仮処分命令申立書

2004年(平成16年)5月26日
東京地方裁判所 民事部 御 中

                      債権者訴訟代理人(代表)
                     

当事者の表示 − 別紙目録記載のとおり

商法272条に基づく違法行為差止仮処分申立事件

申 立 の 趣 旨

1 債務者は、三菱重工業株式会社を代表して、訴外三菱自動車工業株式会社の増資  新株の引受けをしてはならない。
2 申立費用は債務者の負担とする。
  との裁判を求める。

申 立 の 理 由

はじめに
 三菱自動車はこの数年、数度にわたって法令違反を犯し、トップがその都度責任を取って法令遵守を誓ってきた。しかし、その度に失敗してきた。
 自動車メーカーにとって最大の命である安全性、すなわち、他人の生命、身体の安全性に関する法令を遵守しない企業のあり方が問われている。
 三菱グループが、他人の生命、身体、安全を再三無視してきた三菱自動車を支援する以上、どのような具体的な計画と見通しを持ってそれを是正させるのか、換言すれば、真に安全性を最大限重視する企業として再生できる計画と見通しについて、社会(株主、消費者を含む)に対して納得できる説明を行う責任がある。
 社会(株主、消費者を含む)に対しそれを充分なさないで支援することは、三菱自動車の再生ができないだけでなく、三菱グループ全体の信用、信頼を無くすことは明らかである。
 債権者らは、経営危機に陥った三菱自動車への支援を中止させ同社を破綻させることが目的ではない。三菱自動車が安全性を最大限尊重する企業として再生するために、その支援のあり方を問うことが本裁判の目的である。

1、当事者

(1) 債権者らは訴外三菱重工業株式会社(以下、三菱重工という)の株式1単元以上を6月以上前から引き続き所有する株主であり、債務者は三菱重工の代表取締役である。
(2) 訴外三菱自動車工業株式会社(以下、三菱自動車という)は、三菱重工の全額出資により1970年設立され、1988年12月に東証一部に上場した。資本金252,201百万円、連結従業員43,081人の自動車の製造、販売を目的とする会社である。

2、三菱重工による三菱自動車工業の増資株式の引受けの動き

(1) 三菱自動車の2002年3月末と2003年3月末の地区別の売上高等は別紙セグメント情報のとおりであった。このうち、2003年9月中間連結決算は25.5%の売上高減少、経常損失が857億円に上っており、前中間期の経常利益189億円と比較して1046億円悪化している。この原因は、北米地区における売上高の急減などにより740億円に上る営業損失が発生したことにある。日本国内分野での当中間期も84億円の営業損失であった。2003年12月までの第3四半期までの累計額で見ても、北米地区の売上高は前年同期比34%のマイナスであり、この売上高減少が三菱自動車の経営基盤を大きく揺るがせている。北米地区の売上高減少原因は与信基準厳格化(STRICT CREDIT POLICY)と説明しているが、このことは正に企業の経営体質が健全でなかったことを証明している。さらに、2004年3月期で1000億円の営業赤字に転落する可能性があり、北米、国内の大幅な売上減の状況が続き、さらにハブの構造的欠陥を隠蔽していたことがこれにさらに追い打ちをかけようとしていた。  

このために、7000億円の資金支援を柱とする再建計画を策定していたダイムラークライスラーは、2004年4月23日、突然支援の打ち切りを発表した。

(2) このダイムラークライスラーの支援中止を受けて、本年5月21日、三菱重工は、東京三菱銀行、三菱商事ら三菱グループ各社とともに三菱自動車の再生計画を発表した。
    これによると、三菱グループから2700億円、市場から1700億円、中華汽車(CMC)から100億円、合計4500億円の増資計画である。うち三菱グループ各社による優先株1400億円、東京三菱銀行、三菱信託銀行による債務の株式化1300億円という内容である。三菱重工が400億円の優先株を引き受けることに決定した(甲1の1、2)。

