五洋建設政治献金等株主代表訴訟事件

訴    状

 

当事者の表示  別紙のとおり

請求の趣旨  別紙のとおり

請求の原因  別紙のとおり

 

添  付  書  類

1 委任状                           1通

2 商業登記簿謄本            1通

 

平成15年8月14日

 

原告訴訟代理人

            弁護士 松  丸     正

 

東京地方裁判所 御中


当 事 者 の 表 示

 

原 告  

〒590−0077 堺市中瓦町1丁4番27号小西ビル6階 

            電 話072−232−5188

            FAX072−232−5455

          原告訴訟代理人(代表)

弁護士  松    丸      正

            (別紙代理人目録のとおり)

 

〒112−0004 東京都文京区後楽2丁目2番8号               五洋建設株式会社内 

被 告  水   野   廉   平

〒279−0031 千葉県浦安市舞浜3丁目26番3号

被 告  高   階   實   雄

〒112−0004 東京都文京区後楽2丁目2番8号

          五洋建設株式会社内

被 告  森   平   倫   生

〒112−0004 同所同番地 

被 告  宇         

 


請 求 の 趣 旨

  被告水野廉平、同高階實雄、同森平倫生、同宇山藤博は、訴外五洋建設株式会社に対し各自金1億9642万円、及びこれに対する本訴状到達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告らは、訴外五洋建設株式会社に対し各自金2600万円、及びこれに対する本訴状到達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに1項、2項につき仮執行宣言を求める。

 

請 求 の 原 因

第1、当事者

1、訴外五洋建設株式会社(以下訴外会社という)は、海上土木工事を中心とした総合建設土木業を目的とする資本金約339億円の株式会社である。

2、原告は、後記第2の政治献金の支出につき平成14年12月3日付(同年12月5日送達)、後記第3の課徴金の納付につき同15年4月23日付(同年4月25日送達)の各内容証明郵便で本件についての提訴請求を訴外会社の監査役に対してなした。原告はこの提訴請求をする6ヵ月以上前から引続き訴外会社の1000株以上を保有する株主である。監査役は所定の提訴期間内に被告らを提訴していない。

3、被告水野廉平は昭和56年4月訴外会社の代表取締役社長に就任し、平成4年6月よりは会長を兼務し、同14年4月に社長を退任し、そのころ取締役も退任している。

被告高階實雄は平成2年6月訴外会社取締役に就任し、同7年4月専務取締役土木営業部門総括担当等、同8年6月取締役副社長、同12年6月代表取締役副社長の任に就いたもので、同7年4月以降現在に至るまで訴外会社の土木営業部門の責任者の地位にある。

被告森平倫生は昭和62年2月に当時の運輸省第2港湾建設局長に就任していた者であるが、平成5年4月に訴外会社に顧問として入社したのち、同5年6月常務取締役営業担当となったのち、同7年4月土木営業部門担当、同10年6月専務取締役に就任、同14年6月取締役を退任したのち土木営業部門担当の専務執行役員の職にある。

被告宇山藤博は、平成10年6月訴外会社取締役に就任し、同14年6月退任し、執行役員に選任され同15年6月退任したが、この間九州支店長としての職にあった。

第2、本件政治献金の支出の違法性

1、自民党長崎県連への訴外会社の政治献金

訴外会社はつぎのとおり、自由民主党の長崎県支部連合会に対し政治献金を行なっている。

 平成5年   900万円

 平成6年   500万円

 平成7年   500万円

 平成8年   600万円

 平成9年   800万円

 平成10年  500万円

 平成11年  500万円

 平成12年  800万円

 平成13年  800万円

計5900万円

2、本件政治献金は限りなく賄賂に近いもので公序良俗に反する

(1)ゼネコンの政治献金

訴外会社を含む大規模ゼネコンは、国並びに自治体の公共事業を常時受注してきており、訴外会社の売上げ並びに利益はこれら公共事業に大きく依存している。

このために、従前よりゼネコンと公共事業受注について「天の声」として大きな影響力を有する国、自治体の政界との癒着から生ずる汚職腐敗事件が多く生じてきた。

記憶に新しいところでは平成4年に発覚した当時の仙台市長、茨木県知事、三和町長らに対する大手・中堅ゼネコンによる贈収賄事件であり、これらの事件では、ゼネコンの社長や副社長を含む経営のトップが深くかかわっていたことが明らかになっている。

