平成15年(ネ)第63号 熊谷組株主代表訴訟控訴事件

第一審原告 

第一審被告  熊谷太一郎 外2名

 

準 備 書 面 (1)

本件政治献金の実

    

2003(平成15)年9月30日

名古屋高等裁判所金沢支部

    民事第1部A係  御              

 

               第一審原告訴訟代理人

                 弁護士(代表) 松   丸     正

                                                                     

 

第1 熊谷組の政治献金の実態

  1 松本良夫社長の陳述書(乙22号証)によると、熊谷組の政治献金は次のとおりである

   (1) 本件献金は日建連加盟企業で統一的にする献金である。

      本件献金のうち、700万円を超える金額は国民政治協会から日建連を通じて各員各社に寄附の要請があったもの』であり、『売上高や総合力に応じて数グループに分け、そのグループごとに分担する』(乙22号証)献金であり、熊谷組が固有にする献金ではなく日建連加盟企業が統一的にする献金である。

   (2)@ 日建連加盟企業が統一的に自民党に献金する理由は、自民党が政権政党であり、建設業界の要求に最も熱心であり実績があるからである。

   『本件の各寄附を行った当時は、長期的な不況・景気低迷からいち早く脱して経済を再び活性化させて企業の経営環境を改善して欲しいというのが、熊谷組の属する建設業界のみならず経済界一般が政府に対して抱いていた最大の要望』『そのためには、政権政党であり、戦後のほとんどの時期においてわが国の経済運営を担ってきた自由民主党こそ適切な経済政策の立案と実行の実績と能力があり、同党を応援することが日本の経済不況からの脱出につながり、同時に熊谷組のためにもなる。』『公共サーピスの充実等の社会インフラの建設・整備は、わが国の経済を牽引する新しい産業が未だ現れないなかでは、依然として経済不況対策として有効な政策と一般に考えられており、建設産業はその中で大きな役割を果たしていたわけですが、これに関する政策の研究と実現に最も熱心であったのは、自由民主党であった。』

      A 自民党は実際に議員立法で要求に応えてくれており、政治献金は効果を発揮している。

     『英国で最初に発展したPFI(private finance initiative)というものがあり、日建連ではかねてこの事業手法のわが国への導入を検討しておりましたが、自由民主党が中心となって、議員立法として「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(平成11年法律第117号)(いわゆる「PFI法」)という法律が立法されました。この例に限らず、都市の再生や再開発など、国民がより豊かな生活をおくるためであると同時に、建設業界の経営環境の改善をもたらす経済運営を担うのに最もふさわしい実績と能力を備えているのは、自由民主党である。』

   (3) @ 献金をすることを業界で決定し分担しているので、業界での評価(業界内における地位と信用)を維持し、業界でのポストの獲得ができ、また情報も入手できる。

    『本件各寄附を行うことは、日建連をはじめとした業界内において大手5社と同格であるとの評価を受ける一助となるものである。』『かかる評価によって、熊谷組が業界内の最新の情報を獲得できて会社の競争力が高まるのみならず、業界内外における会社の信用の増大によって、JV工事の受注、なかでもJVスポンサーヘ就任する機会が増えるとともに、JV以外の民間工事の受注にも役立つと考え、業界内で大手5社と同格との評価を受ける必要があると考えた。』『そのためには、熊谷組が単独で営利を追求するだけでは足りず、大手5社と同レペルの業界におげる様々な責任や負担をこなす必要があり、本件各寄附の要請に応じることも、かかる責任や負担の一環であると考えた。』

      A 業界で献金を決定しているにもかかわらず、熊谷組だけがその負担を拒否すると次のごとき不利益を受ける。

 『熊谷組が国民政治協会からの寄附の要請を断った場合、その情報は日建連加盟会社全社に直ちに伝わり・熊谷組の信用に関するネガティブ情報として業界内で利用され・激しい受注競争の中できわめて不利に働く恐れが大きかった。』『かかるネガティプ情報が流れれば、代金回収の不安から資材メーカーからの資材の購入条件が厳しくされる恐れや、市場の信用を失って株価が下落する恐れもあり』『熊谷組もこれらの会社と比較して論じられることもあって、対外的信用を維持することは熊谷組にとって極めて重要な課題でした。このように、私は業界内や市場において、年間数千億円から1兆円近い売上高と約200億円の営業利益を挙げている熊谷組が、年間約2000万円の寄附の要請にも応じられないほどに体力が低下している、とのレッテルが貼られることによって会社が蒙る不利益は寄附金額を優に超えるものであり、寄附を行わないことのメリットよりデメリットのほうがはるかに大きいと考えた。』

