均して業界3位ないし5位という高い地位を占めてい
たことから、会社の規模と業界における地位・ランクに応じた社会的責任を業
界内で負担すべきであるとの考えに基づくものである。
3 日建連を通じた本件政治資金の寄附を行うことの訴外会社の業務にとっての長
期的・間接的な有用性について
(1) 日建連を通じた本件政治資金の寄附
 訴外会社が国民政治協会に対して平成8年以降に行った原判決摘示の本件政
治資金の各寄附のうち、金額700万円を超えるものは、そのすべてが国民政
治協会から日建連に寄附の要請があり、十日会において、各会員各社の負担金
額の目安を各年度ごとのグループ分けに基づく分担割合に従って算出し、これ
に応じて訴外会社が行った寄附である。
 そして、控訴人は、訴外会社の社長として決裁した平成10年3月以降の本
件政治資金の各寄附のうち、日建連を通じた寄附である3件(平成10年3月
の1867万円余、平成11年9月の1627万円余、平成12年4月の1209万円)のいずれについても、
第1グループに属する訴外会社の分担割合ど
おりの寄附を行うことが、訴外会社が業界団体においてその規模に応じて果た
すべき応分の社会的責任であるとともに、大手ゼネコンとしての業界内部にお
ける訴外会社の地位と信用を保持するために必要であり、長期的、間接的に訴
外会社の受注機会の維持拡大につながると判断したのである。
(2) 業界における高い信用と地位の維持の必要性
 本件政治資金の寄附をはじめ、目建連を通じた各種寄附要請に応ずるか否か
の最終判断は各社に任されているが、前述のとおり、十日会の各グループごと
の分担割合は、日建連の会費分担に関するグループ分けにほぽ相応しており、
高位のグループの会社ほど、建設業界において高い地位と信用がある。そして、
かかる高い地位と信用は、以下に述べるとおり、様々な形で会社の業務にとっ
て有用性がある。
ア 業界活動を通じての様々な情報の取得
 前述したとおり、目建連やその構成団体は、数多くの委員会を設けて業界
に共通する各種の技術的、政策的、法律的、経済的諸問題を研究し、必要に
応じて報告書にまとめたり提言等を行っている。一例を挙げれば、控訴人は、
平成11年から同i2年まで土工協の土木工事技術委員会委員長を務めた
が、この間に同委員会で研究を行ってまとめた成果として、『実務者のため
のコンクリート構造物の維持管理マニュアル』がある(乙20)。
 各委員会には会員各社から社員が委員として派遣されるが、業界における
ランクが高い会社ほど、数多くの重要な委員会に多くの委員を派遣するのが
実態である。また、各業界団体の会長、副会長、理事等の役員ポストも、業
界内のランクに応じて割り振られるのが実態である。
これらの業界活動は会社にとって負担も大きいが、その代わり、その時々
において建設業界が抱えている諸問題について最新の情報や動向を把握し得
ることにつながり、これを会社業務にフィードバックすることによって、会
社の競争力強化に寄与している。
イ 民間工事の受注機会の拡大
 業界内における高いランクは、同時に業界外においても高い信用を得るこ
とにつながり、民間工事を受注するにあたって有利である。例えぱ、会社の
社長その他の幹部が業界団体において然るべきポストに就いているというこ
とが、会社の信用を増し、発注者の信頼を獲得することに寄与するという形
で、受注競争において有利に働くことがある。
ウ JVスポンサーとなる機会の増大
 今日わが国における大規模工事の多くは、「○○・△△共同企業体」と呼
ばれるいわゆるジョイント・ベンチャー(以下、「JV」という。)を構成し
て、受注・施工されている。JV方式による大型工事の受注・施工は、施工
の確実性、危険分散、技術力の拡充強化、中小企業振興等の利点があるとし
て、第二次世界大戦後長年にわたり政府(建設省、現国土交通省)が推進し
てきた政策である(乙21・深田公利r建設ジョイント・ヴェンチャーとは
何か」)。
 そして、JVには、必ずrスポンサー」と呼ばれる幹事会社があり、@J
V内での主要人事の決定(作業所長や監理技術者その他のJVにおける主要
ポストヘの社員の派遣)、AJVを代表しての発注者との協議・交渉、B資
