2005年2月16日


NHK経営委員会
 委員長 石 原 邦 夫 殿
NHK
 会 長 橋 本 元 一 殿

大阪市北区西天満4丁目6番3号
第5大阪弁護士ビル3階
TEL06-6314-4192・FAX06-6314-4187
NPO法人株主オンブズマン
共同代表 辻  公 雄 (弁 護 士)
 同   上 脇 博 之 (憲法学者)
 同   木 村 陽 吉 (市   民)


報道番組に対する国会議員等の介入等に関する要請書



第1 要請の骨子
1 NHKの経営委員会のもとに「国会議員等の介入等に関する実態調査委員会(仮称)」を直ちに設置すること。

(1) 本委員会の任務は次のとおりとする。
 @ 2001年1月30日、教育テレビで放映された「問われる戦時性暴力」に関し、国会議員がどのように関与し、またNHKがそれに対してどのように対応したのか。そして、この放送番組のどの箇所がどのように変更されたのか、その理由等を調査し、その結果を明らかにすること。
 A 今回の番組の件だけでなく、この10年間において放送法3条に抵触又はその疑いのあった全てのケースについて、NHKに関係する職員らから調査し、その結果を明らかにすること。
 B 国会議員と政治部記者または企画部職員との間の癒着又はその疑いに関して調査を行い、その結果を明らかにすること。
 C 以上の調査結果をふまえて、国会議員とNHK職員に関する倫理規定を作ること。

(2) 本調査委員会の構成は外部委員による構成とすること。例えば弁護士2名、ジャーナリスト2名、学者2名、視聴者代表3名の構成とし、その人選にあたってNHKにとって都合の良い人物を選任するのではなく、日本弁護士連合会、日本ジャーナリスト協会、消費者団体等の推薦を受けた者によって構成される組織とすること。

(3) 上記調査結果を経営委員会に報告し、直ちにNHKのHPにおいて公表すること。


2 国会議員等の個別放送番組に対する放送法3条違反又はその疑いに関する公益通報(内部告発)受付・調査機関を経営委員会のもとに新設すること。
(1) 経営委員会直属のもとに次のような理念の通報受付・調査機関の理念を設置する。
「放送法3条は報道番組の根本使命であるので、関係者がこの違反又はその疑いがあると信じる場合について通報することは、NHKの全職員、関係者にとってNHKを守るために必要であり、その排除は視聴者に対する責務であること。」

(2) 本機関の受付事項は次のとおりとすること。
@ 個別報道に対する国会議員等の放送法3条に違反またはその疑いのある干渉、介入事項。
A 国会議員とNHK職員との癒着に関する事項
B 政府、政党、国会議員等に遠慮、配慮して過剰に自己規制していると思われる個別報道に対するNHKの上司からの指示、指揮事項
C その他、放送法3条に違反、抵触する事項

(3) 本受付・調査機関は、弁護士等の法律上も倫理上も通報者の秘密を守る者とすること。この人選については、NHKにとって都合の良い者ではなく、「放送と人権等権利に関する委員会機構」や日弁連等からの推薦を受けたNHKと何の利害関係のない中立、独立した弁護士を選任すること。

(4) 本通報受付を全職員、関係者に対し、次のとおり周知、徹底すること。
・ 職員の通報に対しては解雇等一切の不利益取扱いや損害賠償請求をしない。
・ 取引業者等の場合には取引停止等を含む不利益取扱いをしない。
・ 通報者(「犯人」)探しをしない。
    ・その他の関係者が通報者に対し事実上の不利益な取扱いをしている場合は、直ちにその是正措置をとる。

(5)  本受付・調査機関は、受付機関と調査機関とに分離することができるが、分離する場合には、受付機関が受理した通報及び相談は、すでに結論が公表されているものを除き(ただし再調査を求める場合を除く)、必ず調査機関に送付しなければならない。

(6)  本受付・調査機関又は調査機関が調査した結果、放送法3条に違反している場合、その疑いがある場合については、必ず公式の記者会見を行うなどして公表すると同時に、HP上でもその旨公表するものとする。


