住友金属株主代表訴訟事件


6月19日、住友金属工業の株主4人が、大阪国税局で認定された同社の使途秘匿金にかかわる環境プラント工事の受注工作のため裏金づくりと、ステンレス鋼板の価格カルテルに関わる課徴金の支払いに関して、社長だった下妻博会長ら当時の経営陣9人を相手取り、総額約76億円を同社に賠償するよう求める株主代表訴訟を大阪地裁に起こしました。
以下にその訴状を掲載します。
2006年8月24日



住友金属株主代表訴訟事件

訴状
 2006年6月19日
大阪地方裁判所 御中

原告訴訟代理人 弁護士 長 野 真一郎

  同    弁護士 河 野 豊

原告  森岡孝二
原告  谷智恵子
原告  原野早知子
原告  島尾恵理


被告  小島又雄
被告  下妻 博
被告  田尻文宏
被告  岸田 達
被告  川田洋輝
被告  末光邦彦
被告  作田頴治
被告  飯吉猛
被告  天谷雅俊


請求の趣旨

1 被告下妻博及び被告末光邦彦は、訴外住友金属工業株式会社に対し、連帯して金76億7176万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告小島又雄、被告田尻文宏、被告岸田達、被告川田洋輝、及び被告作田頴治は、訴外住友金属工業株式会社に対し、連帯して金66億9460万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告飯吉猛及び被告天谷雅俊は、訴外住友金属工業株式会社に対し、連帯して金9億7716万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする
との判決並びに仮執行宣言を求める。

請求の原因

第1 当事者
1 訴外住友金属工業株式会社(以下、「住友金属」という。)は、鉄鋼大手5社の一角であり、年間約1200万トン以上の粗鋼を生産し、鋼管や鉄道車両部品なども製造している大会社である。
2 原告らは、後記の訴え提起請求書が住友金属に到達した平成18年4月6日の6か月前より引き続き住友金属の1単元以上の株式を保有する株主である。
3 被告らは、いずれも住友金属の取締役又は取締役であった者であり、各被告の住友金属での担当職務は、以下のとおりである(詳細は別紙被告ら就退任時期及び担当職務一覧表を参照)。
なお、住友金属が営む事業は、主として鉄鋼事業、エンジニアリング事業及びエレクトロニクス事業である。本件のうちの使途秘匿金は、エンジニアリング事業に関連して支出されたものであり、課徴金は鉄鋼事業中の鋼板・建材部門に関連して課されたものである。
(1) 被告小島又雄
被告小島又雄は、平成8年6月から同12年6月まで代表取締役社長、同月から平成13年6月まで代表取締役会長の地位にあった。
(2) 被告下妻博
被告下妻博は、平成8年6月から同12年6月まで代表取締役副社長、同月から平成17年6月まで同社の代表取締役社長の地位にあり、同月以降は代表取締役会長の地位にある。
(3) 被告田尻文宏
被告田尻文宏は、平成9年6月から同10年6月まで常務取締役兼エンジニアリング事業本部長の地位にあった。
(4) 被告岸田達
被告岸田達は、平成9年6月から同10年6月まで取締役兼プラントエンジニアリング事業部長の地位にあった。
(5) 被告川田洋輝
被告川田洋輝は、平成9年6月から同10年6月まで取締役、同月から平成11年6月まで常務取締役兼建設・エネルギー事業部長、同月から平成12年6月まで取締役兼上席常務執行役員兼エンジニアリング事業本部長兼建設・エネルギー事業部長、同月から平成13年6月まで代表取締役副社長兼エンジニアリング事業本部長の地位にあった。
(6) 被告末光邦彦
被告末光邦彦は、平成9年6月から同11年6月まで取締役支配人、同月から平成12年6月まで常務執行役員、同月から平成13年6月まで取締役兼常務執行役員兼大阪営業本部長、同月から平成14年4月まで取締役兼専務執行役員兼大阪営業本部長の地位にあり、同月から平成17年3月まで代表取締役副社長兼法務担当副社長兼大阪本店長の地位にあり、そのうち同14年10月から同17年3月までコンプライアンス委員会委員長を兼任し、同月から平成17年6月まで取締役、同月から常任監査役の地位にある。
(7) 被告作田頴治
被告作田頴治は、平成13年6月から同14年4月まで専務執行役員兼エンジニアリング事業本部長、同月から平成14年6月まで専務執行役員兼エンジニアリングカンパニー長、同月から平成17年4月まで取締役兼専務執行役員兼エンジニアリングカンパニー長、同月から取締役副社長兼大阪本店長の地位にある。
(8) 被告飯吉猛
 被告飯吉猛は、平成13年6月から平成14年6月まで取締役兼専務執行役員兼鋼板・建材事業部長の地位にあった。
(9) 被告天谷雅俊
 被告天谷雅俊は、平成14年6月から平成15年6月まで取締役兼専務執行役員兼鋼板・建材カンパニー長、同月から平成17年6月まで取締役副社長の地位にあった。