 2 以上を見ると、熊谷組の行ってきた政治献金は次のとおり整理できる

   (1) 献金は、熊谷組の固有の利益というより日建連という業界(ゼネコン業界)の要求実現のために行っている。700万円以上の献金を業界で統一的に行っていたと陳述しているので、次の金員はこれに該当する。

         1996(平成8)年 5月29日 11,760,000円

                              5月30日    7,056,000円

         1997(平成9)年 2月13日  11,670,000円

                              9月14日    7,002,000円

         1998(平成10)年 3月30日  18,672,000円

         1999(平成11)年 9月13日  16,277,000円

2000(平成12)年 4月20日  12,090,000円

        他方、熊谷組の固有献金と思われるものは、次の700万円未満の政治献   金である。

         1996(平成8)年 1月22日    275,000円

                              3月14日    1,000,000円

                               5月10日        600,000円

                               9月13日    5,000,000円

         1997(平成9)年 2月10日   3,000,000円

         1998(平成10)年 3月19日   2,000,000円

         1999(平成11)年 4月 8日      24,000円

                              12月29日          24,000円

2000(平成12)年 4月27日     200,000円

      となる。

   この献金については一審被告は何の理由も説明していない。

   (2) 献金は資本主義を守るとか市場主義を守るという抽象的な理由ではなく、熊谷組の属する建設業界にとって「公共サービスの充実等の社会インフラの建設、整備」は「経済不況対策として有効な政策」であるので、「その実現に最も熱心であったのは自民党であった」ため、自民党に献金をした。すなわち、業界にとって自民党へ「対価性」を求めて献金をなしたということが特徴である。

   (3) ゼネコン大手業界が決めたことに従うことは業界の中で熊谷組の信用が拡大し、ひいては受注機会の増大等の利益にもなり、逆に献金しなければ、ゼネコン大手業界の中で「ネガティブ情報が流され市場の信用を失い、株価が下落する」ものであった。いわば、業界の中で定めた「掟」に従わないと受注、JVが組めず、献金をすれば信用が拡大するというものであった。

 3(まとめ

      第1に、本件献金は日建連加盟企業が統一して献金をしていることにより、その献金額が巨額になること。

   第2に、建設業界の要求に政権党である自民党が最も熱心であったので、「対価」を求めて、政権党である自民党に献金をした、と言う点に熊谷組の献金の「特質」があった。

 

第2 ゼネコン業界の献金の巨額性とその弊害

 1 日建連加盟企業が統一的に1995年(平成7年)から2000年(平成12年)までの間に国民政治協会を通じて自民党に献金した金額は、ほぼ以下のとおりとなり、その合計は以下のとおりである(甲16号証)。

1995年(平成7年)  418,653,000円

1996年(平成8年)   634,245,000円

1997年(平成9年)    570,820,000円

1998年(平成10年)    581,266,000円

1999年(平成11年)    486,438,000円

       2000年(平成12年)    427,240,000円

          合  計          3,118,662,000円

  (1) 建設業界の自民党への献金は、上記大手ゼネコンだけでなく、中堅ゼネコンを含めた建設業者が国民政治協会に献金している。2000年中に建設業者が同会に献金した金額は、原告側の調査では9億2373万4000円である。

    国民政治協会の企業・団体献金の総額が35億8516万700円であるので、建設業協会が献金した金額は全体の約25.77%であるが、この献金額は、野党第1党である民主党が企業、団体から集めた金額が合計8751万円であるから、その10倍を超える巨額な金額をゼネコン業界で献金していることや、また、民主党の1年間の経常経費(人件費、光熱水費、備品、消耗品費、事務所費)が9億1234万6708円であることと比較すると、その大きさがわかる。いわば民主党を丸ごと養うことができる巨額な金額である。

   (2) ゼネコン業界は国民政治協会を通じて自民党に献金するだけでなく、政党の支部を通じても自民党に巨額に献金している。ちなみに、熊谷組らが献金している自民党長崎県連には次のとおりである(甲11号証)。