3 誠実な回答を求める
(1) 上記1の事項に対し本書面到達後1ヶ月以内にNHKが誠実な対応をせず、NHKの番組が放送法3条違反である疑いが晴れず且つNHKが視聴者を納得させる諸対策をとらない場合には、私たち株主オンブズマンは、NHKが受信契約上債務の本旨に従った報道がなされる可能性はないものと受けとめる。そして上記の是正措置が履行されるまでの間、契約者の立場から受信料の支払いを一時停止(同時履行の抗弁)することを含めて、あらゆる市民団体、市民運動と連携して、第1項の要求を実現するための必要な活動(訴訟も含む)を展開するつもりである。

(2) 上記2の事項について、本書面到達後1ヶ月以内に貴委員会ならびにNHKから回答がない場合または回答があっても誠意ある回答でない場合は、株主オンブズマンは多くの弁護士の協力を得て、「国会議員らのNHKの個別報道番組に対する介入等に関する通報(内部告発)受付窓口」を自ら設置する次第である。

(3) よって、誠実な文書回答を求めるものである。


第2 理由
1 放送番組に対する政治家の放送法3条違反の疑い

 (1) 取材を受けた側からの異議申立
 2001年1月30日、NHK教養番組「ETV2001シリーズ『戦争をどう裁くか』第2回『問われる戦時性暴力』」が報道された。
 これについて、取材を受けた「戦争と女性の暴力」日本ネットワーク(代表西野瑠美子外1名)は、NHK及び取材会社であった潟hキュメンタリー・ジャパン等に対し、一方的に取材内容が改変されたとして東京地方裁判所に訴訟を提起していた(平成13年(ワ)第15454号損害賠償請求事件)。一審判決は、NHKに対しては編集権の範囲内としてその請求を棄却したが、子会社に対しては取材経過と報道番組が違っているとして100万円の慰謝料を認めた(東京地裁民事5部・平成16年3月24日判決。現在高裁に係属中)。
 他方、番組の出演者である米山リサカリフォルニア大学準教授は、番組の改変によって研究者としての権利が侵害されたとして、放送と人権等権利に関する委員会(BRC)に救済の申立をした。BRCは、2003年3月31日、「NHKの編集は行き過ぎであり、申立人に人格権に対する配慮を欠き、放送倫理に違反する結果を招いた。」とする決定を出した(http://www.bro.gr.jp/kettei/s-index.html を参照)。

 (2) 担当したプロデューサーからの内部告発
 長井暁チーフプロデューサーは、2004年12月9日、NHKコンプライアンス通報制度に基づき、外部窓口である弁護士事務所に通報した。同年12月17日、推進室から「調査することになった」との回答があった。
しかし本年1月6日、外部通報窓口の弁護士から、「野島さん、松尾さん、伊東さんにヒアリングを申し込んだが、現在裁判で係争中なのでヒアリングは拒否された。」との連絡があった。
 同年1月13日、長井チーフプロデューサーは記者会見をして、本件番組に対し次のとおり政治家からの介入があったことや、報道前に改変されたことを明らかにした。
@ 2001年1月29日の数日前、NHKの国会対策の職員が中川さんに呼び出され、相当激しく番組内容を批判され、放送をやめろというようなことを言われた。
A 同年1月29日、野嶋担当局長(現理事)と放送現場の総責任者である松尾放送総局長らが中川、安倍さんのところに説明に行った。
B 同年1月29日夜、野島、松尾らが入った形で異例の試写会が行われた。
 『この段階というのはオフライン編集というのをアップした段階のテープでありまして、通常はこういう者を番組制作局長や、ましてや総局長、総合企画室の担当局長が見るということはまずあり得ないことだったわけです』『その後、議論があって、番組の大幅な作り替えがなされた。44分だった番組は異例の43分という形で放送されることになりました。それまでに番組の議論とは、番組論に基づく議論とは、まったく異なる作り替えを命じられたということでありまして、これは中川、安倍両氏の意向を反映する形、彼らの了解を得るための作り替えであったことはもう、間違いのない、明白な事実であろうと思っています。』と述べている。
 この結果、以下のような改変がなされた。
・ 「女性国際戦犯法廷」が、日本軍による強姦や慰安婦制度が「人道に対する罪」を構成すると認定し、日本国と昭和天皇に責任があるとした部分を全面的にカットする。
・ スタジオの出演者であるカリフォルニア大学の米山リサ準教授の話の部分を数カ所でカットする。
・ 「女性国際戦犯法廷」に反対の立場をとる日本大学の秦郁彦教授のインタビューを大幅に追加する。
C 1月30日も同様に松尾放送総局長から制作現場に直接次の3点をカットする指示が出た。
  その3点とは、
・ 中国人被害者の紹介と証言
・ 東チモール慰安所の紹介と元慰安婦の証言
・ 自らが体験した慰安所や強姦についての元日本兵士の証言であった。
『これについては現場の責任者である教養番組部長も、担当のチーフプロデューサーも、デスクであった私も全員反対いたしまして、何とか3分のカットと言うことを思いとどまってほしいということで、松尾放送総局長に何度も働きかけを致しましたが、これはまったく現場の意向を無視する形で、3分のカットを業務命令として命じられたということが事実であります。』