第2 使途秘匿金
1 違法行為
(1) 裏金作り
住友金属が従来から行なっていた環境プラント工事は、資源ごみを選別回収・再利用するリサイクル施設が主力だったが、平成14年12月にダイオキシンの排出基準が強化される見通しとなったため、同12年ころから、ごみを蒸し焼きにしてガス化するガス化溶融炉も目指していた。
その目的のため、住友金属は、違法な手段を使って受注工作を行なう必要を感じ、その資金を捻出するために、いわゆる裏金を作ることを考えた。そのやり方は以下のとおりである。
住友金属は、平成10年ころから、環境プラント設備の西日本地域での特約店契約を同年に結んだ大分市の設備工事会社に対し、住友金属の下請会社を通じて、外注費を水増しして工事を発注した。その発注を受けた同設備工事会社は、さらに北九州市の取引先など2社に架空の工事を発注して工事費をバックさせる形で、同11年3月期から同16年3月期までの6年間に合計34億円の裏金を作った。
(2) 違法な受注工作
平成11年3月期から同15年3月期までの間、上記設備会社の元役員らが、全国の工事での住友金属の受注工作のために、上述の裏金のうち28億円を費やし、同15年3月期以降、その余の6億円を上記設備会社から住友金属に還流させて、住友金属が直接、受注工作に費やした。
その受注工作のやり方は以下のとおりである。
例えば、平成14年2月に初めて受注に成功した、佐賀県鳥栖市と4町(当時)による「鳥栖・三養基西部環境施設組合」発注のガス化溶融炉の場合、衆院議員元秘書の福岡県議や佐賀県議をして、発注者である鳥栖市長や建設地の旧中原町(現みやき町)長に住友金属への発注を働きかけた上で、同工事の指名競争入札の際には、非公表であった最低制限価格(54億5688万円)を発注者から聞き出し、その価格よりも僅かに高い54億6300万円で落札した。これらの受注工作の際、住友金属は、発注者や上記県議、あるいはそれらの周辺人物に多額の裏金を渡していたものと推論される。
住友金属は、このようなやり方で上記の34億円もの裏金を費やすことによって、全国各地での工事を落札・受注していたものである。
(3) 大阪国税局による追徴課税
住友金属は、大阪国税局から、平成11年3月期より同16年3月期までの6年間に約41億円の所得隠しを指摘され、そのうち上記34億円を「使途秘匿金」として認定され、重加算税を含めて約18億円を追徴課税(更正処分)させられた。これは、住友金属が上記34億円の支出先を明らかにしなかったため、大阪国税局から「使途秘匿金」と認定されたものである。
そして、住友金属は、上記処分に従って、平成17年8月4日までに、約18億円の全額を納付した。

2 損害
(1) 違法な受注工作に費やした裏金
支出先を明らかにできない支出は、言うまでもなく住友金属として支出する正当な理由が認められないものであり、この全額について住友金属が負担する義務を負っていなかったものである。本件のように違法な受注工作に使用されたものであるなら、この理はなおさらである。
にもかかわらず、34億円もの莫大な金銭を支出したのであるから、この金銭の全額が違法な支出による損害である。
(2) 「使途秘匿金」と認定されたことによって支出した税金
「使途秘匿金」として認定されると、その金銭は営業上の必要経費として認定されないので、通常の法人税として49.98%の税金が課せられるほか、40%の追徴法人税が追加課税され、さらに、その追加課税の地方税へのはね返りとして6.92%が課税される。従って、「使途秘匿金」との認定を受けることにより、支出額の96.90%に該当する税金(32億9460万円)を支払わなければならないことになる。
そして、住友金属は、上記支出先を意図的に明らかにせず、国税局による「使途秘匿金」の認定を受けるべく対応し、その結果「使途不明金」の認定を認めて上記税金を支払ったのであるから、その税金全額が違法な支出による損害となる。
(3) 合計
以上により、合計66億9460万円が住友金属の損害となった。

