陳  述  書

平成16年10月18日


名古屋高等裁判所金沢支部民事部御中

氏 名  松 本 良 夫



 すでに提出した平成15年6月23日付陳述書(乙22)を補足して、陳述いたします。


第1 平成9年10月の「経営革新中期計画」とこれに伴う損失の計上
  1 計画策定・公表の経緯
 まず、株式会社熊谷組(以下「熊谷組」といいます。)が平成9年10月に「経営革新中期計画」(乙9以下「平成9年計画」といいます。)を策定・公表した経緯と、平成9年計画の策定に伴いどのように損失計上を行ったかについて陳述します。

 平成9年計画は、当時の熊谷社長と5人の代表取締役からなる経営会議において策定を決めたものです。私は、経営管理本部長として経営会議の事務局を務めており、平成9年計画をとりまとめる立場にありました。

 平成15年6月23日付陳述書3頁以下で詳しく述べましたが、当時の状況としては、平成9年3月期に受注高1兆円を達成し、平成9年度(平成10年3月期)は通期で受注及び売上高はともに1兆円超、7年ぶりに営業利益増益の見通しとなるなど会社の業績は堅調に推移していました。外部環境としても、平成9年6月には目経平均株価が2万円を回復するなど国内の景気は底打ちの観測がなされており、また海外における不動産市況も長期に渡る低迷を脱し、米国をはじめ全体的に強い回復基調にありました。
  結果的に見ると平成10年3月期の業績は次のとおりであり、堅調と評価できると思います。
  受注高9038億円
  売上高1兆132億円
  営業利益244億円
  経常利益155億円
  平成9年計画とこれに基づく平成10年3月期決算は、このような状況に鑑み、回復の見込みの乏しい資産を積極的に処理し、競争力の抜本的強化、財務体質の抜本的改革、組織の活性化を図るために策定・公表されたものです。

 2 損失の計上

 平成10年3月期決算において上記のような方針の下、海外開発事業については、今後回復の見込みが乏しく、保有コストがかかる案件について、売却、清算等の処分を行うことにしました。これらの処分を行って、株式売却損、関係会社株式についての投資損失引当金計上等を行いました。これら海外開発事業案件の売却・清算等の処分については、取締役会でその処分について決議しました。

 国内債権に関しては、事業主(債務者)における経営改善努力、事業主に対する金融機関の取組姿勢、事業化による資金回収可能性等を検討して、回収可能性の低い案件について引当金を積み、または償却しました。これらの処理については、決算取締役会で、引当金計上および貸倒償却することを決議しました。

 これらの結果、平成10年3月期決算においては、海外事業整理損1536億円、貸倒引当金繰入額647億円、開発事業整理損失引当金繰入額116億円等合計2426億円の特別損失を計上しました。これらの損失計上により資本の部において488億円の欠損金を計上しましたが、これは平成10年6月の株主総会で利益準備金98億円と資本準備金390億円の取り崩しを決議したことにより解消されました。これは平成9年計画において予定されていたことです。

 3 資産の評価について

 当時、流動資産の評価については、原則として取得価額を付すことになっており、「時価が取得価額より著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額」とすることになっていました。しかし、「時価」をどうやって算定するかとか、「著しく下落」や「回復する見込み」の判断基準については、一義的な定義や基準はありませんでした。また、たとえぱ不動産の場合には、評価方法がさまざまあり、客観的一義的に時価やその回復の可能性を把握することは困難でした。特に、開発案件等、将来事業化を見込んでいる案件については、ゴーイング・コンサーン・バリュー(継続企業価値)で評価するのが適切と考えられており、単純に素材である土地等の処分可能価格が評価額となるわけではなく、評価が複雑でした。また、不動産鑑定士による鑑定等を用いることが求められているわけでもありませんでした。これらの事由により、「時価」の算定や、「著しく下落」や「回復する見込み」の判定は一般に弾力的な面がありました。
 当時の会計基準においては、平成10.年3月期決算で損失を計上した案件につき、平成9年3月期以前の決算期において特に引当金の計上をする必要はありませんでした。これらの決算については監査法人の監査も経ており、引当金計上に関する処理は適正なものです。 平成10年3月期決算においては、財務体質を改善するために、今後回復の見込みが乏しく、保有コストのかかる海外開発事業案件について積極的に売却等の処分や引当金計上を行って損失を処理し、また国内債権については厳しく査定を行って前倒しで引当金の計上や償却をしたのです。