(3) 三菱自動車工業の2004年(平成16年)3月期決算(甲2)は、売上高が35.1%の減少、経常利益が前年度の543億円の黒字から当年度が1102億円の赤字となり、1645億円もの利益が悪化した。日本地区の売上高は34%減少、営業利益は263億円減少の199億円に留まった(別紙のとおり)。また、北米地区では、約50%の売上高の減少に加え、営業損益が1259億円もの赤字となった。2003年(平成15年)年9月の中間決算も著しく業績が低下しており、2003年以降急速に業績悪化に陥っている。売上高減少は、消費者の信頼低下がこの業績に大きく影を落としており、また北米地区における売上高減少は与信基準厳格化(STRICT CREDIT POLICY)がその原因とされており、従来の経営管理体制が杜撰なものであったことが明らかになったものである。2005年(平成17年)3月決算予測では、売上高が継続して10%の減少、経常損益では1500億円の赤字とされており、業績の回復はほど遠い。
    この巨額の優先株の引受けは、三菱自動車において従来の安全性軽視の体質のままでは再生できず、増資引受相当額が三菱重工にとって回復すべからざる損害を生じせしめるおそれがある。
    のみならず、生命、身体、安全の法令(コンプライアンス)を再三無視してきた企業を、グループの一員であり又相当の取引がある等という理由だけで支援することは、三菱重工はもちろん三菱グループ企業全体が生命、身体、安全の法令(コンプライアンス)に無頓着な企業として社会から批判される。この社会的信用、信頼の喪失による損害が三菱重工にとって回復しがたい損害を生じせしめる。

3、三菱自動車の法令遵守の欠如

(1) 総会屋への利益供与事件を契機にしての改革の表明
@ 1993年頃、総会屋への利益供与事件でキリンビールの担当者が4人逮捕された。その後、警察庁はその総会屋の口座を監視していたが、三菱グループの送金は止まらなかった。警察庁が経団連に対し総会屋への絶縁を具体的に要請したのにもかかわらず、その口座への入金もストップしなかった。中でも三菱グループは金額が突出しており、三菱自動車は1989年から当時まで合計2350万円を総会屋の銀行口座へ送金した(三菱電機は1990万円、三菱地所は年間100万円ずつ)。
1997年10月23日、総会屋への利益供与事件で三菱自動車の担当者 が逮捕され、同年11月12日、3名が起訴された。これを受けて同年11月、木村雄宗社長が退任(実際は会長に昇格)し、後任社長に河添克彦社長が就任した。この時も三菱自動車の法令を遵守しない企業体質が厳しく批判された。  
   A 1997年12月、河添克彦社長がこのような企業体質を反省して次のとおり述べている。
 「お客様に対して社会に対して本当にオープンでクリーンな企業になる。そのために、社長自身が「風通しのよい職場づくり」のために・・・・上下左右に自由で活発な議論が行われる談論風発、自由な雰囲気の職場づくりを常に心がけます。・・・・相互の信頼感に立った風通しのよい職場こそが外に向けても開かれた会社をつくる。」と発表した(甲3)。
B 1998年5月22日、新企業のスローガンを制定した(甲4)。
「いいものながく」を新企業スローガンに決定した。「企業体質の改善を推進するために・・・・全社員一丸となり意識改革を推進中」とある。
C 1998年11月1日、企業行動指針を定めた(甲5)。
    「つねにお客さまの身になって「いいもの長く」を実現する。オープンでクリーンな企業として誠実に行動する」と定めた。「この趣旨は、常に「お客さまにとっての価値」の視点から「本当にいいものはなにか」を問いただし・・・・お客さまに受け入れられる優れた品質の独創的な車、サービスをすみやかに提供することにより・・・・お客さまとの「ながい」信頼関係を築くことである。三菱伝統の経営理念である岩崎太三綱領・・・・の視点から人間性、社会性を重視して信義に基づき誠実に行動し、オープンでクリーンな企業として社会に受け入れられる「存在感のある会社」となる。」
D さらに、同年11月6日、中期経営計画を定め、企業体質の改革を打ち出している(甲6)。

(2) 上記総会屋への利益供与事件の後、河添社長は、「風通しのよい、自由な雰囲気の職場づくり、お客さまに受け入れられるサービス」を宣言し、それがトップのリーダーシップのもとに実行されていれば、2000年7月のリコール隠しは社内の自浄作用の結果自主的に是正されていたはずであった。
    しかし、同社長の就任後3年近くが経過するも社内の「自由な風通しのよい職場」「お客さまに受け入れられるサービス」は実現されず、リコール隠しが続けられ、結局は内部告発という手段によってしか明らかにされないほどの企業の風土、体質であった。

4、三菱自動車の自動車メーカーとしての安全性の遵守の欠如(第1次リコール隠蔽事件)