これらの刑事事件のなかで被告人となった経営のトップらは、自治体の首長らに提供した金員は賄賂ではなく政治献金であると強弁してきた。

このことからわかることは、公共事業にその営業が大きく依存するゼネコンにおいては、政界との結びつきはその経営首脳陣も含めて、いわば営業行為の一環としてみてきていることである。そして、受注等の見返り、あるいは受注において他社より不利益な扱いを受けないことを期待して政界に提供される金員は、政治献金という形式をとった賄賂であることをも明らかにしている。

公共事業の受注を通じて、国、自治体に対し、大きな利害関係を有するゼネコンにとっては、受注に影響力を行使しうる政治家、政党への金員の提供は、政治献金という形式をとっていたとしても、賄賂あるいは限りなく賄賂に近いものといえる。

(2)本件自民党長崎県連に対する政治献金の賄賂性は明らかである

以上の点を踏まえて自民党長崎県連に対する訴外会社の政治献金について検討してみよう。

長崎県内においては国の諫早湾干拓事業や長崎県による大規模港湾工事等の公共事業が行なわれている。

訴外会社はかねてより国の諫早湾干拓事業潮受堤防建設工事等を訴外鹿島建設株式会社等との共同企業体として受注してきており、その共同受注総額はつぎのとおり昭和63年度から平成13年度分で計227億2247万円余にものぼっている。

昭和63年度 試験区間・基礎地盤改良試験(その1)工事

受注額 6億7362万円

平成1年度 試験区間・基礎地盤改良試験(その2)工事

受注額 3億9346万円

平成2年度 試験区間・基礎地盤改良載荷試験工事

受注額 8億8322万5千円

平成3年度 小江土捨場造成(その8)工事

受注額 8億0134万円

平成4年度 C区間・潮止工区・潮受堤防潮止工区(その1)建設工事

受注額 21億9081万円

平成4年度 小江砂中詰(その3)工事

受注額 7億3748万円

平成4年度 小江背後地排水路蓋設置工事

受注額 345万0500円

平成5年度 C区間・潮止工区・潮受堤防潮止工区(その2)建設工事

受注額 19億4876万円

平成7年度 C区間・潮止工区・潮受堤防潮止工区(その3)建設工事

受注額 41億7665万円

平成7年度 C区間・潮止工区・潮受堤防潮止工区(その4)建設工事

受注額 11億6390万円

平成8年度 C区間・潮止工区・潮受堤防潮止工区(その5)建設工事

受注額 48億1425万円

平成10年度 潮受堤防潮止工附帯工工事航路整備工事

受注額 220万5千円

平成11年度 北部承水路掘削(その1)工事

受注額 15億7500万円

平成11年度 北部承水路掘削(その2)工事

受注額 12億5475万円

平成12年度 北部承水路掘削(その3)工事

受注額 15億2460万円

平成12年度 土留工設置工事

受注額 1億4700万円

平成12年度 汚濁防止膜設置工事

受注額 1億4490万円

平成12年度 小江干拓設備工事

受注額 357万円

平成13年度 北部承水路掘削(その4)工事

受注額 2億8350万円

諫早湾干拓事業の関連工事以外にも訴外会社は県内において国の公共事業並びに長崎県の後述する港湾工事等をはじめ多くの土木建設工事を継続的、かつ多額の請負金額をもって受注してきている。