(3) NHKのコンプライアンス推進室の調査
@ 上記担当者の記者会見に対し、NHKは、2005年1月13日、関根放送局長の「自民党の安倍、中川両氏から政治的圧力を受けて番組の内容が変更された事実はない」旨の見解を発表した。
A そして、2005年1月19日、裁判中のためにヒアリングを拒否したはずの者が自ら釈明したいとして申出があったのでヒアリングができたとして、HNKのコンプライアンス推進室の調査結果が公表された。
  この調査の結果によると、
 中川氏からの番組放送中止の求めの有無について
 ・ 松尾氏、野島氏のいずれについても、本件番組の放送に先立って、中川氏と面談等をした事実は認められない。
 ・ 念のため伊東氏についても中川氏と事前に面談等をした有無を確認したが、そうした事実は認められなかった。
安倍氏からの番組放送中止の求めの有無について
 ・ 松尾氏、野島氏について、本件番組の放送前である1月29日ころに安倍氏と面談していた事実が認められた。
 ・ 松尾氏、野島氏の面談の目的は、協会の予算及び事業計画を説明するためであった。
 ・ この時、松尾氏は、当時本件番組及び本件番組で取り上げる予定の「女性国際戦犯法廷」に関し、国会議員の間で様々な議論があることを認識していたので、この機会に安倍氏にも本件番組について説明しておこうと思い、番組の趣旨について概略説明をした。
 ・ この説明に際して、まだ編集途中であった本件番組の内容について、安倍氏は全く認知していなかった。
 ・ 安倍氏は概略の説明を受けた上で「番組は公平・中立であるべきだ」との感想を述べた。
B その記者会見上、関根放送局長は、国会議員に事前に説明(お伺い)をたてるのは通常の業務の範囲内であると答弁した。