(1) 2000年7月、62万台のリコール隠しが内部告発により発覚した。
このリコール隠しでは、本社に品質保証本部が設けられた頃から、製造した車に関するユーザーからのクレーム情報について開示情報(P)と秘匿情報(H)の別々に区分され、運輸省の監査に際しては開示情報(H)のみを見せていた(甲7の1)。
富士重工業のリコール隠しが発覚後、1997年11月、運輸省より自動車各社に従来のリコール関連業務を総点検するよう指示がなされた。
  当時、前記のとおり総会屋利益供与事件で新社長が法令を遵守すると宣言していたのであるから、この段階で三菱自動車としては長年続いていたリコール隠しを是正するチャンスであった。しかし、当時の経営トップならびに本社品質保証部においては従前どおり運輸省に押し通すことで一致した。のみならず、運輸省の抜き打ち検査に対応するために秘密資料を移動する「監査対応マニュアル」等も作り、1998年6月には同部で予行演習をするほどであった。そして、このようなクレーム情報の二重管理システムは、2000年7月の内部告発まで明らかにはならなかった。
  その結果、2000年7月、同社は62万台のリコールを運輸省に届け出た。同年10月2日、東京地裁から400万円の過料に処せられた。そして、2001年4月25日、元副社長らを含む4名と三菱自動車らは、道路運送車両法違反で略式起訴された(甲7の3)。この供述調書の中で河添社長は、「社長としての業務全体から見れば市場品質管理業務に関する問題はきわめて比重の低い問題であり、ほとんど眼中になかった。」と述べているほどであり、自動車メーカーにとって、安全性(ユーザーまたは第三者の生命、身体、安全に関する事項)に対する認識はこのレベルであった(甲7の1)。
しかし実際は、担当者の供述によれば重要クレームは全て社長まで報告されている(甲7の2)のであるから、社長が知って知らぬふりをしていたとしか考えられない。もし本当に知らなかったのであれば自動車メーカーの社長としての資質が疑われる。

(2) このような事態になったため、三菱自動車は次のとおりの改善策を講じた(甲8、甲10)。河添社長が辞任し、園部社長が就任した(甲11、甲12)。そして社内の改革を次のとおり行った。 
@ 品質保証本部を設置
     社長直属の品質保証業務に専念する体制を設置した。
A 品質監査体制の強化策
以下の体制を作った。
・ 社長直属として「品質監査委員会」を新設し、品質関連職制における品質管理・サービス体制および業務遂行状況の監査を全社的に実施する。
・ 保安品質確保が確実に実施されていることを確認する責任者として、保安品質監査プロジェクト・マネージャー(保安品質監査PM)を新設する。
・ リコール監査会は従来の反省も踏まえ、法令遵守の観点から法務・公法等のメンバーを追加するとともに、開催頻度を3ヶ月毎とし、監査実施状況を執行役員会議に報告する。
・ 三菱ふそうトラック・バスカンパニーについても、上記AおよびBに準じた体制とする。
B 品質諮問委員会の設置
・ 今回の一連の品質問題の改善・推進をモニターする会議体として、社外メンバー主体の品質諮問委員会を9月1日に設置し、原則1回/月の開催で1年間活動する。この品質諮問委員会のメンバーは、藤島昭(元検事・最高裁判事・弁護士)、岡崎宏司(自動車評論家)、圓川隆夫(東京工大教授)らで構成された(甲13)。
C 企業倫理体制の確立
・ 社員意識調査結果および社員相談室(9月1日付新設)での相談事項等に基づいて、従来から実施してきた企業倫理・法令遵守教育を見直し、全社的に法令遵守意識を再徹底する。

