平成16年(ヨ)第20029号 仮処分命令申立事件

 

主 張 書 面

 

                                     2004年(平成16年)6月16日

東京地方裁判所

  第8民事部 保全弁論係 御 中 

 

                               

 

 

第1 乗用車に関する全てのクレーム隠し、隠蔽の全貌を直ちに明らかにさせるべきである(支援先の企業の安全性の確保は支援する企業の取締役にとっても絶対的義務であり、この安全性に関する事項についての裁量はない)。

  1 三菱自動車に対する支援スキームを策定したのは本年5月21日であった。  この当時に前提となっていたのはトラック・バス等のリコール隠しだけであった。同年6月2日、乗用車部門のクレーム隠し、隠蔽工作が発覚した。乗用車に26件の欠陥や不具合があり、対象車種は三菱自動車のランサー、ミラージュ、ギャラン、パジェロ、デリカなど17種の主要車種にわたり、合計16万台に達すると発表した(甲26号証1、2)。

   このうち本日までに明らかにされたのは、エアバックに欠陥があった「ギャラン」「レグナム」2車種115台だけである(甲26の3、4)。残る25件、16万台に関するリコールは未だ報告されていない。

 2 隠蔽工作の発見の容易性

      三菱自動車の三菱重工から派遣された経営陣は、クレーム隠し、隠蔽体質を明らかにすると再三言明しているが、その隠蔽事実は今もって全体像が解明されていない。

      2004年、道路運送車両法違反で起訴された市場品質部長は、「重要不具合月報」を毎月作成し、それを担当取締役に報告したとしている(甲27の1〜4)(これは「市場不具合主要懸案項目リスト」となっている)。この重要不具合情報は、当時、「重要不具合月報綴り」として警察にも押収されており、三菱自動車の社内に存在する書類である。

   この「重要不具合月報」に、車種、不具合現象、原因、情報件数、対象台数、回収費用概算も全て明らかにされている。これを見れば、本日現在何が隠蔽され開示されていないのか1週間もあれば容易に判明するのに、現在の三菱自動車は本日に至るも重要不具合月報記載の事実を開示しない。

 3 危険な乗用車等の全体像の解明とユーザーへの警告

   このようにずるずると引き延ばせばいつ何時、事故が発生するか、事は人の生命、身体、安全に関する問題であるのであるから、三菱重工が支援する以上、三菱自動車に対し、1日も早く明らかにすることを求めるべきである。

   自動車における人の生命、身体、安全に関する問題は経営判断の裁量性が入る問題ではない。三菱重工としては、一刻も早く重要不具合情報を国土交通省に届けさせ、乗用車に関する全貌を開示させ、危険な乗用車等があれば直ちにユーザー等に警告すべきである。支援先の企業の安全性は支援する企業にとっても絶対的に確保すべき問題であるからである。

 この乗用車に関するクレーム隠し、隠蔽工作等を明らかにさせない段階で出資に応じることは、支援する企業の取締役が確保すべき安全性を無視したことになり、取締役の善管注意義務に違反する。

 

第2 三菱自動車の安全性に関する隠蔽体質の根深さの具体的解明見通しが明確でない段階での支援は取締役としてもきわめて無責任であり、ひいては注意義務にも違反する。

  (1) 2004年6月10日、業務上過失致死で、河添克彦社長、横川文一(副社長)、村田有造(元取締役)、宇佐美隆(副社長)、鈴木弘敏(品質・技術本部長)、中神達郎(品質・技術副部長)の6人が逮捕された(甲28)。

     (2) 1996年(平成8年)3月から5月にかけての3回の対策会議において、クラッチハウジングの欠陥についてリコールしないことを決定。1998年(平成10年)7月に奈良県で同様の欠陥が原因で人身事故が発生しても放置。2000年(平成12年)7月の内部告発により発覚した後もこれを隠蔽した。2002年(平成14年)10月、山口件周南市で39才の運転手が死亡。そして、三菱ふそうに分社化する2003年(平成15年)1月まで三菱自動車内で隠蔽し続けてきた。

  2 今回逮捕されたうちの一人の2000年道路運送車両法違反の供述調書によると、三菱自動車のクレーム隠し、隠蔽は次のとおりであったと述べている(甲29)。

   (1) ユーザーからのクレームは年間120万件くらいであり、その中で「自動車の製造、設計に原因があり、運行上安全性に問題があるもの、安全性の問題は少ないまたは無いが、商品性に問題があるもの、その他不具合の多発性があるもの」については「商品情報連絡書」(商連書)を作成する。これは年間4万件くらいが販売会社からあがってくる。

     (2)  このうち、クレームの隠蔽に関係する中心は品質保証部(後に市場品質部)であった。この組織は、代表取締役副社長を本部長に、国内乗用車担当、トラックバス担当等も入り53名で構成されていた。

