実録−−住友商事株主総会   (file.2302)


 日時:一九九七年六月二七日 一〇時〜一二時五〇分
   場所:ホテル・ニューオオタニ  

 銅不正取引事件の発覚直後に開かれた昨年の株主総会は、「役員退職慰労金」に関する株主の質問をさえぎり、社員株主の「了解」「異議なし」の一斉唱和のなかでわずか三八分で終わった。そのために、株主からは総会決議の取消訴訟が提起され、また、銅不正取引事件では株主代表訴訟が提起された。

今年の総会では、銅不正取引の情報開示はなかったとはいえ、昨年は四〇回もあった社員株主の一斉唱和がなくなった。株主からの質問にも形式的には時間をかけて回答がなされた。所要時間は二時間五〇分に及んだ。これらの点で今年の総会は改善がみられた。

 以下では、冒頭に株主グループ(二八名)が提出した文書質問を掲げるとともに、総会当日の質疑応答の様子を出席者のメモによって再現してみよう。

<文書質問要旨>

第一 銅不正取引による巨額損失について
 1 巨額損失事件についての社内調査の体制と現在までの調査状況は?
 2 調査の遅延している原因は?
 3 社内調査の結果を公表しないのはなぜか?
 4 不正取引の原因について明らかになっているのはどの点か?
 5 非鉄金属部の不正取引防止のためのチェック体制は?
 6 九一年末ころロンドン金属取引所(LME)よりなされた警告は?
 7 九一年一二月ころなされた特命監査の理由、経緯、結果?
 8 浜中に対する住友商事としての民事責任の追及の有無?
 9 責任のない社員に対する賞与のカットの理由?

第二 決算書類について
 1 「事態解明後」実施予定の損失処理がなされた現在、解明できた内容は?
 2 銅不正取引の損失が年度決算では中間決算に比して増加している原因は?
 3 多年の銅不正取引について会計監査人からの指摘はなかったのか?
 4 有価証券の売却(九三九億円)は巨額損失の埋め合わせのためか?
 5 固定資産の売却(三七八億円)も巨額損失の埋合わせのためか?

第三 株主総会のもち方について
 1 昨年の株主総会についてどのような問題点があったか?
 2 株主総会の集中日開催を改める用意はないか?
 3 総会屋との関係を断ち切るためにどのような措置を講じてきたか?
 4 今後も社員株主の「了解」「異議なし」の一斉唱和を続けるのか?
 5 今年の総会に際してはどのようなリハーサルを行ったのか?
 6 議場内に記者席を設けるのでなく、モニター公開にとどめる理由は何か?
 7 社長以外の公平な議事運営ができる人を議長に選ぶ用意はないか?
 8 弁護士、公認会計士など専門家の代理出席を認めない理由は何か?

第四 退職慰労金について
 1 取締役の退職慰労金はどのような手続を経て決定しているか?
 2 取締役会で決定された額はいくらか?
 3 現時点での退職慰労金の支給は留保すべきではないか?
 4 山川・今村両取締役と秋山前社長への支給は調査結果を待つべきでは?
 5 役員報酬並びに退職慰労金の支給基準を総会に明らかにされたい。

第五 会社の経営方針について
 1 男女雇用均等の趣旨からして女性を役員に登用すべきではないか?
 2 海外取引にあたり人権、環境問題等についてチェックしているか?
 3 住友商事としての使途秘匿金の額と扱いはどうなっているか?
 4 住友商事による政治献金の政党、会派別の支出額とその目的?

<株主総会議事抄録>
 (宮原社長が議長となり午前一〇時開会。総務部より株主数、議決権数を報告)

 株主(森岡) 議事進行について動議がある。

 宮原社長 どのような動議か。

 株主(森岡) 総会に先立ち、株主より文書質問が出ていると思うが、質疑応答は一問一答形式でされることを提案する。長時間に及ぶと予想されるので、議長は着席されてはいかがか。モニターテレビがおかれながらそれを録音したりビデオに撮ったりできないということだが、録音・録画ができるようにすべきだ。社員株主による「了解」「異議なし」の一斉唱和を遠慮するよう求める。

 社長 反対多数とみて動議を却下する。

 (つづいて松岡常任監査役の説明、宮原社長及び米津副社長より営業報告書、貸借対称表、損益計算書の報告)

 
社長 銅地金取引について、大幅な損失となり株主の皆様には多大なご迷惑と心配をおかけし、お詫び申し上げる(役員一同、起立し低頭する)。市場リスク管理室の設置など管理体制を確立し、再発防止につとめる。株主資本は一五七〇億円減少、税引後の当期損失は一四八六億となった。

 野村専務 浜中の不正取引は一〇年にわたるが、損失は一九九〇年降に増大した。手口は簿外借入、未収入金の計上、架空のワラント取引など。損失総額は二八五二億円にのぼり、浜中の刑事訴訟が東京地裁で進行中である。私文書偽造、詐欺容疑など、浜中の行為は一切許容できない。米国で浜中の市場操作で損失が出たのは当社にも責任があるということで集団訴訟が起こされているが、当社はこのような主張は認めない。また、元取締役に対し株主代表訴訟が提起されているが、会社の立場からコメントすることは不適当と考える。英・米当局や司法当局の調査には全面協力する。再発防止のため担当者を強制的にローテーションするシステムをつくるとともに、市場リスク管理室を設置する。調査結果は米国での訴訟の関係から、内容の公表を差し控えざるを得ない場合がある。