(3) ダイムラークライスラーとの資本提携
三菱自動車はダイムラークライスラーとの資本提携を行った(甲9)。外資という異文化が入ることで三菱自動車の体質、風土が変革されると期待された。 しかし、結局のところ、外資を受け入れても三菱自動車の隠蔽体質は変わらなかった。
(4) 2001年8月30日、品質諮問委員会(委員長藤島昭)が社長に要旨次のとおり提言した(甲14)。
    『本委員会は、'00年9月22日に第1回の品質諮問委員会を開催、以後1ヶ月に一回のペースで開催し、合計12回の審議を行ってきました。
  当初本委員会は乗用車とトラック・バスに分けて、具体的な品質対策を審議し、第10回の委員会以降は乗用車とトラック・バス合同で開催し、12回の委員会で具体的な品質対策全項目の実施状況の確認を完了し、当初の予定とおり1年間の活動をもって解散しました。』
1.品質諮問委員会の目的
  1.. 品質問題改善対策項目の評価・勧告
   2.. 品質問題改善対策の実施状況の監査
  3.. 品質管理体制運営の監査
   この時の品質諮問委員会藤島委員長コメント(要旨)は次のとおりであった。
『三菱自動車の品質対策については、現地視察も行い、本日までの委員会で全ての対策を審議しました。
     a.. 企業風土、体質の改善は着実に実行されています。今後は更に社内や販売会社の最前線まで根付かせていただきたい。
     b.. クォリティチェックゲートの導入や人員増強により、品質改善対策は着実に実行されています。顧客の視点からみても成果が確認できるまで更なる改善に努力されたい。
     c.. 品質重視と共に商品力強化、社内コミュニケーション改善、販売第一線を含む社員の士気向上等の課題に、引き続き努力を傾注されたい。
     d.. 情報に対して積極的な対応を行い、ブランド力回復に努力されたい。三菱自動車にとって、この1年は試練の年であったが、品質対策を見直し、経営体制の一新も行い、新しいスタートを切ったので、力強く立ち直り、業界や日本経済を牽引していける企業に育つことを期待します。』
これに対し、三菱自動車 園部孝社長コメント(要旨)は次のとおりであった。
『委員長及び各諮問委員には、それぞれの立場から当社への有意義な意見を提言頂いた事に深謝いたします。今後は、遵法精神の下に、引き続き品質向上、商品力強化並びに社内外コミュニケーション改善への真摯な取組みを行ってまいります。そしてターンアラウンドの早期達成により業績回復を図ると共に情報の積極的な発信により、三菱自動車ブランドの早期のイメージ回復を実現する所存です。社長として、ユーザー、株主、グループ社員の期待に応えられる企業になるためのリーダーシップを発揮してまいりますので、諮問委員の方々には今後ともご支援をお願いいたします。』
(5) 2001年8月、企業倫理委員会も従前の組織を改組し、さらに同年10月企業倫理行動基準も改訂し、その中に、お客さま、社会との良好なコミュニケーション、情報開示、社会人マナーの遵守等の項目を追加した。
2002年10月23日、内閣府の国民生活審議会消費者政策部会において、企業倫理体制と社内外のコミュニケーションの取り組み状況として優れたケースとして取り上げられている(甲15の1、2)。
    いずれにしても、同社の場合は企業文化の改革が重要であり、「お客さまと遵法」を基軸とし、企業の風土改革、意識改革の重要性が強調されている。
(6) しかし、上記のような企業倫理体制作りが行われたにもかかわらず、後に述べるハブ、クラッチ等の隠蔽工作は続けられた。
 なお、社長あてに重要クレームは報告(甲7の2)されているのであるから、社長が本気で改革をしようとするなら、この時にひとつひとつのクレームがどうなっているのか部下に問いただせばハブ、クラッチの隠蔽等はすぐに発見されたはずである。しかし、前社長も新社長もこれをなさなかった。

5、株主代表訴訟

(1) 2001年3月12日、三菱自動車の株主が株主代表訴訟を同社の役員を被告として東京地裁に提訴した。
この間、被告役員は、三菱自動車は同じ過ちを繰り返さないと再三主張していた。
2003年7月15日、今まで取ってきたコンプライアンス対策は次のとおりであると裁判官にも説明した。
@ 社員相談室の設置
社長、会長直属の社員相談室を設置、社員からの相談内容、報告に基づき、コンプライアンスのための対応を実施。社員の仕事上の悩み、不満をきくため、産業カウンセラーによる相談を週2回実施。
A 法令遵守意識の徹底
社員意識調査結果および社員相談室での相談事項等に基づいて、従来から実施してきた企業倫理、法令遵守教育を見直し、全社的に法令遵守意識を再徹底。さらに、部門毎に法令遵守のためのコンプライアンス・マニュアルを作成。そのマニュアルに基づき部内毎にコンプライアンス教育を実施。
B 企業倫理体制の強化
2001年、企業倫理委員会を強化のため改組の上、企業倫理行動基準を改定。さらに倫理問題の調査及び対策検討のために調査小委員会、企業倫理実践方針・施策の検討・決定のための実践・推進小委員会を設置した。2001年12月、起業倫理確立のために全社各部門にコードリーダーを任命、それを取りまとめる常務クラスのコンプライアンスオフィサーを指名し、CBEOを補佐。
C コンプライアンス部門の強化
2003年6月25日付にて、渉外審理室を設置。内部監査チームを格上げしてコーポレート監査室を設置。三菱自動車グループの内部監査体制を強化。

