第1  はじめに
 私は、昭和41年、株式会社熊谷組(以下「熊谷組」という.)に入社し、以来、
海外事業本部副本部長、経営企画本部副本部長、取締役経営企画本部長等の職を経て、
平成9年11月、熊谷組の代表取締役社長に就任し、平成12年12月、同職及び取
締役の地位を辞しました.私は、社会資本の建設により豊かで安全な国づくりをする
という建設産業の役割が、わが国及ぴ発展途上国にとって非常に重要であると考え、
熊谷組に入社し、以来30年余にわたって、国内及び海外で建設工事に当たってまい
りました。
 本件訴訟では、私が代表取締役社長在任中に熊谷組が国民政治協会に対して行った
政治資金の寄附が問題とされ、原判決においては、そのうち平成11年4月から同1
2年4月の間に行った計5回の寄附(合計金2861万5000円)が、取締役の裁
量を逸脱した善管注意義務違反の行為である、との判断がなされました。原判決は、
主要政党が自由主義経済体制の採用の点で一致している以上、自由主義経済の維持・
発展という目的は政治資金の寄附を行う合理的理由とはならないとしたうえで・熊谷
組が行った上記寄附について、会社の具体的経営状況や欠損の有無等を考慮せず、寄
附の必要性や有用性も何ら検討せずに、寄附の要請があるままに寄附を行ったもので
あると断定しています。
 しかし、以下に詳しく述ぺるとおり、私が、国民政治協会を通じて自由民主党に政
治資金の寄附を決裁したのは、単に、同党がイデオロギーとして自由主義経済体制を
支持しているからというわけではなく、過去の経済運営に実績のある同党が・社会イ
ンフラの整備等適切な経済政策を揉ることによって、わが国の長期経済不況から早く
脱し、合わせて、熊谷組が属する建設業界の経営環境を安定させてほしいという趣旨
も含んでいたものです.
 私が、熊谷組の経営状況や欠損の有無を何ら考慮せず、寄附の必要性や有用性も何
ら検討しなかったというのも、誤解です。上記の各寄附を行った時点において、熊谷
組は、何ら欠損状態にはなく、また、原判決がいうように、同社の経営状況が継続的
に逼迫していたという事実はありません。また、本件政治資金の寄附にっいて、具体
的ないし高度の必要性や有用性が明らかではないという原判決の指摘は、寄附の性質
上そのとおりですが、私は、日建連を通じて要請のあった政治資金の寄附に応ずるこ
とが、熊谷組の建設業界における地位と信用を維持することにつながり、長期的・問
接的には、受注機会の拡大という向社の利益に適うと考えていたものです。
 以下では、第2において、熊谷組が自由民主党に政治資金の寄附を行った理由につ
いて述ぺ、つぎに、第3において、私が社長に就任してから退任するまでの熊谷組の
経営状況、なかでも平成9年と同12年に発表した再建計画の内容と各期の決算状況
並ぴに熊谷組をとりまく経営環境・社会情勢を説明したうえで、第4で、私が社長在
任中に行った本件で問題とされる7回の寄附を行うに至った経緯を順次説明してい
きます。
第2 熊谷組が白由民主党に対して政治資金の寄附を行った理由について
 原判決は、現在ではどの主要政党も自由主義経済体制の採用をうたっているか
ら、同経済体制の維持・発展ということは、自由民主党等特定の政党に対する政治
資金の奇附の合理的な理由とはなり得ないと述べておりますが、極めて狭い捉え方
と言わざるを得ません。
 熊谷組が国民政治協会を通じて自由民主党に政治資金の寄附を行った理由は、
抽象的に言えぱ、自由主義経済の維持・発展によって、わが国の社会や経済が安定
することが、熊谷組の経営基盤の安定にもつながるということです。しかし、上記
のことは単なる抽象論としてではなく、寄附のなされた当時のわが国の経済状況や
寄附の相手先である政党の実績・能力といったより具体的な文脈において理解され
るべきです。すなわち、本件の各寄附を行った当時は、長期的な不況・景気低迷か
