アメリカ調査レポート
 
       ー株主総会とコーポレートガバナンスー          

                            アメリカ株主総会とコーポレートガバナンス調査団
                             株主オンブズマン・高島屋株主代表訴訟弁護団
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目次                          

第1 はじめに(関西大学教授 森岡孝二) 
                            
第2 株主総会レポート
一 ARCO(アルコ)石油会社の株主総会 について(弁護士 阪口徳雄)      
二 ARCO(アルコ)に対する株主提案 団体との懇談(弁護士 池田直樹)      
三 AMGEN(アムゼン)バイオ テクノロジィ会社の株主総会についてて(弁護士 吉田之計

第3 コーポレート・ガバナンスについて
一 カルパースの株主活動について(弁護士 阪口徳雄)      
二 コーポレート・ガバナンスと 日米株主意識の違い(弁護士 新 原 一 世)         
三 アメリカ個人投資家私見(通訳 小林まさみ)       

第4 日本の株主総会の改革について
総会屋を根絶するために(弁護士 山田康男)

第5 企業に対する株主の責任追及
一 アメリカにおける会社の株式投資者 に対する責任(弁護士 木村圭二郎)
二 証券被害とクラスアクション(弁護士 松丸 正)

第6 調査団に同行して(通訳 小林まさみ)

編集後記(弁護士 阪口徳雄)



第1 はじめに

関西大学教授 森 岡 孝 二

 株主オンブズマンと高島屋株主代表訴訟弁護団はアメリカの株主総会を見学し、あわせてコーポレート・ガバナンスの現状を調査するために、ロサンゼルスの二つの会社、ロサンゼルスとサンフランシスコの三つの法律事務所、サクラメントの CalPERS本部を訪問した。今回の調査の参加メンバー、日程、訪問先、主要調査項目は次のとおりであった。(文責:森岡)

〈参加メンバー〉  山田康男、新原一世、吉田之計、木村圭二郎 − 高島屋株主代表訴訟弁護団  
           阪口徳雄、松丸正、池田直樹、森岡孝二─── 株主オンブズマン

〈日程〉  1999年4月30日出発、5月6日帰国

〈訪問先、調査項目〉  
 5月2日(日)15:00〜17:30  
 ロサンゼルスの日米文化交流センターで、アメリカの公益調査グループ(U.S.Public Interest Research Group)のAthan Manuel さんから、5月3日のARCO社の株主総会にアラスカ北極圏における野生生物保護区の油井掘削をやめさせる株主提案をしているGreen Country FundとPIRG自体の活動について聞く。また同地域の先住民であるGwich'in族のJonathan Solomanさんから 油井掘削予定地の自然保護の重要性について説明を受ける。

 5月3日(月)10:30〜12:00  
 ロサンゼルスに本社を置くメジャー(石油・ガス)、ARCO社の株主総会を傍聴。BPによるM&Aが近く予定されているもとで、それに関する件は一切議題にしない(別途臨時総会を開く)ことになっているために、会社提案は役員選任などに限られ、株主提案を付議したほかは目立った議案もなく、質問も少なく、約35分で終了。株主提案は提案グループの当初の目標を超える4.7%の賛成を獲得した。

 5月3日(月)14:00〜17:00  
 証券詐欺事件、消費者・環境・人権問題等について原告側の代理人活動をしているMillberg Weiss法律事務所を訪問。Jeff S. Westermanさんから証券詐欺事件を中心にクラス・アクションの動向と情報開示について聞く。また、証券取引委員会(SEC)にいたKathleen A. Herkenhaffさんから追加的説明を受ける。

 5月4日(火)15:00〜19:00  
 アメリカのバイオ薬品の急成長企業、AMGEN社の株主総会を傍聴。業績の好調な企業であるだけに個人株主の参加が多く、12人が議場質問を行った。それに対し丁寧な回答があり、質問と回答の両方に何度か拍手があった。入り口にはバイキング方式の軽い朝食が用意され、場内には三面に映像スクリーンが設けられていた。全体としてARCO社の沈滞した総会とは対照的な明るい和やかな総会であった。

 5月4日(火)15:00〜19:00  
企業側(被告側)の代理人活動を行っているHughes Hubbard & Reed法律事務所を訪問。Randy B. HalmanさんとDavid A. Lombarderoさんから、証券詐欺事件関係で訴訟が頻発する背景、情報公開をめぐるアメリカの法規制の変遷、株主代表訴訟の事例等について聞く。いったん終了後、ワインパーティーが用意され、日本のコーポレート・ガバナンス事情について意見交換を行った。

 5月5日(水)9:30〜11:00  
カリフォルニア州のサクラメントにあるアメリカ最大の機関投資家のCalPERS(カリフォルニア州公務員退職年金基金)本部を訪問。同本部のコーポレート・ガバナンス担当者のGleen A. Milesさんから、CalPERSの株主活動の歩み、対企業交渉の手法、日本企業に対する投資の現状、日本のコーポレート・ガバナンスの問題点等について経験と意見を聞く。日本には約1200社に対し約40億ドル(外国総投資の33%)投資しているという。

 5月5日(木)15:00〜17:00  
サンフランシスコに本店を置くWells Fargo銀行の元総務担当弁護士のGuy Rownsavilleさんから、同行における株主総会の事前準備、当日の運営、アメリカ企業一般の株主総会の持ち方、コーポレート・ガバナンスから見た株主総会の意義と問題点等について聞く。 
                                               (以上)



第2 株主総会レポート

一 ARCO(アルコ)石油会社の株主総会について

                        弁護士 阪 口 徳 雄
1 アルコの概要

 アルコの原油換算保有資源量は約50億バレル弱で、アメリカで第7位。
1998年の売上高は108.09億ドルで、原油価格の低迷で1997年よりも40億ドル弱の売上減となった。  なお、石油業界は、エクソンとモービルの巨大企業の合併、買収が進む中、英米メジャー(国際石油資本)であるBPアモコがアルコを吸収合併すると4月1日、発表した。買収額は268億ドル(3兆24億円余)で、ARCO株1に対し、BPアモコは0.82とし、本年末に吸収合併の手続は完了する会社であった。

2 何故アルコの株主総会を選んだか

 (1)第1に、上記のごとき吸収合併の問題が発生しているので、株主総会は相当紛糾するであろうとのもとで   同社を選んだ。  
 (2)第2に、同社の株主総会に、自然保護団体(U.S.Public Interest Re- search Group)がアルコのアラスカ   の石油採掘に反対する旨の株主提案権を行使して、株主総会に出席する旨の情報があったので、それも   傍聴することに関心があった。
 (3)以上の理由から、株主オンブズマンの森岡教授が同社に直接、手紙を出し、傍聴したい旨、要請した。
   そして、4月中頃OKとの回答が同社の総務部よりあった。

3 株主総会場の外観

 (1)アルコの本社の入口では、自然保護団体の3〜4名が株主に対して株主提案権に賛同してくれるよう、ビ   ラを配布していた。
 (2)会場の入口には株主の受付があり、そこで出席株主のチェックが行われていた。入口は2カ所あったが、   誰も警備していなかった。 会場の入口の廊下には、ジュース、コーヒー、パン、クラッカー等の軽食が準備   され、株主がなごやかにコーヒー等を飲みながら談笑していた。
   (会場外なので写真撮影はOKであっ   た。)
 (3)会場は250人くらい参加できるホールであったが、現実の出席株主は開会時で100名弱くらいであっ   た。
 (4)我が国の株主総会のように、議長の前2列〜3列を従業員株主でガードを固めるような様子は全くなかっ     た。 むしろ、議長席の前5〜6列は空席のままであった。
   株主は真ん中に座らず、両端や後方に座っていた。
 (5)プレス席も会場内に置かれていたが、座っている様子はなかった。
 (6)私達傍聴人も会場内で総会を傍聴できた。 参加株主が多いと株主を優先するのでモニター室で傍聴して   もらうことになるかもしれないが、少なければ会場内でもOKと、あらかじめ回答があったが、現実に8名入   場できた。 しかし、写真撮影は禁止された。

