日本航空に対し身障者雇用を求める株主代表訴訟

            訴       状 

          当事者の表示  別紙のとおり
          ・請求の趣旨・ 別紙のとおり
          ・請求の原因・ 別紙のとおり

          添   付   書   類 
一、委任状            各一通
一、商業登記簿謄本         一通

    平成一一年一二月一七日

               右原告ら訴訟代理人
                弁護士  川   人       博
                 同   大   森   秀   昭
                 同   阪   口   徳   雄
                 同   辻       公   雄
                 同   池   田   直   樹
                 同   松   丸       正

・東京地方裁判所・ 御 中

          ・当 事 者 の 表 示 ・

              原 告  右代表者 ・****   他2名・


        〔送達場所〕  右原告訴訟代理人
                弁護士  川   人       博
                他別紙代理人目録記載のとおり

              被 告  利   光   松   男
              被 告  近   藤       晃
              被 告  兼   子       勲

          請  求  の  趣  旨 

一、被告利光松男は訴外日本航空株式会社に対し、金五〇〇〇万円及び右金員
  に対する本訴状送達日の翌日から完済まで年五分の割合の金員を支払え。
二、被告近藤勲は訴外日本航空株式会社に対し、金三〇〇〇万円及び右金員に
  対する本訴状送達日の翌日から完済まで年五分の割合の金員を支払え。
三、被告兼子勲は訴外日本航空株式会社に対し、金三〇〇〇万円及び右金員に
  対する本訴状送達日の翌日から完済まで年五分の割合の金員を支払え。
四、訴訟費用は被告らの負担とする。
  との判決並びに仮執行宣言を求める。

          請  求  の  原  因 

・第一、当事者
  一、原告・
     原告らは、いずれも訴外日本航空株式会社(以下訴外会社という)の一
    〇〇〇株以上の株式を、本件につき後記の提訴請求書を右訴外会社監査役
    に対して送達する六ヵ月前より保有する株主である。
  ・二、被告・
     被告利光松男は、昭和五二年六月一日に取締役に就任し、平成二年六月
    一日より同七年五月三一日までの間、
     同近藤晃は、平成元年六月一日取締役に就任し、平成七年六月一日より
    同一〇年五月三一日までの間、
     同兼子勲は、平成三年六月一日取締役に就任し、平成一〇年六月一日よ
    り現在までの間、
    それぞれ右訴外会社の代表取締役社長の地位にいたものである。

・第二、訴外日本航空株式会社の障害者雇用率未達成による障害者雇用納付金の
    支払い
  一、障害者雇用促進法の法定雇用率・
     障害者の雇用の促進に関する法律(以下同法という)第一四条、同法施
    行令第九条は、常用労働者数五六人(平成一〇年六月三〇日までは六三人)
    以上を有する事業主に対し一〇〇分の一・八(平成一〇年六月三〇日まで
    は一〇〇分の一・六)の法定雇用率以上の障害者の雇用を義務づけている。
     右雇用率の算定にあたっては、障害者が就業することが困難と認められ
    る職種が相当の割合を占める業種については常用労働者総数から除外率相
    当数を除いて計算することになっており、航空運送業の訴外会社にあって
    は一〇〇分の二五が除外率となっている。
     また重度障害者は一人を二人に相当するものとしてダブルカウントされ
    ている。
  ・二、訴外日本航空の法定雇用率未達成による納付金の支払い・
     にも拘らず訴外会社は右法定雇用率を大きく下回る一〇〇分の一・二九
    の割合の障害者の雇用しかしていない。
     法定雇用率を未達成(平成一一年六月一日現在で一〇〇分の一・二九)
    であるために、訴外会社は平成一〇年度においては同法第二六条以下に基
    づき計四六二五万円の障害者雇用納付金を労働大臣(日本障害者雇用促進
    協会が徴収事務を実施)に納付している。
     また、平成元年度以降平成九年度までの間も、平成一〇年度に納付した
    四六二五万円を下回ることのない障害者雇用納付金を納付している。