らいち早く脱して、経済を再び活性化させて企業の経営環境を改善して欲しいとい
うのが、熊谷組の属する建設業界のみならず、経済界一般が政府に対して抱いてい
た最大の要望でしたが、そのためには、政権政党であり、戦後のほとんどの時期に
おいてわが国の経済運営を担ってきた自由民主党こそ、適切な経済政策の立案と実
行の実績と能力があり、同党を応援することが、日本の経済不況からの脱出につな
がり、同時に熊谷組のためにもなると考えていたのです。
 特に、手法の是非については賛否両論があるとはいえ、公共サーピスの充実等
の社会インフラの建設・整備は、わが国の経済を牽引する新しい産業が未だ現れな
いなかでは、依然として、経済不況対策として有効な政策と一般に考えられており、
建設産業はその中で大きな役割を果たしていたわけですが、これに関する政策の研
究と実現に最も熱心であったのは、自由民主党であったといえます。たとえば、公
共事業の財源不足のなかで、民間の資金や経営能力・技術能力を活用した公共施設
の建設、維持・運営を促進する事業手法として、英国で最初に発展したPFI
(P"vatefinanceinitiative)というものがあり、日建連ではかねてこの事業手
法のわが国への導入を検討しておりましたが、自由民主党が中心となって、議員立
法として「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」平
成11年法律第117号)(いわゆる「PFI法」)という法律が立法されました。
熊谷組は、わが国の建設会社としては、海外でPFIを最初に手がけた会社であり
ますが、私としては、この例に限らず、都市の再生や再開発など、国民がより豊か
な生活をおくるためであると同時に建設業界の経営環境の改善をもたらす経済運
営を担うのに、最もふさわしい実績と能力を備えているのは、自由民主党であると
考えておりました。
 自由主義経済の維持・発展を目的として自由民主党に政治資金の寄附を行った
と言うときには、上記のような意味合いを含めて言っているのであり、単に、社会
主義経済体制に対するイデオロギー的な意味だけで言っているのではありません。

 

 

第4 本件各寄附を行った経緯
1 寄附要請があった場合の熊谷組における取扱い・チェック事項
 熊谷組に対して、国民政治協会から、直接または日本建設業団体連合会(以下「日
建連」といいます。)を通じて、政治資金の寄附の要請があった場合・熊谷組におい
ては秘書部において所管し、次の点についてチェックをします。
秘書部におけるチェック事項は次の諸点です。
@ 資産、資本金、売上高等の状況や社会全般の寄附の動向を勘案し、寄附が不相
当でないか
A 政治資金規正法第21条め3第2項に定める範囲内であるか
B 選挙に関する献金ではないか
C 例年と比べて過大ではないか
 このような基本事項についてチェックをかけたうえで、副社長の承認を経て・社長
である私が最終決済を行うことになっていました。原判決は、私が寄附の必要性や有
用性について何ら検討をした形跡もないと論じていますが、それは誤解です。私とし
ては、前述のチェックを経て秘書部からあがってきた寄附要請について、再度、私自
身で種々の事情を検討したうえで要請に応じることを決定したのです。
 以下、私が具体的にどのような事情を検討したかを説明します。

2 本件寄附
(1)秘書部チェック事項@の確認
 本件で私が社長在任中に熊谷組から国民政治協会に対して行った7回の寄附(以
下これらの寄附をまとめて「本件各寄附」といいます。〉は・平成10年3月乃至
平成12年4月にかけて行ったものですが、その期間中の熊谷組の業績は次の表の
とおりです。
	     平成10	   平成11	     平成12
寄附金額	   207672,000	16,325,000	12,290,000