一方訴外会社が献金を行なっている自民党長崎県連は国、地方公共団体の与党として公共事業につき大きな影響力を行使しうる立場にあることは明らかである。

自民党本部(その政治資金管理団体としての国民政治協会)に対する政治献金であるならば、「自由主義経済の維持のために」「企業の安定的・持続的発展を維持するために」などの「名分」があるかも知れない。しかし、ゼネコンにあっては、公共事業についての国、自治体の政策決定と企業の利益は密接な関係にある。従って「企業の安定的・持続的発展」とは公共事業振興政策の採用につながり、そのための政治献金は常に国、自治体の政策を期待してなされる献金として、賄賂性を帯有しているものである。

更に、自民党の特定の県の支部連合会である長崎県連に対する本件政治献金は、県内で行なわれている公共事業の受注について、長崎県連の影響力行使を期待するか、少なくも他のゼネコン等が競うようにして献金しているなかで、受注について不利益な取扱いをされないようにとの意図から献金をしていることは容易に推認できるものである。

以上、訴外会社による本件政治献金は、公共事業の受注機会の拡大という見返りを期待した賄賂、あるいは限りなく賄賂性を帯びたものであり、公序良俗に反する政治献金である。

3、本件政治献金は公職選挙法199条1項に違反する

(1)公選法199条1項の趣旨、目的と本件政治献金

公職選挙法199条1項は、「衆議院選挙及び参議院選挙に関しては、国と地方公共団体の議員及び長の選挙に関しては、当該地方公共団体と、請負その他特別の利益を伴う契約の当事者である者は、当該選挙に関し寄付をしてはならない。」として、国または地方公共団体と請負、その他特別の利益を伴う契約の当事者の寄付(政治献金)の禁止を罰則をもって定めている。

この定めは、請負関係等にあるゼネコン等の企業が、政党、議員等に寄付をすることがあると、選挙及びその後の政治の面で不明朗な影響を及ぼすおそれがあるので、これを防止する趣旨である。

たしかに、この定めは「当該選挙に関し寄付」をすることを禁圧するものであり、政党等に対する寄付を禁じているものではない。しかし、議会制民主主義下における政党は、最終的には選挙における多数の獲得を目標にして全ての活動を展開している。選挙を離れて政党の活動はあり得ない。

従って、政党に寄付する以上、その政党が選挙において少しでも多くの国民の支持を獲得することを願って寄付しているものである。選挙を離れての寄付は理論上あり得ない。選挙に関しての寄付は選挙に関する事項を動機として寄付(約束も含む)することであり、極めて広い意味とされている。

このことからするなら、国、地方公共団体と継続的かつ巨額の公共事業につき請負契約関係にある訴外会社の政党に対する献金は公職選挙法199条1項に抵触する行為である。

(2)平成13年度の本件政治献金は公職選挙法違反である

長崎県では平成14年1月17日を告示日、同年2月3日を選挙期日として県知事の任期満了に伴う第15回長崎県知事選挙が行なわれている。

訴外会社はその長崎営業所を通じて、前記県知事選挙の選挙活動費用に充てるため、平成13年12月に300万円の献金を自民党長崎県連に対し行なっている。

従って平成13年度の800万円の長崎県連への献金のうち300万円は公職選挙法199条1項に違反する違法な献金であることは明白である。

4、本件政治献金は国民・住民の参政権、株主の政治的信条の自由を侵害し、公序良俗に反するものである

(1)国民・住民の参政権に対する侵害

本件は、社会的に大きな経済力を有する株式会社である訴外会社が、特定の政党である自民党の長崎県連に対しなした政治献金についての訴訟である。

このような大企業の巨額の政治献金は、自然人しか有しない参政権(国政・地方政治についての政治的決定権)を侵害するものであるから公序に違反する。

国民個人の一人一人の総体に主権が存するという国民主権の原理は、人類普遍の原理であるとともに憲法の中核的原理であり、公序の基礎を構成している。

それを実現するために憲法は公務員の選定・罷免の権利・普通選挙の保障(15条)、国会議員の選挙(43条)、地方公共団体の首長、議員の選挙(93条)、最高裁裁判官の国民審査(79条)等の参政権を定めている。