機材の業者選定・発注や下請業者の選定、C原価管理、D技術提案、等の役
割を果たしている。幹事会社の名前がJVの名称の筆頭に置かれることが通
例である。
 JVにおけるスポンサーの役割は上述のとおり極めて重大であるが、その
反面、スポンサーの地位に就くメリットとして、@JV内における最大の比
率の工事受注とそれに応じた利益の獲得、A当該JVの工事実績による業界
内及び業界外の信用の増大とそれによる将来の受注機会の拡大、Bプロジェ
クト・マネージメント能力の向上、C技術力の向上、D下請業者を含めた企
業グループカの向上等が挙げられる。
このように、JVで受注・施工される大規模工事においてJVスポンサー
となることは、建設会社の経営にとって、当該工事に止まらない大きな有形
・無形の利益をもたらすのであるが、JVのスポンサーの地位に就くために
は、単に会社が高い営業能力及び技術能力を有しているというだけでは不足
であり、業界内において他社から高い信用と信頼を得ていなけれぱならない。
そして、そのためには、業界団体において業界共通の利益のために会社の経
営規模に応じた相応の責任と負担を果たしていることが特に重要なのであ
る。
(3) 本件政治資金の寄附と訴外会社の業界内における信用と地位の維持
 日建連の法人会員で組織する十日会は、諸種の寄附その他の社会貢献活動を
行っているが、政治資金の寄附もその公益的活動の一環として会員各社に対す
る斡旋を行っている。そして、前述のとおり、各社の分担額のガイドラインは
会社の経営規模に応じて年度毎に決められている。
控訴人は、日建連を通じた本件政治資金の寄付要請に応じて、十日会のガイ
ドラインに沿った分担額の寄附を行うことが、業界内における訴外会社の信用
と地位を保持するために必要であり、上記(2)で論じたように、長期的、問
接的には会社の受注機会の維持拡大に寄与すると判断したのである。
4 仮に日建連を通じた寄付要請を拒絶した場合の悪影響について
 もとより、日建連を通じた寄附要請に応ずるかどうかは各社の自由であるが、
もし、訴外会社がこれらの寄附要請を拒絶したり、分担額の軽減を求めた場合に
は、日建連におけるグループのランク下げにつながることはもとより、寄附要請
に応ずることができなかったという情報が、即刻業界内部に知れ渡り、激しい受
注競争の中で、競業他社によって様々な形で訴外会社の信用に関わるネガティブ
情報として使われるおそれが大きかった。
 大きな建設工事は請負代金額が多額に上り、工期も長期間にわたることが多い
から、受注を獲得するためには会社の信用は極めて大切である。政治資金の寄附
を含む、業界団体を通じた社会貢献活動の分担金を拠出できないということにな
れぱ、直ちに業界内における会社の信用の低下を招くことになり、長期景気低迷
で縮小した市場における熾烈な受注競争の中で、競業他社が発注者とのやりとり
の中で会社の経営状況に関わるマイナス情報として使うおそれがあり、出費節減
額をはるかに上回る不利益を蒙るおそれが強いのである。
 現に、十日会の会員各社のうちで、青木建設、長谷エコーポレーション、フジ
タのように、金融機関に対する債権放棄要請を行った会社であっても、正式要請
を行って公表する前に、日建連を通じた政治資金の寄附の要請を拒絶したり減額
要請したりしたことはなかったのである(乙6別紙参照)。
 特に、訴外会社は、平成10年3月期に多額の損失処理を行った後も、有利子
負債の削減が順調に進んでいないと市場で評価されており、特に平成12年に入
ってからは株価の下落傾向が顕著であったが、仮にこのような時期に、訴外会社
が日建連を通じた政治資金の寄附について予め年度ごとに定められている分担割
合による寄附を拒絶したり減額を要請したりすれば、そのことが瞬時に業界内ひ
いては業界外にも伝わり、訴外会社の信用をさらに悪化させ、受注活動への悪影
響や株価のさらなる下落をもたらすおそれがあった。
 控訴人は、このような経営者としての考慮にたって、訴外会社トップとしての
経営判断として、日建連を通じた本件政治資金の寄附要請を拒絶したり減額要請
することが訴外会社に及ぼす悪影響は、寄附金額自体をはるかに上回るものと判
断したのである。

第7 結論
 以上詳細に論じたところをまとめると、つぎのとおりである。