売上高	    1,013,236	  900,311      691,425
営業利益	     24,416        26,144       17,618
経常利益	     15,502	    7,612        5,553
当期純損益     一217,644	    1,431         2,755
資本金	     82,085	   82,085         82,085
純資産額	       133,855	   135,287	        166,374
総資産額	      1,599,332 	  17505,144      1,530,595
〈寄附金額は暦年間の合計額、単位-円。その他の数宇は、当該年3月期の数字、
単位=百万円)
 この表を見ればわかるとおり、熊谷組は私の社長在任中、年間6914億円〜1
兆132億円の売上高を計上しておりましたが、これは建設業界のなかでも上位5
位に入る業績でした。また営業利益も176億円〜261億円、経常利益も55億
円〜155億円と、会社の本業においては、毎年黒宇を出していました。なお、い
ずれの寄附の時点でも、会社の貸借対照表上欠損はありませんでした。
 さらに、熊谷組の資本金は当時820億円で全上場ゼネコン中第3位、純資産額
は約1300億円で全上場ゼネコン中第10位でした。
 建設業界全般における国民政治協会への寄附の状況としましては、金融機関に対
して債権放棄を要請した会社を除いては、全ての上場ゼネコンが国民政治協会から
の寄附の要請に応じていました。その中で熊谷組の本件各寄附の額は、年間122
9万円〜2067万円であり、大手5社といわれる鹿島建設、大成建設・清水建設・
大林組及ぴ竹中工務店と概ね同等かやや下回る金額であり・決して少ない金額とは
いえませんが、政治資金規正法第21条の3第2項による熊谷組の寄附制限額であ
る8700万円からは大きく下回る金領でした。
 これら会社の規模、他社の寄附状況及ぴ法律上の制限額との関係では、秘書部は
本件各寄附は不相当なものではないとの報告を私に行い、私もそれら形式的な数字
との関係においては、不相当ではないと判断しました(ただし、このような形式的
なチェツクのみで寄附実行を決断したわけではありません。この点は(4)及び(5)
で後述します)。

(2)秘書部チェツク事項A及びBの確認
 政治資金規制法との関係については前述のとおりであり、その制限額である87
00万円に達していないことの報告を受けて確認しました。
 また、選挙に関する寄附でないことについては、本件各寄附の要請が選挙費用に
供するための要請として行われたものではないこと、統一国政選挙に近接していな
いことの報告を秘書部から受げて確認しました。

(3)秘書部チェック事項Cの確認
 例年の献金額との比較については、私の在任中の献金額は前述のとおり年間12
29万円〜2067万円であり、ある年が突出して大きいわけでないことを秘書部
の報告を通じて確認したほか、私が社長に就任する以前の額についても平成7年〜
同9年の寄附額が年間2167万円〜2817万円であることを確認し、私の在任
中の本件各寄附額はいずれも在任前過去3年間の寄付額を下回る金額であること
を確認し、不相当ではないと判断しました。

(4)寄附を行わないことによるデメリットについて
 私が、本件各寄附を決裁するにあたって、熊谷組にとって長期的に見れば寄附が
有用だろうと考えたことについては(5)で述べますが、その前に、私が、仮に本
件各寄附の要請に応じなかった場合の、会杜にとってのデメリットとして考えてい
たことについて述ぺたいと思います。
 すなわち、本件各寄附の大半は、国民政治協会から日建連を通じて会員各社に寄
附の要請があったものですが、当時、熊谷組は日建連における最大手6社のグルー