選挙権を中心とする参政権は原則として日本国民たる、自然人たる個人に人類普遍の原理として認められたものであり、自然人でなく、法によって人格を与えられている法人はその主体となりえないことは言うまでもない。

政党への政治献金は、政治上の主義もしくは施策を推進し支持し、もしくはこれに反対し、または公職の候補者を推薦し支持し、もしくはこれに反対することを本来の目的とする団体への献金である(政治資金規正法第3条)。

即ち、当該政党の政治上の主義もしくは施策を推進し支持すること等を目的としてなされる行為であり、国民の参政権の一環としてなされる能動的な政治活動への参加行為の一態様である。政党にとっては国民の選挙等における支持拡大等の政治活動の資金的源泉となり、国家あるいは自治体の意思形成に大きな影響を与えるものとなる。

このような参政権にかかわる政治的行為は自然人たる国民のみがなしうる行為であり、政治活動・選挙活動と同様、国民個々人の政治的信条に基づいてなさるべき行為であり、株式会社等の法人がなすことは国民の参政権に抵触する公序違反となる。

企業に社会の富の多くが集中・集積し、その資産から特定の政党(自民党が殆んどである。)に対し個人の「浄財」には比較にならない程の巨額の政治献金が行なわれることによって、政党の政治活動における経済的較差が圧倒的に生じてしまう。このことは、個々人の政治的信条でなさるべき選挙活動が「企業ぐるみ選挙」と呼称される企業活動の一環としてなされたとき、選挙結果を歪めることと同様に考えられよう。

その結果、個々人の政治的信条に基づいてのみなさるべき政治献金が参政権のない、しかし巨大な経済力を有する企業の政治献金によって大きく歪められているのである。

本件政治献金は自民党の地方組織である長崎県連に対するものであり、その弊害はより明白である。毎年訴外会社からの多額の献金が、しかもそれが訴外会社のみならずゼネコン各社によってこぞって行なわれ、ゼネコン以外の企業からの献金をあわせればその額は更に多額となる。この潤沢な企業からの政治献金をもって同県連の国政並びに地方政治についての政治・選挙活動がなされ、他政党(無所属を含む)のその活動と較べて圧倒的な経済較差が生じている。このことは憲法上、自然人にしか付与されていない国政、地方政治についての決定権を企業が巨額の政治献金をもって大きく歪めているものである。

(2)株主の政治的信条の自由に対する侵害

株主の立場からするなら、株主個々人の考え方に反して、少数の役員の判断によって、会社の財産を特定の主義・政策の政党に献金できるということは、株主の政治的信条の自由にも反する。

特定の政治的信条を信奉する団体である政党や政治団体に政治資金を寄付することは、特定の政治的立場を支持し、これにその財政的基盤である資金的援助を与えるものであり、政治的意思を実現する行為、即ち主権者としての個人である国民・住民にのみ付与された政治的権利の一態様である。

政治の分野では、複数の相異なる信条が存在し、その複数の信条が基本的に対立し合うという関係にある。そしてかかる複数の信条が存在し対立し合うことを肯定し、そのいずれに価値観を認めるかは個々人の自由に委ねるというのが近代民主主義の理念である。

会社の株主の中には、他の政党を支持する者もあれば、政治的無党派の者もいる。株主の個々人の政治的あるいは宗教的信条が異なるのは当然である。

会社の献金を認めることになると、それを支持しない株主の政治的意思が無視される。

このことは株主個々人の政治的自己決定権、政治的信条の自由に対する重大な侵害となる。

5、本件政治献金は会社の権利能力の範囲外の行為である

(1)権利能力を考察する視点

本件政治献金につき、会社の定款の目的の範囲内にあり、権利能力を有するか否かについては、つぎの点についての検討を欠かすことはできない。

即ち、訴外会社は建設土木業による営利を目的とする株式会社である。また本件政治献金は、その行為を客観的・抽象的に判断すれば会社資産の一方的減少である無償の利益の供与であり、会社の営利目的に反する行為である。従って、その行為の客観的・抽象的判断からするならば、権利能力外の行為である。従って、無償の利益の供与はそれを具体的・個別的検討をした結果、会社の目的遂行に必要な行為と認められたときのみ権利能力の範囲内の行為となるものであり、本件政治献金については以下の点の具体的・個別的検討を要する。