4 株主総会の内容

 (1)株主総会の開会は午前11:00であった。
    議長はアルコの執行役員(CEO)の議長であった(我が国では社長)。

 (2)@同議長は開会を宣言し、ただちに「BPアモコとの合併問題はSECの承認があるまで発言が禁止されて    いる。よって、質問は受け付けないし、あっても回答しない。後で臨時株主総会を開くので、その場で説    明する予定なので、この総会では一切やらない」旨、注意した。
   Aそして、今回の総会での議決事項は
     イ.10人の役員の選任
     ロ.監査法人の選任
     ハ.株主からの提案
    である。そして、あらかじめ投票を受け付けていた分と、会場での投票とを合計して議決する旨、説明が    あった。 なお、事前投票については
     ○電子メール
     ○郵便による投票
     ○特別の電話による投票 に
   より実施しており、この票の集計は独立の監査人が実施しているので、正確である。 そして、イの10人の   役員について1人1人説明し、ロの監査法人の選任の理由も述べた。(会社側の提案理由)
  Bそして、株主提案理由の説明があった。
    1人は前記保護団体の1人であり、もう1人は現地住民であった。 同人らは株主ではないが、株主の代    理人の立場からの説明であった。 現地住民が株主の代理人として発言することは、会社のトップが環境    問題について直接、話を聞くという点で、アメリカらしいと感じた。
   Cこれに対し、議長は、会社の方針はフロキシィーの30〜31Pに反対である旨、記載しているので、それ    を参考にして下さいと告げた。

 (3)上記提案について議長が「質問がないか」と会場に聞いた。 誰も質問がなかった。 そうすると、議長は会   場を見渡して、質問がないようなので投票を集計するため、2分間の休憩を宣言。

−−− 2 分 間 休 憩 −−−

 (4)投票結果の発表
   ○総務部長らしき人が演壇に登り、集計数字を発表。
     役員の選任については、97〜98%の賛成 株主提案権については、賛成4.7%、反対84.7% との     報告あり。
   ○議長、「よって、2議案は承認され、株主提案は否決された」と宣言。

 (5)マイク・アイリーという役員
   本年の第1四半期についての営業報告(5〜6分)

 (6)株主の質問を開始
   議長は「1人3分以内にしてほしい。多数の株主の発言を確保するためである。なお、合併の件はSECの   規制があるので回答できない」旨、注意。

  @A株主の質疑応答
    (株主)私は3月8日まで株を持っていたが、その後売却した。 発言権はあるか。
    (議長)発言権があります。
    (株主)アラスカの件は、今後どういうように進行するのか。
    (議長)今、具体的な計画までいっていない。従って、今後の方向について将来のことなので回答のしよ         うがない。しかし、やるとしても非常に慎重にやるつもりである。
    (株主)もし、具体的な計画を策定するとすれば、株主に対し誠実に実施すると約束できるのか。
    (議長)将来にわたって約束はできない。しかし、今の役員がそのままでいる限り、慎重にやっていくつも         りである。
    (株主)BPとの合併になるとすれば、BPに対し、誠意をもってアラスカ問題を実施するようにBPに伝える         か。
    (議長)今のところコメントできない。 しかし、BPも環境については慎重な企業であると理解している。
  B株主
    (株主)アラスカの油田採掘現場と○○公園の貯水池との距離は相当あるのか。
     (議長)現場とその公園までは20マイル(32Km)離れている。
    (株主)再質問(通訳も訳せなかった。)
    (議長)現場と公園は相当離れており、採掘現場の水はフローバックでやるので影響はない。
   C株主
    (株主)私はワシントンDCにある「キャピタルリサーチセンター」に勤務している。企業の寄付の仕方につ         いてリサーチをしているが、アルコの寄付の仕方は株主間で意見が対立するところに寄付して         いる。 例えば、中絶を認めるグループとか、NRA(政治的な団体?)に寄付をしているが、これ         は会社の基本方針が確立されていないからではないか。 会社がリーダーシップをとり、基本計         画を作るべきだ。 もしよければ、私どもの会社がリサーチもしてあげる。
          誰と連絡をとればよいのか。
    (議長)前列に座っているビバリーさんだ、と女性を指名。

  D株主
    (株主)ロシア、中国への投資は失敗したのに、誰が責任をとったのか。
    (議長)ロシアは失敗したが、中国は継続中である。しかし、ロシアについては我が社だけでなく、他の        会社も同様である。詳しいことは担当者に回答させる。
     (担当者)ロシアは失敗したが、これは政治的変化が急激なためだ。社会全体がダメになったためであ        る。 中国は現在も成長しており、比較的うまくいっている。
     (株主)誰かクビになったのか。
     (議長)誰もなっていない。

(7)(議長)他に質問がないようなら、これで終了します。 (開会から約35分)

5 印象

 (1)議長は、どこかの国の社長と違い、非常に雄弁である。
   原稿を棒読みする様子は見られない。(実際は、池田弁護士の説明によると、原稿を見ているそうなので   あるが、視線は株主側を見ている。)適当にアドリブを入れたり、とにかく司会等は慣れているとの印象。    また、質問に対する回答でも最適の者を指名し、テキパキと運営している。

 (2)株主のくだらない質問にも適切に対応している。

 (3)我が国の株主総会であれば、外国の全く知らない者から傍聴させてほしいという要請があっても、100%   拒否するであろう。 しかし、アルコは株主総会をオープンにしている点は感心させられた。 これは次のア   ムゼンも同様であった。

 (4)株主代理人も株主だけに限定しない(我が国では定款で、代理人も株主だけに、その旨、定めている。)   のも、株主総会を透明性・公開性の高いものにする意味で、我が国も参考にすべきである。

 (5)しかし、アムゼンの株主総会と比べると、アメリカの中では旧態然とした株主総会であるように思えた。

 (6)株主提案権は会社からみれば「面倒」な手続である。しかし、企業の社会的責任という視点からみれば、   一般株主の意識・考え方を考慮する意味で、21世紀の我が国の企業にも必要とされよう。(しかし、提案   権の30万株は改正する必要あり。)



二 ARCO(アルコ)に対する株主提案団体との懇談

                                        弁護士 池 田 直 樹

5月2日 USPIRG(合衆国公益調査グループ)  
北極自然保護キャンペーン担当ディレクター、Athan Manuel氏  Rual Alaska Community Action Program, Inc. 理事 Jonathon Solomon氏と懇談した。その内容は以下のとおりである。

 USPIRGは71年にラルフネーダーらによって大学のキャンパスでのプログラムとして始められた無党派の運動団体。消費者問題、環境問題、民主主義の問題などを主なテーマとして全米に3500万人の会員と全米本部の他、各州ごとに州のPIRGがある。大学にも75の支部がある。
 Manual氏自身はマサチューセッツ支部、フロリダ支部などで働いた後、今はワシントンの本部に勤めている。  PIRGの重要な活動の一つとしては、草の根市民や学生を巻き込んで、大会社の問題行動を改めさせるキャンペーンを行うことがあげられる。市民に手紙や電話や会議への出席などを呼びかけ、直接議会や会社に影響を与えるよう努力している。  
今回のアルコに対する株主提案は、アルコなどの石油資本がアラスカにわずかに残された手付かずの野生生物の生息地域に油井を掘削して開発することをストップして、自然と野生生物と先住民の生活と文化を保護しようという趣旨である。
 PIRGとしては、開発阻止のために次の戦略を持っている。  
 第一は、草の根からの圧力である。手紙やE-mailやファックスの送付、電話かけ、直接の抗議行動などを関連する政府機関や事業所に対して行い、掘削をしないように説得することである。  
 第二は、メディアに対する働きかけである。記事を追跡し、社説などで取り上げてもらうように資料を提供したり、取材を頼んだりすることである。  
 第三が関係する会社の株主総会での株主提案である。  
 アメリカでは1970年代からラルフネーダーのグループや宗教グループが人種差別を組織的に行っている南アフリカに投資している企業に対して、投資をやめるように株主提案を行うことが始められ、一定の影響を持つようになっている。  
 今回の株主提案は50%を越える支持を得てその可決を目指すことを目標にしているのではない。会社を支配している多数派の株主に対して、毎年、このような問題があることを知らせ、影響を少しでも与えることを意図している。仮に10%から20%の賛同を得られれば、これは会社の執行部としても無視できない数字として影響力を持つ。  
 たとえばデュポンの総会では8・5%の支持を得たし、ビルマ問題では、テキサコで8・9%の支持を得るなど成果も出ている。  
 今回アルコでは始めてこの種の提案を提出するので当初の目標としては3%である。これを毎年徐徐に増やしていきたい。私たちがターゲットとして賛同を求める株主には、1)宗教界、たとえば良心的投資を進めている宗教的機関投資家グループ(ICCRなど)、2)大株主の労働組合、3)社会的責任を考慮する機関投資家グループ(CALPERSなど)がある。
 