2 NHKのコンプライアンス通報規定とその推進室の調査の根本的欠陥
(1) NHKのコンプライアンス通報規定の制度上の欠陥
@ 受付窓口の欠陥
 職員等の内部通報受付窓口は総務部長が室長である業務相談室である。また外部通報窓口はNHKの顧問弁護士事務所である。
このうち、最も問題なのは、外部通報窓口である。顧問弁護士はNHKに対して忠実義務を負っている。他方で通報者の秘密を守ると言ってもそれは不可能なことである。NHKの顧問弁護士としての忠実義務に従うなら通報者の秘密をNHKに開示せざるを得ず、反対に、通報者の秘密を守るならNHKへの顧問弁護士としての忠実義務に違反するからである。まして、本件の場合、外部通報窓口の弁護士は女性団体との裁判においてNHKを擁護していた弁護士なのである。このような受付窓口では、今回のような問題に対してはそもそも健全に機能しない制度設計となっていると云わざるを得ない。
A コンプライアンス推進室の欠陥
 今回NHK内部で調査したのはコンプライアンス推進室であり、その責任者は宮下宣裕理事(昭和43年4月NHK入社)であった。松尾武放送総局長は昭和37年NHK入社、平成9年に理事、平成11年に専務理事、放送総局長に就任した者である。同局長は調査担当者の同理事から見れば先輩にあたる。伊東律子も昭和41年NHK入社、平成元年に番組制作局長になり、平成13年にNHK理事として就任している。この被調査者も先輩にあたる。また、野島直樹理事(昭和44年NHK入社)はわずか1年だけの後輩である。
 NHKのごとき縦社会の中で、後輩が先輩や1年後輩の元理事らから真実を聞き出すことはおよそ不可能である。彼らが自己の都合の良い弁明をした時に、反対証拠を並べてきびしく調査をすることなどおよそ不可能であることは誰にでもわかることである。NHKコンプライアンス推進室の調査はいわば仲間同士の調査であり、馴れ合い調査と云っても過言ではないからである。仮にそうでなくても、このような仲間同士の調査であるとの批判に反論できるだけの制度設計にはなっていないのである。
 とりわけ本件の場合、海老沢勝二氏が理事に就任してから「政治との癒着」がひどくなったとして告発されているのであるから、海老沢現会長の責任に及ぶ可能性のある本件通報を宮下理事らが調査することはそもそも制度的に不可能であったと思われる。

(2) コンプライアンス推進室の調査の内容上の欠陥
 コンプライアンス推進室の調査は前記のとおり制度面で欠陥を有しているが、その調査の内容面から見ても次のとおりの重大な欠陥があった。
 第1に、1月29日、野島氏らが安倍議員に本件番組をどのように説明したのか調査されていない。しかし、1月16日の「サンデープロジェクト」によると、安倍議員は、「非常にバランスのとれた番組になっている。いろんな議論があってそういう番組になっていますのでNHKの番組として問題はありませんという説明だった。」と述べている。もし、NHKの野島氏らが安倍議員に問題がないと説明したのなら、何故1月29日から30日にかけて前記のとおり大幅に改変したのか、全く不可解であり、改変の理由が明確でない。
 第2に、中川議員との面談内容について、コンプライアンス推進室は、松尾氏、野島氏、伊東氏の3人からヒアリングを行い、事前に面談したことはないという結論に結びつけている。
 しかし、1月26日、普段は番組内容にタッチしない松尾放送総局長や伊東番組局長も入って「粗編討写」が行われ、松尾総局長から、「一方的なので違う立場の人間も入れてバランスをとるように」との指示があった。その結果、従軍慰安婦問題に批判的な日大の秦郁彦教授のインタビューを追加することとなった(1月28日にインタビューが行われた)。
 長井チーフプロデューサーは、「1月29日の数日前に国会対策の職員が中川さんに呼び出され、相当激しく番組内容を批判され放送をやめろと言われた」と告発している。
 今回のNHKの推進室の被調査者は、松尾放送総局長、野島理事(国会対策担当)、伊東番組局長、吉田教養番組部長、永田浩三チーフプロデューサーの5人だけである。中川議員に1月30日の報道前にあれこれ言われた者には上記5名以外にも例えば総合企画室の職員や政治部の記者が含まれている可能性もある。NHKの今回の調査で、中川議員と松尾氏が面談したのがたとえ2月2日であったとしても、それはNHKの職員がそれ以前に呼び出されたことを否定するものではない。しかし、この点の調査が全くなされていない。
 第3に、1月26日、1月29日、1月30日の大幅改変について、松尾氏らが現場の人々に対しどのような理由でどのように発言して改変させたのか、それら現場の人々からの聞き取りが一切なされていない。
 さらに、圧力を受けて変更したのではないとしながら、どのような部分がどのように修正されたのか、その内容は一切明らかにされていない。
 第4に、そもそも予算の説明のためと言いながら、何故報道局長が同行して安倍国会議員に番組内容を説明するのか、視聴者から見ればおよそ理解できるものではない。内容的に偏頗な調査である。