プのうちの1社として、日建連の各種委員会活動に積極的に従事するとともに、活
動を支える会費や日建連を通じて行う各種社会的寄附等の金銭的負担においても、
他の大手5社とともに最大割合の負担をしており、政治資金の寄附についても同様
でした(日建連等の詳細については、(6〉で述べます)。日建連加盟会社は、売
上高や総合力に応じて数グループに分けられ、各グループごとにそのグループに属
する各社が同程度の会費や各種社会的寄附等を分担しており、かかる仕組みは政治
資金の寄附についても同じです。もちろん、最終的に寄附を行うかどうかはそれぞ
れの会社が独自に判断するものですが、私が社長に在任当時、金融機関に債権放棄
を要請した会社を除いては、日建連会員会社は全て、国民政治協会からの寄附の要
請に、日建連における各グループごとの分担に対応する形で応じていました。
 このような中で、当時債権放棄を要請したわけでもない熊谷組が国民政治協会か
らの寄附の要請を断った場合、その情報は日建連加盟会社全社に直ちに伝わり・熊
谷組の信用に関するネガティブ情報として業界内で利用され・激しい受注競争の中
できわめて不利に働く恐れが大きかったのです。また、かかるネガティプ情報が流
れれば、代金回収の不安から資材メーカーからの資材の購入条件が厳しくされる恐
れや、市場の信用を失って株価が下落する恐れもありました
 実際、青木建設、長谷工、フジタといった金融機関に対して債権放棄を要請した
会社も、正式に債権放棄を要請してそれを対外的に発表するまでは、日建連を通じ
た政治資金の寄附の要請に応じており、これを拒絶するということはありませんで
した。
 後にも述ぺますが、建設業界内においては熾烈な受注競争が行われており、また
当時は、法的倒産に追い込まれるゼネコンや金融機関に債権放棄を要請するゼネコ
ンが後を絶たない状況であり、熊谷組もこれらの会社と比較して論じられることも
あって、対外的信用を維持することは熊谷組にとって極めて重要な課題でした。こ
のように、私は業界内や市場において、年間数千億円から1兆円近い売上高と約2
00億円の営業利益を挙げている熊谷組が年間約2000万円の寄附の要請にも
応じられないほどに体力が低下している、とのレッテルが貼られることによって会
社が蒙る不利益は、寄附金額を優に超えるものであり、寄附を行わないことのメリ
ットよりデメリットのほうがはるかに大きいと考えました。

(5)寄附を行うことの会社にとっての長期的有用性について
 私は、本件各寄附を行うことには、会社にとって、次のような長期的な有用性が
あると考えました。
 すなわち、(4)で前述したとおり、日建連において、他の大手5社と同様の分
担額を寄附することによって、熊谷組も大手5社と同様、建設業界において、最大
手ゼネコンにふさわしい費任と負担を分担しているとの評価を得ることができ、業
界内における地位と信用を維持することができます。そして、業界内において高い
信用があれぱ、自然と業界外の信用も高まり、民間工事の受注にとっても有利に働
くものです。また、実際上、日建連におけるランクに応じて割り振られることが多
い業界団体における各種ポストを獲得したり、各種の委員会に社員を委員として派
遣することができれば、それらを通じて、熊谷組の意見を業界に反映しやすくなる
し、また、最新の土木・建築技術やその他様々な業界共通の課題に関する新しい情
報を得ることができ、そのことは、熊谷組の競争力を高めるうえで非常に有用であ
ります。さらに、業界内において最大手の一角としての地位・信用を得ることがで
きれば、わが国の大規模工事の多くに採用されているジョイント・ペンチヤー(建
設工事共同事業体)〈JV)の構成員、なかでもスポンサーに就任する可能性が高
まり、長い目で見れぱ、熊谷組の業績に寄与すると考えました.
