三菱重工増資差止仮処分決定についてのコメント

− 経営判断で裁判所をクリアーしてもユーザーの眼はクリアーできない −

 

                                                2004年6月23日

                                                 株主オンブズマン

 

 

1 東京地方裁判所は、本日、株主の請求を却下しました。

  (1) この裁判の目的は、消費者の安全を再三無視する三菱自動車に対し三菱グループが4500億円を支援する決定に誰も文句を言う者がいない、誰もがおかしいと思いながらも公然とは言えない、それなら、ユーザーの一員として異議を申し立てようと思い、商法272条を活用した訴訟をすることになった次第です。

    当初は、本訴で、公開の法廷で支援企業のあり方についてじっくり討論するつもりでした。しかし、5月21日、6月末に出資する計画となったため、あわてて仮処分の申立に切り替えました。その結果、6月18日に第1回の審尋が行われ終結となりました。三菱重工は6月24日に400億円の金を支払うことになったからです。

(2) 株主は、三菱重工の責任で三菱自動車のクレーム・隠蔽工作を直ちに明らかにするよう要求しました。

いつ何時、事故が発生するか、事は人の生命、身体、安全に関する問題であるので、三菱重工が支援する以上、三菱自動車に対し、1日も早く明らかにすることを求めるべきです。自動車における人の生命、身体、安全に関する問題は経営判断の裁量性が入る問題ではありません。三菱重工としては、一刻も早く重要不具合情報を国土交通省に届けさせ、乗用車に関する全貌を開示させ、危険な乗用車等があれば直ちにユーザー等に警告すべきです。支援先の企業の安全性は支援する企業にとっても絶対的に確保すべき問題であるからです。この乗用車に関するクレーム隠し、隠蔽工作等を明らかにさせない段階で出資に応じることは、支援する企業の取締役が確保すべき安全性を無視したことになり、取締役の善管注意義務に違反する。」と主張しました。

      ところが、裁判所はこの点について全く判断していません。むしろ、裁判官は、この主張を誤解(または曲解)して、三菱自動車のリコール隠しに関する事実関係の調査、検討義務にすり替えてしまっており、「裁量論」へと逃げています。

     その点で、この決定は今後厳しく批判されることになるでしょう。

(3) 『三菱自動車のリコール隠しに関する事実解明の問題は、平成16年5月21日に発表された三菱自動車の事業再生計画(以下「本件再生計画」という。)及び同年6月16日に発表された追加施策の合理性を判断し、ひいては本件優先株400億円の回収可能性を判断するにあたっての前提事実となるものであり、リコール隠しに関してさらに新しい重大事実が明らかになれば、本件再生計画の達成可能性に影響を及ぼす可能性があるのであるから、三菱重工の取締役としては、本件支援を行うか否かを判断するために必要な限度において、三菱自動車のリコール隠しに関する事実関係を調査・検討すべき義務があるというべきである。』

この点を否定していた三菱重工側の主張を排除した点は評価できます。

しかし、多くの国民、ユーザーの生命、身体の安全性の問題と企業の劣化問題という別次元の問題を取締役の裁量論で株主の主張を却下した点は、裁判所が企業側に加担し、多くの国民の生命、身体の安全を軽視した決定となり、裁判所のあり方が問われる内容であります。

(4) いずれにしても、裁判所の今回の決定は、自動車の安全性を無視し、クレーム隠し、隠蔽工作をした三菱自動車を支援する三菱重工の責任を「高度の経営判断」であるとして株主の請求を却下し、企業の社会的責任を配慮しない決定となっています。

   

2 三菱グループの責任がより重くなりました。

 (1) 三菱重工は、今回の仮処分事件において、「本件事業再生計画には十分履行の見込みがある。」「リスクもあるが十分なリターンも期待できる増資である。」、さらに、ユーザー等の信頼回復の措置についても、「抜本的に企業体質を改善する施策を講じている。」と主張し、裁判所の理解を求め、裁判所が一応これを肯定しました。

 (2) 三菱重工が今回の増資は合理的であり、かつ、ユーザー等の信頼回復のため企業体質を抜本的に改善する施策を講じたと強調すればするほど、より一層、今後の三菱重工をはじめ三菱グループの責任は重くなります。三菱重工として、三菱自動車のクレーム隠し、隠蔽工作等に対し消費者の信頼回復の措置をとるよう責任を持って三菱自動車に働きかけなくてはならなくなりました。

      万一、三菱自動車が企業体質の抜本的改革等を出来なかったとき、または再生計画履行の見込みがなくなった事態に至ったときには、株主代表訴訟は非常に行いやすくなりました。

 

3 三菱重工ならびに三菱自動車に対して、重要不具合月報についての説明責任を求めます。

 (1) 私たちは、今回の裁判において、2000年、道路運送車両法違反で起訴された市場品質部長ら多数の者が毎月作成し担当取締役に報告していたとして押収されていた「重要不具合月報」を甲27号証の1〜4として提出しました。

   『この重要不具合情報は、当時、「重要不具合月報綴り」として警察にも押収されており、三菱自動車の社内に存在する書類である。この「重要不具合月報」に、車種、不具合現象、原因、情報件数、対象台数、回収費用概算も全て明らかにされている。これを見れば、本日現在何が隠蔽され開示されていないのか1週間もあれば容易に判明するのに、現在の三菱自動車は本日に至るも重要不具合月報記載の事実を開示しない。』

    と主張しました。

      これに対し三菱重工は、この重要不具合月報は2000年(平成12年)7月に廃棄したので今は存在しないと弁明しました(平成16年6月18日付準備書面)。

 (2) しかし、当時の運輸省が三菱自動車の内部告発を受けて立ち入り調査に入ったのは2000年(平成12年)7月5日〜6日でした。その結果、同年9月8日、道路運送法車両法違反で三菱自動車を告発し、その後、警視庁中央警察署において三菱自動車の関係者の捜索が開始されたのが同年8月からでした。そしてこれら多くの関係者が重要不具合月報は存在するとして供述し、警察はこの前後に重要不具合月報を押収し、その一部が供述調書に添付されているのです。この段階で警察に押収されている重要不具合月報が、どうしてそれ以前の2000年(平成12年)7月に廃棄されるのかきわめて不可解です。7月に廃棄されているのであれば、同年8月時点で押収することは不可能であるからです。

    2000年(平成12年)8月段階で押収され存在した重要不具合月報が、同年7月に廃棄されたという今回の三菱重工の弁明は虚偽の疑いが濃厚です。むしろ、今年の神奈川県警等の業務上過失致死事件についての捜査の前に隠匿、廃棄された疑いすら残ります。

    これについて、早期の、三菱重工、三菱自動車側の説明責任が求められます。もし十分なる説明がなされない場合は、証拠隠滅罪で告発することも検討しなければなりません。一日も早い説明を求めます。


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