(2) 2003年11月5日、東京地裁民事8部(602号法廷)において、裁判官より、2003年1月の横浜のタイヤ死傷事件について三菱自動車の説明を聞きたいとの釈明がなされた。三菱自動車法務担当者、品質保証担当者は、92年の最初の事故、94年6月の同種の事故、96年トラック2台の事故、99年6月バス事故等を報告し、これらの事故の原因はいずれも車両管理の不良、整備ミス等であると報告し、裁判官に対しても事実に反する説明を行った(甲25)。

(3) 以上の株主代表訴訟の中においても、ハブ等のクレーム隠し問題について自主的に是正できるチャンスがあったのにもかかわらず、裁判所に対しても事実に反する報告をなし続けた。その結果、2003年12月2日に再発防止のためのコンプライアンス体制を三菱自動車が確立することを含めて和解が成立した。しかし、この和解の重要な柱である外部通報先に株主代表訴訟の被告役員側の弁護士を選任するほどであった。

6、ハブ等のクレーム隠しと人身事故の発生(第2次隠蔽事件)

(1) 三菱自動車(なお、トラック・バス部門については2003年1月6日に三菱ふそうトラック・バスに分社化)が製造した車両のハブ破損は1992年以降続発していたが、1999年には広島県内の高速道路を走行中の中国JRバスの路線バスの右前輪脱落事故が生じている。この事故について1999年9月に当時の運輸省に提出した報告書では、ハブ破損の原因は整備不良であり、同種の苦情はなく多発性はないと報告した。しかし、三菱自動車製車両の類似のハブ破損事故は多発していたものであり、この報告はこれを隠ぺいしてなされたものである。
 このようにハブ破損事故を隠ぺいを続けるなかで、2002年1月10日には横浜市内で、ハブの欠陥から大型トレーラーのタイヤが脱落し、主婦が死亡し幼児2人が傷害を負う痛ましい事故が発生した。
 この事故がおきたのちにおいてさえ、国土交通省に安全対策の報告を求められた際、技術的根拠がないにも拘らず、ハブの磨耗量が0.8mm以上のものについて交換すれば十分な耐久寿命を確保できるとの虚偽のデータを示したものである。その際、過去において0.8mm未満の磨耗で起きた破損例を隠ぺいし、0.8mm以上磨耗したハブを交換すれば再発は防げるとデータのねつ造をして虚偽の報告をした。

(2) この虚偽報告については本年5月6日、前記横浜市での母子3人死傷事故当時副社長として大型車部門の統括責任者であった宇佐美隆、同部門の開発本部長で社内の原因検討チーム責任者であった花輪亮男元常務ら三菱自動車の幹部5名が道路運送車両法違反の疑いで逮捕された。
 同時に、前記中国JRバスの右前輪脱落事故時においてハブの構造的欠陥を認識しながら、事故の原因を整備不良としてリコール(回収、無償修理)を怠ったため、前記横浜市の母子3人死傷事故が生じたことについて、元市場品質部長村川洋、元同部グループ長三木廣俊が業務上過失致死傷の疑いで逮捕された(甲16、17、18)。

(3) 以上の経過からして、三菱自動車のコンプライアンス体制、とりわけ自動車メーカーとして最重要課題であり、これなくしては企業としての存立さえ否定されて然るべき製造車両の安全性について、何回ともなく是正できる機会があったのに、三菱自動車はそれをなさず、タイヤと車軸を結ぶ重要な部品であるハブの強度不足という欠陥を隠ぺいし、その結果人命まで奪われるという重大事故を引き起こしていた。

7、大型トラックのクラッチハウジングの亀裂の隠蔽(第3次隠蔽事件)