・第三、被告らの障害者雇用促進法違背・善管注意義務違反・
     会社が企業活動を行う目的は企業利益の追及にある。しかし、その企業
    活動は社会の価値規範の基礎の下に行われなくてはならない。
     障害者等社会的弱者との共生、自然環境の保全、更には国際的人権等の
    企業に対し社会的に求められる責任の視点の下に企業活動を自律的、自発
    的に遂行することは企業としての経営判断以前の企業活動の存立基盤その
    ものの命題である。
     とりわけ障害者雇用は、労働者を雇用することによって企業活動を行う
    会社にとって社会的弱者との共生という点から最重要な課題であり、法に
    よる強制を待たずして自律的、自発的に社会的に求められる雇用義務を果
    たすべき責務がある。
     そのうえで同法は、「すべての事業主は、身体障害者又は知的障害者の
    雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責
    務を有するものであって、進んで身体障害者又は知的障害者の雇入れに努
    めなければならない」(同法第一〇条)とし、かつ法定雇用率を達成する
    ことは法的責務である旨定めており、法をもって事業主(企業)に対し障
    害者を少なくとも法定雇用率を達成するまで雇用することを義務づけてい
    る。
     右法定雇用率の制度は同法(当時は身体障害者雇用促進法)制定時の昭
    和三五年より、民間事業所について努力義務として定められていたが、同
    五一年の同法改正により法的義務となり、右雇用納付金制度が定められた。
     しかし、訴外会社は右の改正により右納付金制度が創設された昭和五一
    年以降約二〇年以上(努力義務が定められた昭和三五年からは四〇年近く)
    もの長き期間を経過した現在に至っても右雇用率を達成せず、右納付金の
    支払いを継続してきている。これは被告らがその取締役並びに代表取締役
    社長在任中にこれを是正することを怠ったことによるものである。右は、
    同法の定める障害者雇用率達成義務に反し公序に反する違法な行為であり、
    取締役としての善管注意義務に違背する行為である。

     一九七五年の国連「障害者の権利宣言」は、「障害者は、その障害の原
    因、特質および程度にかかわらず、同年齢の市民と同等の基本的権利を有
    する」(第三条)とし、第一一条は、障害者のいわば労働権として、障害
    者は「その能力に従い雇用されて保障を受け、または有益で生産的かつ報
    酬を受ける職業に従事し、労働組合に参加する権利」をうたっている。こ
    のように、障害者の働く権利は、国際人権の立場からも保障されなければ
    ならない基本的人権と位置付けられているのである。
     さらにILO第一五九号条約「職業リハビリテーションおよび雇用(障
    害者)に関する条約(一九八三年採択、九二年批准)」および同一六八号
    勧告は、右の障害者の基本的人権を国内的に保障していくため、加盟各国
    が障害者雇用対策のための具体的措置を取ることを義務づけ、障害者雇用
    促進法の改正につながった。

     以上のような国際的潮流からしても、日本を代表する国際的企業である
    被告において、かくも長期間、法定雇用率の未達成を放置し、雇用納付金
    を納め続けていることは、障害者の人権を軽視するものであって、個人の
    尊厳を遵守すべき公序に反し、到底許されるものではない。

・第四、被告らが代表取締役に在任中の障害者雇用納付金額・
     被告利光、同近藤が代表取締役社長に在任していた間に支払われた右納
    付金額は、少なくとも毎年三千万円を下回るものではない。また被告兼子
    が同じく就任したのち現在(平成一一年一二月末日)に至るまでに支払わ
    れた右納付金の額は六千万円を下回るものではない。
     被告利光松男(在任五年)については少なくも金一億五〇〇〇万円、
     同近藤晃(在任三年)については少なくも金九〇〇〇万円、
     同兼子勲(在任一年)については少なくも金七〇〇〇万円
    の各納付金の支払いがその在任期間に対応して支払われている。