        平成9年分 

     企業・団体97社中、建設業者は66社

          献金額123,000,000円のうち、106,200,000円

        平成10年分 

     企業・団体96社中、建設業者は93社

          献金額161,100,000円のうち、157,800,000円

        平成11年分 

     企業・団体47社中、建設業者は42社

          献金額73,500,000円のうち、68,400,000円

        平成12年分 

     企業・団体54社中、建設業者は51社

          献金額101,500,000円のうち、99,100,000円

   (3) 以上のとおり、建設業界の献金が自民党を実質上「金」の面から支配していることになり、また、自民党は金の面からこの建設業界に依存している。

 3 業界団体が統一的に巨額の献金をすることが認められると、政党の政策や政治が歪められる。特にその献金が政権党に集中すると政府の政策が買収される

   (1) サラ金業界

      @  2000年6月、出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)の制限利率が年40.004%から年29.2%に引き下げられた。但し、附則8条で3年後に「見直し」条項が入った。これに危機感を抱いたサラ金業界は、2000年(平成12年)11月、全国貸金業政治連盟を結成した。この政治団体は、3年後の2003年6月の見直しで、制限利率を年34.675%に引き上げるために、政党、国会議員に対する献金に動き始めた。

     2002年、同団体が自民党の財務金融部会の国会議員にパーティー券952万円相当の「政治献金」をしていることが問題となった。

     A しかし、この政治団体は業界の個人の献金で成り立っている団体であり、企業献金をすることを認めていなかった。サラ金業界の経営利益等はゼネコン業界の比ではない。ちなみに、武富士1社の連結ペースで、平成14年3月期は2316億円、平成15年3月期で1832億円余りである。

 もし、業界の要求を実現するために献金することが認められるのならば、これらの貸金業協会は、自民党や民主党へ日建連加盟企業以上の金額の献金が容易であろう。そうなれば出資法の制限利率等は永遠に据え置かれることになる。むしろ逆に引き上げすら可能となろう。

 このように、1審被告らの主張が認められるとすれば、自民党がサラ金業界の経営問題に最も熱心に取り組み研究している団体であるという「名目」の献金が許されることとなり、政治を、法律を、政策を、金で買収することが可能となる。

   (2) 同じように、パチンコ業界等の風俗業界が風俗営業法等の規正の緩和等を求め、業界単位で数億円の献金をすることも容易である。同じく、防衛産業業界が防衛予算の増額を求め、また某業界が某事項の改正等の要求を掲げ、自民党や民主党に献金をすることも可能となる。

   (3) 今、一審被告の主張のように、建設業界が統一的に要求実現のために自民党への巨額献金が肯定されると、日本の政党は金によって「業界」に支配されるであろう。ましてそれが政権政党に集中すると、政府の政策はその献金額の巨額さ故に金によって買収される危険性が存在する。

 4(まとめ

   以上のとおり、ゼネコン業界をあげて特定の政党に巨額の献金をすると、その政党はその業界の金に依存し、その結果、その業界の要求に対して積極的に応じるようになり、そのためにまた業界は献金を繰り返す。

   とりわけ、業界をあげての献金は巨額であるが故に、その影響力で、個々の国民の「言論」によって政党が政策を実現するという民主主義の根本原則が崩れてしまうこととなる。

   一審判決が、

『これに比し,会社が政党に対して政治資金を寄附することは,会社が有する経済力が個々の国民を圧倒的に凌駕するのみでなく,同一産業界の会社が産業団体を結成して政治資金を寄附するときは,その影響力は個々の会社をもはるかに超えると考えられるから,それが政党に及ぼす影響力は個々の国民による政治資金の寄附に比してはるかに甚大である。政党の政策が会社あるいは産業団体からの政治資金の寄附によって左右されるとすれば,政党の政治上の主義,施策を選挙において訴え,選挙における国民の選択によってその活動に信任を得るという選挙制度の意義を否定し,その根幹をも揺るがすことになりかねず,政党政治そのものへの批判にも結びつくこととなる。従って,会社あるいは産業団体による政治資金の寄附の規模如何によっては,国民の有する選挙権ないし参政権を実質的に侵害するおそれがあることは否定できない。のみならず,会社あるいは産業団体の政治資金の寄附が特定の政党ないし政治団体にのみ集中するときは,当該政党のみが資金力を増大させて政治活動を強化することができ,ひいては国の政策にも決定的な影響力を及ぼすこととなって、過去に幾度となく繰り返された政界と産業界との不正常な癒着を招く温床ともなりかねない。そのため,会社あるいは産業団体による政治資金の寄附は謙抑的でなければならず,それは実質的に国民の選挙権ないし参政権を侵害することのない限度に止まるべきである。』