 以上に述べたことは、業界活動の実情やJVの仕組みなどと密接に関係しますの
で、以下では、(6)と(7)でそれぞれについて説明し、最後に(8)で総括し
たいと思います。

(6)業界活動の実情等について
 @日建連について
 社団法人日本建設業団体連合会(「日建連」)は、日本土木工業協会(「土工
協」)や建築業協会等の建設業界の各同業者団体と、全国的な建設業者等を会員
とするわが国建設業界の最も重要な業界団体であり、その活動は、建設業界に共
通する基本的里要事項について意見を調整し確立すること、建設業の健全な発展
と事業遂行のために必要な諸制度の確立・改善に努めること、建設業に関連する
諸問題に関する調査研究、統計の作成、資料の収集等を行うことなど、多岐にわ
たっています。
 日建連は、企画委員会、広報委員会、環境委員会、国際委員会等の委員会を設
けて、業界に共通する多種多様な問題について研究を行い、意見や要望を取り纏
めて、立法府、行政府、経団連等への提案や働きかけを行っています。
 日建連の役員や各種委員会の委員長には、大手ゼネコンの社長・副社長が就任
するのが通例であり、熊谷組においても、昭和50年から同56年まで・時岡収
次副社長〈当時)が副会長を、昭和61年から平成2年まで熊谷太一郎社長(当
時)が副会長を務め、また、最近における委員長としては、熊谷太一郎社長が契
約積算委員会や国際委員会の委員長を務めました。
 また、土工協は、日建連の最も主要な団体会員であり、熊谷組は伝統的に土木
工事に強かったことから、熊谷太一郎社長(当時)が会長や各種委員会委員長を
歴任し、私自身も土木工事技術委員会委員長を務めた経験があります。
 このような日建連や土エ協等の業界団体の主要ポストに就くことは、業界全体
に対する奉仕であるとともに名誉なことであり、業界において相当の規模と信用
のある会社の役員・幹部でなけれぱ、かかるポストや委員に就くことができませ
ん。
 そして、これら業界団体は、各種委員会を通じて、建設業界が共通に抱えてい
るその時々の様々な間題(各種政策提言、契約約款や積算方法の改訂、新規土木
・建築技術の研究開発、環境・公害・安全対策等々)を扱っており、各会社は、
それらの委員長や委負に役職員を派遣していることによって、業界に対する発言
力を維持するとともに、建設業界の各種の課題に関する最新の情報や動向をいち
早く把握することができ、それを会社の業務・研究開発に役立てることが可能に
なり、会社の競争力を強化することができます。
 日建連や土工協その他の日建連の構成団体の多種多様な活動には膨大な資金
が必要で、それらは会員各社が会費という形で分担して負担しています。そして、
日建連の会費の分担割合は、会員である数十社を、それぞれの売上高や総合力に
応じて数グループに分け、大手会社であるほど大きな割合の会費を分担する仕組
みになっています、ここで、どのグループに属するかということが、業界内にお
ける各社のランクを端的に物語っているということができると思います。
 このグループ分けについては、年度ごとに多少変動しますが、最大手の会社か
ら成る第1グループには、いわゆる大手5社と言われる、大林組、鹿島建設、清
水建設、大成建設及び竹中工務店が毎年常に入っていました。そして、熊谷組も、
昭和63年以降、これら大手5社とともに第1グループに属し・最大の割合の会
費を分担してきました。この第1グループに属することができたのは・熊谷組の
受注額が評価されたことによるものであり、その後も熊谷組が各年度において、
資本金額及び売上高等の財務指標において、高い地位を占めていたことによるも
のであると思われます。このようにグループ内のランクは、資産規模や受注額、
売上額と大きな関連をもっていました。
 第1グループに入ることは、建設業界内で最大手の会社の一つとして評価され
ることを意味し、業界内の地位・信用が著しく高まります。そして、業界内の信
用が高まれぱ、自然と業界外におげる信用も高まり、民間工事の受注にとっても
有利に働くことになります.また、前述した各種業界団体におけるポストや委員
の割付けも、業界におけるランクに応じてなされるのが実情でしたが・主要なポ