第2 平成12年9月の「新経営革新計画」とこれに伴う損失の計上
  1 計画策定・公表の経緯

 次に、熊谷組が平成12年9月に「新経営革新計画」(以下「平成12年計画」といいます。)を策定・公表した経緯と、平成12年計画の策定に伴いどのように損失計上を行ったかについて、陳述します。

 平成12年計画の策定・公表について、私は、社長として関与しました。

  平成15年6月23日付陳述書8頁以下でも述べましたが、平成12年4月1日以後に始まる事業年度から金融商晶の時価会計が適用されることとなり、また平成12年7月6目には「販売用不動産等の強制評価減の要否の判断に関する監査上の取扱い」(乙13以下「監査上の取扱い」といいます。)が決定されました。「監査上の取扱い」においては、土地の時価として原則的に不動産鑑定士による鑑定評価額が適切であること、時価が取得価額に比べておおむね50%以上下落している場合には「著しく下落している」ものとして取り扱うこと、時価の回復可能性があるというには個別具体的な事情があって相当期間内に時価がおおむね取得価額以上となる見込みがあることが必要であること等、販売用不動産について評価の方法、指針等について明確に定められました。熊谷組が株式や債権を有する関係会社や債務者等は、不動産を主たる財産とするものが多かったため、「監査上の取扱い」は、たな卸不動産のほか、関係会社株式、貸付金等の評価にも影響します。平成13年3月期決算は「監査上の取扱い」に従って行うことになりますので、この決算においては多額の特別損失を計上することになると予想されました。

 さらに平成12年5月ないし7月ころ当時の状況として、新生銀行(旧日本長期信用銀行)等に対して債権放棄要請をしていた第一ホテルとそごうが、新生銀行が政府と交わしていた「蝦疵担保特約」がネックとなって債権放棄が認められず、法的倒産手続に至り、また同時期にやはり新生銀行等に債権放棄要請をしていたハザマについても交渉が難航していました。これらの一連の事象が、これら3社と同じく新生銀行を準メインバンクとする熊谷組の信用にも先行き不安という悪影響を与え、熊谷組の名前がマスコ.ミで取り沙汰されるなどして、株価も平成12年6月に入って額面割れするなど急速に下落しました。

 このようなことから、熊谷組は、平成9年計画の見直しを迫られ、平成12年9月18目、取締役会で、平成13年3月期に5700億円の一括損失処理を行うとともに、金融機関に4500億円の債務免除要請を行うことを内容とする平成12年計画を決定し、公表しました。

 2 損失の計上

 計画の決定に先立ち、熊谷組では、「第64期資産の再評価について」(乙16)に記載した海外事業19件、国内問題債権43件等の流動資産にっいて、「監査上の取扱い」に基づく評価と減損処理を行いました。海外事業、債権額10億円以上の債務者の不動産、簿価10億円以上の不動産等については、原則として第三者の鑑定を行っており、上記評価はこの鑑定に基づいています。平成12年8月30日には、公認会計士からその処理が適正であるとの監査結果を得ました(乙16)。この作業を通じて平成13年3月期に損失処理すべき金額が具体的になってきました。この額を念頭に置きながら、債務超過にならないよう、金融機関との度重なる協議を経て、債務免除要請する金額や減資の金額を決めていったのです。

 資産の評価を行うにあたり、担当部署で「資産査定評価基準」「案件別評価シート」を作りました。
 「資産査定評価基準」は、資産の種類別に資産の査定方法の詳細を記載したものです。「案件別評価シート」は、海外事業や国内問題債権等に属する個別の案件ごとに、案件の概要、経緯、現況、今後の見通し・処理方針、債務者の現況の詳細、熊谷組の簿価と査定根拠の詳細等を、具体的な計数とともに記載したものです。いずれの文書も、専ら会社内部における資産評価のために作成されたものです。これらの文書を対外的に開示・公表したり、会社の外部に提出したりすることは全く予定されていません。これらの記載内容は、いずれも、熊谷組が対外的に公表していない資産査定方法の詳細に関する事項や、個別案件ごとの経緯、現況、今後の見通し・処理方針、債務者の業績・現況や評価額査定根拠の詳細等に関する事項であって、もしこれらが対外的に開示されれば、それによって、個別案件に係る資産の今後の維持・運営、売却その他の処理において、熊谷組に相当の不利益が生ずるおそれがあります。または処分先に対する守秘義務を破ることとなり、処分先の利益を損なったり、債務者の経済状況等が知られることで、その利益を害したりすることになりかねません。