としているのは正しい指摘であり、業界が統一的に献金することはその巨額さ故に禁止されるべきものである。

 5 業界で統一した巨額の献金は、政治資金規正法21条の3(寄附の総額の制限)ならびに同22条の2(受領違反)の趣旨にも違反する

      同法は、会社の行う寄附について資本金別に寄附の総額を制限している。750万円から最高1億円までである。この寄附制限は1社あたりの寄附総額を規制し、その違反は1年以下の禁固または50万円以下の罰金となり、刑罰をもって禁止されている(法26条)。この条文は昭和50年改正よって実現された。従前は、会社、団体の総額規制はなかったが、この条文が設けられたのは昭和51年であり、企業、団体の巨額の献金が政党、政治家を腐敗、汚染した結果である。

   この条文が新設された立法上の根拠は、一企業が1億円を超える献金を政党等に行うと、それだけでその政党の活動への支配力は絶大となる。そのために、その政党への影響の甚大さを少なくするために制限したものである。金額の大きさに着目して、1億円以上の献金を政党等にしてはならないとしたのである。

   政治資金規正法の条文上、1億円以上の献金が禁止されているのは一企業単位であるが、仮に業界が意思統一をなしてその加盟企業が特定の政党に献金するとなると、個別企業単位で見れば同法違反とはならないものの、業界単位で献金すれば1億円以上が自由に許されることとなり、同法の1億円以上を禁止した立法趣旨が没却されることになる。

   その点から見ても、業界で統一した1億円以上の献金を目的として個々の企業が献金することは、法令に直接違反しなくともその立法の趣旨に違反するのであるから、そのような政治献金は一切許されない。

 

第3 政治献金の対価性と無償性

  1 政治献金に対価性を求めると賄賂となるのが判例である

   (1)  賄賂罪の本質

    賄賂罪の本質を、職務行為の公正性、これに対する社会の一般的信頼に求めると、賄賂罪の保護法益も端的に公務員の職務行為の公正性とそれに対する社会の一般的信頼性ということになる(同372頁以下)。従って、公務員が不正行為を行った場合はもちろん適法な行為を行った場合も賄賂と認定される。公務員の不可買収性が賄賂罪の本質であるからである。

    最高裁大法廷判決で、「すべて公務員は全体の奉仕者であって一部の奉仕者でないことは憲法152項の規定するところであり、公務員の職務とせられる公務の執行は、一部の利益のためにではなく全体の利益のためになさるべきものである。従って、公務の威信と公正を保持すべき必要のあることは多言を要せず、いやしくも公務の執行に対し国民の信頼を失うがごときことがあってはならない。それ故、若し公務員の職務に関して、金銭その他の利益による賄賂を伴うようなことがあれば、その職務の威信と公正は害せられ、職務の執行に対する信頼の失われるに至ることは明瞭である」(最〔大〕判昭34.12.913123186)と判示され、確立された判例となっている。

        このように、自民党の国会議員が一部の業界(ゼネコン)の利益のために適法な行為(予算案の議決や議員立法の提案)を行っても賄賂となる。

  (2) 大コンメンタール刑法(第7巻)(河上和雄外2名編集)は、政治献金と賄賂について次のとおり述べている(同388頁)。

     @  政治資金の寄付は、政治活動が特定の者の経済的利害と結び付きやすく、疑惑をもたらすことが少なくない。

   A しかし、政治家の多数は議員として公務に従事しあるいはこれを目指して政治活動を行っているものであり、政治資金の寄付の形態をとっている財産的利益の提供であってもこれが議員としての特定の職務行為の対価としての性格を持つことは十分あり得ることであって、このように実際に行われた政治献金が政治家の公務員としてのある具体的な職務行為と対価性を有する限り、政治献金であるからといってその賄賂としての性格が失われるものではない。

     B 政治家たる公務員の公務員としての特定の具体的な職務行為との関連で提供者にとって有利な行為をすることを期待して行われるものであるので、職務行為に対する不法な報酬としての性格が認められるからである。