ストや委員会の委員になることにより様々な新しい情報に接する機会が多くな
りましたので、高いランクを保つことは会社の業務にとっても間接的に有用性が
あるといえます。
 A「十日会」を通じた社会貢献活動について
 「十日会」(通称)はその正式名称を「社会貢献活動協議会」といい、原則と
して日建連の法人会員である会社をもって構成しています。その目的は、建設業
界としての各種の社会貢献活動に関して、協力要請の受付、要請議案の協議、協
力を実施することです。
 具体的には、日建連が福祉、医療、教育、文化関係等の各種団体等から寄附の
要請を受けた場合、これらについて、十日会の例会において協力要請の報告、会
員会社の負担金額等についての目安を協議したうえで、会員各社が自社に持ち帰
って、最終的には各社の自主的判断において各社の負担目安の寄附に応じるか否
かを決定することとなっていました。これと同様に、国民政治協会から日建連に
対して政治資金の寄附の要請があった場合も、十日会の例会で目安額を協議した
うえで、会員各社が寄附に応ずるか否かを決定することになっていました。
 そして、各会員各社の負担金額の目安については、年度毎に、十日会の会員会
社数十社を会社の規模に応じて数グループに分げ、各グループ毎に1社毎の分担
割合を決める仕組みとなっていて、熊谷組は第1グループとして最大割合の寄付
を負担していました。
 このグループ分けは、前述した日建連の会費の分担に関するグループ分けにほ
ぽ対応していて、日建連の会費負担の場合と同様、最大手の会社から成る第1グ
ループには、いわゆる大手5社と言われる、大林組、鹿島建設、清水建設、大成
建設及ぴ竹中工務店が毎年常に入っていましたが、熊谷組も昭和62年から平成
13年までの間、この第1グループに属し、日建連を通じた各種寄附について他
の大手5社とともに最も大きい割合の負担を担ってきたのです。これはかかる負
担に応じることが、熊谷組が業界団体においてその規模に応じて果たすべき応分
の社会的貴任であると考えていましたし、大手ゼネコンとしての業界内部におけ
る熊谷組の地位と信用を保持するために必要であり、長期的、間接的に、熊谷組
の受注機会の維持拡大につながると判断しました。
 B業界活動を通じての様々な情報の取得
 前述したとおり、日建連やその構成団体は、数多くの委員会を設けて業界に共
通する各種の技術的、政策的、法律的、経済的諸問題を研究し、必要に応じて報
告書にまとめたり、提言等を行ってきました。私自身も、平成11年から同12
年まで土工協の土木工事技術委員会委員長を務め、この間に同委員会で研究を行
って『実務者のためのコンクリート構造物の維持管理マニュアル』をまとめまし
た。
 これらの業界活動は会社にとって負担も大きい代わりに、会社の意見を業界活
動に反映することができ、また、その時々において建設業界が抱えている諸間題
について最新の情報や動向を把握し得ることにつながり、これを会社業務にフィ
ードパックすることによって、会社の競争力強化に寄与することとなります。そ
して、かかる業界活動において中心的な役割を果たすためには、やはりそれ相応
の寄附をはじめとして、業界における応分の責任を負担することが必要であると
考えました。

 (7)JVについて
 わが国における大規模工事においては、ある会社が単独で受注するのではなく、
「○○・△△建設工事共同企業体」などと呼ばれるジョイントペンチャー(JV)
を複数の建設会社で構成して受注・施工するケースが非常にたくさんあります。
 このようなJV方式は、施工の確実性、危険分散、技術力の拡充強化、中小企業
振興等の利点があり、わが国においては非常に発展しております。私自身も、若い
ころは、国内や海外で、JV方式の工事の現場に携わった経験があります。
 JVでは、ある一社が「スポンサー」と呼ばれる幹事会社に就任して、@作業所
長や監理技術者その他の主要人事の決定、派遣、AJVを代表しての発注者と協議
・交渉、B資機材の業者選定・発注や下請業者の選定、C原価管理、D技術提案等
について責任ある役割を果たすことになります。
 このように貴任が重い一方で、JVスポンサーに就任するとメリットとしては、