即ち、第1は国民並びに株主の少数者しか支持していない特定の政党に対する無償の利益の供与である点である。また第2は、会社がそれをなすことは期待・要請される行為ではなく、株主にとってはその政治的信条に反する行為となる点である。第3は、特定の政党に対する巨大な経済的実在である会社による献金は、金権政治、政治腐敗の温床となる点である。以下これらの点につき述べる。

(2)客観的・抽象的にみれば、本件政治献金は権利能力外の行為である

定款の目的の範囲内であるか否かの判断は、「定款の記載の目的に現実に必要であるかどうかの基準によるべきではなくして、定款の記載自体から観察して客観的に抽象的に必要であり得べきかどうかの基準に従って決すべきもの」(昭和27年2月15日最判、民集6巻2号779頁)とされている。

政治献金はそれを客観的・抽象的にみれば特定政党の政治資金団体に対する無償の利益の供与であり、会社資産の対価のない減少となる行為であることは明白である。

定款に記載されている訴外会社の目的から観察して、客観的・抽象的に必要とはいえない行為であり、目的の範囲外である。

確かに無償の利益の供与であっても、その対価を期待してなされるものもある。例えば取引先あるいは取引先となることが期待される相手への中元・歳暮や接待、取引先に対する債務保証や物上保証をなす行為などである。これらの行為はその取引上の対価を期待してなされる利益供与である。

これに対し、本件政治献金に公共事業受注について有利な取扱いを受けるよう、あるいは不利益な取扱いをされないようにとの見返りを期待して献金していたとするなら、それは賄賂性を有することになることは既述したとおりである。政治献金に対価性を求めれば公序に反し、対価性のない無償の利益の供与であれば、その行為は客観的・抽象的にみれば会社の目的の範囲外の行為となる。

無償利益の供与という行為の客観的・抽象的な検討という点からすれば、政治献金は勿論、対価性を求めない慈善、学術、文化、災害救助事業等への贈与は会社の目的の範囲外の行為となってしまう。

(3)個別的・具体的な本件政治献金の検討

ア 個別的・具体的検討の必要性

しかし、社会的・経済的に巨大な実在となった会社においては、株主の利益の極大化は会社存続維持の重要な必要条件ではあるものの十分条件ではなく、社会から期待・要請される一般的利益をも尊重して事業を行なうことなしには円滑かつ継続的・安定的な事業を継続することが困難となりうることも事実である。

従って、客観的・抽象的な考察によっては会社の目的の範囲外となる行為であったとしても、更に目的遂行のため必要なのか否かの個別的・具体的な判断を行なったうえで権利能力の範囲内の行為かどうかを決する必要がある。

イ 社会貢献活動は権利能力の範囲である

この点からするならば、多くの会社がディスクロージャー誌において広報している社会福祉、学術研究、教育、芸術・文化等の社会貢献活動は、多数の株主を擁する巨大な経済的・社会的実態である会社にとって社会からの期待・要請に応えて、応分の寄与をすることは会社の経営状況如何によっては許されるものである。しかし、それが会社の取締役の個人的関心や信念に基づいてではなく(そのような場合は善管注意義務違背の問題が生じよう)、株主全体の合理的意思に基づいてなされなくてはならないことも言うまでもない。また会社のイメージアップの利益をもたらすものでもある。それが故に、会社はディスクロージャー誌やマスコミ、あるいは行事に企業名を「冠」して積極的に社会に広報しているのである。