          さらに、商連書情報に関する会議は、

            クレーム対策会議

            個別対策会議

            リコール検討会

            リコール監査会

            経営会議

            取締役会

        があり、クレーム対策会議は、品質保証部長が毎月1回程度、本社もしくは各製作所に、

           品質保証部

           技術センター品質部門

           各製作所品質管理部

           部門物流部・補給部

           サービス部門

           用品部

        等の部長、またはグループ長を招集して行われた。

      会議内容は当然不具合の原因解明や対策立案等が中心となる。さらに、ここで市場対策が概ね決定される。

     個別対策会議は運輸省には把握されていない会議で、品質保証部長がクレーム対策会議と同様のメンバーを招集し、不定期で行い、通常「個別会議」と言っている(これが「秘密会」であるとの供述もある)。

      会議の内容は一件集中審議であり、

クレーム対策会議で審議が尽くせない重要案件

緊急に市場対策が必要な案件

リコールの実施を検討すべき重要案件

        等が議題となり、リコール等正規の市場措置とするか、またはリコール隠し等の社内改修措置とするか等を実質的に決定していた会議であった。

   (3) この会議で決定された情報は、週報(WR)、月報(MR)、重要不具合月報(甲27号証の1〜4「主要懸案項目リスト」参照)として報告される。

       「週報」は社長及び関連本部長まで報告としてあがるもので、各週単位の

          商連書の総件数

            安全重要機能に関する情報件数

            商品性等に関する情報件数

          新規(重要)不具合情報内容

          継続(重要)不具合情報内容

          及びトピックスとして

            各種品質会議結果、運輸省監査、市場措置及び社内改修措置等で重要なこと

等を記載している。

    「月報」も社長及び関連本部長まで報告としてあがるもので、各月単位の

           週報登載件数

           不具合対策処理状況(対策済みと検討中の件数)

           対策済みの不具合内容と検討中の不具合内容

       等を記載し報告している。

         「重要不具合月報」(甲27の1〜4)は、本部長報告のための資料であり、本部長報告であるから内容も詳しく、不具合の件名・現象・原因ならびに情報件数、不具合原因の対策状況、既販車に対する処置状況等を記載して報告していた。この月報を読めば、この情報のどれが運輸省への秘匿情報であるか、不具合に対する処置が「指示改修」、「呼び込み改修」等、秘匿情報に基づく社内改修処置が行われたことが一目でわかる。

   (4) 以上の中で、全国の販売会社に実施させる場合の連絡書に、「Tレター(テクニカルレター」、「Sレター(サービスレター」がある。Tレターは秘匿の連絡書で、不具合の内容、原因等を記載して連絡し、Sレターは運輸省への開示情報として、それらを区別して販売会社へ連絡していたのである。

          トラック部門でも、オープン情報は黄色の用紙、秘匿情報は白色の用紙を用いていた(甲29、245頁)。

 いずれにしても、オープン情報と秘匿情報の区分による修理の連絡は、各販売会社にもわかっていた。

   (5) 以上のように、三菱自動車内において、クレーム隠蔽工作は、品質保証部だけでなく関連する部門や販売会社の関係者までがそれを承知しており、年間何百人もの三菱自動車の従業員が知っているのにもかかわらず、それが長期間にわたって隠蔽され続けてきたのである。

 3 以上の隠蔽体質の根深さをどのように具体的に解決するのか、その見通しもなく支援決定をすることは、支援する企業の取締役の判断において著しく合理性を欠くものである。

 

第3 本件支援決定における取締役の経営判断と注意義務違反

  1 経営不振企業に対する支援決定における取締役の経営判断と注意義務違反

   (1) 経営不振企業に対する支援は、常にその支援金額の回収を可能とするものではなく、その支援金額についてリスクが伴うものである。

 したがって、本件のような経営不振企業に対して支援決定を行うか否かの判断においては、支援決定の打ち切りにより直ちに顕在化する支援側の企業の有形無形の損失に目を奪われることなく、支援決定を打ち切る場合とこれを実行する場合のそれぞれ予想される損失を的確に把握し、これを最小化する方策を検討した上でその比較衡量を行い、支援決定を実行する方が損失が小さい場合すなわち合理的に見込まれるリスク等を考慮しても支援決定を実行することにより全体として利益が期待できうる場合のみに、これを実行すべきである。

   (2) しかしながら、このような判断には取締役の経営判断に属する事項としてその裁量が一定程度認められる。そして、取締役の判断に許容された裁量の範囲を超えた善管注意義務違反があるとするためには、判断の前提となった事実認識に不注意な誤りがあったか否か、または判断の過程・内容に著しく不合理なものがあったか否か、言い換えれば、当該判断をするための情報収集・分析、検討が当時の状況に照らして合理性を欠くものであったか否か、これらを前提として判断の推論過程及び内容が明らかに不合理なものといえるかどうかが問われなければならない(プロジェクトに対する追加融資の件であり本件と事案が異なるが、東京地裁平成14年4月25日判決、判例時報1793140頁が比較的参考になる)。