(1) 1983年から1996年に生産された大型トラック(生産台数17万台)のプロペラシャットが過剰に振動するとクラッチハウジングの亀裂につながり、最悪の場合はプロペラシャットの部品が脱落する危険性を隠蔽した件である。
    1996年5月までに30件の不具合があることが報告され、当時三菱自動車内では対策会議を開いた。「放置すれば事故につながる危険性」を認識していながらリコール届出をせず、ひそかに販売店を通じてヤミ改修を行った。2000年7月に前記のリコール隠し事件が発覚したが、クラッチ系列のリコール隠しが発覚することをおそれ、販売会社への「ヤミ改修」すら中止してしまった。それ以降も、「整備不良」としてユーザーに責任を押しつけ、有償で実施するありさまであった。
  2002年10月、山口県周南市で暴走した大型トラックが道路脇の建物に激突し、39才の運転手が死亡する事故が発生した。このクラッチハウジングの不具合は70件にのぼり、上記死傷事故以外にも2件あると言われている(甲19、甲20)。

(2) これら事件は、三菱自動車が2000年のリコール隠しの事件を経験しているにも拘らず、リコール費用の負担という目先の利益のみから、車両の安全、人命の尊重という自動車メーカーの最重要課題をないがしろにして、部品の欠陥を組織的に隠ぺいした結果生じたものである。
    三菱ふそうとなってもこの隠蔽体質は承継されていることから見ると、三菱自動車の体質は結局変わっていないことを示している。

8、三菱自動車の社会からの信頼、信用の喪失
 このような行為により三菱自動車への安全への信頼は失われており、本年4月の新車販売台数(軽自動車除く)は前年同月比で20.8%減となっている。
  以上の三菱自動車の安全軽視の経営姿勢もあって、大株主であるドイツのダイムラークライスラー社は三菱自動車の増資計画に応じないことになった。

9、三菱自動車の増資引受は善管注意義務に違背し、三菱重工に回復しがたい損害を生じるおそれがある
(1) 三菱自動車の再生を債権者らも願っているし、従業員、取引業者ら多くの人々もそれを願っている。
 しかし、30年間続いたリコール隠し問題が発覚し、2000年10月、それを是正するとして再出発した三菱自動車が再び同種の行為を繰り返していることは、同社の組織が「安全性」という最も肝心の点において機能不全に陥っていることを示している。このような安全性を平然と二度も三度も無視、軽視、隠蔽する同社の企業体質、風土は、改善不可能としてユーザーから厳しく批判されている(甲21、甲22、甲23)。

(2)@ 三菱自動車の上記企業体質、風土を根本的に改革しユーザーの信頼を勝ち得ないかぎり、市場から追放される危険性すら存在する。そのためには、三菱自動車の企業体質、風土を根本的に改革するための諸政策を講じることが必要であると思われる。とりわけ、三菱自動車の組織が安全性について機能不全に陥っている以上、その原因を徹底的に解明し、そのために企業体質、風土をどのように改革すべきかを明らかにすることが、増資を呼びかける三菱重工にとって最低限必要とされることである。
   A 三菱グループが策定した本件再生計画によると、「信頼の回復のための施策」として次のことを述べているだけである(甲1の2)。
・ 社外取締役を中心に構成される「企業倫理委員会」がお客さま第一、安全第一、品質第一の遵守を社会の眼で監視し、取締役会に直接諮問、答弁することにより、品質、ガバナンスの監査機構を抜本的に強化する。
・ 品質統括本部に品質保証、管理機構を一元化するとともに、全社的な品質監査、コンプライアンスを推進するCEO直轄の「CSR推進本部」が品質マネジメントを監査し改善を推進する。
   B しかし、この施策は2000年の第1次リコール隠しの時の蒸し返しでしかない。社外有識者を中心とする「品質諮問委員会」が「企業倫理委員会」に代わっただけであり、しかもそのメンバーも検察OB等を中心とする点で全く変わり映えしない。何故、2000年9月の品質諮問委員会が前記2001年(平成13年)8月、「企業風土、体質の改善は着実に実行され・・・」等というおよそ現実と遊離したお墨付きを与えたのか(甲14)の反省もない。その反省のみならず、社外有識者の選任方法も抜本的に変更すべきである。今どのような立派な人物を選んだとしても、社会は2000年の品質諮問委員会の経験からして信用しない。そのためには選任の過程からの透明性が要求されている。たとえば、消費者の立場から長年取り組んできた弁護士等を日弁連に推薦要請をして選任するのもひとつの透明性ある選任方法であろう。
   C また、品質統括本部等の一元化についても、2000年10月に「品質保証本部」が社長直轄で設置されているのが「OCSR推進本部」に名称を変更したにすぎない。
 2000年に改革をすると社会に向かって宣言した内容が何故失敗したのか、その根本的な原因解明が全くなされず従前の形だけの組織づくりでは、同様の繰り返しをすることは明らかである。
   D その点では、今回のハブの欠陥並びにその隠ぺいについて、刑事捜査に委ねることなく、三菱重工を含む三菱商事、東京三菱銀行の三者の責任において、自主的な原因究明をトップを含めた者の責任を自ら厳しく追及することが不可欠である。
   E その他、三菱自動車の経営に関して、広く社外からの取締役を導入することはもちろん、その中に、消費者団体の意見を聴取したうえ、自動車の安全性の専門家であり且つユーザーの立場で安全性の問題に取り組んできた複数の社外取締役を選任するなど、今までの三菱自動車にとっては「異文化」を持った人達が役員に入ることも最低限必要であろう。

