上場企業における障害者雇用の実態  1999年6月7日


 1.調査目的
 民間企業および国・地方公共団体は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づいて、法定雇用率以上、身体障害者を雇用しなければならない。1997年4月、同法の一部が改正され、法定雇用率の算定基礎に知的障害者が加えられることになった。また、同年9月、同法施行令の一部が改正され、法定雇用率が民間企業(常用労働者数56以上)は1.6%から1.8%に、特殊法人(常用労働者数48人以上)は1.9%から2.1%に、国・地方公共団体(職員数48人以上)は2.0%から2.1%に、それぞれ引き上げられ、1998年7月1日より施行に移されている。障害者の能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えることはすべての事業主の社会的責任であるが、労働省職業安定局の集計では、1998年6月1日現在で大企業(規模1000人以上)の障害者の実雇用率は1.48%、法定雇用率を達成できていない企業の割合は65.8%であった。これから判断すると、企業の雇用努力と行政の指導・監督がよほど適切になされない限り、法定雇用率の達成はさらに遠のくものと危惧される。
 そこで本会は、企業の社会的責任に強い関心を抱く市民団体として、法定雇用率が引き上げられたもとで、上場企業における障害者雇用の状況を把握し、障害者雇用の拡大を促すことを目的でこの調査を実施した。

 2.調査対象
 電力10社、ガス11社、建設62社、銀行117行、一般199社(日経225から電力・ガス・建設・銀行の重複分を除いた数)、計399社を対象にアンケート調査を実施し、電力10社(回収率100%)、ガス9社(81.8%)、建設35(56.5%)、銀行74行(63.2%)、一般119社(59.8%)、計247社(61.9%)から回答を得た。電力、ガス、建設、銀行を調査対象に選んだのはそれぞれ事業の公共性が高いと考えられるからであるが、あわせて多様な業種について一般的動向を把握するために、日経225種の企業(前記4業種の調査対象企業を除く)にも調査対象を広げた。

表1 調査対象企業数と回答企業数


 業種  対象企業数  回答企業数(%)
 電力     10       10(100)
 ガス     11       9(81.8)
 建設    62       35(56.5)
 銀行    117       74(63.2)
 一般    199      119(59.8)
 合計    399      247(61.9)

 3.調査内容
(1)法定雇用雇用率の達成状況
(2)障害者雇用率
(3)法定雇用率に対する不足人数および1997年度の障害者雇用納付金の金額
(4)法定雇用率に対する超過人数および1997年度の障害者雇用調整金の金額
(5)法定雇用率未達成の場合の障害者の雇い入れに関する計画の策定状況
(6)障害者雇用についての考え方

 4.調査方法
調査期間中に上記調査対象企業にアンケート用紙を郵送して調査を実施し、郵便、FAX、Eメールで回答を回収した。

 5.調査期間
 当初の調査期間は1998年12月〜1999年1月。3月末に一度まとめた後、5月末まで追加回答を受け付けた。

               調査結果

 1.法定雇用率の達成状況
 障害者の法定雇用率の達成状況については245社から回答があった。2社は無記入である。「法定雇用率(1.8%)を達成していますか」という質問に対して、73社(29.8%)が達成、172社(70.2%)が未達成と答えている。労働省の調査によれば、1998年6月1日現在の障害者法定雇用率(1.6%)の未達成企業の割合は、規模63〜99人で47.1%、100〜 299人で47.3%、300〜499人で56.9%、500〜999人では61.7%、1000人以上で65.8%と、規模が大きくなるほど高くなっている。今回の調査結果で未達成企業の割合が70.2%に上っていることは、調査対象企業の9割近くが規模1000人以上の上場企業であることや、法定雇用率が1.6%から1.8%に引き上げられた直後の調査結果であることによるものと考えられる。それにしても、上場企業の未達成企業の割合が全体の7割に上っていることは、わが国の障害者雇用をめぐる状況の深刻さを示すものである。

 この質問項目では、未達成と答えた企業に対して重ねて「法定雇用率の改訂前に法定雇用率(1.6%)を達成したことはありますか」とたずねた。これに対しては、1.8%基準で未達成とした172のうち、89社(53.6%)は達成したことがある、77社(46.4%)は達成したことがないと答えている(6社は無記入)。この77社は現在のみならず過去においても法定雇用率を達成したことがない企業である。