 アルコでは、1)Green Century Fund、2)US Trust、3)Mercy Consoli-dated Management Fund(カトリック修道女の投資団体?)が我々の株主提案のスポンサーになっている。  
 株主提案は、「ARCOの株主は、会社が北極圏自然野生生物保護地区におけるCoastal Plain、1002番地における油井掘削の将来の計画を無条件に取りやめ、この事業のための会社資産の投下をただちに止めることを要請する」という趣旨のものである。  
 同じ問題ですでに今年の総会が終了した Shevronでは、我々の株主提案に10%もの支持があった。これは3ー5%を予想していた会社執行部にとっては大きな驚きだった。我々としては、多数が取れなくても一定の数字をとって会社にとっての意思決定に影響を与えることが目標である。  
 仮に1年目が3%であったとしても、毎年繰り返し取り上げ、それの支持者が増えることで、会社としては我々の提案を無視することが難しくなる。多ければ多いほど我々が会社にとって議論のある方針についての意思決定に影響を及ぼすことが可能となる。  
 そのためには、株主構成としてもできるだけ通常の個人株主(3分の1位)が多く、機関投資家(法人などで3分の2)が少ない方が都合がいい。機関投資家は運用益をあげることが第一義的であってどうしても社会的に議論のある問題について我々の立場を支持してもらうのは困難だからである。個人株主が多い方がより民主的傾向が強いといえる。  
 我々は株主提案を少しでも多くの人に支持してもらってより高い数値を達成するために次のような努力をしている。  
 第一に、我々に有利な記事を書いてもらうようにマスコミに働きかけることである。  
 第二に、宗教界など、我々の行動に理解してくれる機関投資家から賛成票を取り付けることである。  
 第三に、労働組合やCalPERSなどの大口機関投資家で、かつ社会的責任のある投資について理解のありそうな団体に、事前に電話したり、会ったりして、賛成をとるための働きかけをすることである。ただし、これはなかなか簡単ではない。労働関連団体には、一定の理解を示すところもあるが、CalPERSにしても、やはり環境問題など議論が別れる問題については、必ずしも賛成票を投じてくれるわけではない。ただ、最初はうまくいかなくても、たとえば10%を越える支持が出てくれば、こういった機関投資家も真剣にどう投票すべきかを考えるようになるので、粘り強い働きかけが大切である。  
 我々は、株主提案した後のフォローアップも行う。シェヴロンでは10%の支持があったこともあって、その後会社幹部と会って話し合いをする機会を持つことが出来た。
 このように、我々は、草の根運動によって外から企業に圧力をかけるとともに、株主の権利を使って内部的な「治療」(Inside therapy)として他の株主を巻き込んで会社の意思決定をより社会的に責任のあるものにしようと努力している。

ソロモン氏の話  
 問題のエリアは北極圏でも最後に残された基調な手つかずの自然のエリアであり、2万年の間、Gwich'in 族が依存してきたカリブーの宝庫である。連邦政府に取り上げられた我々の先祖代々の土地は、国家公共土地法のもと、一定の補償がなされ、また野生生物保護地区の指定もなされている。しかし、問題の1002番地は、野生生物保護地区に指定されておらず、石油・ガス会社のための調査エリアとして、開発地区でもないが永久に保全された地区でもないというグレーエリアとなっている。度重なる開発の圧力があって、95年には開発を認める法律が議会を通過したが、クリントンが拒否権(必ずしも本件を主たる争点とした拒否権発動ではなかった模様)を発動して、かろうじて開発が止まっている状況である。  
 私には教育も教養もないが、何が私たちにとって本当に大切かは知っている。 自然と我々の先祖代々の文化を守るために、私は闘い続けるつもりである。

Q&A
1 PIRGの予算について   
  95%が個人会員や一般からの寄付で、残りは財団からの援助による。会費や寄付集めのために個別訪問  などを行うほか、学生からも会費を収めてもらっている。

2 PIRG自体が株主権を行使するために、わざわざ問題ある企業の株を購入することがあるのか   
  それはない。今回は、Green Invstment FundなどがARCOの株を持っていたので、その指定代理人として  株主提案をしている。Green Investment Fundは PIRGがその立ち上げに関与した投資団体で、社会的に  責任ある活動を行う企業に対してのみ投資を行っている。ARCOはアラスカの石油開発では問題企業だが、  家族介護育児休暇制度やホモセクシャルのカップルに対する保険適用など人事面での措置では先進的取  組をしていることで知られている。そのためにARCO の株をたまたま持っていたのだと思う。
   Green Investment Fundとしては本来問題ある企業には投資しないはずだが、テーマによっては一つの会  社でも多様な側面があって、投資基準の点ではまだ混乱がある。

3 好景気の中で一般投資家は「社会的責任を考えた投資」には興味がないのではないか。   
  一般論としてはそうだ。しかし、他方で世論調査を見ると、アラスカの自然保護については大多数の市民が   これを支持している。したがって、長い目でみた場合、社会的に責任ある投資は、企業の安定した利益に  つながる。競争の激しい業界で、消費者から支持される企業政策を立てることは重要であり、そのことが長  い目での利益確保につながるという論理で他の株主を説得するように努力している。

4 大口機関投資家は社会的責任のある投資という議論にどこまでついてくるのか。   
  この問題で我々がもっとも期待している機関投資家は、CalPERSとニューヨーク州教師組合とニューヨーク市  教師組合である。とはいえ、シェヴロンではがっかりしたことにCalPERSは我々の提案を支持しなかった。


三 AMGENバイオテクノロジィ会社の株主総会について    
    (1999年5月4日午前10時30分〜12時)

                                           弁護士 吉 田 之 計

 AMGEN社は、1980年にアメリカのカルフォルニア州で設立されたバイオテクノロジー(医薬品)会社である。同社は、独立したバイオテクノロジー会社としてはアメリカ最大である。同社は、DNA組み換え及び分子生物学の技術を駆使し、数々のバイオ医薬品を開発しており、その科学的実績によってバイオテクノロジー業界の最先端に立っている。
  AMGEN社は、カリフォルニア州サウザンド・オークスに本社を置き、コロラド州ボールダーに第二の研究施設を持ち、ケンタッキー州ルイスビルに国際流通センターを、スイスのルサーンにはヨーロッパ地域本部を置いているほか、オーストラリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、ポルトガル、スペイン、中国、イギリスに海外事務所を開設している。
  このようなAMGEN社の株主総会が1999年5月4日午前10時30分にリージェント・ビヴァリー・ウィルシャー・ホテルで開催された。リージェント・ビバリー・ウィルシャー・ホテルは、ビバリー・ヒルズの中にあり、映画「プリティーウーマン」や「ビバリー・ヒルズ・コップ」においてステイタスシンボルとして描かれていた場所である。    会場入口にはビュッフェ形式のオードブルが用意されいたが、さすがリージェント・ビバリー・ウィルシャー・ホテルのオードブルは新鮮なフルーツやケーキがふんだんに供されており、普通のホテルのビュッフェより豪華であり、株主は1時間前くらいから舌鼓を打ち、旧交を温めあっていた。
 というのは、株主総会に出席するアメリカの個人株主の多くは自分が勤務していた会社でストックオプション等により従業員として持株を有していた株主だからである。また、会場内には三面に映像スクリーンが設けられ、AMGEN社のコマーシャルが放映されていた。
 午前10時30分の合図とともに株主総会が始まった。
 業績の好調な企業であり、超一流ホテルで豪華なもてなしが用意された株主総会だけに個人株主の参加が多く、出席株主はおよそ200〜300人というところであろうか。 チェアマンが、AMGEN社の98年度売上が27億1800万ドルであること、従業員が約5500名であること、主力商品であるEPOGENとNEUPOGENの売上がいかに莫大であるか、EPOGEN、NEUPOGENは世界25ヵ国で認可を受け、その有効性は広く認められ、高い評価をうけていることや血液細胞成長因子、神経生物学、炎症、柔組織の治療・再生の4部門の研究対象において多大な貢献をしてきたことや遺伝子治療及びアンチセンスのような科学領域での研究を積極的に進めている旨を告げ、株主から拍手を浴びていた。