3 被告らの責任
(1) 受注工作(知っていた場合)
上記34億円が、受注工作のために府会議員等に支払ったのであれば、これは重大犯罪である贈賄(刑法198条)に該当する違法な行為である。
そして、34億円もの莫大な金銭の使途を、当時の社長や営業担当取締役が知らないということはあり得ないことである。
従って、上記使途を知りつつ、上記支出を認めた行為が取締役の善管注意義務に違反することは明白である。
(2) 受注工作(知らなかった場合)
仮に、当時の社長や営業担当取締役が上記34億円の使途を知らなかった場合、6年間にも渡ってこのような大金の支出の使途も分からなかったという点で、重大な過失が認められる。この見逃し自体に取締役の善管注意義務違反が認められる。
(3)  内部統制システム構築義務違反(知らなかった場合)
さらに、被告らが本件受注工作に加担していると評価できないとしても、被告らには以下の点において善管注意義務違反が認められる。
規模がある程度以上の会社においては、健全な会社経営を行なうため、目的とする事業の種類、性質等に応じて生じる各種のリスクの状況を正確に把握し、適切に制御すること、すなわちリスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特性に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することが必要である。取締役は、会社に対し、善管注意義務・忠実義務を負っているが(商法254条の3、商法254条3項、民法644条)、上記の内部統制システム構築義務は,この善管注意義務及び忠実義務の一内容をなすものというべきである(大阪地裁平成12年9月20日判タ1047号86頁〔大和銀行株主代表訴訟事件〕も同旨)。
平成18年5月施行の会社法においては、すべての大会社は、取締役の職務執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制の整備を義務づけているが(新会社法348条4項,362条5項,416条2項)、この法理は旧商法下の大会社に対しても当然にあてはまる。すなわち、旧商法下の大会社においても、重要な業務執行については、取締役会が決定することを要するから(商法260条2項)、会社経営の根幹に係わるリスク管理体制の大綱については、取締役会で決定することを要し、業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は、その大綱を踏まえ、担当する部門におけるリスク管理体制を具体的に決定するべき職務を負っている。この意味において、社長、副社長など取締役会の枢要な地位にある取締役及び当該業務担当取締役はもちろんのこと、他の取締役も取締役会の構成員として真に実効性ある内部統制システムを構築すべき義務を負っているというべきである。
被告らは、住友金属の取締役として、新規事業の営業に不正行為が介在することが多いという事実を認識するべきであったのであるから、本件のような違法営業がなされないような内部統制システムを整備する義務を有していたというべきである。
ところが、被告らは、取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反し、上記違法営業を防止するような実効性のある内部統制システムを構築することを漫然と怠っていた結果、本件違法営業の発生により住友金属に上記の損害をもたらしたものである。
(4) 使途秘匿金の認定の受け入れと納付行為
被告らは、本件34億円について、大阪国税局からの「使途秘匿金」との認定によって追徴課税を受けた際、その認定を争わずに追徴加算分の税金を全額納付した。
被告らは、国税局からの当該の指摘を受けて以降においても、取締役として権限に基づき、全面的な調査を行い或いはこれを行わせ、これらの支出先等を含む事実の全面的な解明を行うべきであった。
特に、使途秘匿金に基づく追徴課税は、企業が相手先を秘匿するような支出は、違法ないし不当な支出につながるものであり、それがひいては公正な取引を阻害することにもなるので、そのような支出を極力抑制するために、政策的に追加的な税負担を求めることとされたものである。仮に、本件34億円の支出が違法ないし不当なものでないのであれば、被告らは全面的な調査に基づき、住友金属の利益のために、「使途秘匿金」との認定を受けないように対応すべきであった。
にもかかわらず、「使途秘匿金」との認定をそのまま受け入れて承諾し、国税局から要求されるままに追徴課税に応じてしまったのであり、この点においても、被告らには、善管注意義務違反が認められる。
(5) 小括
よって、被告らは、会社法423条により、住友金属が被った上記損害について、連帯して損害賠償する義務を負う。