文書質問への回答

 木村副社長 <銅取引問題について>現在六〇〜一〇〇人の体制で調査を進めているが、複雑で、相手の協力が得られず、思うように進んでいない。管理体制には意を尽くしていたが、浜中がそれをかいくぐる巧妙な手口を使うとは予想できなかった。

 <不正防止のチェック体制について>管理体制は適切であった。審査は取引事前の与信管理、経理は取引結果を計数的に把握、財務は入出金事務、預金・借入金の管理を行う、定期的に法令規則の遵守の検査を行っている。

 <LMEより警告があったことについて>九一年一二月初旬LMEより照会があったが、不審な点はなかったので、契約を誠実に履行する旨回答した。この照会は浜中の不正取引を示唆するものでも、当社の取引に警告を発するものでもなかった。

 <銅取引の特命監査について>九一年一二月の特命監査は取引相手の信用リスク、市場リスク、内部管理体制を中心に行ったもので、個別の取引をチェックする監査ではなかった。銅取引全般における改善点が指摘され実行された。浜中が巧妙な隠蔽工作に加え、改善処置が機能しないように画策したために、特命監査が不正取引発覚のきっかけとならなかったことはまことに遺憾。

 <社員の賞与カットについて>会社一丸となって痛みを分け合うために、組合員も圧倒的多数で承服した。

 <損失処理について>(省略)

 <会計監査人から不正取引の指摘について>会計監査人からは事態の発覚までご指摘をいただいたことはない。

 <株主総会に関する質問について>(省略)

 <退職慰労金について>役員退職金の算定基準に基づき社長が決定している。金額は退任取締役六名に対し一時金三億三千八百万円となているが、個別の支給内容については本人のプライバシーの関係から回答を差し控えたい。

 <退職金の保留提案について>退職金贈呈決議は留保すべきではないかとの質問だが、退職取締役のこれまでの貢献に対し支給することをご承認いただきたい。金額、時期については取締役会に一任いただきたい。

(その他の文書質問に対する回答は省略し、以下、議場での質疑応答を紹介)

 社長 次に出席株主より質問を受ける。

 株主(中嶋) 調査結果はいつ公表するのか。
 
野村専務 いずれその段階が来れば公表する。 

 株主(中嶋) どの段階か。裁判の結審時か。
 
野村 当局の捜査、英米の調査、それら全てを満たす段階がくれば公表する。

 株主(中嶋) LMEから照会があった理由は何か。取引が余りにも大量だったからではないか。
 
野村 LMEの本当の意図は分からないが、当社の契約履行についての照会以外のことは述べられ    ていない。

 株主(中嶋) 履行とは浜中の取引について履行できるかという意味か。
 
野村 LMEでの取引全てを指して聞いて来られたと思う。

 株主(中嶋) 特命監査は巨額損失があるから行われたのではないか。
 
野村 特段のきっかけはなく、あの当時の新しい動きのリスクについてやった。
 
社長 特に銅の問題だけでなく、大きなリスクの可能性一般について特命監査をした。その一つに    銅の問題があるということであった。

 株主(中嶋) 特命監査は一九八五年から今日まで何回行われたのか。
 
野村 特命捜査はこの一回だけだ。

(特命監査とチェック体制について質疑が続く)

 株主(羽生) 昨年の総会では会場からの動議に対し採決はなされなかった。今回冒頭の株主から   動議に対して起立によって採決したのはなぜか。総会の録音、撮影は断るとあるがなぜか。
 
社長 昨年の総会のことは本総会の目的外であるので意見は差し控えたい。
 
野村 ビデオ撮りは、万一の訴訟提起に対し正確な記録を残しておくためである。一般株主による    録画は必要ない。

 株主(柚岡) 私は前総会の決議取消訴訟の原告であり、また秋山氏以下に対する株主代表訴訟の    原告である。銅取引の調査結果について、宮原社長や米津副社長はマスコミに何度も、年    内(昨年)、1月、3月、あるいは総会までには明らかにすると言ってきた。今になって内    容の公表を差し控えると言う。複雑な操作で分からないといいながら、浜中一人の犯行で経    営陣の関与はなかったという結論を早々と出した。なぜそれが分かるのか。結論が先にあっ    たのではないか。
 