 その後、次期取締役の選任とその紹介があった。 授権株式の増資のための定款変更の提案をし、増資が既存株主にとっては、支配力の低下をもたらす不利益があり、会社の現執行部の交替を遅らせる可能性があること、乗っ取り防止に使われる可能性があることなどのマイナス情報も説明していた。そして、経営者へのインセンティブ計画(成功報酬主義)の実質条件の承認につき、高額報酬(100万ドルを越えるもの)については、経費控除するには法律の一定の要件を満たす必要があるので、それを満たすインセンティブプランが作られている。また、取締役のほか、上級従業員に対して、年度ごとに企業全体と個別の達成目標に応じた報酬基準が作成、承認される。
 ストックオプションや株でのボーナス取得、一定の株式取得権などのインセンティブプランについての承認。
これは全従業員が対象とのこと。取締役や執行役員と利害関係者の株式保有数、関連会社の持分保有数、取締役の報酬、ストックオプションによる株式保有数などが個別取締役ごとに説明された。 AMGEN社は世界中の重篤な患者さんのため、細胞及び分子生物学に基づく革新的で、重要かつコスト効率の良い治療薬の開発において主導的役割を果たしていることを実際に効果があった患者のビデオを放映しながら、今後もバイオ製薬業界における世界のリーダーを目標として、医師と患者のニーズに対応し、人々の生命を救い、生活の質の向上のため、質の高い治療方を提供していく旨を力強く述べていた。
 12人が議場で来年の質問を行い(ex. AMGEN社の株価は上がるが)、それに対し丁寧でありながらユーモアに富んだ回答(ex. 業績を上げるための最大限の努力をし、株価が上がることを望んでいるが、株価が上がるかどうかは断言しえず、それを期待し投資されても責任は負いかねる)がなされた。質問と回答の両方に何度か拍手があった。 アメリカの株主総会だが、マラソン総会と言われるようなものではなく約1時間30分で総会は終了した。全体的に明るく華やかな総会であったが、セレモニー的な感はぬぐえない。


第3 コーポレート・ガバナンスについて

一 カルパース(CalPERS)の株主活動について

                                        弁護士 阪 口 徳 雄

1 カルパースとは

 正式名は California Public Employee Retirement System(=カリフォルニア州公職員退職年金基金)である。 同基金の構成は、現在カリフォルニア州に雇用されている労働者、学校の職員、連邦のカリフォルニア州の支部等の職員ならびにそれらの退職者でもって構成され、その合計人数は1,107,955人である。 設立されたのは1931年であり、古い歴史を有しているが、活動が紹介されているのは1980年の中頃からである。
 それは以下に述べるように、同基金が株主活動を積極的に展開する株主アクティビストとして展開することになってからであり、我が国に紹介され始めたのは、コーポレートガバナンス論が問題となった1990年代の中頃からではないかと思う。

2 何故カルパースを訪問したのか

 同基金の株主活動はマスコミを通じて我が国に知らされており、それに関する証券アナリスト等から同団体の活動が紹介されている。 そして、我が国に対するコーポレートガバナンス原則等についても、同団体は1998年3月に発表しており、その訳文も公表されている。 (商事法務 No1488号 30P) 株主オンブズマンは市民株主の立場から企業の監視活動を展開し始め、カルパースとの立場の違いはあるが、企業に要求している内容では骨子では一致している。
 そのために、
 @彼等が何故、株主活動を積極的に展開しているのか、その思想
 A今後、日本の企業に対してどのような株主活動を展開するのか
 B我が国の企業に対する株主総会への議決権の行使や株主提案権を行使する際の基準等 を聞くためであ   った。

3 カルパースについての面談内容

 (1)カルパースの1999年1月末段階の運用資産は1533億ドル(120円換算で18兆3960億円)である。
  我が国に対する投資額が40億ドル(約4800億円)で、外国投資額の33%相当である。
 (2)カルパースが株主活動を積極的に展開するのは1980年代の中頃からである。(もらった資料によると、  1984年、コーポレートガバナンス原則を確定したとある。) このように活動を始めた理由は、アメリカの企業  は投資者に対する責任が欠落していた。
   そのために、特定の株主を優遇する措置をとったりしていたために、一般投資家に対する配慮に欠ける点  が多々あった。 そのために、株主として何ができるか検討を開始して活動を展開することになった。
 (3)@日本の企業に対して、カルパースは対日コーポレートガバナンス原則を公表している。(日本だけでな    く、フランス、イギリス、ドイツに対しても発表している。) これらを公表している理由は、機関投資家は資    産運用の受託者として年金基金の従業員に対する受託者責任を負っている。そして、投資先企業はカ    ルパースからの運用を委ねられている以上、受託者責任を負っている。そのために、カルパースは委託    者として投資先企業の業績について重大な関心を持たざるを得ない。 ウォール・ストリート・ルール(投    資家は業績の悪い企業の株を売ればよいというルール)はカルパースのような長期間、相手方の企業    の株を保有する者にとっては適用できない。 そのために、投資先企業の業績について重大な関心を持    つこになる。
   Aしかし「儲ければよい」という発想で投資はしていない。 カルパースの投資基準は投資者に対する利益    だけではなく、すべての株主に対するアカウンタビリティ(説明責任)、株主に対する情報開示責任をはじ    め、企業の社会的責任(法令の遵守や環境問題への配慮)等も考慮して決定している。 儲かればよい    という基準ではない。
(4)株主権の行使の手段は
  @会社に対する改革の要求、そして話し合い、交渉
   A株主提案権の行使
  B株主総会に対する議決権行使ガイドラインの公表
  Cマスコミへの公表
  D株主代表訴訟は、かつてはやったが、今のところ予定はない。 しかし、カルパースは突然、必要と考えれ    ば行動を起こす。
(5)@日本の企業に対する株主権の行使としては、ソニーをはじめ電気関係の会社との役員との間で良好な関   係を維持している。日本のコーポレイトガバナンス委員会とも交流がある。
   A株主権の行使については、株主総会の通知があってから、それを代理店が英文に訳し、それを我々の    方で検討するために、時間的余裕がない。日本の慣習等もあり、よくわからないのが現状である。

4 付言

 株主オンブズマンの資料をカルパースにあらかじめ送付していた。  
 それに対し、Gleen A Miles さんからは「非常に興味深く読ませてもらった。日本から多くの人が訪問するが、皆さんのような団体は初めてである。皆さんが要求している企業の改革に関しては非常に困難な面がある。」とのコメントがあった。  
そして、我々に対し、質問があった。  
 @日本の企業を皆さんはどう評価しているか。  
 Aカルパースは日本において、どう評価されているか。そして、皆さんは今後何をするのか。
等の質問があった。  
私達は、  
 @日本の企業は、ソニーをはじめ若干の企業がカルパース等のコーポレートガバナンスの方向で改革されよう   としている。 しかし、大多数の企業は、そう簡単に変わろうとしない。
 Aカルパースは日本で高く評価されている。ぜひ日本の企業に対し、議決権の行使や株主提案権を積極的   に行使してほしい。それが日本の社会やマスコミに評価されるであろう。私達は市民株主の立場から日本   の企業に対し問題提起をするつもりである。 最後に、同氏は「皆さんのような方と懇談できたことは嬉しい   し、今後も懇談したいし、日本の企業についての情報もあれば提供してほしい。」ということであった。

5 カルパースから学ぶべきこと

 (1)我が国の機関投資家は、投資先企業に対して関心を示していない。 株主総会の議決権の行使について   も白紙委任が一般である。 しかし、機関投資家の役員らは、自らの運用資金は委託者(銀行であるなら   ば預金者、保険会社ならば契約者、国等の年金事業財団ならばその従業員等)から受託していることを   忘れている。 彼等は委託者に対して誠実な権利行使を怠っている。(=株主の持ち合いのため)今後、我   が国においては委託者の立場から受託者に対する責任を追及する道を探ることが必要である。
  (2)少数株主権の行使について アメリカの各種団体は株主提案権を行使している。 カルパースもかつては   行使していた。提案権の行使は認められることは少ないが、しかし、提案権を行使して、その企業の問題   点を明らかにすることが必要である。 我が国の提案権の行使には30万株が必要であり、それを集めるの   が困難であるが、
   @カルパースが要求しているコーポレートガバナンスに関する内容 または
   A我が国の企業の社会的責任の自覚 等について、株主提案権を行使することが必要である。