・第五、被告らの善管注意義務違反による訴外会社の損害・
     被告らが代表取締役社長に在任中の納付金支払額は前記のとおりである。
     しかし、原告らが本訴において求めるものは、訴外会社の社長である被
    告兼子勲らその経営陣が、法定雇用率違背という違法状態を早期に是正し、
    企業活動の基礎である障害者雇用についての社会的・法的責任を果たすこ
    とである。
     また右違法状態は、被告らのみのそれを是正すべき善管注意義務違背に
    よって生じたものではなく、歴代並びに現在の取締役らの善管注意義務違
    背の集積の結果である。
     よって原告らが被告らに対し訴外会社への支払いを求める額は右納付金
    の全額ではなく、被告利光、同近藤については代表取締役社長に在任期間
    中、一年当り金一〇〇〇万円、被告兼子については金三〇〇〇万円の額に
    とどめるものである。

・第六、障害者雇用の現状とこの訴訟の意義・
     一九六〇年、障害者雇用促進法が制定された当時、衆議院社会労働委員
    会で、雇用率については逐年これが拡大改善をはかり可及的すみやかに法
    定するよう努めること、並びに身体障害者雇用率については三年以内の計
    画で完成することとの付帯決議がなされている。
     雇用率については平成一〇年七月一日以降、従前の一〇〇分の一・六か
    ら一〇〇分の一・八に微増した。しかし他の先進国(例えば、ドイツ・フ
    ランスでは六%、イギリスでは三%、オランダでは三〜七%である)と比
    較して、またわが国の障害者数と比較して未だ低きに失していることは明
    らかである。
     また右付帯決議にも拘らず、昭和五一年の同法の一部改正により民間企
    業に対して身体障害者の雇用が義務化されて二〇年以上(二三年間)が経
    過した平成一一年六月一日現在にあっても、一般の民間企業での実雇用率
    は法定雇用率の一〇〇分の一・八を大きく下回る一〇〇分の一・四九にし
    か達しておらず、未達成企業の割合は五五・三%の過半数にもなる。
     とりわけ一〇〇〇人以上の大企業でみると、実雇用率一〇〇分の一・五
    二、未達成企業の割合は七七%にもなっている。訴外会社での実雇用率は
    それをも大きく下回る一〇〇分の一・二九という有様である。
     このように訴外会社をはじめわが国の企業、とりわけ障害者雇用の面で
    も社会的責任の重い大企業が、障害者の法定雇用率につきそれを達成する
    のに必要な相当な期間をはるかに超えた約四〇年(民間企業への義務化か
    ら数えても二〇年以上)の長きに亘って未達成の違法状態を放置してきて
    いることは明らかである。
     その背景にあるのは、障害者を雇用するより右納付金を支払った方がま
    しだとの障害者の人権をないがしろにし、社会的・法的責任を逸脱した違
    法な判断である。
     原告らは、この訴訟によって、訴外会社の最高責任者である(であった)
    被告らに、障害者の雇用に努め法定雇用率を達成し、右納付金の支払いを
    回避すべき取締役としての善管注意義務があることを明らかにするもので
    ある。

・第七、提訴請求・
     原告らは平成一一年一〇月一日付内容証明郵便(同年一〇月四日送達)
    をもって訴外会社に対し、被告らに対し本件損害賠償請求の訴を提訴する
    よう請求したが、三〇日以内にその提訴がなかった。

・第八、結論・
     よって原告らは、被告利光松男に対しては金五〇〇〇万円、同近藤晃に
    対しては金三〇〇〇万円、同兼子勲に対しては金三〇〇〇万円の各損害賠
    償金、並びに右各金員に対する本訴状送達日の翌日から完済に至るまで民
    法所定年五分の割合による遅延損害金を訴外会社に対し支払うことを求め
    て、商法第二六七条に基づき本訴に及んだものである。


          代  理  人  目  録 

                弁護士  川   人       博
                弁護士  大   森   秀   昭
                弁護士  阪   口   徳   雄
                弁護士  辻       公   雄
                弁護士  松   丸       正
                弁護士  池   田   直   樹

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