@JV内における最大比率の工事受注とそれに応じた利益の獲得、AJVの工事実
績による業界内及び業界外の信用の増大とそれによる将来の受注機会の拡大、Bプ
ロジェクト・マネージメント能力の向上、C技術力の向上、D下請業者を含めた企
業グループ全体の力の向上等をあげることができます。
このようにJVスポンサーに就任することができれぱ、熊谷組にとって大きな利
益をもたらすことから、私自身もJVスポンサーとなることができるよう努めるこ
とが社長としての任務であると考えておりましたが、かかるスポンサーに就任する
ためには、単なる営業能力、技術力だけでは不足であり、発注者やJV構成会社を
して「熊谷組は、JV全体をまとめるスポンサーとして相応しい」と評価されるだ
けの高い信用、信頼を受ける必要がありました。そのためには、会社単独での利益
迫求だけを考えるのではなく、経営規模に応じた業界内における相応の貴任を負担
することが不可欠の要素です。国民政治協会から日建連への寄附要請に対して会社
の規模に応じた分担を負担することも、かかる責任の一環であると私は考えたので
す。
 なお、JVを講成しない工事においても、業界内における高いランクを維持する
ことは、同時に業界外においても高い信用を得ることにつながり、民間工事を受注
するにあたって有利です。例えば、会社の社長その他の幹部が業界団体において然
るべきポストに就いていれば、それによって会社の信用が増し、発注者の信頼を獲
得することに寄与するという形で、受注競争において有利に働くことがあるので
す。
(8〉寄附を行うことの有用性の総括
 以上のとおり、本件各寄附を行うことは、日建連をはじめとした業界内において
大手5社と同格であるとの評価を受ける一助となるものでありますが、私は、かか
る評価によって、熊谷組が業界内の最新の情報を獲得できて会社の競争力が高まる
のみならず、業界内外における会社の信用の増大によって、JV工事の受注、なか
でもJVスポンサーヘ就任する機会が増えるとともに、JV以外の民間工事の受注
にも役立つと考え、業界内で大手5社と同格との評価を受ける必要があると考えま
した。そして、そのためには、熊谷組が単独で営利を追求するだけでは足りず、大
手5社と同レペルの業界におげる様々な責任や負担をこなす必要がありました。本
件各寄附の要請に応じることも、かかる責任や負担の一環であると考えましたし、
かかる要請に応じることが、長期的な視点でみれば、必ずや熊谷組の利益に適うも
のであると判断して、本件各寄附を決裁しました。
第5 まとめ
 以上述べたとおり、私が熊谷組の社長として決栽した、平成10年3月から平成1
2年4月にかけて合計7回の国民政治協会に対する政治資金の寄附のいずれの時点
においても、熊谷組の経営状況が逼迫しているということはありませんでした。また、
平成12年9月に策定・発表した「新経営革新計画」は、平成13年3月期から適用
される会計基準の実務指針の具体化と、平成12年5月以降に生じた、熊谷組の準メ
インパンクである新生銀行(旧日本長期信用銀行)をメインバンクとする第一ホテル
やそごうの法的倒産手続やハザマの債権放棄交渉の難航の影響で、熊谷組の株価が急
落したことなどを受けて、急遽策定されたものであり、私が、平成10年4月以降継
続して、会社に欠損が再び生ずることを確定的に認識していたということなどはあり
ません。
 また、本件政治資金の寄附は、自由民主党が適切な経済政策を立案・実行して、わ
が国の経済不況から早く脱却し、建設業界の経営環境を改善してくれることを期待し
て行ったものであると同時に、私は、日建連を通じて要請のあった奇附に応ずること
が、熊谷組の建設業界における地位と信用を維持し、将来の受注機会を拡大するとい
う長期的な利益につながると考え、また、寄附要請を拒絶することによって、いたず
らに会社の信用を悪化させることを避けなげれぱならないと考えたのです。
 このように、私は、本件政治資金の寄附を行ったことが、原判決が断定したように、
ずさんな判断として、代表取締役としての注意義務に反したものであったとは考えて
おりません。
 以 上

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