     C いずれも供与された金員が公務員の職務行為と対価性を有するかどうかの判断を行った上で結論を示しており、政治活動の資金の名目で提供されたものであっても、公務員の職務行為と具体的に対価関係が認められるかどうかを賄賂性を認めるかどうかの判断基準としているといえる(東京高判昭311117判時1674頁、東京高判昭341226判時21346頁、東京地判昭41225判時45910)

     D 政治献金と賄賂との関係が以上のようなものである以上、供与された金員について政治資金規正法所定の手続が採られているかどうかは賄賂性の有無を左右するものではなく、職務との対価性が認められれば同手続が採られていても賄賂に当たるし、職務との対価性が認められない場合は仮に同法違反の献金であっても、賄賂には該当しないこととなる(以上388頁)。

     E 職務行為に対する対価と職務以外の行為に対する対価との双方が含まれていても、ある利益が不可分的に提供された場合には全体が包括して賄賂に当たるとするのが判例である(以上376頁)。

   (3) 企業、団体、個人が自らの目的を実現するために議員に対して種々働きかけることは別に構わないが、その対価として金品を贈ることは許されない。政治献金をどのように定義しようとも、それが職務の対価として贈られる限り、それは賄賂にあたると解すべきである。何故ならば、政治資金規正法は、政治家の職務と対価関係にある政治献金に免罪符を与えるものでもなければ、それは賄賂性を洗浄する合理的根拠もないからである(「日本の経済と犯罪」神山敏雄著・日本評論社240頁)。

 2 ゼネコン業界は自らの要求を実現するために政権党である自民党へ統一的な献金をしており、「対価性」を求めている

   日建連が補正予算をはじめ財政出動、公共事業の促進等の要求を自民党になし、政権党である自民党がこれを実現してきた。

   (1) 1審被告は、控訴理由で「社会インフラの整備等について自民党は一番熱心な政党であった」ので献金したと主張している。しかし、日建連の自民党への要求を見ると、そのような一般的要求ではなくもっと大手ゼネコンへの露骨で具体的な要求をしている。平成10年に自民党等に要求した内容は、乙18号証によると次のとおりである。

      @『総合経済対策に関する要望』

      提 出 : 平成104

      要望先 : 建設省 大蔵省 自民党

      骨 子 : 1.財政出動

           2.公共事業

           3.税制

           4.不良債権処理

           5.都市再開発

   A『要望書』

      提 出 : 平成108

      要望先 : 建設省

      骨 子 : 1.予算関連 

           2.税制関連

           3.土地の流動化および都市再開発の促進

   B『平成11年度税制改正に関する要望』

      提 出 : 平成109

      要望先 : 建設省 大蔵省 自治省 自民党等

      骨 子 : 1.請負契約書に係る印紙税の廃止

           2.経営改善のための税制

           3.土地、住宅税制

           4.PFI推進等税制の創設

   C『緊急経済対策に関する要望』

      提 出 : 平成1010

      要望先 : 自民党等

      骨 子 : 1.予算関連

           2.税制関連

           3.公共事業の促進

           4.地方公共団体及び関連事業者への配慮

   D『工事代金支払いの円滑化に関する要望』

      提 出 : 平成1011

      要望先 : 建設省 農林水産省 運輸省 自治省等

      骨 子 : 1.前払金制度

           2.中間前払金制度

           3.部分払制度

   E『経営事項審査「経営状況分析」の見直しに関する要望』

      提 出 : 平成111

      要望先 : 建設省

      骨 子 : 1.経審の企業評価

           2.経審の中長期的な見直し

  (2) 上記Cの『緊急経済対策に関する要望』は、甲18号証3頁から6頁の要求であると思われるが、これを見ると大手ゼネコンの要求は露骨である。

      @ 大規模な財政出動が欠かせず、10兆円を大幅に上回る真水を確保する。

      A 早急に第3次補正予算を編成する。

   B 平成11年度当初予算における公共事業費は10年度補正後予算を上回る額を確保する。

      C 土地の流動化を促進するため、不動産取得税、登録免許税、印紙税等、土地の流通に係る諸税を一定期間凍結する。

      D 補正予算等で推進する公共事業については、

        イ.都市計画道路の整備促進(環状2号線等)

        ロ.東京3環状道路の整備(圏央道、外環道、中央環状道)