(3) 政府、与党等、権力を持つ者へのNHK幹部の過剰な自己規制
@ 長井チーフプロデューサーによると、2001年9月16日、NHKスペシャル「狂牛病、感染はなぜ拡大したのか」が報道され、非常に評判が良かったので「あなたのアンコール」で再放送することが決まっていたが、自民党の農林部会でこの番組に対する批判が出て、当時の関根報道局長がこの放送をつぶしたことも明らかにされた。
A 2003年5月12日放送予定の「クローズアップ現代・終わらない戦争」が放送5日前に突然、諸星衛理事から放送中止命令が出された。この番組は通常の番組制作の手順で進められ、バクダッド市民が町を自由に歩けない、戦死した市民の遺体を庭に埋める病院の悲惨な実像、行方不明の家族を捜す市民の悲しさ等が外国のカメラマンによって撮影されたものであった。中止命令の理由は、「NHKの取材したものでなければ使わない」「外部の映像を使うくらいなら放送しない方がよい」という理由であったという(「日本の組織ジャーナリズム」56頁・川崎泰資 外1名)。これも政府、国会議員の介入があったのか、それとも諸星理事らの過剰な「自己規制」の結果なのか、その真実の解明が求められる。

(4) 国会議員とNHK記者との異常な癒着
 国会議員と政治部の記者の癒着も問題となっている。国会議員担当の政治部の記者がその国会議員の諸活動を応援しているという現実も指摘されている。
 かつて、森首相の2000年5月26日付神の国発言の釈明記者会見に際し、NHKの記者が指南書を作った件が問題となった。その実名も報道されている。しかし、NHKはこれを全く調査していない。NHKの政治部の記者が国会議員の指南をしているようではNHKの放送番組を信用することはできない。仮に、政府や国会議員担当の政治部の記者が癒着しているとすれば、そこから提供される情報は政府、国会議員から許される範囲での報道でしかないからである。このような記者が今までNHKのニュースの取材をしているというだけでもニュース報道の信用性が喪失する重大な問題であるのに、何ら解明されていない。このような記者が今でも存在していること自体がNHKの報道の公正さを喪失させている。直ちに懲戒解雇すべきである。

(5) 視聴者を納得させる調査が必要である
 以上のとおり、コンプライアンス推進室の調査等が視聴者を納得させるものでない以上、法的に会長等の罷免権を有している経営委員会の主導のもと、今回の問題だけでなく上記の過剰な自己規制や癒着問題を外部委員により調査させることが必要である。
 経営委員会がNHKの理事会の御用機関になっていては本来の役割を果たしていないことになる。NHKの常識が世間の常識に合致せず、あれこれ説明すればするほど視聴者からの不信を招くばかりである。その点で、申立の骨子のとおりの外部委員会による調査委員会を早急に設置して、NHKの政治家に対する介入、自己規制、癒着等について調査し、視聴者に対して納得の行く報告をする必要性がある。


3 放送法3条に違反するNHKの放送は受信契約違反である
(1) NHKへの受信事業の支払いは契約によって発生するものである
放送法32条は、受信設備を設置した者はNHKとその放送の受信についての契約をしなければならないと定めている。しかし、この法律によって契約の締結を公法上義務づけられていても、NHKへ受信料の支払義務が生じるわけではない。また、当然に私法上契約があると擬制することにもならない。あくまでもNHKとの間の受信契約を締結して初めて受信料の支払義務が発生するのである。即ち、受信者のNHKへの申込みという行為があって初めて成立するのである。この点、「契約」という行為を介さず、税や賦課金のように公権力が一方的に「徴収」できるものと同一視できない。
 なお、平成12年12月8日の旧郵政省時代の電波監理審議会(842回)の議事要旨によると、日本放送協会の受信規約について、当時の郵政省は、消費者契約法(平成12年法律第61号)が新に制定されたので平成13年4月1日からは受信契約は同法の適用があることを確認している。
従って、受信契約は消費者契約法の適用がある私法上の有償、双務契約でもある。NHKが放送番組を視聴者に提供すべき債務を負うのに対し、視聴者が受信料を支払うという有償の双務契約であり、契約法の一般法理が適用されることになる。契約法ならびに消費者契約法の適用がある以上、解約することもできるのは当然である(民法540条以下、消費者契約法4条)。