二 「コーポレート・ガバナンスと日米株主意識の違い」

                      弁護士  新 原 一 世

 1999年5月5日、アレン・マトキンス・レック・ギャンブル&マロリイ法律事務所に行く。サンフランシスコのビジネス街の中心にあるビルの17階にある事務所の入口を入ると、広い贅沢なエントランスルームの真中に受付嬢がいて、その向うに総ガラスの壁で区切られ、大きな長テーブルに黒レザー張りの椅子が向い合せに約20脚配置されていて、外から内部の様子が丸見えのオープンな会議室に驚く。  
 面談したガイ・ラウンザビル弁護士は、ウエルズ・ファーゴ銀行の前総務担当者として、株主総会の指導の経験を有している。既に、5月2日以降今日までの間に、株主提案権行使者に会い、米国の2つの会社の定時株主総会に臨場してその雰囲気を実感し、株主訴訟、クラスアクション、株主代表訴訟を主に取扱う原告側弁護士事務所および被告側弁護士事務所をそれぞれ訪問してその実情を聞き出し、さらに大口機関投資家を代表するカルパースの職員との面談をすませていたので、本題に関するある程度の予備知識の蓄積のもと、短い時間の有効利用のため、主に質疑応答方式で面談を進めた。通訳を介しているので、理解、表現が不充分であることは否定しないが、できる限り面談の雰囲気にそうように心がけてリポートする。

コーポレート・ガバナンスの変革の起こり  
 米国企業におけるガバナンスに関しては、最初の頃は株主は受身であったが、その態度は時代の進むと共に変化した。   
 1980年代になって、株主のうち大きな力を持つ人達が、株主にとってより大きな利益をもたらすためにはどうすればよいかと考えるようになった。   
 アクティブな株主グループ、例えば、カルパース(カリフォルニア州公務員退職年金基金)のような株主グループが、株主にはどういう権利があり、株主の利益を最大にするには何をしたらよいのかといったことを研究、調査することが自然に生まれてきた。彼らは多くの株式に投資しており、株主として投票できるので、そのことが何かを変える大きな力を与えることになる。場合によっては彼らにその所持する大量の株を売られるとそれはあまりにも膨大な金額なので、売られた会社の株価に大きく影響する。   
 会社のCEO(最高経営責任者)はカルパースの力を無視できなくなり、考える。カルパースのねらいは、マネジメントを行う経営者側と監督する取締役会側に区別、分離することであった。   
 カルパースは先ず、米国企業500社に対し、コーポレート・ガバナンスの方針について調査する公開質問状を送った。お渡ししました資料の中のカルパースの行った調査項目をご覧になれば解かりますとおり、それぞれの項目について各会社が個々に考えることを求められており、その答えは1つではなく、決った正解はありません。個々の会社がそれぞれの立場で考えることを求めている内容となっている。

カルパースの果した役割  
 カルパースが実行したことが米国企業にとって良いことであったかとのお尋ねですが、私達はカルパースのゼネラルモータースに対するやり方を全面的に受け入れたわけではない。けれども、ウエルズ・ファーゴに在籍していた時、経営について一歩立止って、しっかり考えるチャンスを与えられたことは良いと評価している。  カルパースは柔軟性がないわけではないので、合理的なやり方だと思う。米の企業社会に良い影響を与えたと理解している。

株主の権利主張の手続  
 米企業の株主総会における決議事項はすべて総会当日以前にその結論が決まってしまっていて、ペンキ塗り工事に喩えると総会当日は塗り終ったペンキが乾くのを待っているのと同じという表現をしている学者の見解についてどう思うかとのお尋ねですが、私はその表現は不適切だと思う。   
 1年1回の株主総会の会議にだけに重きを置くのではなく、株主の権利行使は1年間を通して継続して見ていくべきである。株主総会の1日の議決だけで株価が上ったり下ったりしないし、会社が利益を上げたりするのではない。1年を通して株主の権利意識を高めて、株主が自分達の権利を擁護をするためにはどうすればよいかと考えて、経営者に対し直接電話をし、手紙を出して意見を述べる。
 原告側の弁護士を使って株主の権利行使をする、会社の経営陣に悪いことがあれば、独立した委員会を構成して調査する、訴訟を起こす。株主が訴訟を起こす、或いは訴訟を起こす権利があることによって、経営者、取締役会に対する実際上のプレッシャー、おどしになる。   
 株主総会のプロキシィ(議決投票関係書類)の中に株主提案権を行使して載せてもらえば、他の株主の賛成投票を集められ、より大きな力になる。   
 確かに、株主総会の日までにプロキシィによって投票は殆んど済んでおり、議案の結論が決まっていても、株主総会の当日に株主が会社の提案に対して反対意見を言うことは経営者に影響を与えると考えられる。

日米株主総会の差異   日本の株主総会は殆んどの会社が同日、同時刻に開催し、総会にかける時間を短くするため周到なリハーサルを行うという説明を受けたが、米の場合は日本と全く異なり、開催日はばらばらである。土曜、日曜開催もあれば、夕方から始める会社もあり、リハーサルはやる会社もあれば殆んどやらない会社もある。   米には、日本にある闇の世界と結びついた総会屋はいないし、利己的に不法な利益を要求するものもいない。   例えば、世界一、二を争う大金持のウォーレンバフェットの投資会社である「バークシャー・ハサウェイ」の株主総会のリポートを読まれれば理解できると思う。この会社では最高経営責任者(CEO)が時間を制限せず、機関株主、個人株主の話を聞いて議論を何時間でもする。それが終ってからCEO自ら株主と一緒になごやかにバーベキューパーティを行って株主へのサービスに努める。   そのお蔭かどうか同会社の株式1株の値段は3万5千ドルから4万ドルの超高値となっている。その結論は、会社の成功の秘訣は民主主義にありということになる。

米国企業社会の好景気   
 1980年代から始まったアクティブな株主グループによる権利行使によって、コーポレート・ガバナンスの改革が進められ、CEO、取締役会に強い影響力をおよぼし、その努力によって会社が一層の利益をあげ、株主に利益を還元できた結果が現在の米国企業社会の好景気を支えている一因かとの質問に対する答えは、イエスともノーとも言えない。   
 株主自身が自分の持っている権利に気づき、株主総会に働きかけるようになって、会社の経営がだんだんとオープンになるに伴って、個人の投資が激増してきた。その株主たちは、経営者は株主に対しもっと責任を持ってもらいたい、もっと利益をもらいたいとする要求がだんだん強くなってきた。  
 それまでは、経営者は会社に対してのみ責任を負っていればよかったのが、株主に対して責任を負わなければならなくなり、そのために経済的に一層賢いやり方を工夫する努力を求められるようになった。その結果として米の経済力の向上、発展に向けてポジティブな影響を与えたと言える。  
  私の知る限り、ウエルズ・ファーゴ銀行で株主代表訴訟が起こされたのは、30年間に1件のみである。   昨日までに株主訴訟に関する原告側と被告側の双方の弁護士と面談した際、相互に相手側弁護士をあからさまに批難していたが、今日のラウンザヴィル弁護士は中立的立場から終始誠実な態度で話され、好感がもたれた。                                               以上

                                         


三 アメリカ個人投資家私見                     通 訳 小 林 まさみ

「個人投資家増加の背景」  
 30年代はじめのアメリカに大恐慌が襲った。建国以来日の浅いアメリカは良いものを見るとそれをめがけて一目散で全力疾走する習性がある。なにごとも過ぎたるはおよばざるがごとしとばかり、これを続けるとやがて引き返さざるを得ないポイントに到達するが、よし、折り返し地点とばかりまたもや全力疾走で来た道を走り戻る傾向もある。そして社会的な問題に対しての対処法や見方では振り子の振動現象と例えられる動きを見せる。   一方、経済的現象などには即新しい角度を探し求める力が働き、ジグザグの軌道で大きな螺旋形を描くかのような動きも見える。それでも究極的には資本主義と民主主義をなんとかないまぜにしようとする努力は続けられるので、それが求心力と遠心力ででもあるかのように素人の私などには螺旋の軌道に見えるのかもしれない。大恐慌で企業は運営資金にも困った。スタートの資本も銀行の協力も得にくい。
 株や証券を買いやすくしてそこで資金を作り、どこかに眠っているお金を働きに出そうというのが当時の人々の探した新しい角度であった。 証券取引委員会をはじめとして各種の法律や規則が整備され、多くの安全弁や緊急時の救済受け皿などが用意された。その社会環境をもとにアメリカではその後、少しずつ個人による投資が増えていく。  平均的な人や中流階級の人達の個人資産が株や証券の価値、企業の収益パフォーマンスと直接つながっている、ということは個人が企業のあり方やビジネスの仕方に関心を持つことに自然につながっていく。