同時にこれらの寄付は株主全体の合理的意思にも沿うものであり、株主の意思に反した資産の逸失にもならない。

ウ 本件政治献金は社会的に期待・要請されている行為ではない

これに対し、本件政治献金は自民党の地方組織である長崎県連に対する寄付である。

政治献金については、かねてよりそれが経済的・社会的に巨大な実在である企業からなされる、一人一人の国民では到底、出捐することのできない巨額なものであり、金権・腐敗政治の温床となることが指摘され、それを禁圧することを求める社会的世論の下に法的にも制限されてきた。国政レベルより地方政治レベルの方が、また一般企業よりゼネコンの方が、公共事業の受注を通じて、より金権・腐敗政治と結びつきやすいことからして、その弊害はより重大である。

慈善、学術、文化、災害救援等の事業への寄付が巨大な経済的・社会的実在である企業に対し社会が期待・要請する公益性を有する行為であったのに対し、政治献金は、巨大な経済的・社会的実在として私的能力をもつ企業が、政治に経済的に関与することを社会は期待・要請をしない行為であることは明白である。

とりわけ本件政治献金は特定の政党(自民党の長崎県連)に対する献金であり、その主義・主張を支持し、その政治活動・選挙活動を支援するためになされたものである。政党政治を発展させるという一般的・公益的価値を有するものではないことは明らかである。本件政治献金を期待・要請しているのは、社会一般ではなく、献金を受ける特定政党と、それにより何らかの見返りを期待する企業にすぎない。

政治献金を社会が期待・要請しないことは、献金している企業そのものが最も悉知している。即ち、会社も含めて、企業は政治献金をしている事実を先に述べた社会貢献活動とは反対に隠すことに努めている。ディスクロージャー誌には一切記載がなく、株主総会でも報告もされず、株主に知らされることもない。社会の大多数の者は、特定政党に対する献金を期待・要請しておらず、有用な行為とはみていないことを悉知しているからこそ、社会貢献活動とは全く逆にその事実の公開を避けているのである。

エ 本件政治献金による国民の参政権侵害

以上、政治献金は、社会は期待・要請している行為ではなく、企業自らもそのようなものとは認識していないことは明らかな行為である。

それのみならず、既述したとおり、大きな経済力を有する企業が個人では到底出捐しえない献金をすることによって献金を受けた特定政党(自民党)の経済的基盤を強固にさせ、選挙運動をその経済力をもって有利に展開し、特定政党の得票率を国民の総意以上に上昇させる結果をもたらすものであることは、政治の世界における公知とも言うべき経験的事実である。

一方、巨額の献金を受けた政党に、当該企業あるいは当該業界にとって有利な政策誘導や受注契約上の便益を付与する機能を有することも否定できない。少なくも、当該企業あるいは当該業界の業務に支障が生ずるような政策決定や受注契約上の不利益を未然に予防させるという機能を有し、またそれを期待してなされていることは明らかと言える。

国民・住民の参政権を阻害し、企業にとって有利な政策誘導や受注契約上の便益の呼び水となるおそれという点からも、社会的に期待・要請されるものではなく、有用な役割を果たすものでもない。

オ 小括

よって、本件政治献金は権利能力外の行為である。

6、本件政治献金の支出は取締役の善管注意義務に反する

(1)政治献金支出についての取締役の裁量の範囲は一般の経営判断事項と異なり、狭い。訴外会社の取締役である(あった)被告らは会社の経営を委ねられた者として、会社の目的にとってもっとも利益となるよう、その職務を遂行すべき善管注意義務を有するものである。一方、取締役がが経営の専門家として善管注意義務をもって経営をなすについては、的確かつ迅速に時々の経営判断を積み重ねていかなければならず、一定の裁量が与えられているものである。

   本件政治献金の支出についての善管注意義務を判断するにあたっては、無償の利益の供与であり、かつその見返りが期待できない性質の供与であることを重視しなければならない。