(2) NHKの債務に重要な瑕疵(欠陥)があれば同時履行の抗弁権を理由に受信料の支払を一時留保することは認められる
@ NHKが受信者に提供すべき債務は放送というサービスである。その債務は報道番組がどんな内容の報道であってもよいということにはならない。放送法3条に違反する報道番組を提供してはならない。放送法3条に違反する報道番組は受信契約の最も重要な事項に該当する。それはNHK等の公共電波を利用する者の責務であるからである。
特定の者から干渉、介入された報道番組に瑕疵(欠陥)があるということは、NHKが視聴者に提供すべき債務の根幹部分に瑕疵(欠陥)があるということになる。このように、NHKが受信者に提供すべき債務に瑕疵(欠陥)がある以上、受信者も受信料を拒絶できる(同時履行の抗弁権)と解するのは、一般の有償、双務契約ならびに消費者契約法の趣旨から見て当然である。
A NHKの放送法3条に違反した報道だけでなく、政府、与党、国会議員に過度に自己規制した報道番組も債務の本旨に従った履行ではない。過去にこのような放送が行われていた場合は、瑕疵(欠陥)なき報道番組を放送するよう、すなわち債務の本旨に従った履行請求権があると解される。過去に瑕疵ある報道を行った蓋然性が高く、又その瑕疵ある報道番組についてNHK内部で調査してもその原因について自らの責任を否定している以上、世間の常識で判断すれば、今後も同種の報道がなされる危険性が高いといわざるを得ない。
B このような場合、受信契約者は、その危険性が解消されるまでの間、「不安の抗弁権(=同時履行の抗弁権の一種)」を理由に受信料の支払いを一時保留することも認められると解される。
(例えて言えば、継続的に国産の牛肉を販売する契約が成立している場合に、供給者側が国産の牛肉でない疑いのある肉を供給してきた。このとき消費者がその肉の購入経過等の調査要求を出したが、納得する形で情報が開示されない場合には、将来も同様の疑いのある牛肉が搬送されてくることを理由に代金の支払いを一時保留するのと同じ法倫理である。)
 従って、今回の政治家の介入問題等について、外部調査委員会による調査を履行せず、前記のとおり内部調査だけで事足りるとすることに固執する場合には、それの履行を求めて受信料を一時保留する要求は目的においても正当であり、「一時保留」である以上、手段においても相当であり且つ社会的にも妥当であると思われる。


4 視聴者を納得させる制度の設置を要求する
(1) 憲法21条1項は「言論、出版その他一切の表現の自由はこれを保障する。」と規定し、同2項前段は「検閲はこれをしてはならない」と定め、これを受けて、放送法3条は、「放送番組は法律に定める権限に基づく場合でなければ何人からも干渉され又規律されることがない」と定めている。
 NHKの放送番組は何人からも干渉されてはならないのであり、干渉された場合はそれを断固ある決意で排除するのが、NHKの視聴者に対する責務である。
 このような放送の根本に関係する問題についての内部告発の窓口ならびにその調査者は、NHKの内部の人間ではなくNHKから独立した外部の人間が担当すべきである。よって、次のとおりNHKに要求する。