「グリーン意識を持つ投資家の例」  
 80年代のはじめにある個人投資家の家にしばらく居候をきせてもらったことがあった。この人は中年の女性で2回離婚を経験していた。父親が中西部の小さな町でいくつかの銀行を所有していた人で銀行などとの取引に長けた人だった。  
 70年代後半からの不動産取引などで大きな収入を得て、そのコツをつかみ、大学では趣味の音楽合唱の指揮などをパートタイムで教えながら、本人は個人の放資からの見返りを生業としていた。  
 80年代のアメリカの個人投資には理想的なポートフォリオというのがあり、それは流動資産2と不動産などの固定資産1を混ぜること。また、株や証券4と金や宝石の実物所有1の比率。株や証券はリスクが高く利回りのよいものが1、中間の頼りになるものが2、まったくリスクなし、と見られていて見返りは非常に低いが確実で安全なのが1といった感じ。  
 彼女はこのポートフォリオを自分流にちょっと変えて理解し、実行していた。居候の代わりに私は彼女の簿記会計の手伝いをし、秘書代わりにどこの銀行訪問でも投資先訪問でも投資用宝石の買い物にでもエスコートした。  
 株や証券を買うにはパフォーマンスを調べるが、良くても良くはなくても、また危なげでも確実でも上記のどれかの範疇に入れる為に調べて参考にするだけで、彼女の買い方は良いものだけを買うのではない。  
 決め手は会社の社会的姿勢と貢献度であった。特に女性問題と環境問題が彼女のスクリーニングのネックであった。社員から見て良いのか悪いのか、社員にあなたの会社をどう思うか、などと訪問する相手に会う前にその辺の人をつかまえて尋ねるのだ。エレベーターの中、トイレの中、廊下、近くの喫茶店、ところかまわずランダムに尋ねていた。  
 会社に電話をしてみてその対応を見ることもあった。女性運動問題を扱う全米ネットワークに電話をしてその会社からの寄付があるのかどうか、いくらぐらいか、なども尋ねる。 
 女性問題にネガティブな対応をしていたり、そういうコメントをする社長の会社は株や証券を買わないどころか、その社の製品や商品も買わない。ホテルならそのホテルにも絶対泊まらない。友人達にもしっかりチャンスがあるごとに個人レベルの全面無期限のボイコットを頼むのだった。理由は忘れたが当時はクアーズビールとマリオットホテルがよくやり玉にあがっていた。  
 90年代に入ってからの被女の投資先を選ぶ基準は少し変わって、ワーキングアセットなどになってきた。これは支払いをする方法を選ぶに当たって自然環境や女性労働環境に良い会社からのサービスを選択し、その会社への支払いをこの団体を通してすると、セント以下の少額はすべてワーキングアセット社にトランスファーされるが、そのつもりつもった金額からワーキングアセット社の従業員や経営コストを支払い、残りを自然環境保護団体や権利擁護団体、また女性問題に積極的に取り組んでいる団体などへ寄附をする。それらの経費や寄附の内訳は透明性が高く、会員に100%公開している。  
 つまり、情報産業と金融サービス業を組み合わせてグリーンマーケティングを展開し、良き市民の印であるところの、良い企業の応援をし、良い非営利団体の経済的サポートにもつながる、という一石2鳥式サービス購入支払い方式である。  
 この組織はサンフランシスコの専業主婦が考え出して会社にし、大きくなってから経営の専門家に売り渡した。投資についてもこのようなサービスを買う投資家が多いのがサンフランシスコ辺の特徴であるが、ある意味では年齢に関係なく、「グリーン意識」の高い人は多い。


第4 日本の株主総会の改革について

──── 総会屋を根絶するために ────             弁護士  山 田 庸 男

 今年も、株主総会のシーズンを迎えたが一部の例外をのぞき殆どの上場企業が6月29日の一斉集中日に総会を開催するという。「もたれ合い社会」と非難を受け21世紀を目前にして、規制緩和が叫ばれ市場経済、競争原理がより徹底して導入されようとしているにも関わらず未だに「日本型資本主義」から脱却できないのはどうしてであろうか。九七年には我が国の代表的企業が総会屋と長年にわたり水面下で癒着し、巨額の利益供与がなされていたことが発覚し法的ルールに甘い企業社会が日本の風土病ではないかと国際的にも批判を受けたことは記憶に新しいところである。
 資本主義社会では、順守すべきルールが確立し、ルール違反には厳しい制裁が課せられる司法の仕組みが整備されると共にそのルールが順守されていればなにをしても許されるのが自由主義社会なのである。そのためにも、我が国の企業社会が、総会屋等の反社会的勢力と絶縁しコンプライアンス(法令順守)を行動原理として国際社会での信用回復に努めることが焦眉の課題である筈である。にもかかわらず、減少したとはいえ600名余の総会屋が未だに活動し、絶縁し切れていない企業も未だに数多く存在するというが、その原因の一つに日米の株主総会の運営の違いが挙げられる。
 今般、コーポレートガバナンス(企業統治)に関心を抱く学者と大阪弁護士会の有志が調査団を組んで訪米し、ロサンジェルスを中心に実際の株主総会の傍聴や株主代表訴訟を専門的に手がける法律事務所さらに企業側で総会運営を取り仕切る実務責任者(弁護士)やサクラメントに本部を置くカリフォルニア州公務員退職年金基金(CalPERS)との意見交換をする機会を得た。
 今回の視察旅行で得た印象はきわめて新鮮かつ強烈なもので特に企業のコーポレートガバナンスについては得るものが多かったが、すでに論じ尽くされている感もあるので、今回は特に日米の株主総会の運営の違いを紹介して我が国特有の総会屋の根絶のための方策として提案しようとするものである。

一、日米共に株主総会では、開催前にすでに議案については採決が事実上終了しておりその意味では当日総会で議論することの意義はきわめて乏しく、活性化に限度があることは同様である(特に、アメリカでは当日までに郵送、電子メール、電話で採決を終了しており、当日は採決を変更する場合や事前に議決権を行使していない株主のみその場で投票する)そのため、日本では総会は例え面白くなくとも商法上のルールで課せられたやっかいな年1回の儀式と考えている節があり、いきおい短時間かつ台本通りのシャンシャン総会でよいと考える経営者が大半である。従って、総会を混乱させ経営者の威信を失墜させようとする総会屋集団には、水面下で口封じをしようとするインセンテイブが働くことになる。
  他方、アメリカでは株主総会は株主との貴重な対話の場であり、企業PRの場であると位置づけられており、したがって株主にいかにして総会に足を運ばせるか工夫することになる。この違いが一斉集中日を未だに改善できない日本とできるだけ他社と重ならない日に分散開催しようとのアメリカとの大きな差となっている。

二、アメリカでは、見聞した限りでは会場では一時間前ぐらいから株主のために喫茶、軽食類が用意され女性社員が応接しバックに音楽が流れ、あたかもコンサートホールで開演を待つかのような華やかなムードが漂い株主からの発言を促しているようである。開会中は、議長は議案についての提案を冒頭に行いその後会場に設置された大型プロジェクター三台を駆使してビジュアルな事業報告を詳細に判りやすく行っている。驚いたことは、単なる事業報告にとどまらず今後の事業計画や事業予測を数字を交えながら(ただし、予測数字については一切責任は負うものではないとのコメントを忘れず)株主に夢と期待を抱かせる経営理念が熱っぽく語られ、正に企業PRをしていることである。今回傍聴したある急成長の医薬品会社では、事業報告の途中で画面に難病の患者が新薬の治療を受け、快復しつつある様子がビデオで紹介されていた。
 報告が終了すると議長は、質問は多くの株主から受けたいので一人三分以内でと断ったうえで発言を促すと会場から次々と女性や老人も交え質問が飛び出し要領よく好意的に役員が回答し、時間の経つのを忘れるぐらいである。日本の株主総会の運営指導に携わっている一員として眼からうろこが落ちる思いである。

