神鋼株主代表訴訟の終結にあたって

2002年(平成14年)4月5日

株主オンブズマン
代   表  森  岡  孝  二
(関西大学 経済学部教授)
事務局長  阪  口  徳  雄
(弁 護 士)


1.(1) 神戸製鋼所の株主代表訴訟は、本日、亀高素吉元社長は認諾、その他の取締役は責任を認め、3.1億円を会社に返還することで合意した。

(2) 会社は、再発防止の為にコンプライアンス委員会を設置することでも合意した。

(3) 今回の裁判の最大の特徴は、裁判所が本裁判の終結にあたって、取締役の注意義務違反の内容について所見を発表したことである。 


2.(1) 株主オンブズマンは、今まで株主代表訴訟を企業改革の一つの手段として活用してきた。常務であった梶原廣氏らが刑事責任を問われたが、真の責任者は長年社長を続けていた亀高氏であるのに、その責任をとらなかった。これに対し、企業のトップの責任を求めて株主オンブズマンのメンバーが本件株主代表訴訟の提訴をすることになったのでそれを支援することに決定した。
 提訴から約2年、証拠調べを経るまでもなく、亀高氏が認諾(争わずして全責任を認めるという意味)することになったので、本裁判を終結することになった。
 企業のトップが認諾したケースは、株主代表訴訟ではハザマ(ゼネコンの賄賂事件、東京地裁)の件で存在するが、この件は実行行為者の認諾であった。実行行為者以外で認諾したケースは存在しない。はじめてである。
 利益供与事件で取締役が認諾したのも、はじめてである。

(2) 加古川製鉄所の古鉄の売却に際して、裏金が捻出された。これに関与した取締役は根上卓也外2名の取締役であった。同人らは会社の為に裏金を作りベネズエラに献金したので会社の為の支出であると弁明していた。しかし、それを証明する証拠は、一切提出されなかった。 この点について原告は、会社の為の裏金の支出、その流出であってもこれを違法であるとし、反論していた。おそらく裏金事件が株主代表訴訟で議論になり、実行行為者である取締役が法的責任を認めたこの点もはじめてである。

(3) 外部の者が参加した調査委員会を設置することは旧ミドリ十字事件についで2件目である。ただ今回の外部委員の選任は全く会社から独立した団体(近弁連)の推薦を受けた弁護士が外部委員となり、その者の主導のもとにコンプライアンス委員会を設置する点では、委員の選任の透明性、完全に独立した外部委員の選任という点では、新しいコンプライアンス委員会のあり方を検討する上で教訓となろう(外部委員といっても御用外部委員も多いからである)。


3.今回の株主代表訴訟の終結にあたっての最大の特徴は、裁判所の所見が公表されたことである。株主代表訴訟が認諾、和解で終結したとしても、今後の企業の利益供与等に関する法的基準が明確でないので、その点を明確にした点に新しい特徴がある。
裁判所の所見をまとめるとは次の点になる。

(1) 亀高氏は直接、利益供与、裏金捻出(流出)に関係しなかった。 しかし、専務・常務等の取締役がこれに関与しているのであるから「利益供与、裏金捻出を予想し、又はこれを容易に知り得ることが出来たのではないかと推認」したことである。一従業員の行為ではなく、取締役のメンバーが違法行為に関与しているケース等の場合は、原則的にトップは容易に知り得るということを事実上推認し、逆に企業のトップが容易に知り得なかったことを反証しない限り、トップの責任が認められることを明らかにしたことである。この点は、今後の企業の法令遵守対策に少なからず影響を与えるものと思われる。

(2) 裏金捻出
 被告らはベネズエラに1億6千万円を献金していたと主張していた。これに対し、裁判所の所見は、裏金の捻出行為は企業会計に反することのみならず、利益供与等の犯罪の原資になりやすく、これを「特に厳しく防止する」必要があり、その為の実効性のある内部統制システムの構築も義務付けたことである。我が国の企業において、会社の為の裏金が利益供与やヤミ献金等に費消されていることに対する強い警告を発したことになる。

(3) 上記の違法行為を防止する為には、実効性のある内部統制システムの構築及びそれを通じての社内監視等の義務を認めた点も、従前からどのような内部統制システムが必要かという点に議論があったが、「実効性ある」内部統制システムと断定したことにも、今後の企業に与える影響は大きいと思われる。

(4) 以上の上に立って、企業のトップとしての地位にありながら社内において行われた違法行為についてこれを「知らなかった」という弁明をするだけではその責任を免責できないとしたことである。企業のトップの知らなかったという弁明は通用せず、知らなかったとしても、企業のトップは監視義務違反が問われることを法的に明確にした点に、今後の企業の法的ガイドラインとなるものである。


4.株主オンブズマンは、結成から6年間多くの株主代表訴訟を支援してきた。株主代表訴訟は企業改革の主たる柱ではないが、市民の常識の視点から、ともすれば企業の論理に走りすぎる取締役の意識改革に今回の神鋼のように少しでも役立ち得るならば、今後も活用するつもりである。


5.(1) 昨年、株主代表訴訟を与党と民主党が一致して、最高額を制限する議員立法を何の審議もなく制定した。
しかし、報酬の6年分とすると、今回の亀高氏の場合は年間4000万円(推定)とすれば、最高2億4000万円前後となり、この議員立法を前提にすると、3億1000万円の請求が出来ないことになる。この事実だけでも、この議員立法が不当であるかが判明する。

(2) 更に、自民党と財界が社外取締役に株主代表訴訟を簡易却下させ、その判断が裁判所を拘束するかのごとき改悪案を検討していると報ぜられているが、時代に逆行する悪法である。もし、このような悪法が出来るならば、今回のごとき株主代表訴訟は監査役や社外取締役により簡易却下される可能性が大であるからである(現に、社外監査役も入った神鋼は株主の申立を却下した)。

(3) 政治家と業界の口利きが問題となっている。自民党は丸ごと財界から巨額の献金を受けて代表訴訟を改悪しようとするのは、最悪、最高の口利きである。直ちに、立法作業を中止すべきである。


6.最後に、この訴訟を現実に遂行して頂いた大阪、神戸弁護士会の民事暴力対策委員会の有志の弁護士の皆さんが長い間、献身的にかつボランティアで訴訟活動を遂行されたことに対し、本当に敬意を表明するものである。


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