(2) NHKの経営委員会のもとに「国会議員等の介入等に関する実態調査委員会(仮称)」を直ちに設立すること。
@ 本委員会の任務は次のとおりとする。
a.2001年1月30日、教育テレビで放映された「問われる戦時性暴力」に関し、国会議員がどのように関与し、またNHKがそれに対してどのように対応したのか。そして、この放送番組のどの箇所がどのように変更されたのか等を調査し、その結果を明らかにすること。
b.今回の番組の件だけでなく、この10年間に、放送法3条に抵触するもの又はその恐れのあった全てのケースについて、NHKに関係する職員ら及び国会議員らから調査し、その結果を明らかにすること。
c.国会議員と政治部記者または国会議員担当者との間の癒着又はその恐れに関して調査し行い、その結果を明らかにすること。
A 本調査委員会の構成は外部委員による構成とすること。例えば弁護士2名、ジャーナリスト2名、学者2名、視聴者代表3名の構成とする等、その人選にあたっては、NHKにとって都合の良い人物を選任するのではなく、日本弁護士連合会、日本ジャーナリスト協会、消費者団体等の推薦を受けた者によって構成される組織とすること。
B 上記調査結果を経営委員会に報告し、直ちにNHKのHPにおいて公表すること。

(3) NHKの「国会議員の介入等に関する通報(内部告発)」については、現行の制度とは別に次のとおりの通報制度を作ることを求める。
 ・ 国会議員等らの個別放送番組に対する放送法3条違反又はその疑いに関する公益通報(内部告発)受付・調査機関を経営委員会直轄のもとに新設すること。
@ 通報受付・調査機関の理念は次のとおりとすること。
  「放送法3条は報道番組の根本使命であるので、関係者がこの違反又はその疑いがあると信じる場合について通報することはNHKの全職員、関係者にとってNHKを守るために必要であり、その排除は視聴者に対する責務であること。」
A 本機関の受付事項は次のとおりとすること。
 ・ 個別報道に対する国会議員等の放送法3条に違反またはその疑いのある干渉、介入事項。
 ・ 国会議員とNHKの職員との癒着に関する事項。
 ・ 政府、政党、国会議員等に遠慮、配慮して自己規制していると思われる個別報道に対するNHKの上司からの指示、指揮事項。
 ・ その他、放送法3条に違反、抵触する事項
B 本受付・調査機関は、弁護士等の法律上も倫理上も通報者の秘密を守る者とすること。この人選については、NHKにとって都合の良い者ではなく、「放送と人権等権利に関する委員会機構」や日弁連等からの推薦を受けたNHKと何の利害関係のない中立、独立した弁護士を選任すること。 C 本通報受付を全職員、関係者に対し、次のとおり周知、徹底すること。
  ・ 職員である場合には、内部機関に対する通報であっても解雇等一切の不利益取扱いや損害賠償請求をしない。
 ・ 取引業者等の場合には取引停止等を含む不利益取扱いをしない。
 ・ 通報者(「犯人」)探しをしない。
 ・ その他の関係者が通報者に対し事実上の不利益な取扱いをしている場合は、直ちにその是正措置をとる。
D 本受付・調査機関は、受付機関と調査機関とに分離することができるが、その場合、受付機関が受理した通報及び相談は、すでに結論が出ているものを除き(ただし再調査を求める場合を除く)、必ず調査機関に送付しなければならない。
E 本受付・調査機関又は調査機関が調査した結果、放送法3条に違反又はその疑いがある場合については、必ず公式の記者会見を行うなどして公表すると同時に、HP上でもその旨公表するものとする。


5 私たちはNHKが変わることを願っている。
 今、NHKは大きな曲がり角に来ていると思われる。長期にわたる従業員の多額の受信料横領事件に見られたNHKコンプライアンス体制の不備、欠如。それに端を発して露見した経営トップの鈍感な対応。それに反発した視聴者による受信料不払件数の増加。さらに、上記政治家の放送番組への介入疑惑行為。このような中で、不祥事を放置し、政治家の介入を許した者たちがいくら説明しても、与党国会議員の納得は得られたとしても世間の納得は得られるものではない。NHKの今の常識は世間の常識ではない。
 NHKの放送番組には良識ある番組も少なくなく、私たちはNHKの役割に期待しているものである。そしてまた、厳正な立場で番組の制作にあたっている記者、プロデューサー、職員が多数いることを知っている。
 早期に経営委員会が主導し、NHKのこの未曾有の危機を救済し、受信者を納得させる措置をとられるよう切に要望する。