三、これらの総会運営の違いは、日米の株主意識の違いを抜きにして考えられない。日本では、企業は安定株主対策と称し企業間で株式の持ち合いをし友好的な物言わぬ株主づくりに奔走し、個人株主はもっぱら経営に関心がないため「静かな株主」が大半である。
  他方、アメリカではカルパースなどの年金基金が機関株主として積極的に株式投資を行い企業利益の極大化と株主への利益還元を求め、人事にも干渉し積極的に株主総会で提案権を行使し経営監視を続けるほか、一般株主も経営に重要な事項であれば自由に議題、議案の提案をすることができる。傍聴した国際石油資本のアルコ社では、環境保護団体がアラスカでの油田開発を中止すべきとの株主提案をして、事前に他の株主にも同調を求める活動をしていたので四,七%の賛同を得ていた。
 まさに「発言する株主」が株主総会を開かれたものにし、活性化をさせているのである。国民性や文化の違いはあるものの我々も「静かな株主」から「発言する株主」に変身すべきであろう。 株主総会の運営を対比するについては、日米両国の法的枠組みの違いも十分認識する必要はあるが現にアメリカでは少なくとも総会屋などの反社会的勢力が存在しないのは株主総会の運営や位置づけの違いによるものと考えられ、我が国においても総会屋根絶のためにはまずアメリカスタンダードの株主総会を見習うことを提唱したい。
 さらに付言すれば、株主総会が30分以上を越えるとあたかも問題企業であるかのごとく報道するマスコミの報道姿勢や総会での発言をまとめた出版物を買いあさる企業意識が、総会屋を跋扈させる社会風土を作ることになっていないのか改めて振り返ってみる必要があるのではなかろうか。総会屋との癒着を経ち総会屋を根絶するために、日本式株主総会をまず改革すべきことを強く提唱するのである。


第5 企業に対する株主の責任追求

一 アメリカにおける会社の株式投資者に対する責任

                  弁護士 木 村 圭二郎

Hughes Hubbard & Reed法律事務所を訪問し、 William T. Bisset, Michael J. Maloney, David A. Lombardero, Randy B. Holman各弁護士より米国における証券法を中心とした株主クラスアクション及び原告側弁護士に関するイメージについての説明を受けた。

 米国における証券関係のクラスアクションは、あまりに頻繁に、かつ多数起こされているというのが被告側弁護士の感覚であり、真剣に争われる証券関係訴訟は長期かつ多額の費用を要するために、会社に対する経済的影響が強いということである。また、そのようなクラスアクションの提起される原因としては、「株の上がり下がり」ということしか考えられない。証券関係の訴訟としては、証券法の11条に基づく訴訟原因と証券法10b5条による訴訟原因が代表的なものとして存在するということであった。

 証券法11条訴訟は、登録された公募株式についての開示の不備に関する責任につき、会社役員、引受人及び専門家の責任を定める。証券法は、大恐慌の時代において、証券市場への信頼を取戻すために、開示の要件を厳格に定めるとともに、違反をした発行会社に対し、訴訟を容易に提起できるような規定を設けた。証券法11条訴訟は、目論見書における虚偽又は誤導的表現を根拠として提起されるが、原告側としては、
 @登録された公募発行があったことの他に、
 A実質的に虚偽又は誤導的表現が目論見書に記載されていること、
 B損害を被ったことを立証すれば良い。
また、ここでの基準は客観的基準であるので、個々の原告の主観面の立証は要求されず、クラスを構成することが容易である。被告側としては、因果関係の不存在等の立証をしなければならないが、容易に陪審審理に持ちこまれるので、結局、和解による解決ということとなる。

 証券法10b5条訴訟は、発行の際の問題ではなく、流通する株式に関する問題である。証券法11条訴訟の場合と異なり、ここでの虚偽表現は、目論見書といった公的な書類に置いてなされたものだけではなく、プレスリリース、証券取引法上の報告、その他虚偽表現を広めることととなったすべての媒体及び手段を含むこととなる。このため、会社の役員がアナリストに話した在庫の数量が実質的に異なっていれば、直ちに訴訟原因を基礎付けることとなり、会社及び役員は多額のクラスアクションの危険にさらされることとなった。このような訴訟は、ハイテク会社に対し容易に提起された。

 このようなクラスアクションの弊害を除去するために、1995年私的証券訴訟改善法が成立し、いわゆるノーチスプリーディングと争点の確定のためのディスかバリーという一般的な訴訟手続に対し、具体的な問題点が存在するか否かが事前に判明しないにもかかわらず、とりあえず訴訟提起をし、ディスカバリーによって得られた証拠により、あとづけ的に訴訟を構成しようとする、探索的行為を回避するために、問題となる点を最初に特定することが求められることとなった。
 これによって、原告は、ディスカバリー前の段階で、何故表現が虚偽又は誤導的か、何時何処でそのような表現がなされたか、誰がそのような表現をしたかを特定しなければならなくなった。このような特定は証券取引委員会への報告書での表現が対象となっている場合は容易かもしれないが、口頭の表現が問題となっている場合は困難である。また、そこで特定された事実関係により、訴訟詐欺の強い影響が証明されない限り、訴訟は却下される。

 このような改正法が適用となるのは、連邦法上の請求であるが、連邦証券法と同様の訴訟原因が各州に規定されており、原告側弁護士は、このような連邦法の制約を回避するために州法上の請求を州において訴訟提起するようになった。このような方策への対応として、1998年証券訴訟統一基準法は、全米で証券が取引されている会社対する訴訟につき、連邦の管轄を強制することとなった。
 しかしながら、このような法改正にかかわらず、訴訟件数は増えており、アントレプレナー弁護士による濫用訴訟は減少していない。訴訟のほとんどは和解により解決しており、原告側に支払われる額の3割程度が原告側弁護士に支払われているのが実情である。

 和解による解決が選択される理由として、会社側としては陪審による巨額の賠償の可能性への危惧、詐欺が認定された場合の保険の不適用への危惧があり、原告側弁護士としては、時間給により費用が支払われるので、トライアルを経ても弁護士費用が上がらないこと、それよりも弁護士費用の賠償が確実な和解を選択するという事情があるということであった。
 証券法に関する訴訟については、原告側弁護士は存在するが、「原告」は存在しないことが繰り返し言及された。実際、特定の法律事務所が特定の原告と結びついており、一人の原告が多数の訴訟の原告となっているという事実があるということであった。

 被告側弁護士の観点からは、1995年の改正前よりも、訴訟件数は増加しており、同改正は、実質的な歯止めとはなっていないということであった。


二 証券被害とクラスアクション
                                       弁護士 松 丸   正

1.ローファームの概要
  訪れたミルバーグ・ワイス法律事務所は全米で約120人の弁護士を有するローファームで、そのオフィスは ロスアンゼルスの他ニューヨーク等6ヵ所にある。ロスアンゼルスのオフィスには8名の弁護士がおり、裁判所 からほど近いロス市街中心部の高層ビルのなかにある。  
  この事務所では弁護士はタイムチャージ(時間料金制)での委任は少なく、その殆どは勝訴時の成功報酬 (利益額の3割前後)によって受任している。
 事件を委任して解決に至るまで数億円の実費を自己負担して、訴訟遂行することもあるという。

2.担当事件
  ローファームは設立後30年程を経過している。7−8年前までは、証券法、株主代表訴訟の事件が中心で あった。近年業務分野が多様化し、独禁法、再販価格、製造物責任、誇大広告、保険契約内容の告知等の 原告事件に取り組んでいる。1人の受持事件は20件前後(共同のものが殆ど)であり、なかには環境保護に 関係する事件もある。  
  話をした弁護士は株主のクラスアクションと代表訴訟が担当である。最近の事件ではソニーの米国での企 業買収等の会社の吸収合併に関係する事件やその差止訴訟(injunction)に取り組んでいる。

3.株主のクラスアクション  
   株主のクラスアクションについては州際取引かどうかで連邦法上のものと州法上のものがある。  会計上 並びに商品開発についてのマスコミやSECへの虚偽報告事件が多い。SECの規則にもとづく「市場の詐欺」 という理論で請求をする。  口頭による言明であっても、それが実質的な重要性を有する情報であれば、これ についての責任が生じ得る。また誤解を避けるため必要な事実を省略することも責任の対象になる。  
  証券詐欺(虚偽記載等)事件は提訴後1年から3年で判決に至る。しかしその多くは和解で解決する。  
  和解による支払いは保険でカバーされる。保険があることが和解を成立しやすくしている。和解は裁判所の 関与の下行なわれ、その際弁護士報酬も決まる。  
  証券詐欺のクラスアクションは安定していた株価が急に高騰するようなケースについて提訴されることが多  い。 急騰時にどのような情報・事実があったのかを日々の新聞やSECのファイルに登録された事実に基づ き調べると、インサイダー等の問題が明らかになることがある。これが原告側としていつも留意している点であ る。  証券詐欺の訴訟は毎年200件提訴されており、会社、内部取締役、監査役を被告としており、外部取 締役の責任追及は困難なことが多い。また従業員を被告にすることは通常していない。  
  投資家として株主の証券詐欺による損害額の算定は、一般的な経済変動等他の要因との関係で容易では ないが、専門のアナリストの鑑定によって立証している。  
  詐欺の内容としては財務状況についての虚偽表示が最も多い。在庫商品の価格が下落しているのに、そ れを表示していないことによって投資判断を誤らせたとしての責任等だ。  
 他に売上高の粉飾、将来の利益等についての確定的な発言が問題になる。  
 管轄はその会社の業務地(本店でなく本社)、あるいは全ての原告の居住地であるため、多くの場合は業務 地になる。