   即ち、無償の利益の供与である政治献金は営利を目的とする会社にとって、一般的・抽象的にみれば、その目的に反する支出である。その判断には営利を得るための他の事業上の経営判断事項と異なり、より慎重な善管注意義務が求められるものである。また、取締役には経営の専門家として一定の裁量が与えられているものであるが、無償の利益の供与の支出の可否については、その専門性との関係は希薄であり、その裁量の幅もせまいものである。

(2)本件政治献金の支出は善管注意義務に違反する

   本件政治献金の支出については訴外会社の経営の規模・収益・資産状況についての検討以前に、既に述べてきた本件政治献金が賄賂的性格を有し、公選法199条1項に抵触し、国民・住民の参政権や株主の政治的信条の自由を侵害し、更には会社の権利能力の範囲外となることについての慎重な判断が求められるものである。

仮にこれらに該当しないものであったとしても、該当するおそれがあり、かつ献金をすることにより訴外会社の経営に見返りが期待できない(見返りを期待することは賄賂性につながる)ものである以上、その支出をしないことが取締役の善管注意義務として求められたものである。

第3、独占禁止法違反の談合行為による課徴金の納付

訴外会社は他のゼネコン業者らとともに、独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し同法第3条の規定に違反するつぎの談合行為をなしたものである。

1、県北振興局等発注の工事関係

(1)訴外会社ほか22社(以下「23社」という。)は、遅くとも平成10年4月1日以降、県北振興局等発注の特定海上土木工事について、受注価格の低落防止等を図るため、

ア 県北振興局等から指名競争入札の参加者として指名を受けた場合には、次の方法により、受注予定者を決定する。

() 発注される工事が施工される港湾又は漁港において海上土木工事の施工実績を有する者が当該工事の受注を希望するときは、その者を受注予定者とする

() 前記()以外について、受注希望者が1名のときはその者を受注予定者とし、受注希望者が複数のときは、当該工事が施工される港湾若しくは漁港における過去の施工実績又は当該工事が施工される港湾若しくは漁港と受注希望者の有する施設との距離等の事情を勘案し、受注希望者の間の話合いにより受注予定者を決定する

イ 受注すべき価格は、受注予定者が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する

旨の合意の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるように談合していた。

(2)23社は、前記談合行為により、県北振興局等発注の特定海上土木工事のほとんどすべてを受注していた。

(3)23社は、本件談合行為について、公正取引委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始した後の平成13年11月22日、23社が正会員として加入している社団法人長崎県港湾漁港建設業協会が、臨時総会において、今後会員は独占禁止法を遵守する旨の決議を行なったことを受けて、同日以降、前記1(1)の合意に基づき受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにする談合行為を取りやめている。

2、対馬支庁発注の工事関係

(1)ア 訴外会社ほか4社(以下「5社」という。)は、平成7年9月中旬ころ、長崎市所在の訴外会社長崎営業所会議室で開催した各社の営業所長級の者による会合において、対馬支庁発注の美津島漁港広域防波堤本体築造工事について、全国業者の中では5社のみが当該工事にかかる指名競争入札に参加者として指名されること、その施工困難性等から地元業者が受注を希望しないこと及び各年度に数件の工事が継続して発注されることを予測した上で、対馬支庁から指名競争入札の参加者として指名を受けた場合には、5社の中から受注予定者を定めることとし、

()a 各年度に発注される工事のうちいずれか1件の工事については訴外会社を

b 訴外会社を受注予定者とする工事を除く工事について、訴外東亜建設工業株式会社、同東洋建設株式会社、同若築建設株式会社、同佐伯建設工業株式会社の順に

() スリットケーソンの据付工事が当該スリットケーソンの製作工事とは別の工事として発注された場合には、当該スリットケーソンの製作工事を受注した者を

それぞれ、当該工事の受注予定者とし、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるように協力することに合意した。

イ 5社は、前記2(1)アの合意に基づき、発注される工事ごとの受注予定者を決定し、当該工事の受注予定者が受注すべき価格を定め、当該工事にかかる指名競争入札の参加者として指名された地元業者の協力を得て、受注予定者が受注できるよう談合していた。