6 NHKが自浄能力を発揮することを願う
 私たちは、今回の問題はNHKの自浄能力により解決されることを望んでいる。
 しかし、本書面到達後1ヶ月以内に何らの回答がない場合、またはあっても誠意ある回答がない場合には、NHKに自浄作用能力がないものと判断せざるを得ない。私たちはやむを得ず上記要請の骨子第3項の記載のとおり動かざるを得ない。放送法3条に違反する国会議員等の介入、過剰な自己規制、国会議員との癒着問題を放置してNHKの報道番組を信頼することができないからである。
 とりわけ、NHKの提供するサービスの根幹にかかわる番組に瑕疵(欠陥)があるか又は瑕疵(欠陥)がある疑いがきわめて高く、しかもその不信を取り除く誠意ある対応がNHK側にない場合には、今後、放送法3条違反に抵触する報道がなされる危険性があると疑うのは合理的理由がある。
 NHKとの継続的受信契約を締結している視聴者にとって、有償、双務契約の性質ならびに消費者契約法4条の趣旨からみて、受信料の支払いを一時保留すること(いわゆる不安の抗弁権=同時履行の抗弁権の一種である)も前記のとおり正当化されうるものと解される。NHKが自浄作用を発揮して「不安」を除去することを求める次第である。そのためにはあらゆる市民団体、市民運動と連携し、NHKとの契約者の立場から前記骨子1項の実現を目指し様々な活動(訴訟も含む)を展開するつもりである。
 さらに、NHK内部に前記骨子2項のとおりの通報制度を自ら作らない場合には、私たちがその受け皿を作ることを決定している。その内容の骨子はほぼ次のとおりである。




NHKの放送に対する国会議員からの介入等に関する
通報(内部告発)受付センター(仮)について


1 当センターの活動はほぼ次のとおりである。
(1) NHK職員、その他関係者からの以下の通報を受付いたします。
@ NHKの個別放送に関して放送法3条に違反し国会議員から介入又は干渉された事実(疑いのある事実を含む)
A 国会議員とNHK職員との癒着またはその疑いがある事実(疑いのある事実を含む)
B 同法の趣旨に実質上反してNHK自らが過剰に自己規制している事実(疑いのある事実を含む)
について、NHK職員、その他関係者から通報を受け、その通報者の氏名を含む個人情報を保護しながら、その問題に応じて通報者に必要な助言をする。
(2) 通報者の同意と承諾のもとに、上記行為の防止と是正措置に必要な活動を行う。
(3) その他相談を受けた場合、その相談に対して適切な助言を行います。


2 通報を受付けする者
 通報者の秘密を守る義務が法律上も倫理上もある弁護士があたる。


3 目的
(1) 本センターの活動はNHKを告発することではなく、NHKに対する国会議員等の報道に関する介入、干渉を防止し、放送法3条を守ることにある。
(2) NHKの幹部、職員と国会議員との不正常な癒着を防止する。
(3) NHK職員がもし国会議員から介入、干渉を受けたとき、本センターの存在を理由に拒否できる弁明材料に使ってもらえる。つまり、NHK職員がもし国会議員から介入、干渉を受けたとき、「いつ何時誰がこのセンターに告発するかわからないので、あまり個別番組について発言しないほうがいいのではないですか」とやんわり拒否できる。
(4) NHKが国会議員及びその関係者からの干渉及び規制を恐れて、NHK自らが自己規制していることのないようNHKの報道の自由を守ることに寄与する。
(5) その他是正措置を講じ、視聴者の信頼を取り戻すために尽力する。


4 相談費用
   一切無料


5 相談方法
(1) 通報者は通報事実を裏付けする資料、証拠を添えて通報又は相談を行うことができる。
(2) 通報者は、手紙、FAX、メールにより通報又は相談を行うことができる。
(3) 通報者は、氏名などを明らかにして通報又は相談することが望ましいが、事情によっては匿名でそれを行うことを認める。


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