4.株主代表訴訟(デリバティブアクション)  
  株主代表訴訟については件数についての全国的統計はない。  
  取締役の信任義務、忠実義務、善管義務違反行為が対象になり、本店所在地が管轄となる。
  多くの企業は税制上の優遇や会社の設立費用の節約のためにデラウェア州で設立し、そこを本店としてい  る。デラウェア州の判例は、同州の会社優遇の姿勢を反映して、会社寄りの保守的な傾向がある。  
   提訴の動機は、不正行為に対する株主としての怒りや信条と、合併、買収のケースについては保有する  株式の株価についての経済的利益との2つがある。
   合併等についての差止めの代表訴訟もあるが、勝訴したときの弁護士報酬は裁判所がその額を定めてい  る。現在クラスアクションと代表訴訟を同じ問題、例えば売上についての虚偽の表示について提訴できるか  という点が問題になっているとのことであったが、時間がなく詳しいことは述べられなかった。

  


調査団に同行して

                           通 訳 小 林 まさみ

 今回の調査団に随行きせていただいて私個人がアメリカに住む日本人として考えさせられたことがいくつかある。ひとつはアメリカの法律は使われる為にあるのだと肌で感じたこと。悪いことが起こっていると、それを社会の中のどの機構がどう機能するから、しないから、それが起こるのかを分析して、それに対応するメカニズムを法的に準備するが、その後は関係者がそれらを最大限に利用して攻防戦を繰り広げ、その中でのぶつかりあいからまた新たな現実が生まれてくる。  
 もう一つは知らないうちにそこに陥っていた被害者というものがあれぽ、お金で解決したりじっと我慢したり、加害者を無視しようというのではなく、「被害を受けている」とされる状況そのものをポジティプな攻撃の場に変換してしまう技術を考え出す人々が多いということ。  
 例えば、総会屋はいないのですか?という問いには、いません、とかえる。なぜですか?というと、その人達と取引すれば犯罪だからです、となる。公開の場でスキャンダルを暴かれたら困るのではないですか?と問われる。会の趣旨やあらかじめ決められている議事項目に合わないのであれば、その質問はどこで誰かにしてください、ここでは答えられません、と言う。  
 犯罪ではなくてもいやがらせをされたら困るのではないですか?と尋ねると、どのような答えでもする必要があれぽ、しなければなりません。どのような質問でも議事に関係があれば、憲法で言動の自由は保証されています。関連のないことを長々と話し、会議自体の進行を妨害するようであれば、私服警備の人に会場から連れ出してもらいます、となる。  
 これは個人の投資家が不当に金銭的損失という被害を受けたと考える場合もそうで、それを機会にそういうことが将来の自分も含めて他の人に被害が及ばないように、規則や企業の方針を変えてもらおうと働きかけたり、特定の悪そうな取締役や理事などの不祥事を暴いてその解任を要求したりする。  また一つには「企業も大変だなあ」という感想である。仕事さえまともに合法にすれば良い、という時代ではなくなっている感触がある。ジョイントベンチャー及び企業破産建て直し投資のアドパイサーをしている友人がいる(リック・マーシャル)が、彼によると日本の投資評価や意志決定に当たっての信用評価は伝統的に人間閑係ぺ−スで実施され、それなりに機能してきたが、アメリカはクレジットぺ−スと言う。信用評価が要素ごとに数字で評価されて総合点で合格しないといけない、と。  

 この差が細かい所にまで影響を与えている気がする。株主達の企業に対する対決意識というのも「信用したから買った(日本)」のではなく、「評価基準に達したので貰った」というのが多いように見える。従ってその評価をする為に必要だった情報についてもその虚偽や事実閑係での質が問われる。  
 一方、それを受ける企業も決して楽ではない。アメリカ企業界がアメリカを動かしている、と言って過言ではない。その企業の資金繰りを支えているのは、株主達である。株主達は企業の業績が良ければ株を買い、また維持する。  
 その意義決定過程で経済的要素だけを問題にするのであれば、企業は資本主義の鬼になって「金儲けのがりがり亡者」になれば、優良株を維持でき、経営者達の収入や地位も安泰である。  
 アメリカ企業の辛さは、個人投資家に頼る部分がかなり大きくなってきていて、その部分では「ヒト」による意志決定過程により株の売り買いが行われる。そこに影響を与える方法を考えるとなると、これまでのように配当額一点張りや、株の将来の経済的見返り予想額だけではなく、複雑なヒト相手に感情や良識に訴えていく手法を取らざるを得ないところかもしれない。  
 アメリカでも企業や団体同士の株の持ち合いも大きいが、団体が大きな株を持ち、大きな発言力も持つ。それらは「基金」や「財団」や「退職金管理団体」や「個人投資家資金管理サービス団体」などであるが、配当も事業パフォーマンスだけでなく、企業内慈善事業の実態や、製品や商品のグリーン度(環境に優しい度合い)や、管理職などの政治的意識度(女性差別や人種差別、セクハラなど)までもが評価の対象にされる。  
 また、企業白身が他人のふんどしで自分勝手な相撲を取れる時代が終わったようである。他人のお金を使うなら、利子をつけて返せば文句ないだろう、というのではなく、良い相撲を取るなら投資してあげる、こちらのお金を使うのだから、相撲ぐらいきちんと良いものを取れと要求するぞ、と言う具合なのだ。  誰しもひも付き融資はいやがるが、そうかといって相手まかせの「信用」取引というのは時代錯誤である。ならば公正な条件付きの融資であれば当然ということか。  
 まるで、企業は皮肉にも「法人」と言われる言葉に合わせたかのように、ますます総合的に人間に近い複雑な期待に沿ういわば離れ業をしなければならず、またそれが求められ始めている。企業の規模が大きくなればなるだけ、大きな資金が要るプロジェクトがあり、巨大なお金が動く。それらが総合的に評価され、どの分野でも合格点、しかも優良な総合点を期待されている時代が来ている。


編集後記

 今回の調査は、高島屋株主代表訴訟弁護団から多額の費用の御寄付をいただいたことが契機になったものであります。調査者一同、株主であった木村達也弁護士ならびに同弁護団の各位に対し、深く感謝している次第です。
  また、今回のアメリカ調査の企画は森岡教授が準備してくれた。直接、航空会社、ホテルを予約して下さり、さらに、アルコ、アムゼン、カルパース等に直接メールを送り、総会の傍聴・面談の予約をとっていただきました。木村圭二郎弁護士(アメリカニューヨーク州弁護士)、池田直樹弁護士(アメリカミシガン州弁護士)には、現地の法律事務所との連絡をお願いし、その上、通訳までお願いし、御同行を願いました。
 現地では、小林まさみさん(同人はアメリカ滞在20年・日弁連、大阪弁護士会の調査の際、いつも通訳をお願いしている人で、法律知識に詳しく、かつ、今回の通訳についてもあらかじめ経済知識を勉強する等、非常に有能かつ意欲的通訳であった。今後、アメリカ調査の際はぜひお世話になるとよい。)に、通訳兼ツアーコンダクターのお仕事もやってもらい、お世話になりました。
 さらにに、厚かましくも原稿まで書いていただきました。ロスアンゼルスでY弁護士が警察官にピストルをつきつけられるハプニングもありましたが、無事帰国できたのは、上記の方々のおかげです。
 なお、本レポートは個人が見、そして聞いたことを書いたものであって、調査団として議論した結果をまとめたものでないことをお断りします。いずれにしても、レポートを帰国後1週間以内に完成してくれた報告者にも感謝します。 (事務局・阪口徳雄)


調査レポート終わり
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