        ハ.東海環状自動車道の整備

        ニ.常磐新線の整備促進

        ホ.第2東名神と高規格幹線道路網の整備、高速道路の4車線化

        ヘ.整備新幹線3線4区間の早期完成、新規着工3区間の整備促進

        ト.国際港湾の大水深化及びコンテナターミナルの整備

        チ.国際ハブ空港等の整備(関西国際空港2期、中部国際空港、東京国際空港)

        リ.廃棄物海域処分場計画の推進(東京港新海面処分場、大阪湾フェニックス計画等)

        ヌ.国公立大学の移転・施設の充実(例・臨海副都心等への移転)

   (3) 1999年10月20日の「当面の経済運営等に関する要望」も露骨である(甲18号証1頁〜2頁)。

      @ 10兆円を大きく上回る第2次補正予算の早期編成

  景気回復の正念場にある現在、切れ目のない財政出動が必要であり、公共投資を中心に事業10兆円を大きく上回る第2次補正予算を早期に編成し、成立させられたい。その際、民需への波及効果の大きい高速道路、新幹線、空港等の物流・交通システムや安全性の高い都市生活のための基盤整備等に重点配分されたい。

      A 景気浮揚を最重視した平成12年度予算の編成

  冷え切っている経営マインドを温めて民需の回復を促すには、先行きに明るい見通しを与えることが必要であり、平成12年度予算の編成にあたっては、引き続き景気浮揚を最重視して11年度以上の事業費を確保されたい。

  (4) 自民党は建設業界の要求を受け入れ、補正予算等を大幅に取り入れた。

   @ 「ゼネコン国家」あるいは「土建国家」という言葉があるように、日本の財政に占める公共事業関係費の比率は他の国々に比べて際だって高い。日本の一人あたり土木工事(civil engineering works)の実質支出は、1996年現在で、アメリカ合衆国の2・4倍、EU平均の2・7倍に達している(OECD,19995頁、154-155頁)。OECDの統計から、サミット主要5カ国を比較すれば、政府部門のなかに公共事業が占める比率は日本がとびぬけて高い(OECD,1998)。公共事業をもって需要拡大を図る政策は過去に何度も繰り返されてきたが、最近になるほど公共事業の需要創出効果は弱まってきている。にもかかわらず、最近は不況対策のための財政出動で、公共事業関係費は空前の規模に膨らんでいる。

      A 日建連から1998年(平成10年)10月に前記「緊急経済対策に関する要望」が自民党に提出された。1998年(平成10年)11月に約8.1兆円の第3次補正予算が作成された。1998年度の国の公共事業予算は二度の補正予算を加えて、総額では当初予算比の5割増しの14兆7330億円となった日建連の要求実現のため、巨額な献金を受けている自民党が動いたのである

      B 1999年(平成11年)10月20日、日建連の「当面の経済運営に関する要望」が政府、自民党に提出された。1999年11月に約6兆7890億円の第2次補正予算が組まれた。2000年(平成12年)予算も、日建連の前記要求を受けて「公共投資」による需要創出が不可欠として日建連の要求どおり1999年(平成9年)予算の9兆4000億円を目処に、同様の予算が組まれた。2000年3月29日、総額85兆円という過去最大の規模となる予算が成立した。当時、2年連続の積極型公共事業優先としてマスコミ等の問題となった。

   C 不況で税収が大きく落ち込んで、以前からの財政赤字が拡大しているもとで、主要経費を維持しながら前記のとおりの大規模な公共事業支出を含む緊急景気対策を実施しようとすれば、結局、国の借金である国債への依存度を高めるしかない。実際、国債依存度は、1998年度の実績で40・3%(34兆円)、99年度2次補正後で43・9%(38兆6160億円)に達した。2000年度予算では、国債の償還費と利払いに充てられる国債費として約22兆円(歳出の25・8%)が計上されていた。国と地方を合わせた長期債務残高は、2000年度末には645兆円(国民一人あたり約510万円の借金)に達した。

   D このように、ゼネコンの統一的な巨額献金を自民党が貰い、それにより自民党はこの要求実現のために働いたのが以上の結果である。

   (5) 結論

        その他の日建連の政府、自民党への要求(PFIの立法、都市政策等)も結局のところ業界の要求そのものであり、これらも継続的に要求をしており、その要求実現のために政権党である自民党へ継続的に政治献金をなしたもので、「対価性」が認められる。