第3 価格カルテル問題
1 価格カルテルの締結及び課徴金の納付
(1) 平成13年9月頃から平成15年1月までの間、住友金属は、冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯の販売価格を上げるため、他5社(新日本製鉄、日新製鋼、JFEスチール、日本冶金工業、日本金属)と、価格カルテルを計4回に渡り締結した。
 住友金属を含む6社は、上記対象期間の1年半近くの間に、営業担当部長級及び営業担当課長級の会合を、約100回繰り返し、販売業者との価格引き上げ交渉の内容や、最低価格の設定について話し合いを行い、販売価格を重量1キロ当たり、10円若しくは20円引き上げることを合意した。そして、右合意に基づき、冷間圧延ステンレス鋼板の販売価格の引き上げに関する社内指示等を行って、これを実現するなどした。
(2) 平成15年12月、公正取引委員会は、住友金属を含む6社に対して排除勧告を行い、住友金属を含む6社は、応諾した。その結果、平成16年1月27日、公正取引委員会は、右勧告と同趣旨の審決(平成15年(勧)第33号)を行った。
(3) 平成17年3月9日、公正取引委員会は、住友金属を含む6社に対して、計67億7672万円の課徴金の納付を命じた。この内、住友金属が命じられた課徴金の額は、金9億7716万円であった。
(4) 住友金属は、平成17年3月30日の取締役会において、出席取締役全員の承認で、審判手続開始請求をすることなく右課徴金納付命令に応諾することを決め、これを支払った。

2 損害
(1) 平成17年6月29日開催の住友金属株主総会において、上記課徴金を支払ったとの報告がなされた。そして、右報告の際、住友金属は実際には違法行為を行っていないが他社が支払うので当社も支払った旨の説明がなされた。
(2) 価格カルテルを結んで不当な取引制限を行うことは独占取引法2条6項及び3条に違反する違法行為である。右、違法行為を行ったことによって住友金属が支払いを余儀なくされた課徴金は、同社の損害である。なお、仮に、違法行為を行っていないにも拘わらず課徴金を支払ったとすれば、右支払いは義務なき行為を行ったことにより、右支出が、住友金属に損害を与えたことになる。
 よって、いずれの場合にあっても、上記納付課徴金額金9億7716万円が損害となる。

3 被告らの責任
(1) 違法な価格カルテル締結に関する責任
 被告下妻は、上記違法な価格カルテルが締結された平成13年9月頃から平成15年1月までの間に、住友金属の代表取締役社長の地位にあり、業務執行全般について善管注意義務を負っていた。
 被告飯吉、被告天谷は、上記期間の担当取締役(鋼板・建材事業部長、若しくは、鋼板・建材カンパニー長)であった。被告末光は、上記期間、取締役、代表取締役副社長(法務担当)、コンプライアンス委員会委員長であった。
(2) 課徴金の支払いに関する責任
 仮に、違法な価格カルテルを締結した事実がない(と被告が主張する)場合においては、これに関して、公正取引委員会の上記排除勧告に応諾し、上記課徴金納付命令に従って課徴金の支払いを承認した責任が、各関与取締役にはある。
被告下妻、被告天谷、被告末光は、上記の応諾、及び課徴金の支払いを承認した。
(3) 上記課徴金支払いに基づく損害は、上記(1)、(2)のいずれの場合であっても、被告ら取締役が、独禁法違反の違法行為若しくは無用の課徴金の支出に加担し、叉は、これを防止すべき善管注意義務違反(上記内部統制システム構築義務違反を含む)により生じたものと評価できる。

第4 提訴請求
原告らは住友金属監査役に対して、平成18年4月5日付同月6日到達の内容証明郵便により、本件違法行為について取締役の責任を追及する訴訟を提起するよう請求した。しかし、訴外会社の監査役は平成18年6月5日付回答書で原告らに提訴しない旨を通知し、会社法847条3項所定の期間内に被告らを提訴しなかった。

第5 結論
 以上のとおりであり、原告らは被告らに対し、請求の趣旨記載の判決を求めて本件訴訟を提起する。
証拠方法
  口頭弁論において提出する。
附属書類
 1 商業登記簿謄本 1通
 2 訴訟委任状   4通
以上


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