(1) 政治資金の寄附は他の業務上の判断と同じ取締役の経営判断の一つであり、
また、他の社会貢献活動とその公的性格において差異はない。そして、取締
役の経営判断については、取締役の判断の前提となった事実の認識に重要か
つ不注意な誤りがなく、意思決定の過程、内容が企業経営者として特に不合
理、不適切なものといえない限り、善管注意義務に違反するものでないと解
するべきであり、政治資金の寄附についてもこの基準により判断されるべき
である。
(2) 一度欠損が生じた会社が以後行う政治資金の寄附についての取締役の裁量
について、原判決の説示するような考え方によるときは、結果的に、単年度
でも欠損が生じた会社においては政治資金の寄附を行う裁量の余地を実質的
に認められないことに帰するが、かかる解釈は、立法(政治資金規正法)に
よってその余地が認められている寄附まで全面的に禁止する結果を招来する
解釈であって不当である。さらに、訴外会社は、原判決が違法とした本件政
治資金の各寄附のいずれの時点においても、欠損金はなかったものであって、
その点においても原判決の判断は前提において誤っている。
(3) 平成10年4月1日以降に行われた本件政治資金の寄附の各時点における
訴外会社の経営状況は、何ら原判決がいうように逼迫していたものではなく、
また、各寄附の時点で、平成13年3月期決算において再び欠損を生ずるこ
とを控訴人が確定的に認識していたものでもない。控訴人は、各寄附の時点
における訴外会社の経営状況・業績を正確に認識していたものである。
(4) 本件政治資金の寄附に係る訴外会社における意思決定の過程については、
原審で立証したとおり、寄附の要請がある都度、秘書部において、例年の金
額に比して過大でないか、政治資金規正法に定める範囲内であるか、選挙に
関わる寄附ではないか等を確認したうえ、副社長の承認を経て、社長である
控訴人らの決裁を経て、寄附を実行するという手続をとっていたものである。
この意思決定の過程において、特に不合理、不適切な点はない。
(5) 政治資金の寄附にあたり、会社の利益獲得に関わる寄附の具体的な必要性
や有用性などは、寄附の性質上本来あり得ないものであり、寄附の必要性や
有用性と会社の経営状況との厳格な対比を要求する原判決は誤りである。
 他方、控訴人が寄附の必要性・有用性について何らの検討もせずに、寄附
を決裁したとの原判決の認定は誤りである。控訴人は、国民政治協会を通じ
て政治資金の寄附を自由民主党に対して行うことが、自由主義経済体制の維
持発展に寄与し、同党の政策の立案・実行を通じて訴外会社を取り巻く経済
環境の改善につながると判断したのであるが、さらに、本件政治資金の寄附
の大半を占める日建連を通じた寄附要請に対して、十日会のグループ分けに
従った分担割合の寄附を行うことが、訴外会社にとって、建設業界内におけ
る信用と地位を保持するために必要であり、そのことが、各業界団体の活動
を通じて様々な最新情報を訴外会社が得ることにつながるとともに、民間工
事の受注機会及びJVで施工される大型工事についてJVスポンサーとなる
機会を増大させ、ひいては訴外会社の利益増大につながるという長期的、間
接的な有用性があると判断して、各寄附を決裁したのである。反対に、寄附
要請を拒絶したり減額を求めたりすれば、直ちに業界全体にその情報が伝わ
り、訴外会社の信用を悪化させ、激しい受注競争の中で大きなマイナスに働
くことになると判断したのである。
(6) 上記の各事情、及び平成7年度ないし平成12年度の訴外会社の売上高、
営業利益、経常利益等の経営規模と業績に照らすと、政治資金規正法の定め
る年間寄附限度額である8700万円の7分の1ないし3分の1相当額未満
である年間1.300万円ないし2800万円に止まる本件政治資金の寄附金
額は、各年度の訴外会社の経営状況を勘案しても、建設業界における通常の
経営者を基準として、取締役の経営判断として内容的に特に不合理、不適切
であるとはいえない。
(7) よって、平成10年4月以降の本件政治資金の寄附について、取締役の善
管注意義務違反とした原判決は誤っており、取り消されるべきである。

以上

  トップページへ   株主代表訴訟へ