 2 本件支援決定における注意義務違反

 (1)@  三菱自動車に対し支援を中止した場合の損失見込の検討について、三菱重工はこれをどのように検討したのかが明らかでなく、むしろ、まず三菱グループの対面、メンツばかりを優先させ、この点について踏み込んだ調査検討が行われた形跡がない。

    A 支援決定を行う場合の400億円の回収可能性についての検討

          本件は優先株による支援である。本件支援決定は三菱重工の400億円だけでなく総額4500億円余りにのぼる支援であるから、この支援額全体の回収可能性のあることが相当程度必要であるのに、この点に関する調査をした形跡もないし具体的見通しも開示されていない。

        B 上記@Aを考慮の上、その予想される損失額を的確に把握し、これを最小化するための方策を検討した上で、400億円の支援決定を実行する場合の三菱重工にとっての利益がどのようになるか明らかになった場合のみ実行すべきであるのに、その比較考慮をした形跡がない。

     (2) 以上のとおり、取締役としての最低限必要な上記@ABを考慮、事情を検討しないで本件支援決定をしているのであるから、著しく不合理な決定であり、取締役の注意義務に違反する。

 3 本件支援決定後の重大な事実の発生による再検討の必要性

     (1) 本年5月21日に支援決定した後、三菱自動車に関する重大な事実が次々と発覚している。支援決定した後、支出までに発生した重大事実については、再調査をして慎重に検討すべきであるのにそれらの事実を再検討していない。

    (2)@ 本件計画を策定したときには、三菱自動車の乗用車のほとんどの車種についてリコール隠しやヤミ修理、隠蔽工作をしていたことが明らかになっていなかった。トラック等のことであったので三菱ふそうという別会社の問題であった。

      しかし、乗用車についても前記のとおりクレーム隠し、隠蔽工作が判明し、乗用車についてもユーザーの信頼は根本的に崩れた。

     A  また、三菱自動車の支援決定をした時は、2004年4月分の販売減少分は前年比22%であった。しかし、5月時期の販売実績は別表のとおり前年比56%の減であった(甲30)。6月はより大幅に減少することは明らかである。国、地方自治体等の入札からの排除等もあるので、国内の販売は当初予想よりも大幅に減少する(甲32)。

      これは当時、消費者の不信をあまりにも軽く見た結果であり、予想外に消費者の信頼を無くしているのである。この点では、二度にわたる隠蔽工作と人身事故まで発生させている事実についての消費者の厳しい不信感に関する情報認識に明らかな誤りがあった。

     B さらに、三菱自動車の元社長、副社長まで逮捕され、クレーム隠し、隠蔽工作は一部門の担当者の犯罪ではなく、三菱自動車の組織そのものの体質が消費者に明らかになった。

       C 6月8日、三菱ふそうは、1992年から2004年3月までの大型トラック等のクレーム隠し、隠蔽工作の内容の概略を公表した。さらに、6月14日、その詳細を記者会見で発表した(甲31の1〜3)。

           この公表事実によると、三菱自動車内において、2000年以降にもクレーム隠し、隠蔽工作が行われているのである。乗用車だけが2000年以降にクレーム隠し、隠蔽工作がなかったということをおよそ消費者は信用していない。

        D 本日(6月16日)、三菱自動車の新再生計画を発表する旨の報道がなされている。この報道によると、国内の販売予想を当初計画の30万台(前年実績の16%減)から約22万台に引き下げる内容であるとしている。これらも安易な数字いじりでしかないがそれはともかく、三菱重工として、この新再生計画の持つ問題点を独自の立場からあらゆる情報を入手し分析すべきであるのに、三菱自動車の言い分のみに従い、独自の立場からのその再検討を怠っている。

     (3) 以上のごとき5月22日支援決定したとしても、その後に発生した三菱自動車に関する消費者の不信について、三菱重工として支援決定する以上、再検討すべきであるのに、それを十分になさないで本件増資を行うことは、取締役に要求される「当該判断をするための情報収集・分析」の著しい懈怠となり、取締役の善管注意義務に違反する。 

 特に乗用車に関するクレーム隠し、隠蔽工作の全貌が明らかにされれば、三菱自動車にとって重大な再生障害事由となる危険性もあるのであるから、その全貌を明らかにさせた上で再度支援するかどうか決定すべきであるのにそれを怠っている。

 400億円の支出が完了してからその全貌が明らかになったとしても、その撤回は不可能であるからである。

                                                                       以上


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