 3 企業献金は自民党というパイプを通じるが、実質は国会議員一人一人に配布される。賄賂かまたは賄賂に極めて近い献金である。

   (1) 自民党の2000年収支報告書のうち、「組織活動費」は総額約95,585,503,882円である。うち、金8,503,850,000円が国会議員一人一人への「政治活動費」となっている。

   これを見ると、                          (円)

      12.1.13  森  喜朗  1000万

            1.18             3000万

            1.18     〃        2000万

           1.19     〃        1000万

            1.21    小渕 恵三    2000万

            1.21      〃        3000万

   となっている(41頁)。        

            12.2.      森   喜朗    3000万

                  2.  1            3000万

               2.  1            4000万

                  2.  1  亀井 静香    1000万

                  2.  1  古賀   誠    3000万

                  2.  4  小渕  恵三   1000万

                  2.  8  村上  正邦    1000万

                  2.10    森   喜朗   3000万

     等となっている(44〜45頁)。

       48頁以下になると、

            12.4.25  野中 広務    3000万

                  4.25    中村 正三郎  1.5億

                  4.25    小里 貞利    1.5億

                  4.25    亀井 善之   7500万

                  4.25    平沼 赳夫   1.5億 

                  4.25    野呂田芳成  1.5億

                  4.25    麻生 太郎    5000万

                  4.25    大島 理森  5000万

等と、億を超える金が各国会議員に交付されている。

 一般の国会議員にも配布される。

        12.6. 2    村山 達雄    1000万

                  6. 2    櫻内  義雄    1000万

                  6. 2    福田 康夫      300万

                  6. 2    大原 一三      500万

                  6. 2  上木 嘉郎   500万

                  6. 2  森田  一      500万

                  6. 2    西田  司      500万

                  6.      七条  明      500万

これらの金の最終支出先は、同人の資金管理団体の収支報告書に一切記入が無い。

    以上のように政治献金は、自民党の国会議員一人一人に配布され、何に費消されたのか全く不明である。

  (2) 本件裁判の対象となっている1996年から1999年度の国民政治協会から自民党への献金のうち、国会議員に交付された金額の総額は次のとおりとなっている。

        1996(平成8)年 57.15億円のうち、74.64億円

        1997(平成9)年 58.84億円のうち、28.91億円

        1998(平成10)年 74.84億円のうち、58.56億円

        1999(平成11)年 48.45億円のうち、48.04億円

    しかも重大なのは、自民党本部から支給されたこれらの金の大半が同人らの資金管理団体等にも一切記載されず、国会議員一人一人のポケットに入り、彼等が自由に処分できる金になっていることである(国会議員の収支報告書にも記載の必要性がない)。

    自民党への企業献金の大半は上記のとおり国会議員一人一人に交付される以上、ゼネコン業界の巨額の献金が政党というフィルターを通じたとしても、法的には賄賂となるか又はきわめて賄賂に近い金の交付となる。だからこそ、ゼネコン業界の巨額の献金を毎年毎年受けている自民党の国会議員一人一人は、業界の要求である「公共工事」「財政支出」に熱心になるのである。

 

第4 結論

      本件熊谷組の大半の政治献金は、日建連という業界の要求を実現するため「対価性」を求めて統一的に政権党である自民党に献金したものであり、その献金は賄賂となるか、極めて賄賂に近い「政治献金」である。たとえ刑法上の賄賂とならなくとも、政権党である自民党の政策を金で買収するものであり、民主主義の原理に反する政治献金である。

 特に、業界で統一的に1億円以上の献金を特定政党に集中させることは、政治資金規正法21条の3の総額規正の立法趣旨にも抵触する。一般に大きな影響力を及ぼそうとすれば、人は、個人よりも団体・結社を、団体・結社よりもその連合体を、結成する。一企業の総額上限を超える政治献金を業界で行えば、一企業が行ったよりも大きな影響力を発揮する。だからこそ日建連は組織的に政治献金を行ったのである。このような政治献金は、政治資金規正法が明示的に禁止しているか否かに関係なく、実体的には明らかに違法なものと理解すべきである。そうでなければ、政治的に大きな影響力を行使する業界の政治献金は禁止されず、それよりも影響力の小さい一企業の一定額以上の政治献金を禁止するだけになってしまう。一企業で禁止されている政治献金額は、組織的な業界で行なわれる政治献金にも妥当し、少なくとも、同様に違法であり禁止されるべき性質のものである。


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