 なお、『日経会社情報』1998年秋季号によって本アンケートの調査対象企業の従業員数を調べたところ、従業員規模別の障害者平均雇用率は、1千人未満(27社)1.51%、1千人〜5千人(123社)1.48%、5千人〜1万人(43社)1.61%、1万人以上(54社)1.76%であった。これによれば規模別では比較的多数の企業が集中する1千人〜5千人の企業の実雇用率が最も低いことがわかる。
 障害者の平均実雇用率は回答企業全体では1.56%である。これは労働省調査の1988年6月1日現在の障害者雇用率1.48%(全規模平均)よりはいくぶん高くなっている。業種別平均では、電力1.84%、銀行1.62%、ガス1.59%、一般1.55%、建設1.39%と、電力だけが法定雇用率1.8%を達成している。建設は、98年6月1日現在の民間企業の平均実雇用率1.48%(労働省調べ)にさえ達していない。業種別にみた未達成企業の割合は、電力10.0%、ガス44.4%、銀行67.1%、一般75.4%、建設82.9%である。

表2 法定雇用率達成状況
       企業数    %
 達 成    73    29.8
 未達成   172    70.2

表3 実雇用率と未達成企業の割合
 業種  実雇用率  未達成企業(%)
 電力   1.84      10.0
 銀行   1.62      67.1
 ガス   1.59      44.4
 一般   1.55      75.4
 建設   1.39      82.9
 全平均  1.56      70.2

表4 規模別実雇用率
  規模        企業数  %
 1,000人未満      27   1.51
 1,000〜5,000人   123   1.48
 5,000〜10,000人   43   1.61
 10,000人以上     54   1.72

 2.法定雇用率未達成事業主が支払った障害者雇用納付金
法定雇用率を達成していない事業主は、身体障害者雇用納付金(常用労働者300人を超える企業で雇用率未達成の場合、不足人数1人につき月額5万円)を日本障害者雇用促進協会に納めなければならない。例えば、法定雇用率1.8%の場合、500人(除外率による調整後の常用労働者数)の企業で9人以上の障害者を雇用すべきところを4人しか雇用していなければ、不足人数5人分に対して月額25万円、年額300万円の納付金を納める必要がある。
 本調査では、法定雇用率が1.6%であった1997年度について障害者雇用納付金の金額をきいた。同納付金を支払った123社の納付金の総額は6億9973万円に達する。納付金の最高額は2850万円であり、最少額は5万円であった。納付企業1社当たりの平均は569万円である。納付金を2000万円以上支払った企業が6社、1000万円以上支払った企業が22社あった。納付金は、雇用率達成事業主への調整金や、障害者多数雇用中小事業主への報奨金や、障害者を雇い入れる事業主への助成金等に充当されるが、多くの企業は法的なペナルティの性質をもつ納付金を支払うことで、障害者雇用の義務を免れているのが現状である。
なお、本アンケートでは納付金に関連して、法定雇用率(1.8%)に対する不足人数をきいたが、回答数字に月人数と年人数があったりで、記入の仕方が一様でなく、その区別が必ずしも判然としないために、集計からは除いた。

表5 納付金の金額
 最高     2850万円
 最低       5万円
 平均     569万円
 総額  6億9973万円

3.法定雇用率達成事業主に支給された障害者雇用調整金
雇用率達成事業主はI人当たり月額2万5000円の調整金を日本障害者雇用促進協会から支給されることになっている。回答企業のうち1997年度に調整金の支給を受けた企業は105社で、その総額は4億7952万円であった。最高額は4348万円であり、最低額は2.5万円であった。平均は457万円である。納付金が2000万円を超える企業は6社、1000万円を超える企業は13社あった。
 不足人数の場合と同じく、超過人数についても、記入の仕方に不統一があるので集計からは除いた。