(2)5社は、前記2(1)により、対馬支庁発注の美津島漁港広域防波堤本体築造工事のほとんどを受注していた。

(3)5社は、本件について、当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始した後の平成13年11月22日、5社が正会員として加入している社団法人長崎県港湾漁港建設業協会が、臨時総会において、今後会員は独占禁止法を遵守する旨の決議を行なったことを受けて、同日以降、前記2(1)の合意に基づき受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにする談合行為を取りやめている。

訴外会社に対し公正取引委員会は、前記独占禁止法第3条違反の行為のうち1については8880万円、2については7426万円の計1億6342万円の課徴金の納付命令が平成15年2月19日下され、訴外会社はこの課徴金を納付したものである。

これにより訴外会社には納付した課徴金相当額の損害が生じている。

第4、被告らの責任に関して

既述したとおり、ゼネコンは国、地方公共団体の公共工事の利害関係が密接であり、政界との利害関係に基づく癒着関係から生ずる贈賄事件あるいは政治資金規正法、公職選挙法に違反する違法献金事件が生じてきた。

また、国、地方公共団体の公共工事の指名競争入札をめぐって独占禁止法に違反する談合行為が日常的に行なわれていることは公知の事実と言っても過言ではなかろう。

被告らは、本件政治献金の支出、並びに独禁法違反の行為がなされるにつき、取締役会において、あるいは取締役としての職務執行をなすに際し、その支出がなされることを認識し同意したものであり、その責任を負うものである。また仮に、被告らに置いて本件政治献金の支出、並びに独禁法違反の行為を知らなかったとしても、被告らは取締役としての社員の行為について、それが適法になされるよう監視すべき善管注意義務を有するものであり、この監視義務懈怠についての責任を負う。同時に被告らは政治献金の支出、並びに独禁法違反の行為についての内部統制システム構築義務を懈怠した責任を負う。即ち、政治献金についてはそれが政党の本部に対するものであったとしても支部に対するものであったとしても、政治献金についての法令遵守の要請の重要性にかんがみ、それを逐一担当取締役を通じて、取締役会あるいはそれに代替する内部審査機関を構成し、その承認と社長の決裁をもって支出する制度を構築すべき注意義務を有していたものである。

本件政治献金の支出は被告らが承認、決裁してなされたものであるが、仮に被告らが本件政治献金の支出を知らなかったとしても、前記内部統制システム構築義務を懈怠した結果であり、その責任を免脱されるものではない。

また、独占禁止法に違反する行為は、重い課徴金を課せられるとともに、指名停止等の営業上の重大な損害を招くものである。

従って被告らは、訴外会社の公共工事の受注にあたっては、そのような行為がなされていないか、営業担当者から所轄する取締役に報告させたうえ、更に取締役会に報告するとともに、社内に談合行為等の違法な行為を監視点検するための実効ある内部統制システムを少なくも支店単位で構築すべき注意義務を有していたものである。

本件政治献金の支出行為並びに独禁法違反の行為は、被告らがこれら行為を知り、それを承認、決裁してなされたものである。仮にそうでないとしても被告ら取締役が善管注意義務に違反して前記の各内部統制システムの構築義務を懈怠したため、これを未然に防止することができなかったものであり、それぞれの取締役として就任していた時期に対応してその損害額につき責任を負うものである。

被告水野廉平、同高階實雄、同森平倫生は本件政治献金の支出並びに独禁法違反の行為がなされた期間中取締役の職にあったもので、その全額につき責任を負う。

被告宇山藤博は取締役に就任した平成10年6月以降の各行為につきその責任を負うもので、本件政治献金については平成10年度以降の額(計2600万円)、課徴金については一部就任以前の行為についての額も含まれるが、それが明らかになるまで全額を請求する。

第5、結論

よって原告は被告らに対して、商法267条に基づく株主代表訴訟として、同法266条1項5号による損害賠償金及び本訴状到達日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を訴外会社に支払うことを求めて本訴に及ぶものである。


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