野村 浜中の刑事裁判で当社経営陣の関与はなかったということが明らかになっていると考える。

 株主(柚岡) 住商が浜中を告訴する前に関与はなかったと発表したではないか。百歩譲って浜中    一人にやられたとしても、取締役のあなた方は一〇年間も知らなかったという責任があるじ    ゃないか。眼がふし穴だったのか、田んぼの案山子だったのか。結果として大損したのは我    々の財産なのだ。取締役の皆さんは商法にいう善管注意義務と忠実義務に違反したのではな    いか。二八五二億円という小さな国の財政規模にも匹敵する金額、経営利益の六年半分、資    本金の一・七倍が消えた。株主資本は九六年三月末に六三〇〇億、これがこの三月には四八    〇〇億以下になっている。こういう事態に経営者の皆さんはどんな責任を取られるのか。
    六月一四日の日経で、宮原社長あなたは「豊富な自己資本があってよかったとしか言いよう    がない」と言っておられる。また、「浜中には全幅の信頼を置いていた」とも言っておられ    る。どういう感覚をしているの。これでは経営者として責任を果していないのではないか。
 
社長 貴重なご意見として賜っておく。

 株主(柚岡) 知らなかったことの責任はどうか。
 
社長 浜中によるきわめて巧妙な隠蔽工作があって、昨年六月まで発見できなかったことはまこと    に遺憾である。ただ当社は従来より管理体制には充分意を尽くしており、業界における比較    でも遜色はなかった。しかしながらこれだけの巨額な損失が発生したことはまぎれもない事    実であり、ご指摘のとおりである。道義的責任を痛感して秋山前会長以下担当の取締役が辞    任され、また残った取締役も報酬の減額を決議した。

 株主(柚岡) 住商には新しい有能な方がおられると思う。その方たちと交替したらどうか。秋山   前社長は最高責任者で、橋本副社長は業務を統括していた。銅取引を管理する立場であった。   山川、西海、今村、私はこの方たちを代表訴訟の対象にしている。
 
社長 難局を乗り越え再発防止に取組み、弊社の信用を回復するのが社長としての私の責任である   と考えている。

 (このあと退任取締役の責任と退職慰労金についてやりとりがある)

「浮利に走らず」の住友精神は空念仏か

 株主(OB) 私は住商のOBである。一度しかない生涯をこの会社にかけてよかったと誇りに思   っていた。ところが最近いろんな事件が公表され、誇りを傷つけられている。「確実を旨とし   浮利に走らず」という私たちが繰り返し復唱してきた住友の営業精神が、今回の銅事件により   残念ながら空念仏であったのではないかと思えるようになった。また、社会的問題のあるパチ   ンコカード業務をやることはどうなのか。
 
社長 会社一丸となって住友精神の原点に帰り、努力する。

 株主(桑島) 朝日監査法人との関係はどうなっているか。
 
重松常務 私共と特別の関係はないが、証券取引法に基づいて監査を依嘱している。

 株主(桑島)
 一〇年間、単なる数字合わせでなく、本当に会社の基本に及ぶ監査だったのか。
 
重松 一般的な規準に準拠してやっている。

取締役の報酬と退職慰労金の基準を明確にせよ

 株主(野町) 取締役の報酬を公開しないのはおかしい。報酬の基準を説明されたい。
 
野村 退職慰労金については、役員退職慰労金算定規準がある(「そんなことは分っている」の    声)。

 株主(野町) 算定規準と付属明細書は見た。取締役勤続一年は月額の四・五倍、二年、三年と上   がって、常務はさらに七五%増し、専務はさらに一五〇%増し、社長、会長と上がっていく。   橋本副社長には二億五千万円支給されたはずだがどうか。
 
社長 プライバシーの関係で回答は差し控える。

 株主(野町) 我々株主に経営を委託されている以上、我々の要求があればちゃんと開示する必要    がある。今回の件で役員報酬は下げたか。賞与は減額と聞いたが。
 
社長 役員報酬は四月より半年間減額している。

 株主(野町) 役員報酬の減額や賞与棚上げだけでなく、退職慰労金も少なくとも事件解決まで保    留すべきではないか。
 
社長 この件については回答ずみである。

退職慰労金の贈呈は承伏できない

 (以下、株主と社長との間で株主総会の持ち方や退職慰労金等についてやりとりが続き、第一、   二、三号議案がそれぞれ付議され、承認される)

 社長 第4号議案、退任取締役に退職慰労金贈呈の件を上程します。秋山、山川、今村、および津   田、寺内の5氏に対し退職慰労金を贈呈したく思う。

 株主(松丸) お腹がすいてきて申し訳ないが、この議案だけは承服できない。事件の発覚以来、   浜中一人の犯罪で役員の関与はなかったの一点張りだが、役員が浜中と共謀してやったのでな   くとも、善良な管理者としての注意義務をもってあたれば浜中の不正行為を防ぐことができた   にもかかわらず、それを怠ったのではないか。発覚した時点で関与がなかったなどと言えるは   ずがない。今の時点でも調査は終わっていない。英米の司法当局も調査は終わっていない。今   の時点では発表できないと言いながら、この事件に最も関与の深かったはずの山川、今村両氏   や秋山氏に退職慰労金を出していいのか。そこがなぜ今の時点で判断できるのか。関与があっ   たかなかったか調査中のはずではないか。
 
社長 見解の相違という以外にない。当社の取締役は商法上の義務を果たしていたと思う。

 (以下、役員間の長い相談をはさみ、しばらくやりとりが続き、第4号議案も可決・承認され、新役員を紹介して一二時五〇分終了)


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