 表6 調整金の金額
 最高     4348万円
 最低      2.5万円
 平均     457万円
 総額  4億7952万円

 4.障害者の雇い入れに関する計画の策定状況
 法定雇用率未達成企業に 障害者の雇い入れに関する計画の策定状況をたずねたところ、アンケート回収企業の大多数から記述回答が寄せられた。しかし、未達成企業のうち、障害者雇用促進法15条所定の雇い入れ計画の策定の命令を労働省(職安)から受けたと答えた企業は1社もなく、「労働大臣から計画策定の指示は受けておらず、計画策定の予定はない」と答えているところが多い。
総務庁行政監察局『障害者雇用対策の現状と課題』(大蔵省印刷局、1996年)によると、雇い入れ計画命令は、1990年7月以降、実雇用率0.8%未満、不足人数6人以上の企業の事業主に対して出されることになっている。また、この条件に該当する事業主であっても、経営状態の悪化等により今後の雇い入れが見込まれない旨を資料を添えて申し出た場合は、除外されることになっている。今回の調査では雇い入れ命令を受けた企業がないのはそのためであろうか。
 労働省の命令とは別に、法定雇用率達成の計画を策定し、その数値を示している企業においても、1999年(度)達成を目標としているところはきわめて少なく、2000年(度)あるいは2001年(度)を目標として企業が多い。なかには「2002年10月末に法定雇用率を達成」としている企業や、「平成10年度より5年計画で段階的に採用していく予定」としている企業もある。
 従来から障害者雇用のための特例子会社の設立が認められてきており、日経連(日本経営者団体連合会)は、法定雇用率未達成企業に対して特例子会社設立を促す「障害者雇用相談室」を1997年10月より開設している。それを受けて、未達成企業のなかでは4社が新たに特例子会社を設立する予定だと書いている。

5.障害者雇用についての考え方
 この項目にはほとんどの企業から詳細な記述回答が寄せられた。なかには千字以上の長文の記入もあった。
 ほとんどの企業が、障害者雇用は、企業として当然果たすべき社会的責任(あるいは義務、使命)だと考えている。いくつかの企業は、「社会への完全参加」や「ノーマライゼーション」を掲げ、「健常者と障害者とが平等に働くことができる環境づくり」や、「障害者が働く喜びを見い出し、能力を十分発揮できるような環境整備」や、「障害のある人とない人が同じ職場で共に働く……障害の部位・程度や職種・地域等にとらわれることのない雇用の着実な定着・推進」のために努力していることを強調している。複数の未達成企業が「納付金」をはらっていればすまされるわけではないと自戒している。
製造現場の主体の企業や、建設、化学関係の企業のいくつかは、作業内容や職場環境の面で、障害者の受け入れが必ずしも容易でないことを訴えている。
未達成と達成の別を問わず、法定雇用率達成のための取り組みを紹介すれば、社内に「障害者雇用促進委員会」や「障害者職場定着推進チーム」等を設け、障害者雇用の目標を決めその達成に向けて取り組んでいる企業もある。公共職業安定所(ハローワーク)主催の障害者の障害者雇用促進会や、障害者雇用支援事業団のセミナー、あるいは東京(および大阪)職業学生センター主催の障害者雇用促進会等に参加して、情報収集にあたっているところもある。ある企業は「OAオペレーター、オフィス環境整備の職種」を設け、またある企業は「身障者向け在宅勤務制度」を導入して、それぞれ障害者雇用の促進を図っている。事業所に「マッサージ室」を開設し、ヘルスキーパーを雇用している例や、聾唖学校卒業者予定者を企業内実習を通じて採用している例もある。
銀行や建設会社で経営再建の途上にあるところが少なくないことを反映して、いくつもの企業が、現下の不況とリストラの下での厳しい雇用情勢(採用抑制を含めた人員削減)によって、障害者雇用にも困難が生じていると書いている。しかし、障害者の法定雇用率の達成は、企業が事業を続けていく限り、企業にとって法的義務であり社会的責任である。それゆえ不況やリストラのなかでも、障害者の法定雇用率の達成といっそうの雇用促進のために努力を続けていくことが望まれる。
 
 
<追記>
1)質問の5.6に関する記述回答はA4で20ページ以上あるために割愛しますが、全文の入手を希望される方は本会にご連絡ください。
2)集計には慎重を期したつもりですが思わぬ間違いがあるかも知れません。とくに後掲の回答企業・未回答企業一覧に誤りがあれば本会までご連絡下さい。
3)今回の調査にご協力いただいた企業にこの場を借りて心よりお礼を申し上げます。今回はご協力いただけなかったところも、今後はぜひご回答下さるようにお願いします


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