 最終的な平成13年3月期の特別損失は、5771億円となり、その内訳は次のとおりです(甲41の12の67頁)。
  貸倒引当金繰入額1859億円
  関係会社株式評価損1500億円
  投資有価証券消却損933億円など
 この決算については、藍査法人も適正と認めており、また、熊谷組の取締役会の承認と定時株主総会での報告を経て確定しています。

 乙16号証に記載の海外事業19件、国内問題債権43件等、平成13年3月期に計上した損失については、平成9年計画策定時および平成10年3月期決算においては、損失として計上すべき事由を認識していませんでした。平成9年、10年当時においては、これらの案件は、いずれも将来事業化を予定していたり、債務者について債権償却が可能な事由がいまだ発生していない等のため、時価が簿価に比較して著しく下落し、かつ回復可能性がないとは判断していませんでした。平成10年3月期決算と平成13年3月期決算では、適用される会計基準も大きく異なっていますし、この3年間に内外の不動産の市況や各債務者の状況等も大幅に変動していますから、特定の案件についての損失計上の要否について両年度で判断が異なることは何ら不自然ではありません。


第3 平成15年3月期の損失計上について

 熊谷組は、平成15年3月期決算において多額の特別損失を計上しました。しかし、私は、平成12年12月に熊谷組の代表取締役社長および取締役を辞任し、経営陣を離れたので、上記の特別損失計上には関与しておらず、その詳細については知りません。


第4 個別の献金の経緯

 国民政治協会に対する個別の献金の経緯について、補足して述べます。

 十日会経由のものについて、国民政治協会から十目会に対して献金の要請があり、これにつき十日会で目安が協議され、これが熊谷組の総務部に伝達されるものと認識しています。国民政治協会から十日会に具体的にどのように要請がなされるかは知りません。十目会における協議の詳細についても、私自身は関わっておりませんが、各社の負担額の目安は、十日会において会社の経営規模に応じてあらかじめグループ分けしてグループ毎に割合を決めてあり、各回の負担額は、その割合に応じて割り振って決めているものと理解しております。平成15年6月23日付陳述書でも述べたとおり、本件で問題とされている献金の当時は、熊谷組は、大手ゼネコン5社と並んで、十日会の第1グループに属しておりましたので、各種社会的寄附や政治資金の寄附の負担額の目安の割合も大手5社と同等でした。
 十日会経由でないものについては、国民政治協会から直接熊谷組秘書部に献金の要請があったものです。
 いずれの献金についても、要請額が例年の実績等に照らして適正な額の範囲内であり、選挙に関するものでもないので、自由民主党を支援する趣旨で献金に応じたものです。政治献金という性格上、見返りはありません。


第5 株主への配当との関係

 平成10年6月の株主総会以降、株主への配当がなされていないことを、政治献金にあたりどう考慮したかについて陳述します。

 平成10年6月の株主総会以降、政治献金をするにあたっては、無配となったことは当然認識しており、そのことも献金の決定において考慮に入れています。
 平成10年3月期における回収見込みの乏しい資産の積極的な損失処理により、配当可能利益が大幅に減少したため、無配とせざるを得なかったものの、平成10年3月期、平成11年3月期、平成12年3月期の各売上高、営業利益、経常利益は、それぞれ6914億円〜1兆132億円、176億円〜261億円、55億円〜155億円であり、本業は堅調でした。年間2000万円程度の政治献金の支払により、業務に支障が生ずるような状況ではありませんでした。
 平成10年3月期末における熊谷組の発行済み株式総数は680,727,047株ですが、これに対して仮に1株につき3円(平成9年6月の定時株主総会決議における1株あたり配当額)の配当を実施したとしても、20億円以上の資金を要することになります。つまり、2000万円程度の政治献金の支払が復配を遅らせるという関係にはありません。
 自由民主党の政策によりわが国経済が活性化されることの方がより早期の復配につながりますし、逆に献金をしない場合、建設業界内外における会社の信用や評判が損なわれて、受注機会を失うことが懸念されました。したがって、無配になったことの一事をもって、政治献金を控える必要はないと考えました。


以上

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