(3) このような三菱自動車の持つ体質、文化について、過去の原因の解明なしに漫然と出資に応じることは取締役としての善管注意義務に違反している。
 他人の生命、身体、安全を再三無視、隠蔽してきた企業に対し支援をする以上、三菱自動車の企業体質、風土を抜本的に改革することは支援する企業としての社会的責任でもあるからである。
    以上の点を三菱重工がリードして解明し、改革することなしには、自動車メーカーとしての社会的信用を回復し再生することができるとは思われない。 それを放置して漫然と増資に応じることは取締役の注意義務にも違反し、三菱重工に巨額の増資引受相当額の損害が生じるおそれがある。のみならず、それを三菱重工等の責任で改革しなければ、三菱重工をはじめ三菱グループ全体が生命、身体、安全の法令に無頓着な企業として社会から厳しく批判される。この社会的信用喪失は三菱重工にとっても回復しがたい損害を生じしめる(甲24)。

10、保全の必要性
本件三菱重工の優先株の引き受けは、本年6月下旬に払込みされる予定になっている。本案の差し止め請求をもってしては法272条の差止請求が意味をなさない。
よって、商法272条により、申立の趣旨記載のとおり増資引受の差止の仮処分の申立をする次第である。

証 拠 方 法

1、甲1号証の1  平成16年5月21日付三菱重工外2社の声明
2、 〃 の2  平成16年5月21日付事業再生計画
3、甲2号証 平成16年3月期決算短信(連結)
4、甲3号証 1997年12月22日付河添社長のコメント
5、甲4号証 1998年5月22日付新企業スローガン「いいものながく」
6、甲5号証 1998年11月2日付企業行動指針
7、甲6号証 1998年11月6日中期経営計画
8、甲7号証の1 河添克彦 供述調書
9、 〃 の2  村川洋 報告書
10、 〃 の3  略式命令
11、甲8号証  2000年9月8日付河添社長会見挨拶
12、甲9号証  2000年10月18日付ダイムラークライスラーとの資本提携について
13、甲10号証 平成12年10月20日付運輸省の行政処分に伴う改善対策
14、甲11号証 2000年9月8日付園部新社長就任挨拶
15、甲12号証 2000年11月1日付園部社長就任挨拶
16、甲13号証 2000年9月22日付第1回品質諮問委員会について
17、甲14号証 2001年8月30日品質諮問委員会最終報告
18、甲15号証の1 平成14年10月25日付国民生活審議会議事録要旨
19、  〃 の2  2002年10月23日付三菱自動車の企業倫理体制のとりくみ
20、甲16号証 2004年4月21日付「お詫びと誓い」
21、甲17号証 2004年5月6日付「ハブ問題につきましてのお詫び」
22、甲18号証 2004年5月7日付読売新聞オンラインニュース
23、甲19号証 2004年5月20日記者会見の概要
24、甲20号証 2004年5月21日付読売新聞オンラインニュース
25、甲21号証 2004年5月15日付週刊東洋経済
26、甲22号証 2004年5月17日付朝日新聞ウィークリーAERA
27、甲23号証 2004年5月15日付週刊ダイヤモンド
28、甲24号証 2004年5月29日付週刊東洋経済
29、甲25号証 2003年11月5日付弁護団連絡

添 付 書 類
1、委任状                     2通 
1、商業登記簿謄本               1通


比較年度セグメント情報 (単位:百万円)

比較中間セグメント情報 (単位:百万円)


         株主オンブズマントップページへ